史上最強のドラゴンポケモンになったけど弱すぎるので竜の心を知る娘に養われます 作:秋塚翔
※前話でアニポケキュレムの声優ネタ間違ってたので修正しました。
それから、無事に目的の場所へと辿り着いた。
ヒウンジムのある名もない通り。――ジムの反対側にあるビルの一つに。
「あっ、ヒュラ!」
そこに着いたと同時、ちょうど同タイミングで到着したらしいアイリスが喜びと安堵を表した声音で俺に駆け寄ってくる。
「はぐれちゃって心配したんだよ! 良かったあ!」と言うアイリス。それに関してはマジで俺の考え足らずだったからすまんかった。
「ああ――ちゃんと来てくれたね、アイリス」
そこにのんびりした声が。ここに来るよう連絡したアーティだ。
その隣にはトウコの姿もある。
「もうっ、迷っちゃった。ライブキャスターで説明されてもチンプンカンプンだよ」
ぷぅと頬を膨らませ、アイリスは不満を表明する。対するアーティは苦笑いしてあしらう。
状況を見てみると、どうやらトウコとアーティがこのビル……プラズマ団の隠しアジトの入り口に立ち塞がっていたしたっぱたちをポケモン勝負で打ち負かしたところのようだ。間に合った。
「ここにプラズマ団がいる。もしかしたら奪われたポケモンもいるかもしれない」
不穏な空気が漂うアジトの入り口を見やってアーティが言い、そのまま率先して中へと突入。
続くようにしてアイリスが威勢よく意気込む。
「よーし! 今度はあたしも戦う!! さあ、ベルおねーちゃんも!」
「ちょ、ちょっとお。――トウコも来てえ!」
ベルの背中を押して一緒に建物内に入っていく。
俺とトウコも、それに倣う形で中に入る。
「これはこれは、ジムリーダーのアーティさん。
――ようこそ、我らプラズマ団のヒウン拠点へ」
演技がかった静かな声が投げ掛けられる。
それは余裕とも、内に秘めた野望を隠すためとも取れる信用ならない声色。
一見するとただのビルと変わりない内装のビルの中にて。
複数の団員と側近たちに囲まれて
「プラズマ団って人が持っているものが欲しくなると盗っちゃう人たち?」
アーティが平素と変わらぬ口ぶりで刺すように尋ねかける。
それには答えず、側近の老人――スムラだっけ? が中心に立つ
「ポケモンジムの眼前に隠れ家を用意するのも面白いと思いましたが、意外に早くバレましたな」
それに悪趣味な法衣姿のそいつ――ゲーチスは薄く笑って答える。
「確かに……まあワタクシたちの素晴らしきアジトはすでにありますからね」
まるで自分がこの場の上位にいると言わんばかりの佇まい。
悪し様に言いまくっているが、おおむね事実であるのはもはや常識の相手で。俺の目の前にはプラズマ団を実質的に牛耳っている男、ゲーチスの姿がそこにあった。
出たな、毒親オブザイヤー堂々受賞者。
「さて、アナタがた。イッシュ建国の伝説はご存じですか?」
ゲーチスは語りかける風にこちらへ訊ねる。
「知ってるよ! 黒いドラゴンポケモンと白いドラゴンポケモンでしょ!」
お? どっちも言うんだアイリス。
でもそうか。バージョン違いとかないし、両方いるならまあどっちも言うわな。
アイリスの返答にゲーチスは前に出て、
「そう……多くの民が争っていた世界をどうしたら纏められるか……その理想、または真実を追究した英雄の許に現れ、知識を授け、刃向かう存在にはキバを剥いた――黒と白のドラゴンポケモン。英雄とポケモンのその姿、その力がみんなの心を一つにしてイッシュを造りあげたのです」
そのまま酔いしれて全体へと語るかのように、
「いま一度! 英雄とポケモンを蘇らせ――さらには迷える人々を王に仕えし有望な腹心たちが導き、その信心を王へと集めさせれば! いとも容易くワタクシの……いやプラズマ団の望む世界にできるのです!」
ん……?
なんか、違ったような?
まあいいか。……それよりゲーチスさんよ、原作プレイしてた時も思ってたが外で易々と自分の野望語りすぎやしないかね? ここに関しては信頼寄せられるジムリーダー相手に。英雄と建国伝説のポケモン使って人心操りたいのに人前でそれひけらかしちゃ意味ないだろ。
そういうとこが俗物なんだよなー、この教祖紛い。
そんなゲーチスの語りに毅然と言葉を返すのは、ご存じアーティ。
「このヒウンにはたっくさんの人がいるよ。それぞれの考え方、ライフスタイルほんっとバラバラ。正直何を言っているのか分からないこともあるんだよねえ」
プラズマ団側がそれに首を傾げるが、アーティは構わず続ける。
「だけどみんなに共通点があってね。ポケモンを大事にしているよ。――カラクサの演説だっけ? ポケモンとの付き合い方を見詰め直すきっかけをくれて感謝しているんだよ。そして誓ったね……もっともっとポケモンと真剣に向き合おうってね! 貴方たちのやっていることは、このようにポケモンと人の結び付きを強めるんじゃないの?」
緩い雰囲気漂うアーティの印象が変わる啖呵。
それを受け、ゲーチスは高く笑う。
「フハハハ! 掴みどころがないようで存外キレものでしたか。そういう人間はワタクシも好きでしてね――よろしい! ここはアナタの意見に免じ引き揚げましょう! そこの娘……ポケモンは返してやろう」
ゲーチスがそう言うと、団員の一人がベルから奪ったムンナを出す。ムンナは戸惑いながらも、ベルの姿を認めると彼女の許へと嬉しそうに戻っていった。
「あっ、ありがとう! ムンちゃん! おかえり!!」
「おねーちゃん!! こいつら人の大事なポケモン盗っちゃった悪者なんだよ!?」
「で、でもお。ムンナが無事で嬉しくて」
怒るアイリスに申し訳なさげながら、ポケモンが戻ってきたことに喜びを表すベル。
その光景にゲーチスは声高々に心にもないことを宣言する。
「これは麗しいポケモンと人の友情! ですがワタクシはポケモンを愚かな人間から自由にするため、イッシュの伝説を再現し、人心を掌握しますよ……!」
マントの下から手を振り上げてそう宣った後、ゲーチスは七賢人二名としたっぱ団員たちを引き連れてビルから立ち去っていく。……む、したっぱの内の二人、さっきスリムストリートで出くわした奴だ。なんかムカつくから睨んでおくか――まるで意に介さず行っちまったよチクショウめ。
「――ああ、成し遂げてやるとも」
最後に憤怒を込めた昏い声が、誰に語り掛けるでもなく独り言ちるのが聞こえた。
「どーして悪いヤツを見逃しちゃったの!?」
プラズマ団が逃げ去ってすぐ、アイリスが当然の反論をする。
「……んうん。だって奪われたポケモンにもしものことがあればボクたちはどうすればいいのさ?」
「大丈夫だよアイリスちゃん、ありがとう! みんなケガなかったし、なにより大事なポケモンとこうやってまた会えたんだもん!」
「そっか……だったらいいんだけど……」
アーティとベルの言葉に、ひとまず呑み込んだ様子で引き下がるアイリス。
前に同じ状況でプラズマ団を見逃してるからな……悔しい気持ちは誰よりもあるか。
「で、みんなはこれからどうするのさ?」
話題を変えるように、アーティが呑気に尋ねかけてくる。
「私はチェレンみたくここのジムにも挑戦だね」
「……あたしはヒウンシティを色々見て回りたいけど……」
トウコ、ベルが答える。ベルはさっきのことがあったので消極的だ。
「だいじょーぶ!! あたしがベルおねーちゃんのボディーガード続けるから!」
「アイリスちゃん……」
胸を張って提案するアイリス。それにベルは安心したようにはにかむ。
「あとおねーちゃん! ポケモン捜してくれてありがと!」
「トウコ……ほんっとにありがとう!」
「当たり前のことしたまでだよ。最後は私も力になれてなかったし」
平然とトウコは言う。いや、相手が相手とはいえ、平気で悪事働く連中に一歩も引かずバトルで勝つのは子供の胆力じゃないが。これが真の主人公の風格かぁ……
その後、「じゃーねー!」とアイリスがベルの背を押しながら行くのを、俺も後からついていく。今度ははぐれないように。また迷子になったらみっともねえわ。
これにて待望のヒウンイベントは終了か。多少のハプニングはあったが、無事に見ることができてプレイヤー冥利に尽きるぜ。
さあ、こっからは本当に自由時間。
アイリスとベル。少女二人の観光風景を後ろから見守るとしますか。
露骨なこともしましたが。個人的に印象深い原作イベ回やりきれて満足な件。
地味にこのイベ後に隠しアジトで「けむりだま」手に入るの、この前にあたるシッポウイベのアンサーみたいで芸が細かいと感じてしまいます。煙幕これかいと。
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