空飛ぶちんちん亭   作:散髪どっこいしょ野郎

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第六話

「千冬姉!あいつが、捲が攫われた!助けないと!」

 

 

 旅館に帰還するなり必死の形相で訴える一夏。友人が攫われたとなり、気が気でなかった。

 

 

「奴なら平気だ」

 

「はぁっ!?何を以てそんなこと言い切れるんだよ!」

 

 

 千冬は痛む頭を抑え、忌々しげに答える。

 

 

「束が向かった」

 

 

▫▫▫▫▫

 

 

「起きろ。今捲」

 

「お゛おおっ♡イグウ~ッ♡」

 

 

 腹パンされて起こされる捲。彼は動かせない体と覚醒したばかりの意識で目の前の状況を認識しようとしていた。

 

 

(盂涙、状況説明を頼む……盂涙?)

 

 

 いつも首に感じていた盂涙の温もりが無い。部屋の中には自分と三名の女性。両腕が後ろ手に縛られ、固定された椅子の上に身体を縛りつけられている。

 

 

「探してるのはコイツか?」

 

 

 腹パンしてきた小柄な少女とは違う、茶髪ロングの美人が指先で待機状態の盂涙を回す。自身の相棒をいいようにされて捲は内心キレていた。

 

 

「梃子でも離れねぇからな。剥離剤(リムーバー)を使わせてもらった」

 

「変態女がよそのまま死ねッ!」

 

「黙れ。聞かれたことだけに答えろ」

 

「お゛ぉ~っ♡ヤベェ~-ッ♡」

 

 

 再び腹パン。胃酸が逆流するのをなんとか堪える捲だったが、彼はどこかで死を覚悟していた。

 

 

「目は覚めたかしら?今捲」

 

 

 豊かな金髪を携え、彼に問うたのは『スコール・ミューゼル』。彼女は優雅でありながら獰猛さを残した微笑みを浮かべ、彼の目の前に立った。

 

 

「こんな下品な身体で以前はいかように過ごしてきたの。セッ○ス以外の用途が見当たらないでしょ」

 

「てめぇ人の恋人になに猥談持ちかけてやがる!」

 

「んほぉ~~♡」

 

「オータム。気持ちは分かるけど抑えなさい」

 

 

 今度は茶髪ロングの美人、『オータム』と呼ばれた女性に蹴られる。相当強く固定されているのか、椅子はびくともしなかった。

 

 とりあえず判明したのはオータムとスコールは恋人関係にあるということ。しかしそんな情報は何の役にも立たない。

 

 ……いや、一つ怪しい点がある。

 

 

「ヌルヌル腹パンのお心遣いありがとう♡和をもってよしとなす」

 

「……まさかエムに話しかけているの?」

 

「なんだ。くだらない内容だったら殺すぞ」

 

「エム。ダメよ勝手に殺したら」

 

 

 たっぷり息を吸い込み、捲は言葉を紡ぐ。

 

 

「こんなに吸い付くお顔は初めてですよ。やっぱり相当クローンなんですね」

 

「貴様……何故それを知っている?」

 

 

 カマをかけることに成功したと、捲は内心ほくそ笑む。『エム』と呼ばれた少女は風貌が織斑千冬に酷似している。勘で言ったクローンという線もあながち夢物語ではなさそうだ。

 

 世界で二人しかいない男性操縦者が攫われたともなれば軍も血眼で探しに来る筈。それまで時間を稼ぐ心づもりだったが、肝心の問答はここから始まる。

 

 

「……悪いけど、あまり無駄話に興じていられる時間は無いの。──取引と行きましょう。貴方を解放する代わりに、私たち組織の一員になってもらう……。どう?悪い話ではないと思うけれど」

 

 

 悩むフリをしてまで場を伸ばす捲だが、とうとう堪忍したように口を開いた。

 

 

「この無駄な贅肉乳。下品に男を誘うだけが脳なのか。あぁ~このわがままおまん○本当にムカつくわ。テロリストになって世界が回るわけねえだろ!」

 

「交渉決裂、ということでいいかしら?」

 

「知ってた?無知蒙昧な女め!恥知らず!」

 

「エム。一回黙らせなさい」

 

「ふんっ!」

 

「ひっ♡お゛っ♡」

 

 

 殴打、殴打、殴打。顔中に青痣が表れる。

 

 

「貴方の意思が強いのはよく分かったわ。私たち組織に付かせることは諦めてあげる。……それはそれとして、貴方は世界で二人しかいない男性操縦者の一人。これが何を意味するか分かるかしら?」

 

「オラ頭わりいから理解不足だべなぁ。数学的帰納法もできねぇし」

 

「貴方の肉体は世界中の研究者が欲している、ということよ。私たち組織の幹部には貴方を解剖して男性操縦者になれる者を増やすべき、という方もいるわ」

 

 

 これは、マズい。ジンジンと痛む頭から冷や汗が流れる。

 

 

「大概にしろ!そんな極論で研究者気取ってるとか諸先生方に申し訳が立たんよ。間近でみるとお顔がとんでもなくいいな……」

 

「安心しなさい今捲。貴方の細胞一片まで無駄にはしないわ」

 

 

 眼球に近づく注射針。もはや逃れることはできない。

 

 ──今捲だけの力では。

 

 

「グーテンモルゲン今捲!みんなのアイドル、篠ノ之束さんの救援だよ~!」

 

「「「!?」」」

 

 

 壁をぶち破り現れたのは篠ノ之束。世界最強の科学者である。

 

 

「オータム!エム!」

 

「分かってる!」

 

「言われなくとも……!」

 

 

 速攻でISを展開する三人だが──

 

 

「んー、束さんを相手するには百年早いかな」

 

 

 束はISすら展開せず一蹴。一瞬でテロリスト集団は無力化された。

 

 

「ごほっ……どういうつもりだ篠ノ之博士。こっちに今捲の座標を送りつけたのはアンタだろうが」

 

 

 そう吠えるのはオータム。話が違う。彼女はそう訴えていた。

 

 

「私が望むのはいっくんのレベルアップ。二人はそのための肥やしでしかないよ」

 

「私が、あの男の肥やしだと……!」

 

 

 その言葉に激昂したのはエムと呼ばれた少女。体は動かずとも首だけで食いちぎりにかかりそうな剣幕だ。

 

 そんな殺意を気にも留めず、束は捲に笑いかけた。

 

 

「帰ろっか、捲」

 

 

▫▫▫▫▫

 

 

「私が来るまでよく頑張ったね。束さんが褒めてあげよう!」

 

「タマフ○ラ名人さん、キン○マがふやけるからそこまでにしてくれよ」

 

「やっぱり褒められると照れるんだね君。可愛いー」

 

 

 謎の手段で束と捲は空を飛行していた。贅沢を言えばあの場で三人とも捕らえたかったが、束の計画とやらに彼女らの存在は必要なようで止められてしまったのだ。

 

 

「あ、そうそう。盂涙をちょっと強化しといたから、これからも頑張ってね」

 

「お素晴らしいね♡鏡面加工のようにピカピカだ」

 

 

 顔どころか体中痣だらけの捲。痛む体を押さえるように渡された盂涙を装着すると──

 

 

『──やっと、キミに繋がれた。もう離さない』

 

 

 なんかヤンデレ化していた。

 

 

▫▫▫▫▫

 

 

「ッ!捲!無事だったか──って、どうしたんだよその痣!何があった……いや、とりあえず救急車呼ぶか!?」

 

「悪いな一夏。心配かけた」

 

 

 ない気力を絞り出し取り繕う捲。一夏の前で弱い自分は見せたくなかったようだ。

 

 

「ありがとう束さん!本当にありがとう!」

 

「いいよいいよ、半分は私の所為だしね」

 

「?それってどういう──」

 

「それじゃ、次会える日を楽しみにしてるよ!バイバイ、いっくん、捲!」

 

 

 ちょうど束がいなくなった辺りで遅れてやってきた千冬とその他専用機持ち。特に千冬は苛立ちを隠そうともしていなかった。

 

 

「あのバカ兎め……次に会った時はなます切りにしてやろうか。……っと、悪かったな今。救護が遅れた」

 

「有史以来最も出た……」

 

 

 いいタイミングでやってきた救急車に乗り、捲と仮保護者の千冬は病院に向かった。こうして、山あり谷ありの臨海学校は終了したのだった。

 

 

▫▫▫▫▫

 

 

「はぁ……」

 

『どうしたの捲?そんな憂鬱そうにして』

 

(いや、今日から夏休みっつってもやることねぇし、アリーナの使用許可が下りるのは来週だし、暇なんだよ)

 

『友達とかいないの?』

 

(孤児院にちんちん亭教えてくれた奴はいるけど、言ってしまえばそれだけだしあんまいい思い出無いからな)

 

『じゃあ一夏は?なんか誘われてなかったっけ』

 

(……あ)

 

 

 思い返す。そういえば夏休み突入直前に、こんなことを言われていたのだった。

 

 

『今度俺地元に帰るんだけど、捲も来るか?』

 

「…………」

 

 

 電話のコール音が鳴り響く。通話から数分後、捲は駅にいた。

 

 

▫▫▫▫▫

 

 

「いや~、悪いな捲。俺の都合で来てもらって」

 

「いや、どうせ暇だったんだ。むしろ礼を言わせてくれ」

 

 

 二人は一夏の故郷を歩いていた。向かう先はとある食堂。

 

 

「おーい、弾!来たぞー!」

 

「おー、有名人じゃねえか。一夏と……もう一人の男性操縦者?」

 

 

 『五反田弾』。一夏の中学生時代の同級生である。

 

 

▫▫▫▫▫

 

 

「「「いただきます!」」」

 

 

 まずは飯でも食ってけ、ということで捲は初めて、一夏は懐かしの五反田食堂の味を確かめていた。

 

 本当は話したいことが山のようにあったが、食事中に礼儀を欠くとキッチンからおたまが飛んでくるため三人とも無我夢中で目の前の料理にがっついていた。

 

 

▫▫▫▫▫

 

 

「いやー相変わらず美味いなここの飯」

 

「だろ?お前もよく食ったな。えーっと……」

 

「ああそうそう、コイツは今捲。たまに変になるけどいい奴なんだ」

 

「ほーん……俺、五反田弾。よろしくな、捲」

 

「おう、こちらこそよろしくな。ところで──ちんちん亭は知ってるか?」

 

 

▫▫▫▫▫

 

 

「うわっはっはっは!なんだこのエロ漫画!抜けるのに面白ぇ~!」

 

「だろ!?だろ!?いやー、やっと同志に出会えた」

 

「弾、捲、お前らなぁ……」

 

 

 捲と弾は早速打ち解けていた。一夏がいたとはいえ、久しぶりに同性と会話できたことで捲のストレスは大幅に緩和されていた。

 

 

「よし、三人いるしゲームでもするか。捲、これ知ってるか?」

 

「ああ、そのソフトなら一回遊んだことある」

 

「よしきた。じゃあ負けた奴がコーラ買ってくるってことで」

 

「ゲームなんて久しぶりだなぁ……。最近ISの勉強しかしてなかったからなぁ……」

 

「やっぱ女の子だらけなら選びたい放題なんだろ?」

 

「お前はIS学園をなんだと思ってるんだよ。あー、でも好きって言ってくれた奴はいるしなー……」

 

「…………え?」

 

「?どうしたんだよ弾」

 

「一夏が、異性からの好意を自覚している……!?明日は槍が降るのか!?」

 

「お前は俺をなんだと思ってるんだよ……って言いたいけど、実際捲に言われるまで気づけなかったんだよなぁ……」

 

「あ、やっぱ言われてようやく気づいた質か。まあ一夏らしいと言えばらしいが……」

 

「一夏は意外と飲み込みは早かったぞ」

 

 

 わいわいがやがやと賑わう部屋。その中に一人の女子が入ろうとしている。

 

 

「そういや数馬はどうしたんだ?アイツも誘えば来るか?」

 

「アイツ風邪で寝込んでるっぽいな」

 

「数馬?」

 

「ああ、捲に紹介してなかったな。弾と同じく中学で同級生で──」

 

「おにいー、卵買ってきたー?──って、い、いい、一夏さん!?」

 

「あ、おー。お邪魔してるぜ、蘭」

 

 

 ラフな格好で部屋に突入したのは『五反田蘭』。その反応的に一夏に惚れていることを捲は看破した。

 

 

「す、すみません一夏さん!……ってあれ?その人は……?」

 

「ああ、コイツは今捲。たまに変になるけど──」

 

「やべぇ……めちゃくちゃプリプリヌルヌルゾリゾリのミミズ千匹だ……っ。心もマゾメスなら身体も交尾用にアジャストされていて……っ。気絶しろ」

 

「……はい?」

 

 

 空気が凍りついた。

 

 

▫▫▫▫▫

 

 

「じゃあなー!また来いよー、一夏、捲」

 

「おう。今日は楽しかった」

 

「またなー、弾」

 

 

 アクシデントはあったもののなんとか無事にその場はお開きとなった。捲としても新しい友人ができた、素晴らしい一日だった。

 

 

「今日はありがとな捲。弾に紹介しときたくって」

 

「……友人ができるって、いい気分だな」

 

「ははっ、だろ?」

 

 

 爽やかに微笑む一夏。やっぱコイツイケメンだよなと思いながら、捲はとある確信をぶつけることにした。

 

 

「さっきの……えーっと、五反田蘭だっけ?多分お前さんに惚れてるぞ」

 

「……マジ?」

 

「ああ。態度からして明らかだった」

 

「……俺に惚れてくれてる奴ら多すぎないか?」

 

「お前さんイケメンだしな。そんなもんだろ」

 

 

 新たな頭痛のタネに悩む一夏を横目で眺めつつ捲は空を見上げた。暮れの茜空には飛行機が飛んでいた。

 

 

▫▫▫▫▫

 

 

『夏祭り行こうぜ』

 

「おう。分かった。普段着でいいか?」

 

 

 夏休み期間中も自己研鑽に努めていた捲だったが、たまには休むのも重要ですよという山田真耶の言葉を思い返し夏祭りに参戦することを決め込んだ。

 

 

▫▫▫▫▫

 

 

(イケメンは浴衣着てもイケメンなんだなぁ……)

 

「?どうしたんだ捲。俺の顔になんかついてるか?」

 

 

 リンゴ飴、綿菓子、焼きそばなど、祭りの味を堪能していく捲と一夏。その背後ではヒロインズが虎視眈々と隣の座を奪い合っていた。

 

 しかしその争いは、大方予想通りの相手の登場で終結することになる。

 

 

「おーい、千冬姉ー!一緒に回ろうぜー!」

 

「デカい声で呼ぶな。騒ぎになるだろう」

 

「ケツ○見せろ!見せながら○クメしろ!ケツ肉邪魔なんだよ!死ね!」

 

 

 頭をひっぱたく快音が夏祭りの場に轟いた。

 

 

▫▫▫▫▫

 

 

「そろそろ花火上がるっぽいな。捲と千冬姉、二人で回っててくれ。俺場所取りに行ってくる」

 

「迷子になるなよ、一夏」

 

「俺だって成長するんだぜ千冬姉?迷って泣き喚いたりしないって」

 

 

 ……気まずい。捲の脳内に真っ先に上がった感情はそれだった。

 

 捲はこんなんでも一応罪悪感を覚えていた。普段迷惑をかけているという自覚もあった。しかし女性への拒絶反応は治しきれない。

 

 はてさてどうしたものか……と逡巡していると、彼女から口を開いた。

 

 

「捲。お前に二つ程言っておきたいことがある」

 

「うれp!ママ早くぅ!」

 

「私たち教師部隊の不能でお前にはその火傷痕を作らせてしまった。すまなかったな。それと、姉として感謝する。よく、一夏を守ってくれた」

 

 

 かつてないデレ。これは一発語録をかましても許されるのでは?いつも散々言ってるだろ阿呆が。

 

 

「おらベロチューしろ密着して。これが社会だ」

 

 

 捲は殴られた。

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