史上最強のドラゴンポケモンになったけど弱すぎるので竜の心を知る娘に養われます 作:秋塚翔
「わっわっわっわ!!」
「ブワッフア!!」
二匹のオヤブンが鎬を削っている。
ウォーグルとバルジーナ。片や縄張りに侵入してきたのを追い払うため、片や入り込んだ縄張りを奪い取るため対峙する両者は、赤い眼光と満ち溢れる野生の力を交えて激しく争い合っていた。
巨体同士の衝突は、それだけで威圧感を放っている。
「ヒュラァ……っ」
それを目の当たりにして縮こまる弱小ポケモンが一匹。はい俺です。
余りある眼前の迫力に逃げ出したいのはやまやまなのだが、そんな俺をそれぞれの手下――ワシボンとバルチャイがどういうことか逃がさぬよう取り囲んでいた。
まるでこの縄張り争いに勝った方が得られる獲物のように。何故そうなる?
くっ、どうしてこうなった。
そりゃ確かにちょっとイキったりしたけど、こうも因果が巡るような悪いことか? ……まあ調子こいてるの傍から見たら天罰下らせたくなるだろうが。おのれアルセウスめ(責任転嫁)
しかしこれが天罰だとしても。どうやってここを切り抜ければいいか……
ポケダンのモンスターハウスかのように俺を囲む手下どもはなんとかできる。けれどそこからオヤブン二体相手にどう逃げられるか。現状いがみ合っているが、だからってあっさり取り逃がしてくれる手合いじゃない。
無論、真っ向から戦って勝てる存在でもなし。今もオヤブン同士で争っている様は、とても俺のレベルで太刀打ちできるものではないと一目で分かる。レジェンズ主人公が初めてオヤブンポケモンと出くわした時ってこういう心境だったんだろうな……って心から実感をしていた。
かといってこのままでも危機的で、待っているのは絶体絶命のピンチ。
己の無力さを自覚しつつ、これを突破しないといけない窮地。
こうなりゃヤケだ……! やらずに後悔よりやって後悔!
「ッヒュラララ!」
覚悟を決めた俺は、自分を鼓舞するように力強く鳴き、
渾身の『れいとうビーム』を撃ち放った!
「くえぇッ!?」
囲い込む
そのまま俺は、威力を維持しながら冷気の光線をオヤブンたちに見舞う。
倒せないまでも、せめて怯ませようと。そこから活路を見出すため――互いに集中していたオヤブンウォーグルとオヤブンバルジーナに狙いを付けて。そしてまともに命中させた。
――やったか!?
「「…………アァ?」」
あ。
やっちまったわ、これ。
直後にこちらへと向く二対の赤く光る双眸。
怯ませるどころか、俺の全力の一撃にまったくといって通用した様子なく、二体のオヤブンポケモンが怒りの形相で俺の方に向き直ってきた。完全に俺へとヘイトが向いてしまっている。
まあ、あれだ。
……やって後悔したぁぁぁー!?
「「グルルルゥッ……」」
先ほどまでのいがみ合いから一転、息を揃えて迫り来るオヤブンたち。
争う獣同士は横から割り込んできた無粋者を排除するために一時共闘もすると聞いたことはあるが、まさにこれがそうだった。俺という邪魔者を排除すべく、オヤブン同士が結託する一番最悪な状況へと事が運んでしまう。
「「グワァッ!!」」
そして、威迫満点に襲い掛かってきた。
俺は咄嗟に見様見真似のローリングでもって回避を試みる――!
ズガアァンッ!!
という爆撃でも起きたかのような轟音と衝撃が上がる。
なんとか避けられた先で見れば、俺が元いた場所にオヤブンウォーグルの『ブレイククロー』が炸裂し、地面に大きなクレーターを作り上げていた。
マジかよ! もうそれその技の威力じゃなくね!?
「ブワッ!!」
などと呆けてる暇もなくて。
続けざまオヤブンバルジーナの攻勢が迫る。
息吐く間もなく、『あくのはどう』の禍々しいエネルギー波が放たれた。
これもどうにか体を駆動させてかわす。先と同じような爆発音。その余波にキュレムの小さな体が軽く吹き飛ばされて地を転がる。
いや、無理すぎるって……!
単純なレベル差とかの次元でない力の差がそこにあった。耐えて粘ったら勝てるとかいう問題じゃない。生物としての段階の違いを痛感させられる。これがオヤブンなのか……!?
分かってはいたが、いくらなんでも予想以上だ。
とにかく一瞬でも隙を突いて突破口を開かないと――
「「「くえぇッ!」」」
なんだとっ!?
しまった。オヤブンだけじゃなくその手下もまだ……!
逆に隙を突かれて。ワシボンとバルチャイたちの奇襲を受けてしまう。
そこに狙ったようなオヤブンバルジーナの二の手が繰り出されるのを見た。
まずい、避けられな――っ!
ドガアァッ!!
「ヒュラ……っ!?」
二発目の『あくのはどう』を今度は被弾し、跳ねるように弾き飛ばされる俺。
幸い瀕死とはならなかったが……致命的な大打撃だ。赤ゲージミリ単位。もはや動けやしない。
「「グルルルッ」」
そんな俺を仕留めたとして、悠々にじり寄ってくる二つの群れ。
俺を排除した後は改めて縄張り争いをするだろうが、今は一つの脅威となって迫ってきていた。
くそ、こんなところで終わってたまるか……!
せっかくのニ生目だってのにつまらなすぎる最期だろ。
これで終わったら伝説のポケモンの恥だし――なによりアイリスに顔向けできねえ!
ぐ、と体に力を込める。
あいにく御三家みたいにピンチで強くなれはしないけど、大人しくやられる訳にはいかない。できるだけ抗わせてもらうぞこんちくしょう……ッ!
「ッ……!?」
と。ヤケクソで力む俺に、オヤブンたちは息を呑むように退く態度を見せた。
あたかも俺に『プレッシャー』を感じたかのような……
けれどそれで怖気づくオヤブンの群れではなく。
それがどうしたとばかり、気を取り直して総攻撃の兆候を示す。
くっ……来やがれ――!
「オノノクス! ドラゴンクロー!」
幼くも力強い声に合わせて、
横からオノノクスが鋭い爪撃を群れに揮った!
「グワッ!?」
思わぬ襲撃を受けた群れは狼狽を露わとする。
そこに畳みかけるようにして、オノンドとクリムガンもやって来て攻撃を仕掛けた。
「わっわっわっわ!」「ブワッフア!」
堪らず各々のオヤブンが号令を出し、それぞれの群れがその場から飛び去る。
「――ヒュラ! 大丈夫!?」
危機が去った場に、アイリスが駆け付けてくる。
俺を見やる目に涙を浮かばせて。
「ごめんね、危ない目に遭ってたのに気付いてあげられなくて……!」
自分に非があるように言うアイリス。
だが、もちろんそれは誤りだ。これは思い上がった俺がしでかした結果なんだから。
助けてくれた手持ち仲間――オノノクス、クリムガン、オノンド姐さんはそれを察しているようで「世話をかけさせるな」と窘めている風。
「ヒュラぁ」
俺はそれを受け止め、アイリスにも申し訳なさげに弱く鳴き返す。
ああ、くそ――情けねえなあ。
何が伝説のポケモンか。不甲斐ないにもほどがあるだろう。
こんな子供を泣かせるようじゃ、まだまだ強くなったと言えやしない。
もっと強くなろう。
アイリスに心配させずに、傍で守れるくらい強く。
最強になるより先に目指すべき目標だ。
そう決意を新たにして。
瀕死ギリギリ状態の俺はポケモンセンターに連れていかれるのであった――
そんなこともあって。
日々のポケモンライフを送っている
一方、遠く離れた場所にて。
待ち望まれていた物語は、既に始まっていた。
「――トウコ、ストップ!」
サンヨウシティからシッポウシティ方面へと出る3番道路。
そこを通り過ぎようとしていた少女の背後に、呼び止める声が投げ掛けられる。
「チェレン? どうしたの」
名を呼ばれた少女――トウコが振り返ると、ちょうど駆け寄ってくる幼なじみの少年の姿を認めた。
メガネをかけた理知的な印象の少年――チェレンがトウコと対面する。
「サンヨウジムを突破したんだろう? トライバッジを持つ者同士、どちらが強いか確かめるよ」
曲がることを知らないような真っすぐさで、チェレンは勝負を持ちかけてきた。
チェレンの言う通り、トウコはサンヨウシティのポケモンジムに挑戦し、ジムリーダーに勝利している。その証であるトライバッジはバッジケースの一つ目として輝きを放っていた。
それを承知で、同じくバッジを獲得したチェレンは腕試ししようと言うのだ。
「……うん、いいよ! その勝負受けて立った!」
挑まれた以上は望むところと、トウコは好戦的に笑う。
「それじゃあ始めよう。行け! ミジュマル!」
「やるよ、ポカブ!」
旅立ったばかりの少女と少年たち。
一回ヒュラを上げて落としたかったのと、最後のをやりたかった前回合わせた二話でした。ニュアンスだけでも伝わってたら幸い。
トウコなのは完全に好みから。
次回、ヒウンの原作イベント回。
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