史上最強のドラゴンポケモンになったけど弱すぎるので竜の心を知る娘に養われます 作:秋塚翔
以前、同名タイトルで投稿していた作品を、ようやく本格的に続けるの目途が立ち心機一転再連載させていただきました。この第一話はその修正版のため、最初は二話更新で始めさせていただいてます。
改めてお楽しみいただけると幸い。初見の方も楽しんで読んでいただけたら光栄です。
不慮の事故に遭ったはずの俺は、気が付くとポケモンになっていた。
自然そのままな草むら。ゲーム画面越しでしか見たことのないポケモンたちが目の前で自由気ままに過ごしているその中で、俺はポケモン――それも伝説のポケモン・キュレムの姿になっていることを自覚した。
そりゃ最初は驚いたもんだ。思わぬ事故に巻き込まれて人生終わったと確信した矢先、目を覚ましてみたらポケモンが現実にいて、しかも自分の姿すらポケモンに変わっているんだから。命の瀬戸際に見る夢か何かだと思うのは当然だろう。
だけど、これが流行りの転生とやらであると理解するのはけっこう早かった。
分かれば話は早い。なにせポケモンの世界だ。生前ゲームで触れてきた世界にいま立っているんだという事実が俺のテンションをぶち上げてくれる。
トレーナーとか、そもそも人間ではないのはあれだが……それにしたって今の俺の姿は、史上最強のドラゴンポケモンと名高いキュレムだ。転生ガチャ大当たりと言っても過言じゃなかろう。これまでの常識を軽く飛び越えた事態に困惑するよりも、せっかくの第二の人生(ポケモン生?)を存分に味わおう。どうせなら最強ポケモンとして成り上がっていくサクセスストーリーをスタートさせようか――
と思った矢先、はたと気付く。
――
いい加減落ち着いてきてよくよく見てみれば、なんか目線が低い。人間の膝下くらいの感覚だ。多分ピカチュウとそう変わらない体高だろう。
水溜まりを鏡にして覗き見る。キュレムなのは確かだが、どことなく愛嬌を感じる丸みを帯びていた。さながらデフォルメされたキュレムのぬいぐるみって感じだ。そして何より、伝説ポケモンにしては力が全然ないように体感的に感じられる。
そこで俺は、ようやく理解した――俺、
……まあ、そりゃそうだ。な○う系じゃあるまいし、強くてニューゲームとは行かないだろう。
気を取り直した俺は、ならばと堅実にバトルしてレベルを上げることに決めた。
レベル1だろうとこの身は伝説枠。一から頂点にのし上がってやるぜ!
――と意気揚々野生ポケモンにケンカを吹っ掛けに行くのだが……結果は散々だった。
いかに伝説だろうとレベル1はレベル1。タマゴから生まれたばかりのポケモンと大差はない。覚えている技も『こごえるかぜ』しかないため、圧倒的な力差に敗けまくった。それはもう、フルボッコだよ。「こうかはいまひとつ」な攻撃一発でボロボロにされる始末。
そこでやっと目に入ったが。草むらと道路を挟んだ向かいにある人工物の建物が、ショッピングモール“R9“であることに気付いた瞬間、ここがイッシュ地方のソウリュウシティとシリンダーブリッジを結ぶ9番道路だと理解した。ゲーム――ブラック・ホワイトシリーズではストーリー終盤に訪れるような高レベル地帯。
つまるところ、レベル1でお話になる場所ではなかったのである。
だったらワンチャン禁断のタブンネ狩りを敢行だ! と揺れる草むらに飛び込み経験値狩りの被害者ことタブンネに挑み掛かるも、可愛い顔して『なかまづくり』や『メロメロ』は使わず、狙ったように『とっしん』と『ひみつのちから』かまされました……それをトドメに、とうとう力尽きる俺。
これがトレーナーであれば、ポケモンセンターに駆け込んで回復できたんだろうが、野生のキュレムでしかない俺はそんな器用なマネできるはずもなく。力が入らず、立ち上がることもままならない「ひんし」な俺に待っているのは、恐らく寂しい終わりだろう。
早かったなー、俺の第二の命の終わり……不思議と実感が薄いのは、二度目の死だからだろうか? まあ、二度目は短くも夢を見れたポケモン生だったんだ。悔いはあっても未練は無い……
ああ、目が霞んできた。……あれ、誰か近づいてくる。でも、ダレだろう? みえない。もう、ねむく、て。ねむ──
……
…………
………………ぅん?
「あっ、起きたっ!」
ふとして目が覚めると、幼げな声が上がった。
見上げた先に、動く俺を見て全身で喜びを表現している女の子がいた。キラキラした瞳で、俺が目覚めたことに安堵と喜色を褐色肌の顔に浮かべている。
「おじーちゃん、起きた! 起きたよっ!」
少女が部屋の向こうに呼び掛けた。すると、そちらからヌウッと白い髭を蓄えた男が、厳しそうな顔付きで歩み寄ってくる。
「どれ、見せてみなさい」
言葉少なにそう言うと、俺の目や口の中を見たり、体の関節を曲げ伸ばしたりしてきた。獣医が動物の健康状態を診るかのように。
やがてひと通り診察し終えた男は、髭で覆われる顎に手を当てて呻く。
「氷の竜か。見たことのないポケモンだ。他の地方から流れ着いたか、あるいはイッシュに伝わるドラゴン伝説の知られざる一端か……何にせよ、あと少し保護するのが遅ければ危なかったな」
「よかったー! 今日お買い物に行ったから見付けられたんだよ! 助かってよかったね!」
無愛想と天真爛漫。真逆の二人だ。だけど、俺という行き倒れのポケモンを助けられて、二人共安心した様子なのは共通してる。
そして、今さらながら気付く。彼女たちが何者なのかを。
シャガに、アイリス。――俺が遊んだブラック・ホワイトではそれぞれのバージョンでジムリーダーを務める、ソウリュウシティのジムリーダーだ。
そのうちの一人、天真爛漫さを体現したような少女のアイリスが、無愛想さを貫いているようなシャガにピョンピョンと飛び跳ねながら提案を持ち掛ける。
「ねえねえ、おじーちゃん! この子、あたしが育ててもいい?」
「なに?」
な、なんですと?
「いいでしょ!? だってこの子、まだ世界に出てきて間もないみたいだし、強くなればもっともっと凄いと思うんだ! だから、お願い! 私に任せて!」
両手を胸の前で合わせ、シャガに強く要望するアイリス。
一方で、俺は非常に困惑なう。死んで、キュレムになって、ボコボコにされて、目の前が真っ暗になって、助けられて、そしたら次は女の子に保護されるとは。なんだ? 人によってはご褒美だぞ。もちろん、俺にはそんな趣味ないです、はい。……ホントだよ? キュレム嘘つかない。
「……うむ、好きにするといい。近頃はプラズマ団などという、ポケモン解放を謳いながらそれとは真逆の行動も噂に聞く集団もこの辺りで目撃されている。珍しいポケモンを奴らが見付ければ、何をするか分からんからな。お前が面倒を見るなら安心だ」
「やったあ!」
困惑している間に話は進み、保護者であるシャガから許しをもらったアイリスは大喜びの様子。そして俺に顔を近付け、太陽のような笑顔を降り注いでくる。
「いきなりでごめんなさい。でも、アイリス貴方のことが気に入っちゃった! セキニン持って育てるから、これからよろしくね、ドラゴンさん!」
本当にいきなりだ。伝説のポケモンに転生して、だけどレベル1で、二度目の生も終わりかと思いきや、こうしてジムリーダー──それもアイリスに手を差し伸べられてる。これが本当に夢なら俺の悲しい願望の顕れってことで胸の内に秘めて終わりだが、どうやら覚めてくれそうになくて。濃すぎる二度目の生の始まりにいっそ泣けてくる。
「──ヒュラララ」
それでも、このまま突っぱねたとして、レベル1の俺がただ一匹で生き残れる保証がない。
だからって訳じゃないが、俺はそれに一鳴きして応じる。
不思議と安心できるアイリスの屈託ない笑顔は、そうして更に弾けるのであった。
アニポケからBW入ったので原作アイリスのギャップにやられた系作者。
それを今一度存分に表現していきたい所存です。
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