史上最強のドラゴンポケモンになったけど弱すぎるので竜の心を知る娘に養われます 作:秋塚翔
思い出せば初めてBWをプレイした時、あるいは何度もやり直しプレイした時。
前情報で知ってたから、いつかは出てくるだろうと思ってはいた。
だけどチュートリアル段階のカラクサタウンで、いきなりプラズマ団演説の場面に出くわして。その思想の強さに「あれ、今作の悪の組織かなりヤバいぞ?」と圧倒されているところに登場し、電波っぽいセリフと共に存在感刻み付けてきたのは、ある意味じゃ想定通りのリアクションをさせられたものであった。
あの時も思ったより早い登場をしてはいた。
でもさあ――それにしたって出てくるの早すぎだろN……!
「ふむ……」
俺が呆気に取られる内に、その緑髪の青年――つまりはNがこちらを徐に覗き込んでくる。
BWシリーズにおける主要人物であり、ポケモン解放を謳う組織・プラズマ団の王として担がれている、ある種の人気を誇る原作キャラが俺の目の前にいた。感動より先に驚愕が勝つ状況。
その暗い炎を湛えたような双眸は、まるで俺のことを見透かしてくるかのよう。
待った。いやこれ……地味にヤバくないか?
Nといえばポケモンの声が聞ける。
そして俺はポケモンそのもの――しかも人から転生したポケモンだ。そんな俺の言葉がNに解るとしたら混乱を生むんじゃなかろうか?
恐らく原作スタート前と思しきNは、ただでさえ『ポケモンは人から解放されるべき』という考えに固執しているから、俺という人がポケモンになった存在は原作主人公たちと交流する前に要らぬカルチャーショックだ。良くてNのアイデンティティ崩壊、悪くて俺はこのまま取っ捕まってプラズマ団の実験動物扱いかもしれん。
回避するためにはNに俺の言葉を聞かせる訳にいかない。
こういう時は――そう! 素数を数えるんだ! ……素数ってなんだっけか。
ええい何でもいい! 108、130、95、80、85、102――
「――不思議なポケモンだね、キミは」
と。
「人間のように考えているのももちろんだけど、キミはボールに囚われていないのに人と共に在ろうとしているようだ。植え付けられた観念じゃない、自分で考えた答えを基に人との共存を望んでいる。ボクのこれまで出会ってきた
驚きと感心の色を浮かべて言うN。
どうやら俺が言ったことは聞こえていない様子である。どういうことだ?
いや、よく考えてみると。そもそもポケモンの声が人の言語で聞こえる訳じゃないのか?
昨今のシリーズで豊穣の王やら邪神やら、人間の言語で喋れるポケモンはいるが。ポケモンの言葉が人間の言語文化に準じているのはおかしい。それならアニポケでニャースが言葉の勉強する必要ないしな。
Nはポケモンの声が聞こえるけど、それを感じ取って人間の言葉に翻訳している形であるのなら色々納得いく。それでも特異的な能力には変わりないが。
なんにせよ、俺の言葉自体が解るんじゃなくてひと安心だぜ……
「やはり外に出て正解だった。世界には様々な形がある。人とポケモン、ポケモンと人。正しくあるべき姿が分からない関係性、読み解けない数式……きっとそれを知ることでボクは正しい理想と正しい真実に辿り着ける」
陶酔するように一人語り中のNに、俺は若干引きながらちょっと期待を寄せた。
転生ものによくある介入……俺というイレギュラーと出会ったことでNの考え方が変わったら、今後の原作展開にどう影響するだろうか?
アニポケのようにプラズマ団から離反して対立するか、それとも。
ようやく見えてきた俺の役割に僅かな期待を抱く。
が、すぐそれは覆る。
「――そしてその解を得ることでボクはポケモンを真の自由に導けるだろう。人から解き放たれ、本当の姿を取り戻したトモダチを守るため王となる……それがボクの目指す道だ。そうすれば、キミもきっと人のような考えから解放され、正しい自由を手にできるよ」
あ、ダメだ。全然揺らいでねえや。
そらそうだよねえ……原作主人公じゃあるまいし、俺ごときレベル1ポケモンと接触したところでどうにも影響するはずがなかろうに。
マジで俺の言葉解らなくて良かった。恥ずかしいったらありゃしない……
「ヒュラー! どこにいるのー!?」
そうこうしていると。不意にアイリスの呼びかける声が上がった。
俺がいなくなったのに心配して探しに来たのか。声は軽快な足音と共に近付いてくる。
「あっ、ここにいたんだ! おじーちゃんがね、おいしいオヤツを用意してくれたから一緒に食べよーよ!」
無警戒に駆け寄ってきたアイリス。
それを見て、Nはふっと微笑みながら踵を返す。
「とにかく今は、トレーナーとの時間を大切にするといい。いずれキミにも理想と真実を選ぶ機会がやって来るだろう。その時にどうすべきか、よく考えてみてくれ……キミも、ボクの大事なトモダチなのだから」
言って、静かに立ち去っていくN。
「? 友だちになったの?」
アイリスが何気なく訊ねかけてくる。
うん、まあ……トモダチだな。一方的な、だけど。
いずれまた出会うことはあるのかないのか……その時は話し合えるといいな。
考え変えるのは原作主人公頼りだけど。
今日も一日が終わった。
まさかのN邂逅イベントはあったが……俺個人は変わりなし。
ほとんどバトル見たりほっつき歩いてただけだしね。これもポケモンで良かった。人間だったらろくでなしすぎて自己嫌悪になるぜ……
「おやすみ、アイリス。明日も精進するんだぞ」
「はーい! おやすみおじーちゃん!」
アイリスがシャガと挨拶を交わした後、自室にやって来る。
そこでは俺が一足先に専用のベッドでくつろいでいる。
ボールに入れてもらっていない俺は、ひとまず
しかし現状ほぼペットな俺……そこだけはちょい情けなさあったり。
「ヒュラもおやすみっ。明日も楽しい日だといいね!」
「ヒュララ」
ペット繋がりから某とっとこハムスターを思い出しながら、その言葉に一声鳴いて応える。
照明が落ち、アイリスは就寝のためベッドに入っていく。
さて。俺も明日が良い日になるのを祈りつつ寝るとしようかな――
「…………ねえ、ヒュラ」
その矢先、こちらを呼ぶアイリスの声が届いた。
なんだと思っていると、彼女は続けてくる。
「あたしね、おじーちゃんに村から連れ出されてここに来た時は、とっても不安だったの。こんなに広い世界であたしやっていけるのかなって。あたしよりも強い人に敗けたら自信なくなっちゃうかもって」
弱音の吐露というより懐かしむようにして、アイリスは語り掛けてくる。
俺は静かに聞き入った。
「でもね、おじーちゃんもコーチも、アデクのおじーちゃんも、それにアイリスのポケモンたちだってそんなあたしを励ましてくれる。それはすごく嬉しいことなんだなって。だからね、あたしはみんなのためにもっともっと頑張っていきたいんだ。――あっ、もちろんヒュラのためにもね」
ほっ……俺もちゃんと一員に入ってたか。
そこにちょっと安堵してしまう。
「いつか、おじーちゃんとの約束通りチャンピオンになって……今よりもっと自信が持てたらいいなって。そのためにも、これからも一緒に強くなっていこうよ……ね、ヒュラ――すぅ……」
そう言い切るかどうかのところで。アイリスは流れるように寝入ってしまった。
決意表明みたいな寝物語。なんとなしに語られた少女の意気込み。
聞き届けた俺は、妙な心持ちのまま同じく床に就く。
今から二年経てばそれが叶えられることを、俺は知っている。
それまでに俺はどうしていくか――そのことを胸に抱きながら目を閉じた。
その日の夢で。
華やかな衣装を身に纏うアイリスの傍で、キュレムとして立派に成長した俺が侍る姿を見たが、
それが叶うか否かは、俺次第だ。
Nの能力についてかなり自己解釈しました。ただ人間の言葉で聞こえるならこうも考え凝り固まらないよなって。あくまで「怒り」の感情読み取って「怒っている」とか、「見てきた光景」を受信して「このポケモンのトレーナーはこういう人間だ」と翻訳してるんかなという解釈です。
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