「三人目の男性操縦者だってさ」
「へー……。……えっ?」
ベッドメイキングも済ませ後は眠るだけとなった二人。スマホをいじっていた捲はなんでもないような口調で大ニュースをぶちまけた。
(盂涙、お前はどう見る?)
『きな臭いよね~』
(だよな)
同性の生徒が現れることに喜ぶ一夏だったが、捲は懐疑的な面持ちで画面を見つめていた。
▫▫▫▫▫
「はじめまして。僕はシャルル・デュノアです。よろしくお願いします」
中性的なイケメン男子生徒(仮)に沸き立つクラス。一夏も普通にイケメンなため、早くもカップリングがどうのというナマモノ話が繰り広げられている。
クラスの女子たちは捲が自己紹介でオリジナル同人(ちんちん亭)の話をした時は戸惑っていたのだが、捲によって色々と教えられてからはもはや止まることを知らない。
ネタバレをすると彼は女である。本名はシャルロット・デュノア。紆余曲折あってIS業界大手のデュノア社から白式と盂涙のデータ収集のために学園へ送り込まれたのである。
「よろしく。俺、織斑一夏!コイツは今捲。たまに変になるけどいい奴なんだ」
「うん。よろしく一夏くん」
「くんって……呼び捨てでいいぜ?捲もいいだろ?」
「……別に、構わないが」
「フフッ、じゃあ、よろしく一夏。それと、捲」
「…………」
「どうしたんだ?お前そんなシャイな奴だったか?」
捲は内心今すぐにでも『本当は女なんじゃないの?正体見たり!って感じだな!』と言いふらしてやりたかったが流石に時と場所を弁えていた。しかし女性と話すことへの嫌悪感は抜けきっておらず、せめてもの抵抗としてその日は無言で過ごすつもりだった。
▫▫▫▫▫
「へぇ、特別に三人部屋なんだ(……これなら二人の情報も抜きやすくなるか)」
「流石に男女一緒ってのもアレらしいしな。にしてもどうしたんだよ捲。今日変だぞ?」
「…………」
もういいか?今がタイミングか?それとも泳がせておくべきか──といった思考が捲の脳内回路を駆け回る。
『多分この子キミたちのデータ辺りを欲しがってるんじゃない?IS大手のデュノア社から来てるんだし』
(……もう、言っていいよな?)
『後悔しないようにね』
(よしっ)
「?どうしたの捲?僕の顔になんか付いてる?」
捲は勢いよく息を吸い込み──シャルルの胸に触れた。
「うわあっ!?な、何するの急に!?」
「……え、捲?お前そういう趣味があったのか?」
その感触を掌で弄びながら捲は確信する。コイツは女だ。
故に、彼の口から迸るのは──
「このおっぱいで今まで男子と名乗っていたの?驚きを通り越して呆れたよ」
▫▫▫▫▫
「ええっ!?シャルル、お前女だったのか!?確かに男にしては華奢すぎるとは思ってたけど……」
「……うん。堪忍するよ。僕は女。ついでに言うと本名はシャルロット・デュノアなんだ」
「あなたの目的は全て把握してますからね♡オラッそんなに諜報活動したいならおイキなさい!」
「だから捲も様子が変だったのか……いつから分かってたんだ?」
「初対面の時から」
(……あ、噂は本当だったんだ。織斑一夏と話す時だけ普通になるって)
彼女はつらつらと語り出す。自分はデュノア社社長の愛人の子であること、IS開発の道具にされてきたこと、経営が傾きつつあるデュノア社再建のために送り込まれたことなど、身の上話を一夏たちに伝えた。
「これで僕は刑務所行きになるだろうね。……でも、いいんだ。正直疲れちゃったよ。お母さんももういないし」
「そんな、そんなっ……酷すぎるだろ!お前は道具なんかじゃない!確かに俺たちのデータを盗もうとしたのは事実だろうけど、生きてくために仕方なかったからやっただけだ!」
「将来ワシのチ○ポをヌメヌメにして射○させる肉○介護しなきゃならんのじゃから」
「……二人とも優しいね。だけど、こんなこと許されていい筈がないから」
シャルロットは完全に諦めている。その状態が一夏に強いストレスを与えた。自分の力は及ばずに、目の前から人が倒れていく────あの、ゴーレム戦の捲のように。
トラウマが思考を加速させる。それは一夏のみならず、捲も同様だった。
「……お前は、諦めさせねえ。ここはIS学園だ。ここはどんな勢力だって不干渉だ。シャルロットの将来は──俺が守る!」
「おいおい、オレは仲間外れか?ここまで聞いたんだ。一枚噛ませろ」
「二人とも……なんでそこまでしてくれるの?」
顔を見合わせる一夏と捲。お互いに答えは決まっていた。
「もう……守れないのは嫌なんだ。だから、俺はもっと強くなりたい!お前と、捲と、皆と一緒に!」
「いつも社会はボクらを都合のいいコマ扱いするよね。もう大人って所をみせてやるんだ!」
「……!」
久方ぶりに人の温かみに触れたシャルロットの双眸から涙が溢れ出す。一夏は慌て、捲は語録で煽り、しばらくその部屋は賑やかさを放っていた。
▫▫▫▫▫
「シャルロットはデュノア社社長の電話番号持ってるか?」
「うん。何かあったらすぐに知らせろって言われてるからね」
「よし。じゃあ、頼んだ、捲」
「合点承知」
一時間後。たっぷり熟考した男子二人が導き出した答えは、こうだ。
『……よし、決まり!シャルロットは俺たちのデータをデュノア社へ送りつけて未来を確保させる!』
『そ、そんなことしたら!デュノア社だけが力を持つことになるよ!』
『いや、これは貸しを作れる機会だし向こうは大企業だ。シャルロットにスパイさせたっていう弱みを握ってる分大手を振って″使える″ってわけじゃない。……だよな、捲』
『そーだな。ちょっと浅慮かもしれないけど、当たって砕けろだ』
『……本当にいいの?二人とも。特に捲は僕のこと嫌いなんじゃ……』
『うるさいやい!ママを
そして、現在。コール音が鳴り響く通信端末の繋がる音が部屋に響いた。
(盂涙、翻訳頼む)
『分かった』
「『もしもし、デュノア社社長か?オレたちのデータをくれてやる。代わりに、シャルロット・デュノアの将来を担保しろ』」
『……言われなくともそのつもりだ』
一応、社長、アルベール・デュノアからシャルロットに対する愛情はキチンとあり、こうしてIS学園に送り込んだのもやむにやまれぬ事情があるのだが流石に現在判明している情報で判別するには無理があった。
なんにせよこれにて一件落着。厄ネタが一個増えた気がしないでもないが、今のところは丸く収まったのだった。
ちなみに、献身的な二人に対してシャルロットは好感を抱くが捲に対してはいきなりπタッチされたということで恋情の類いは湧かなかった。彼女が一夏に惚れるまで、もう間もない。
▫▫▫▫▫
「……というわけで、シャルルくんは、シャルロットさんでした」
「あ~、やっぱり女の子だったんだ!」
「おかしいと思ったんだよね~、線が細いし、声もかわいいし」
「あはは……改めて、よろしくお願いします!」
「……今年は頭が痛むな」
突然に次ぐ突然で山田真耶はキャパオーバーしかけており、織斑千冬も頭痛薬と胃薬が手放せなくなってきているのだった。
▫▫▫▫▫
「また転校生が来るんだって~」
「最近多くない?」
ニギニギするクラス。またしても転校生が来るという情報を耳に収めながら、捲はちんちん亭書籍を紹介していた。
「それでな一夏、オレのオススメポイントは……」
「ちょ、ちょっと待て捲。白昼堂々そんなエロ本持ち歩いてたら千冬姉がなんて言うか──あ」
「今、捲。申し開きはあるか?」
捲はゆっくりと首を回す。そこにいたのは笑顔で出席簿を振りかざす千冬。もはや逃れることはできない。彼はふっ、と笑い、言葉を紡ぎだした。
「かてぇこというな」
たんこぶが十段になるという、漫画でしか見ないような状態を一夏は生まれて初めて目にしたのだった。
▫▫▫▫▫
「あ~、クソ、頭いてぇ……反省文も提出せにゃならんくなっちまったし」
「今回ばかりは庇いきれないぞ……」
朝のホームルーム。点呼が始まる前に、件の転校生が教室に入ってきた。
長い銀髪、眼帯を携えた、小さな少女だった。
「じ、自己紹介、お願いできますか……?」
恐る恐る声をかける真耶。少女は毅然として声を発する。
「『ラウラ・ボーデヴィッヒ』だ」
静まるクラス。え?それだけ?そんな困惑が空気に充満していたのだが、捲はまったく違うことを考えていた。
「……織斑、一夏」
「ん?俺に用か?」
ラウラは手を振りかぶる。全力のビンタを敢行する筈だったが、その手を捲が掴んだ。
「なんだ貴様は」
「暴れるな!いい年して」
「……ラウラ。ここは私怨を吐き出す舞台ではないぞ」
「ハッ!承知しました!教官!」
「織斑先生だ」
一夏はポカンとしていた。
▫▫▫▫▫
「今日は授業午前だけだし、特訓しようぜ」
「いいぞ。……あの転校生、アリーナにいるかな」
「?えーっと……ラウラだっけ?気になるのか?」
「ちょっと諸事情でな」
ちなみに今まで触れてこなかったが、篠ノ之箒、セシリア・オルコット、凰鈴音、シャルロット・デュノアは既に交流を深めている。直接言及したわけではないが、各々悟っていた。
恐らく全員、一夏に惚れている。
というわけで水面下では一夏ぜったい落とす同盟が組まれており、各ヒロインズはそれなりに仲良くなっていたのだった。
▫▫▫▫▫
一方その頃、第三アリーナでは。
「よし、行くわよセシリア!あたしの全力を刻み込んでやるから!」
「はい。こちらも本気でお手向かいいたします」
「貴様らが織斑一夏の女どもか?」
「あ?」
「貴方は……ラウラ・ボーデヴィッヒさん、でよろしかったかしら?」
「ああ、アンタが一夏にビンタしかけて捲に止められた奴ね。見ての通り、あたしたち試合するんだけど。何か用?」
「貴様らのような軟弱な小娘に、私は負けん。あの種馬に群がるような相手にはな」
「……セシリア。あたしたち煽られてるわよね?っていうか誰が小娘よ。あたしと背丈大して変わらないくせに」
「……ええ。そのような大言を口にするのでしょう。覚悟は定まっていますわよね?」
戦いが、始まる──。
▫▫▫▫▫
「ハッ、ハッ、一夏。ちょっと急ぐぞ」
「どうしんだよ捲。そんな急に走り出して」
「もしかすると……鈴音とセシリアがやられるかもしれない」
「!?誰に!?あの転校生にか!?」
「まあ最悪それはいいんだが、もっと厄介な爆弾抱えているんだよ、アイツは」
第三アリーナに到着する両者。そこでは──
「嘘だろ……?鈴とセシリアが、一方的にやられてる……!」
「ピットに急ぐぞ一夏」
鈴音とセシリアが蹂躙されていた。即席のチームワークでは足並みが揃わないというのもあるが、それを差し引いてもラウラは強かった。
「待て転校生!お前っ、何してんだ!」
ISを展開し間に入る男子二人。一夏は当然怒っていた。捲は冷静であるが、どこか不安げな目つきだ。
「ハァ……ハァ……手出し、するんじゃないわよ一夏。コイツは……あたしたちが……!」
「ええ……!一夏さんたちにも、譲れませんわ……!」
原作とは違い早い段階で介入できた分ダメージは軽い両者だが、それでもエネルギーは底をつきかけていた。これが、ドイツの精鋭部隊『シュヴァルツェ・ハーゼ』隊長の力。代表候補生といえど敵う相手ではない。
「私と戦え、織斑一夏。貴様を倒し、私は教官を取り戻す……!」
「教官、って、千冬姉のことだよな」
「貴様が軽々しく教官を語るなッ!!」
ラウラ・ボーデヴィッヒは織斑千冬を崇拝していた。
生体兵器として試験管から生まれたラウラ。彼女はドイツの精鋭部隊で研鑽を積んでいた。それしか知らなかった。だが、それでも自己を表現することはできていた。
転機が訪れたのはIS開発が進んでからのこと。適合率を上げるために受けた手術が失敗し、片目が金色に染まって以降『できそこない』の烙印を押され部隊でも最下位まで転げ落ちた。
しかしそこで現れたのは織斑千冬。彼女はラウラに想像を絶する程の訓練を
その弟、織斑一夏。奴は教官のモンド・グロッソ*1二連覇を弱さから阻んだ。それからラウラは一夏を憎んでいたのだ。
自身ですら気づいていないが、ラウラは一夏に嫉妬心も抱いていた。弟だからという理由で無条件に愛される存在。私の教官を独り占めする、憎い男。
おまけにこの学園は、兵器であるISをファッションアイテムとして捉えるようなグズばかり。こんな所にいては、教官は腐るだけだ。
だから一夏を倒して証明する。己の有用性を。
……とまあ長々と語ってきたがとりあえず一夏に嫉妬と憎しみを抱えているということだけ分かっていればOKである。
「とにかくコイツはあたしたちがぶっ倒して──きゃっ!?」
「な、捲さ──」
捲は瞬く間にナイフを走らせ、無理やりセシリアと鈴音のISを解除させた。こうでもしないと矛が収まらない。
「……サンキュー捲。ラウラとは、俺が──」
「こんな奴、お前さんがやる必要も無い。……オレに任せてくれ」
「襲撃者相手にそのような痕を残す無様な男に、私が負けるとでも?」
「──テメェ……!」
「落ち着け一夏歴史に学べ。挑発に乗った闘士は碌な死に方しないぞ。……頼む一夏。やりたいことがあるんだ」
「……分かった。いざとなったら止めるからな」
斯くして舞台は整った。
▫▫▫▫▫
ラウラの専用機、『シュヴァルツェア・レーゲン』はタイマンでは無類の強さを誇る。
レールカノン、ワイヤーブレード、プラズマ手刀、そして、AIC。
本人の技量も同年代では最上級のもの。果たして彼女に、捲は勝てるのだろうか。
「……勝ちなさいよ、捲」
「私たちは苦汁をなめさせられましたが、あの方なら……」
(……もしやりあったら、俺はアイツに勝てるのか?)
それぞれの思いが交錯する中、試合が始まった。
「あっオレが近づく前に勝手に砲撃しやがってふざけんなよお前殺すぞ」
「貧弱な機体だな」
悠々とレールカノンを放つラウラ。その隙を窺い何とかかいくぐる捲だが、近接戦でも分が悪かった。
(貴様のタネは割れている。遠隔ハッキング、確かに厄介な能力だ。だが、それ以外の武装はナイフ一本。私の敵ではない!)
AIC。アクティブ・イナーシャル・キャンセラーは、シュヴァルツェア・レーゲンに積まれた兵装の一つであり相手を空中に固定するというかなりのぶっ壊れ能力である。しかし捲の放つ語録ハッキング相手では発動しにくいということから、封印せざるを得なかった。
だが、それでも尚ラウラは強かった。豊富な武装を巧みに使いこなし、盂涙のエネルギーを着々と削る。
彼はラウラの危うさを朧気ながら理解していた。いくら軍人として鍛えていようと、その実は年若い乙女。
つけいる隙はある。彼は淡々と機会を窺っていた。
「もう射○ちゃうっママの技術ヌルヌルすぎて射○ちゃう!ママのせいだ!ママのせいだ!死ね!死ね!えっまた撃っちゃったの?甘やかせばつけあがるんだからママはぁ~ダメだよぉオイッ!」
「ッ!来るか……ッ!」
遠隔ハッキングにより一瞬機能不全に陥るラウラのIS。それを込みにしても迎撃準備は完了していた。捲の彼岸にエネルギーが宿る──極夜の一撃が、来る。
ワイヤーブレードで弾き飛ばそうとするラウラだったが──
「ア○メしてから死ね!!」
「なっ!?」
彼は、唯一の装備である彼岸を投擲したのだ。咄嗟に両手でキャッチするが、確かな隙が生まれる。
未経験に次ぐ予想外。
そう、捲は理解していた。正面からぶつかれば敗北は必至。初見殺しと知略を駆使してハメる。それが唯一残されていた、ラウラの攻略法だった。
「オラッイけっ!!イけっ!!下品にイけ!!アク○しないと殺すぞ!!スケベ女オラッ!!何が教官の愚弟だオラッ!!セック○向けの身体しやがって!!」
「があああああっ!?」
突進してアリーナ端に叩きつけ、更に掴んでシールドバリアに押し当て削り穿つ。ここまで来ればもう彼の独壇場だった。
(私が……負ける!?こんな男に!?ふざけるな……!)
──力が欲しいか?
(!?……ああそうだ。よこせ、私に力をよこせ──!)
▫▫▫▫▫
「!?」
「あれは……VTシステム!?何故あの機体に……」
黒く液状化するシュヴァルツェア・レーゲン。その姿はやがて──織斑千冬がかつて使用していた暮桜を形取った。
VTシステム。それは、かつてのモンド・グロッソ優勝者の動きをトレースする機能であり、現在は使用、開発共に禁止されている。
「──ふざけんな」
一夏は怒り心頭に発していた。あれは千冬姉のものだ。テメェが勝手に振りかざしていいものじゃねぇ──!
「うおおおおっ!!」
雪片弐型を手に躍りかかる一夏だが、横から捲が介入し──
「フンッ!」
「ぐ、あ……っ!?」
腹パンをかました。
「な、なにすんだよ捲!」
「さっきも言っただろ。クールになれ。アレは頭に血が上った状態で勝てる相手じゃねぇぞ」
「……そうだな。すまねぇ。……まだ戦えるか?」
「後数回ぐらいしか打ち合えねぇな。彼岸を拾ってくる。決めるのはお前だ」
「……よし。行くぞ、捲、シャル!」
「うん!」
いつの間にかいたシャルロット。何気に一夏から愛称で呼ばれている。第三アリーナで決闘が行われているという話を聞きつけ走ってきたのだ。
捲は何故冷静でいられるのか。本人に聞こうものなら──
「わかっちゃうよおじさんエスパーだから
アイエスエスパー♡」
などとふざけた返事をされること請け合いだが、実はラウラが自己紹介している時からシュヴァルツェア・レーゲンのSOSを聞きつけていたのだ。
ISと会話することによってVTシステムが搭載されていることを知った捲はラウラに刺激を与え、公にそのシステムを知らしめてから撃破するつもりだった。
予想外だったのはラウラの強さ。オレもまだまだ未熟だな、と彼は内心で反省していた。
「僕がサポートする!二人はガチガチに攻めて!」
「よし!行くぞ捲!」
「了解ッ!」
かつての織斑千冬の動きをなぞる。もう字面だけで強いことが分かるが、機体にシステムが適合しきっていない内にたたみかける。もうそれしかなかった。
▫▫▫▫▫
(……寒い)
ラウラの意識はコアの奥深くに沈んでいた。
(……教官。私は、貴方がいれば、それだけでよかった)
自覚はあった。自分は驕っていると。しかし成果は出してきた。部隊の部下たちにも力を示せていた。
(……声?)
ISの共振機能により、傍にいるISパイロットの意思が伝わる。この温もりは……
(……そうか)
『俺が、皆を守る!ラウラ!お前もだ!』
『オレが、シュヴァルツェア・レーゲンを救う!』
教官は、織斑千冬は元より──家族を守るために戦っていた。
この男たちも同じだ。ああ──私は、弱かった。
『目ェ覚ませ、ラウラ──!』
(──?)
温かい。この温もりは……?
織斑一夏。今捲。お前たちがくれたのか……?
▫▫▫▫▫
「ハァッ、ハァッ……これで……!」
トドメの極夜と零落白夜によってラウラを覆っていた装甲が剥がれていく。それと同時に異変に気づいた教師陣がなだれ込んだのを確認してから、捲は緊張からの解放による気絶を経験した。
▫▫▫▫▫
「……う、ん……?」
「目が覚めたか、ラウラ」
「教、官……?ああいや、織斑先生でしたか」
「気づいたろう?」
「……はい。私は未熟でした」
「それが分かればいい。お前はもう部下ではない。私の大切な生徒だ。──そして、そこにいる男も、学を同じくする仲間だ」
「……今、捲」
彼は眠っていた。しかしその寝顔には一切の曇りは無かった。
「……礼を言わせてもらう、今捲」
この温もりは分からない。しかし、どうにも悪い気はしない自分も──嫌いではなかった。
「……ところで、織斑先生」
「なんだ」
「織斑一夏を思い返す度に──その──よく分からない疼きが生じるのですが、これは一体?」
「分かっただろう?アレは、油断したらすぐに惚れさせられる」
「惚れる……?それは一体……」
「まあ、これからゆっくり噛み締めろ」
窓を見ると遠くの空に飛行機雲がかかっていた。初めて会得した感情に戸惑いつつ、少女は目を閉じた。