空飛ぶちんちん亭   作:散髪どっこいしょ野郎

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第四話

「あー……つまり、アンタは一夏が好きってわけ?」

 

「そうだ」

 

 

 事の発端は朝のホームルーム前。座って雑談している一夏の元へラウラが来たかと思うと、唐突に唇を重ねた。そしてこう宣言したのだ。

 

 

『お、お前は私の嫁にする。決定事項だ。異論は認めん!』

 

 

 箒はマジ切れしかけ、セシリアは反射的に立ち上がりかけたが両者共になんとか堪えた。ちなみにシャルロットは放心していた。

 

 そして今。話を聞きつけた鈴音とセシリア、ラウラの三人組が食堂で話し合っている。

 

 

「それはそうと凰鈴音。セシリア・オルコット。お前たちをいたぶってすまなかった」

 

「……別にいいわよ。あたしが弱いのは事実だし。その代わり、特訓付き合いなさい」

 

「右に同じ、ですわ」

 

 

 そのまま流れでラウラは一夏ぜったい落とす同盟の一員に。

 

 捲はどうなったかというと……

 

 

『お前を嘲ったこと、侮ったこと、ここに詫びる。すまなかった』

 

『謝ってる暇があるなら○クメしろ。うっ孕め……!』

 

『お前のことは、今でもよく分からない。クラリッサに聞いても分からなかった。だがお前は今捲。それだけで十分だ』

 

 

 友人でなければ恩師でもない。恋人でなければライバルでもない。しかし今はその関係(アンノウン)でいいと、ラウラは決め込んだのだった。

 

 

▫▫▫▫▫

 

 

 時と場所は変わりクラス内のとある昼下がり。いつものように一夏と捲が会話を繰り広げていた。

 

 

「一夏~、お前さん誰と組むんだ?」

 

「え?普通に捲とタッグ組むつもりでいたけど」

 

 

 近々始まる学年別トーナメントでは従来通りであれば一対一の勝負となるのだが、クラス対抗戦での惨状を踏まえ二対二のツーマンセル試合となったのだ。当然、参加する生徒たちはタッグ相手を探さなければいけない。

 

 

「オレと一夏かぁー……どっちも中~長距離戦できねぇし弱点が明確じゃないか?」

 

「……確かにそうだな。でもコンビネーションならお前とが一番できる気がするけど……」

 

「まあ普段一緒に訓練してるしな。……ところでだけど、簪とはどうなんだ?」

 

「最近やっと手伝えるようになってきた。のほほんさんからアドバイス貰ってる。……でも完成はまだ遠いな」

 

「……マズいな。いよいよ候補が絞り込まれてきたぞ」

 

 

 一夏のことを気にしている場合ではない。ただでさえ普段の言動がアレな捲。一夏以外とのコミュニケーションは壊滅的だったため、こんな奴とわざわざ手を取り合ってくれる女子などいない……と、思われていたのだが。

 

 

「あっ、じゃあ私が捲くんと組もっか?」

 

「!?」

 

「くっ……!積極的すぎる……。そんなにオレのデカ○ラが恋しいのかよ。猛き神よ静まりたまえ……!」

 

 

 捲との候補に挙がってくれた生徒、その名は『相川清香』。普段の捲を見ていながら何故打診したのか。それは一夏の恋心射止めダービーを楽しんでいる『同志』という共通点があったから。ついでに言えばゴーレム戦で生徒たちを避難させ、更には一夏を庇い火傷痕を負った捲に好感を持ったからだ。もっと冷静に考えろよこんな男だぞ?

 

 

「じゃあわたしはおりむーとー」

 

「えっ!?いいのかのほほんさん!」

 

 

 のほほんさんこと、布仏本音。捲とは対照的に引く手あまたな筈の一夏と何故コンビを結成できたのか?

 

 それはヒロインズがお互いを牽制しあっていたため結果的に彼女に掻っ攫われてしまった、というわけだ。シャルロットたちは血涙を流していた。

 

 注釈しておくとアーキタイプ・ブレイカー(現在サービス終了)というアプリでのほほんさんは専用機を獲得しているがこの世界ではただの一生徒なため、訓練機の打鉄を駆ることになる。

 

 しかし一夏は知らなかった。のほほんさんは射撃が下手という事実を。これなら結局捲と組んだ方がよかったのでは?と後悔することになるが、今は知りようがなかった。

 

 

▫▫▫▫▫

 

 

「それじゃ、しばらくよろしくね捲くん。まずランニングから始める?」

 

「何言ってるのこれからISの稼働訓練するのに。その言い草お笑い草」

 

「あはは……お手柔らかにお願いするね」

 

 

 普段一夏と打ち合い更にはラウラに指導を仰いだことで捲の近距離戦スキルはかなりの領域に達していた。

 

 しかし盂涙の武装はあまりにも貧弱。ナイフ一本ではやれることに限界があった。

 

 そのための相川清香。そのための打鉄。

 

 焔備(ほむらび)というアサルトライフルが打鉄の標準装備として据えられている。捲は彼女にとにかく射撃の訓練だけを課した。時には動く盂涙を、時には的を撃ち抜く反復練習。

 

 ここまでご覧になれば分かるだろうが捲は『ガチ』だった。相川清香もその熱に当てられ、しばらく青春色の闘気がアリーナに満ち溢れていたのだった。

 

 

▫▫▫▫▫

 

 

「初戦からお前らとかー。本気でやるからな、捲!」

 

「ああ。修行の成果を見せてやるぜ」

 

「めくるんが普通に話してる~」

 

「なんで私たちと話す時だけ変になるんだろう……」

 

 

 ちなみにラウラはこの大会に参戦していない。仕組まれていたVTシステムの除去や解析、整備に手間取り間に合わせることができなかったのだ。

 

 まあなんにせよ試合開始。

 

 

「うおおおっ!」

 

「織斑くん、速っ……!」

 

 

 一夏は『瞬時加速(イグニッション・ブースト)』という技能を習得していた。ゲームで言うところの溜めダッシュと覚えればいい。

 

 絶大な破壊力を誇る零落白夜とその高い機動力で短期決戦をしかけるのが白式の基本運用。捲と清香はあらかじめそれを理解していたが、分かっていても対処は難しかった。

 

 

「──とでも、言えばいいか?」

 

 

 一夏の一撃を受け止めた今捲。彼は、対一夏用に戦略を練ってきた。と言ってもそれは至極単純。

 

 ()()()()()()()()()()()()。それが捲の立てたプランだった。彼はあろうことか一夏の最も得意とする土俵で戦おうとしていたのだ。

 

 とはいえこの戦いには仲間がいる。一夏に確かな隙を作らせるため、捲は清香に『引き撃ち』戦法を叩き込んでいた。

 

 

「シッ!」

 

「ぐっ、嘘だろ、お前どこまで強く……ッ!の、のほほんさん!援護頼む──」

 

「させないよっ!」

 

「なに、ぐぁっ!」

 

「わー、ごめんねおりむー」

 

 

 近距離では捲に集中しなければならず、中距離では戦いようがない。勝敗を分けたのは、戦術数の差。

 

 

「だあああああッ!!」

 

「うあああっ!」

 

 

 極夜の一撃により敗れる一夏。残されたのほほんさんは気丈に戦ったが、二対一では分が悪すぎた。

 

 

『勝者、今捲、相川清香ペア!』

 

「やった!やったね、捲くん!」

 

「おちごとちゅらかったよぉ♡オイ、乳吸わせろ」

 

 

 なんやかんやでハイタッチには応じる捲。この際異常な言葉遣いは考えないようにしよう、と清香は決意した。

 

 

▫▫▫▫▫

 

 

 それからも破竹の勢いで快勝を重ねていった捲ペア。決勝戦では、一夏ぜったい落とす同盟の一角、篠ノ之箒とシャルロット・デュノアペアと相まみえることとなった。

 

 代表候補生のシャルロットはもちろんだが、箒は意外と強かった。剣術を染み込ませている分、その斬撃は目を見張るものがある。射撃が不得手な分、その穴をシャルロットがカバーするという割れ鍋に綴じ蓋理論で勝ち星を拾ってきた。

 

 ちなみに一年生ではラウラが最強である。流石に軍人としての格の違いがあった。

 

 

「そういえばだが、面と向かってお前と話したことはなかったな。捲」

 

「待ちかねたようにア○メしやがって……好きだよ♡」

 

「……お前が私と話す気がないのは分かった」

 

「あはは……まあ、僕に対してもこんな感じだし、しょうがないよ」

 

「(一夏ぜったい落とす同盟の)二人でもそうなんだ……」

 

 

 交わす言葉もそこそこに、試合が始まる。

 

 

▫▫▫▫▫

 

 

「ガンガン行くよ!箒!僕の射撃に合わせて!」

 

「──承知!」

 

「くっ、これが、代表候補生の実力……!」

 

「我慢しろ!アク○ストップ!ここが正念場だぞ!」

 

 

 ラファール・リヴァイヴ・カスタムⅡを駆るシャルロット。第二世代のISと言って油断してはならない。高速で武器を切り替える『高速切替(ラピッド・スイッチ)』による引き撃ち戦法、『砂漠の逃げ水(ミラージュ・デ・デザート)』によって捲たちは劣勢に立たされていた。

 

 相川清香の完成形、それがシャルロット。作戦の熟練度がまるで違う。

 

 なんとか体制を立て直そうと落としにかかる捲だが、防御力が高い打鉄相手では短期決着は厳しい。

 

 傾いた天秤。ついにその時はやってきた。

 

 

「きゃあっ!」

 

 

 相川清香の脱落。捲の楯になるよう()()()()()()()ことで攻撃が集中し、とうとう絶対防御の発動に至ってしまった。

 

 

「これで残るは捲一人。……だけど、気をつけて箒。捲は生半可な攻撃じゃ落とせない」

 

「相承知した。行くぞ、捲」

 

「お、なんだ、いっちょまえに焦らすのか。その意気やよし」

 

 

 彼の集中力では遠隔ハッキングは一対一でないと発動不可能……というのは、今までの話。

 

 窮地に追い込まれた捲。かつてなく逼迫した状況。その条件下に置かれたことで──彼の能力が、覚醒する。

 

 

「(欲しがりやでとってもお可愛らしいね♡弾を押し付けやがってオレを殺す気か?)美しく艶めかしい剣術……素敵ですよ♡下品なメス!」

 

「なっ!?」

 

「えっ!?」

 

 

 意識と肉体を切り離すことによって言葉と意思の二方向からハッキングを試みる。──かつてのゴーレム戦で見せたハッキング術の完全掌握だった。

 

 

「(節操の無い子!素敵だね♡ポ○チオ重点刺激)

斬られてる感想はいかがか?述べろ!」

 

「なめ、るなあっ!」

 

「ダメ!箒!射線に重なる──」

 

 

 なんとか制御権を取り戻す二人だが、ここで効いたのが捲の位置取り。シャルロットの戦法を阻害するかのように箒と相対し、彼岸にエネルギーを集中させる。

 

 

「近くで見るととてつもない美人だな……寒気すら覚えるよ」

 

「ぐあっ!」

 

「箒!このぉっ!」

 

 

 不自由を強いられヘイトが高まった所で捲はシャルロットに狙いを定める。

 

 『拡張領域(パス・スロット)』から取り出されたブレードを絡め取るかのように手を這わせ、アリーナのバリアに叩きつけるように投げ飛ばした。

 

 計画、成就。シャルロットのブレードは捲の手に。彼女が立て直す刹那に──箒に攻撃をしかける。

 

 

「おいてめぇも同時にイってんじゃないか。ホスピタリティの塊」

 

「うああああっ!」

 

「箒ー!」

 

 

 二刀の凄撃に晒された打鉄が絶対防御を発動。これで状況はタイマンに至る──が、流石にシールドエネルギーが底を尽きていた。

 

 

『今捲、シールドエネルギー枯渇により勝者、シャルロット・デュノア、篠ノ之箒ペア!』

 

「え……あれ……?僕たちの勝ち?……なんか不完全燃焼だなぁ……」

 

 

 学年別トーナメント、一年生部門の優勝者はシャルロットと箒。こうして原作では行われなかった行事は無事完了したのだった。

 

 

▫▫▫▫▫

 

 

「にしても凄かったな捲!最後の大立ち回り見ててすっげえワクワクした!」

 

「ぶっちゃけあの動きもう一度やれって言われたらできないな。そんだけ必死だった」

 

「いやー久々に行事に集中できたよ。ありがと、捲くん」

 

「しかしすげえ身体だな。このムッチムチで面積の広い身体に戦術を塗布するのは難儀したぜ。責任とれよ」

 

「捲……」

 

 

 一組総出で行われているお疲れ様会。要するに打ち上げである。鈴音はいない。鈴音だけがいない。哀れ。

 

 

「くっ、私も参戦できれば……」

 

 

 悔しげに歯噛みするのはラウラ。力の証明は改心後も焦がれていたようだ。

 

 

「ラウラもこれから一組のみんなと足並み揃えて行こ?僕が手伝うよ」

 

「む……助かる」

 

 

 色々と誤解されやすいラウラだが、シャルロットという緩衝材が入ることで無事クラスに溶け込めるように。同室という理由もあるため彼女たちの絡みは今後増えていくことだろう。

 

 一方、セシリア。

 

 

「……情けない。私……!」

 

 

 彼女は己の無力にうちひしがれていた。鈴音と組んだのはいいもののあのラウラ戦からまるでコンビネーションが取れず、専用機持ちでありながら一回戦敗退という痴態を晒してしまったのだ。

 

 

「まあまあ、セッシーもすごいよー」

 

 

 負の感情を察したのほほんさんが声をかける。一夏と組んだことで不満が向けられていないか捲は密かに気遣っていたのだが、

 

 

「……ありがとうございます、布仏さん」

 

 

 そのゆるふわ雰囲気に破顔するセシリアを見てその必要は無いなと安心したのだった。

 

 最後に、箒。

 

 

「箒ー、お前どうしたんだよ。今日の主役はお前なんだぞ?」

 

「……私は捲に負けた。胸を張って誇れない」

 

 

 いつぞやの捲のように窓際で佇む箒。彼女を心配して一夏が話しかけるが、思い人の気遣いも今の彼女には痛かった。

 

 

「一夏。私は、もっと強くなる。お前と並べるようになるまで、強く」

 

「?おう。手伝うぜ」

 

 

 一夏は、自分が惚れられていることを知っている。知っていながらその発言の真意を計り知れない辺り筋金入りの朴念仁だ。

 

 だからといってヒロインズが彼を責めることはない。それは一夏の短所であり、長所だからだ。底無しの善意は美徳なのだ。

 

 こうして、IS学園の夜は更けていく。

 

 

▫▫▫▫▫

 

 

「ふむふむ、今のいっくんの実力はこんな感じか。そろそろ強制レベリングが必要かな?」

 

 

 その女は天才だった。世界で誰一人として並ぶことのない、神童だった。

 

 飽いていた。確約されていた最強の座。親友、織斑千冬を除いて世界は退屈で満たされていた。

 

 故に彼女は止まらない。その心が満たされるまで、いっくん主人公化計画は潰えないのだ。

 

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