『起きて捲、朝だよ』
「んん、もう朝か……」
今捲の一日は盂涙のモーニングコールから始まる。
「おお……貴女は相川清香どの!噂通りお美しい……」
「おはよ、捲くん」
朝焼けが満たす広大な学園敷地内を駆ける男女一組。相川清香と今捲である。
「そろそろ臨海学校だね~。調子はどう?」
「相川のF-BODYで○ンポ引っこ抜かれちゃうよ」
「元気ってことだね」
ハンドボール部の清香と共に朝ランニング。彼女を含めた一組女子たちは既に捲の扱い方を心得ていた。
異常な言い回しと下ネタさえ許容すればまあなんとか付き合っていける相手。それが捲の暫定評価だった。
▫▫▫▫▫
ランニングが終わった後はシャワーを浴び、授業準備を整える。その過程で一夏も起こしていた。
「起きろー一夏。朝だぞー」
「んあ、おはよう捲……って、ラウラ!?なんで裸で俺の横にいるんだよ!?」
「嫁にはこうするものだとクラリッサが……」
「だから誰だよクラリッサって!つうか俺は男だ!!っていうかいいから服を着ろー!!!」
一夏が困惑する様子を眺めながら捲は小さく笑っていた。
▫▫▫▫▫
「そろそろ臨海学校だってな」
「何やるんだろーな。俺、もっと強くなりたいなぁ……」
「オレだって強くなりてぇよ。ブリュンヒルデにもなりてぇし」
「捲、モンド・グロッソ出たいのか?」
「将来的には」
「初耳だなそれ。……俺もそれぐらいの目標持たないとなー」
斬り結びながら日常会話ができる程に彼らの動きは研ぎ澄まされていた。近距離戦に限ればだが、両者共に学園上位に食い込む実力を持っている。
飽くなき向上心。両者の内に芽生えたそれは、大きな台風となって周囲を巻き込みつつある。
▫▫▫▫▫
(盂涙、起きてるか)
『私はいつでも起きてるよ。寝る必要がないからね』
臨海学校、当日。彼は眠るふりをしながら盂涙と対話していた。
『どうしたの?何か不安なことでもあった?』
(いや……別にそういうんじゃないんだが、単にお前と……話したくなった)
『……ふふ、キミも女の子の落とし方を学んだの?』
(一夏にゃ負ける。それと、これから三日ちんちん亭書籍とおさらばになるからな。刺激が足りなくて)
『……』
(どうした)
『今のはバッドコミュニケーションだよ、捲』
(?なんか失言でもしたか?)
『はぁ……。……ふふ、やっぱりキミってちんちん亭が大好きなんだね』
(ちょっと待て)
『?どうかした?』
(お前にちんちん亭って言われると……ムラってする)
『アハハ、変態だなー』
元々空っぽだった器にちんちん亭という劇薬を注がれ、捲は性欲モンスターと化していた。だからといってISに興奮するわけではないし、同級生を襲うわけでもない。
女性に対する拒絶反応から、彼はちんちん亭書籍でしか致せなくなっていたのだ。
とまあそんな馬鹿らしい暴露をする間に、宿泊施設、『花月荘』に到着した。
▫▫▫▫▫
臨海学校は遊びに来ているわけではない。二日目には苛烈な装備訓練が行われる……のだが、一日目は自由に海で遊ぶことが許されていた。
というわけで生徒たちは皆海へ繰り出した。
『キミは行かないの?』
(俺はみんなとそこまで仲良くないからな)
『自覚はあるんだ……。でも引かれてはいるかもしれないけど嫌われてるってわけじゃないと思うよ?』
(さあ、どうだろうな)
「お前は行かないのか?今」
はしゃぐ生徒たちを遠目に眺める捲。その背後から声をかけてきたのは千冬。
「テメェも
当然、彼の頭上に拳骨が落ちた。
「あっ、捲ー!一緒に泳ごうぜー!」
「そら、行け今。羽目は外せる時に外しておけ」
ヒリヒリと痛む頭を抑えながら捲は一夏の元へ駆け出していくのだった。
▫▫▫▫▫
散々遊んだ後は旅館の美食に舌つづみを打ち、各々は大満足といった様子で各部屋に別れていった。
一夏と捲は当然同部屋。なのだが、一夏は『ちょっと行ってくる』と言って部屋を抜け出した。ちょっとイッてんじゃねぇよ!
大体予想はついていたが捲は一夏の後をつけていた。ヒロインズも同じことを考えたのか、捲の五歩前をキープして忍び寄っている。
「一夏のやつ、何処行くのよ……」
「まさか一夏さんにも部屋を抜け出してまで会いたい人が……?」
「捲は僕たちに気づいてるっぽいけど、一夏はどうなんだろう……」
「嫁のことだ。不貞を働くような真似はしないだろう」
「……一夏」
とある部屋前で立ち止まる一夏。ここは確か……と彼女たちが確かめるより早く、彼は言葉を発した。
「千冬姉ー、入るぞー」
胸をなで下ろすヒロインズ。一夏が意識している相手はそこまでいないという事実に安堵する反面、焦りも感じていた。
「なーんだ、織斑先生に会うためだったのね」
「お姉さんとの時間も欲しいだろうしね。うん。なんか納得いった」
よかったよかったとヒロインズが帰ろうとすると、中から妖しげな声が聞こえてきた。
「ん……っ、ふぅ……いい、ぞ……一夏……」
「やっぱ千冬姉溜まってたんだな。いつもありがとな」
「「「「「!?」」」」」
捲はどうしているのかと言うと、部屋の前に立ちながらヒロインズに目配せしている。
──行ってみろ。
語録からは感じ取れない、明確な意思を孕んでいた。
「いいいっ、一夏!何やってんのよアンタ!」
切り込み隊長となったのは凰鈴音。思い切り襖を開くとそこには──
「やけに廊下が騒がしいと思ったら……お前たちか」
「あれ?どうしたんだ鈴?みんなも揃いも揃って」
一夏にマッサージをされている千冬の姿があった。
▫▫▫▫▫
「勝手に後をつけるとは、褒められた行為ではないな」
「「「「すみませんでした……」」」」
「申し訳ありません教か──織斑先生」
流石に殴られてはいないが軽いお叱りを受けるヒロインズ。捲はどうしたのかというと、
「前が見えねェ」
「だ、大丈夫か捲?」
部屋に突撃させた首謀者ということでしこたま折檻を受けていた。当然である。
「じゃ、じゃああたしたちはこれで……」
「待て」
立ち去ろうとするヒロインズを呼び止める千冬。まだ何かあるのか?と不安げにしている彼女たちに、千冬は珍しく表情を綻ばせた。
「せっかくの自由時間だ。聞きたいことがあるから答えてやる。一夏のことでもな」
「え~?恥ずかしい話はしないでくれよ千冬姉」
「……え?」
「ではまず私から。嫁の幼少期はどんな子供だったのですか?」
「地味に興味が湧きますわね……」
「愛い奴だったぞ。何かある度に目を輝かせて話しかけてきてな。一緒の時間は中々作ってやれなかったが……よくできている弟だったよ」
「ちょ、ちょっとやめてくれよ千冬姉!普通に恥ずかしいぞ!酒でも飲んだのか!?」
「じゃ、じゃあ今度は僕から──」
織斑千冬は厳格に見えて意外とズボラだったり気が良かったりする。質問に答えるのも、まあ悪くないかと考えていた。
旅館での第一夜は穏やかな空気が流れていた。しかし、それはつかの間の平穏だったと、彼女たちは後に思い知ることになる。
▫▫▫▫▫
「ふう……いいお湯加減だった」
朝風呂に入りサッパリした様子の一夏。廊下を歩きながら庭に目をやると、ウサミミ型カチューシャが地面に埋まっているのを観測した。
「これは多分あの人だな……」
「一夏さん、どうかしましたか?」
「ああ、セシリアか。今からのことはちょっと秘密にしといてくれ」
「?」
一夏がカチューシャを引っこ抜くと──遠くの空から人参を模したロケットが降ってきた。その中から現れたのは不思議な格好をした女性──
「ハロハロー!久しぶりだねいっくん!
みんなのアイドル、篠ノ之束さんだよー!」
ISの開発者、篠ノ之束である。
▫▫▫▫▫
(なんなんだろうな。専用機持ちだけが呼び出されるなんて)
『とりあえず行くだけ行ってみようよ』
海岸沿いの岩場に呼び出された専用機持ちたち。一番先に辿り着いた捲は困惑を隠せなかった。
(あれ、箒も来た)
『篠ノ之箒ちゃんって専用機持ってないよね?なんでここに来たんだろう?まさか……』
「全員揃ったな」
「ちふ……織斑先生。これは何の集まりなんだ?」
「じきに理由が来る。……そら来た」
「ちーちゃーんっ!久しぶりだね~!早速ハグを──ぐえっ」
高速で飛来し抱きつこうとする束に肘鉄を食らわせる千冬。それでも束の表情から笑みは消えなかった。
「ふふふ……相変わらず素直じゃないなぁちーちゃんは」
「生徒を待たせるな。自己紹介ぐらいはしろ」
「いいよ~。私が篠ノ之束。ISを造った凄い人だよ!ピースピース!」
「この人が……」
「ISの、開発者……!」
それぞれ衝撃を受ける中、捲は酷く動揺していた。下手すれば過呼吸に陥るのではないかと思われる程意識が揺れている。
「──それと、一応初めまして。捲」
「ご、ごめんね……ちょっとチン○温めさせてね……」
異様な懐かしさ。郷愁にも近い何かを感じる。彼女の存在感に飲まれかける捲だったが、なんとか語録をぶちかました。
「篠ノ之箒。お前に専用機が与えられる」
「……え?」
「ま、まさかあたしたちを集めたのって……」
「同じ専用機持ちとして、コンビネーションを鍛える。これはそのための招集だ」
「ふっふっふ~、愛しの箒ちゃんのために造った機体だからね~。気合い入れたよ~?」
束が空に手をかざすと、赤いISが降ってきた。その名は『紅椿』。
「はい!これが紅椿!早速触ってみてよ箒ちゃん!」
「……姉さんは」
「ん?どうしたの?」
「貴方はッ!何がしたいんだ!貴方のせいで、私たち家族は離れ離れになったんですよ!」
「箒……」
その怒りももっともだ。束がISさえ造っていなければ、箒はただの女学生として青春を謳歌できていた。家族との時間も確保できた。
「うーん、よく分かんないんだけど……
「──ッ!」
飛びかからなかったのは奇跡にも近い。怒りと悲しみの混じった表情に千冬でさえも同情していた。
「……篠ノ之。その気持ちは当然のものだ。飲み込めとは言わない。だが今は目の前のタスクに集中しろ」
「………………分かり、ました」
『……捲、大丈夫?』
一方で、捲も未知の感情に悩まされていた。視界が揺れる。意識が歪む。吐き気に襲われる。どれも良いとは言い難いものであった。
(私に……これを受け取る資格はあるのか……?)
箒は躊躇していた。欲していた力が目の前にある。しかしそれを受け取れる故由は束の妹とだからだけ。
決意もままならないまま触れる。すると、紅色の装甲がその身に纏わされた。
その後はあまりの高性能に戸惑いながらも仮想標的を切り裂いていった。満足げに微笑んでいる束を眺めながら、箒は呻吟していた。
『捲、聞こえる?』
(ああ……大丈夫だ。お前の声聞いたら落ち着いてきた)
「あ、そうそう。捲にも渡しとくものがあったんだ」
束から意識が向けられる。それだけで鼓動が加速する捲だったが、表情には出さなかった。
「盂涙ってまだ
『よかった~、やっと飛び道具が確保できた』
「はい♡ここでしょ♡盂涙の弱点は。夫として妻のウィークポイントをしっかりリカバー。これが助け愛だ」
『……え?め、捲、今妻って!?』
(なんだよ。相棒なんだから妻みたいなもんだろ)
『……あー、もう。私がバカだったよ』
鈴音とセシリアに追加武装が取り付けられたりするがそこはカット。一般生徒と専用機持ちたちで訓練が行われる筈だったが──突如として、その報せはやってきた。
▫▫▫▫▫
(非常事態ってなんなんだろうな)
『ちょうどお母さんがいるタイミングでのこれだからね……ちょっと怪しいな……』
「仏刹の試し撃ちしたかったな」
「いいな~捲。俺も剣以外の武装欲しかったなぁ。……でも俺射撃下手だからな……」
生徒たちは各部屋に押し込められ、許可が下りるまで外出不可能となった。その理由は専用機持ちのみに伝えられることになる。
「織斑、今、来い」
「は、はい」
「○ックスの準備整えちゃうのかな?まったく下品に育ちおって……生徒は誇らしいぞ♡一時給付金」
「……その発言は不問にしてやる。さっさと来い」
▫▫▫▫▫
搭乗している『ナターシャ・ファイルス』の意識は不明。彼女の救助依頼が、IS学園に届いていた。
「ここでこそ、紅椿が光るんだよ!」
作戦説明がなされている中、間に割って入ってきた束。彼女は豪語する。第四世代機である紅椿なら、高速飛行する福音に追いつけると。
ISには絶対防御がある。しかし万が一のこともある、と考えた千冬は生徒たちを戦わせることに否定的であったが、『何故か』救援は見込めない。否応なしに箒たちを出撃させるしかなかった。
▫▫▫▫▫
「紅椿に乗った白式の零落白夜で一気に仕留める。これが作戦の概要だ。行けるか、篠ノ之、織斑」
「俺は大丈夫……だけど、箒は平気か?」
「……大丈夫だ。行ける」
「気休めにしかならんだろうが……二人とも生き残ることを第一に考えろ。失敗しても責任は向こうに取らせる」
「「はい」」
捲たち専用機持ちは作戦領域外で待機。万が一失敗した時のための保険だ。
「では、作戦を始める」
▫▫▫▫▫
「こ、れ、が、紅椿のトップスピード……!」
「一夏、行けるか?」
「……ああ。慣れてきた……!」
バックにはみんながいる。その安心感が一夏を支えていたが、箒は精神的に消耗していたため本音を言えば千冬は彼女を出撃させたくなかった。
遠目に確認された福音。戦闘は既に始まっていた。バタフライ・エフェクトによるものなのか、原作ではいた密漁船はいなかった。
「うおおおおっ!!」
零落白夜が叩き込まれ作戦成功か……と思われたが、あくまでスラスターを破壊しただけ。本体の撃滅は失敗だった。
「ごめんみんな!失敗した!」
『ようやくあたしたちの出番ってわけね!いくわよアンタたち!』
『はい!』『うん!』『了解』『一生懸命ケツ振らんかい!』
彼女たちの進撃が開始された。──が、
「っ!?な、なんでコイツがここに!?」
「このISは……!」
ハイパー・センサーが感知したもう一機の敵性IS。それはかつてクラス対抗戦をおじゃんにさせた──ゴーレムⅠだった。
▫▫▫▫▫
状況は混戦だった。
無作為にエネルギーを吐き出す福音。一夏たちだけを狙ってビームを放つゴーレムⅠ。こんな状況にも慣れているのか、ラウラが即座にチームを作り役割を分担させる。
「一夏、箒は福音の足止めを!セシリア、鈴音、シャルロット、私はこの無人機を破壊する!捲は福音のハッキングを頼む!」
「「「「「了解!」」」」」「おお……俺だけひょっこり登場……皆既日食」
盂涙と捲のIS対話能力ならワンチャン説得して落ち着かせることもできるのでは、というのがラウラの見立てだったが現実は非情である。
『ダメ!コア・ネットワークが遮断されてる!これじゃハッキングも交渉もできない!』
「一夏ァ!ハッキングは無理だ!俺たち三人で福音倒すぞ!」
「捲でも無理なのか……!」
彼らの焦りとは裏腹に状況は意外と落ち着きつつあった。チーム分けの各個撃退。ラウラの戦場慣れが良い方向へ転んでいる。
▫▫▫▫▫
「うーん、それじゃ面白くないんだよな~……」
兎──篠ノ之束は哄笑しながら戦場に更なる一滴を加える。しかしそれは彼女にとっても望ましくない結果を招くことになるとは、知りもしなかった。
▫▫▫▫▫
「今だ!やれ!」
「はあっ!」「落ちなさい!」「これでっ、トドメ!」
AICで動きを止めたゴーレムⅠに三者からの総攻撃が届く。これが決定打となり、完全に沈黙した。
「よしっ、後は福音のみ……!」
軍用ISという競技用のそれとは一線を画するスペックに翻弄されている一夏たちだが、ここまで来れば多勢に無勢。一気に仕留めにかかる。
(使ってみるか。仏刹……!)
拡張領域から大口径マグナムを取り出す捲。狙いを定め、目標に向かって撃つ、が──
『なっ!?』
(なんつー反動だよ!ISのアシストがかかってこれか!?)
標的に命中したものの反動で肩が外れかけた。仏刹は攻撃力を重視した分取り回しが悪く、彼岸と併用するのは今の捲では難しかった。
とはいえ事態は攻勢。このまま行けば誰一人脱落することなく戦いを終えられる、と思われたが……。
「なにっ!?」
誰かの呟きと共に凄まじいエネルギー弾幕が一夏たちを襲う。
福音の強襲により一夏は絶対防御を発動。海に落ちていった。
状況は更に悪化の一途を辿る。
「へえ、織斑一夏はここで脱落か。ご愁傷様だなぁ、エム?」
「黙れ、オータム」
「っ!?誰……?」
「サイレント・ゼフィルス……!盗まれたISですわ!」
敵性IS二名の登場。混沌は止まらない。
▫▫▫▫▫
「……う、ここ、は……?」
一夏は白い世界の中にいた。見知らぬ少女が目の前に立っている。
「お前は、誰だ……?」
『私は白式。貴方の剣です』
「お前が、白式なのか……!?……って、こうしてる場合じゃねえ!早く戻って、戦わねぇと……!」
『もう、戦わなくてもいいんですよ』
「は……?」
『貴方は十分に貢献しました。ここでなすがままにされても、誰も責めません。──それでも力を欲するのであれば、この手を取ってください』
「力……。……あ、そうだ白式。こんな時に言うことじゃないかもしれないけど……」
『はい?』
「いつもありがとうな。お前のお陰だ。お前がいてくれたから、みんなを守ろうって思えた」
そういうと一夏は白式の手を取る。彼女は眩しそうに微笑んだ。
『では、行きましょうか』
▫▫▫▫▫
「捲!コイツらの狙いは君だよ!僕たちの傍を離れないで!」
「え〜〜どうしよーかなぁ。あ〜でもだめだ身体止まんね」
「バカ!そんなふざけてる場合じゃ……!」
『サイレント・ゼフィルス』。『アラクネ』。二体とも相当の熟練者だった。代表候補生ですら歯牙にもかけない。
「くだらん。こんな下奴を相手しても時間の無駄だ。さっさと目標を回収するぞ、オータム」
「なあ、嬢ちゃんたち。こっちの望みは今捲の身柄だけだ。大人しく渡してくれればお前らにも迷惑かけねぇよ」
「ふざけるな!誰が渡すか……!」
「あっそう。じゃ、死ね」
福音と二機のサンドイッチ。いよいよ三途の川が見えてくるか……?と捲は嫌な方向へ覚悟を決めていた。
──そんな時こそ、主人公の出番だ。
「──悪い。ちょっと寝てた」
姿を変えた白式。織斑一夏もまた、セカンド・シフトへ至っていた。
(一夏……私は……お前たちのような強さが欲しい)
少女は希う。
(私は、お前が好きだ。大好きだ)
少女は懇願する。
(だから、私にもお前を守らせてくれ──!)
少女は選び取る。
「……!?シールドエネルギーが回復していく……?」
いくらセカンド・シフトを遂げたとはいえ、白式のシールドエネルギーはゼロの筈だった。しかしそこで活きてくるのが紅椿の単一仕様能力、『絢爛舞踏』。箒は一夏への恋心から、それを発動させたのだ。
「……よし、一気に決めるぞ!」
「へぇ、それが篠ノ之束お手製の力か。ニクいねぇ」
「回復したのなら、削り取ればいいだけだ」
──しかし彼らは一つミスを犯した。絢爛舞踏は接触しなければシールドエネルギーを回復させられない。そして、今捲は、盂涙はサイレント・ゼフィルス加えアラクネと戦闘を繰り広げていたため消耗状態のままだったのだ。
「うおおおおっ!!」
まず、一つ。零落白夜の一撃が福音を揺らす。
「はぁっ!」
次に、二つ。紅椿の二刀、『
「今だ!捲ー!」
「オオオアアアアッッ!!」
止めの一刺し。極夜の閃撃。とうとう限界を迎えた福音はナターシャ・ファイルスを解き放った。
「ごめん。オレじゃ、君は救えない」
福音が落ちる刹那、彼の口から飛び出したのは語録ではなく、ただただ濃い痛みを孕んだ謝罪だった。
「──それを待っていた」
ただでさえ消耗している上に極夜でエネルギーを使った盂涙。解除させるには、一撃で事足りた。
「────っ!?」
背後からの衝撃。サイレント・ゼフィルスによる針の穴を通すような狙撃により、盂涙は解除させられた。
「はンッ、口ほどにもねぇな。後は私が回収して──お疲れさま、って奴だ」
アラクネの触腕が捲を包む。ここまで僅か数秒の出来事だった。
「じゃあな」
「まっ、待て!捲を返せ──ぐあっ!」
「雑兵がしゃしゃるな」
敵性IS二機の実力は圧倒的だった。特に傑出しているのがサイレント・ゼフィルスのパイロット。
一夏たちも遅れて向かおうとするが、徹底された迎撃により絢爛舞踏も間に合わず連れ去られる捲を指をくわえて見届けることしかできなかった。
▫▫▫▫▫
「かっこよかったな~、いっくんと箒ちゃん。……あれ!?捲連れ去られてる!?ちょっとちょっと~!それは困るよー!」
「束」
「あ、ちーちゃん?悪いんだけどこれから用事があって──」
「どこまでが貴様の差し金だ?返答によってはここで腕の一本や二本は覚悟してもらおう」
「心配しなくてもいっくんは大丈夫だよ。箒ちゃんもいるしね」
「答えになっていないぞ」
「──いずれ教えてあげる。まずは捲のことを心配したらどうかな?」
「待てっ!……くそ、逃がしたか……!束め。何を考えている……?」
対銀の福音、負傷者無し。行方不明者、一人。