史上最強のドラゴンポケモンになったけど弱すぎるので竜の心を知る娘に養われます 作:秋塚翔
それはそれとして引き続き進行します。
「いってきまーす!」
元気いっぱいの声が上がる。
空の青さに負けないほど晴れやかなそれは、まるで楽しい遠足に行く子供のよう。
「気を付けて行くんだよ。アーティやアロエに会ったらよろしく伝えてくれ」
「はーい! 任せて!」
見送りをするシャガにこれまた元気よく応えるアイリス。
ほんと孫と祖父してるなーこの二人。初めて知ったのはアニポケだったから、実はアイリスの性格も含めてけっこう驚きの関係性だったり。そのギャップが推せる。実の孫が見たらどう思うかは気になるところだ。
「じゃあヒュラ、行こっか!」
「ヒュララ」
挨拶もそこそこにして、アイリスは俺を伴って街の外へと歩みを進める。なんか最初の頃の名残でボールから出るのが定番化した俺はその足許をついていく。
気分はサトシのピカチュウだ。キュッキュレムゥ! …………正直すまんかった。
今日はかねてよりの出掛ける日。
少し遠出をして色んなところを見て回る、シャガ曰く一つの勉強でもある。
まあ日頃トレーニングばかりだから息抜きさせたいってのもあるんだろうけど。マジで孫の健やかな成長見守るお祖父ちゃんやんけ。
なんにせよ、俺は密かにこの時を楽しみにしていた。
これからまっすぐ目指すのはヒウンシティ。
そう。とうとう原作イベントが始まったのだ……!
ヒウンシティ――
高層のビル群が建ち並ぶビジネス都市。
イッシュの中心的な大きな街だ。
「うわーっ、おっきい街! ソウリュウとは全然違う!」
あ、大きいのはもう言ったんだけど……まあいいや。事実そうだし。
いやあ、実際に見ると圧巻されるビルの群れだ。まさに都会って感じだな。前世でもこういう都会の景色は見たことあるが、今世ではこの方ソウリュウシティにいたのもあってお上りさんの心境になれる。ヒウンに来たっていう感動も味わえるしな。
ちなみに、ここまではバスで来ている。交通インフラ便利。
「うーん、ヒウンアイスって何処に売ってるかな? あ、その前にヒウンジムに挨拶しに行った方がいい? でもでも、ここのバトルカンパニーってところも気になるなあ……!」
と、案内板とにらめっこしながらあっちこっち目移りして悩むアイリス。実に子供らしくて微笑ましい。楽しそうでなによりである。
それよりも、だ。
俺としてはここに着いたことで他に関心が向いている。
BWをプレイしていれば覚えのあるイベント。
アイリスのポケモンとなった身では外せなかろうとある出来事。
俺の予想が合っていれば今日この時に起こりそうなものだが果たして――
「あぁっ、ムンちゃん! ――か、返してぇ!」
悲痛な声が届く。
驚くアイリスと一緒に見やると、突堤の方から駆け足でやって来る一団が目に留まった。
「いけねえ! そろそろ戻らないとゲーチス様にお叱りを受けるぞ!」
「たかがポケモン一匹にしつこく絡んできやがって!」
「でももう少し奪えそうだったわよねえ……」
「とにかく早いとこ集合するぞ!」
それは紛うことなきプラズマ団のしたっぱ連中。
急いでいる様子で走り去っていくのが見えた。
「! あれって……!」
以前にポケモンを奪ったしたっぱ団員(と見知らぬ幹部級らしき少女)と出くわしたことのあるアイリスは、その揃いの恰好に何かしら察知し、その後を必死に追おうとする。
だが、人通りの多いヒウンの街並みで、土地勘のないアイリスが捕まえようとしたのも束の間、連中は人混みに紛れてしまい行方を見失う。
「っむう……!」
小さく頬を膨らませ、アイリスは悔しさを表す。
しかし、すぐ気を取り直して。
「あの人たちが出てった場所に行こう!」
俺にそう言って素早い足取りでさっきあの連中が出てきた突堤へと向かった。
それに俺も続くのだが。できればちょっとペース落としてくれん? こっち前傾姿勢の体格だからそんなハイテンポで動き回れんのだが……
でもなんとかその突堤に辿り着く。
看板に記される名称は――プライムピア。
そこに、見覚えのある少女が涙目で途方に暮れていた。
「だいじょーぶ!?」
「あ……う、うん、あたしは平気。でも、ムンちゃんが……!」
アイリスが問いかけると、ベレー帽にロングスカート姿の少女は困惑気味に答える。
おお、間違いない。ベルだ。
言わずと知れる主人公やチェレンと一緒に旅に出た女の子。原作における主要キャラの一人だ。
「ムンちゃん?」
「えぇと、あたしのポケモンで……いきなりプラズマ団って名乗る人たちに寄越せって迫られて、イヤだったのに無理やり盗られちゃって……!」
感情を抑えるようにしてベルは経緯を話す。
もはや言うまでもないだろうが。ここでベルがプラズマ団に
「またあの人たち! 許せない!」
事情を把握したアイリス。まずはライブキャスターでヒウンジムに連絡する。
そうしてしばし待ち。二人の人物が駆け付けてきた。
「――アイリス、話は分かったよ。で、ちょうどジムに挑戦に来た彼女の友だちも連れてきた」
一人はヒウンジムリーダーのアーティで、
「ベル、大丈夫?」
「トウコ……どうしよう。あたしのムンナ……プラズマ団に盗られちゃったあ」
もう一人はキャップを被った活発そうな少女――トウコだった。
おおっ、女主人公の方か! なんだか嬉しい!
「あたしね、おねーちゃんの悲鳴を聞いて必死に追いかけたんだよ! ……でもこの街大きいし、人ばかりで見失っちゃったの」
「アイリス……君はできることをしたんだから」
「……でもダメだもん! 人のポケモンを盗っちゃダメなんだよ!! ポケモンと人は一緒にいるのがステキなんだもん! お互いないものを出し合って支え合うのが一番だもん!」
俺の感激は置いといて。アイリスが体を跳ねさせながら感情的にそう訴えかける。
それは俺も同感。ポケモンとしても、あの連中の横暴ぶりは見過ごせん。
「うん! だからボクたちがポケモンを取り返す。ね、トウコさん」
「もちろん。ベルを泣かせたあいつらを許してはおけないよ」
「トウコぉ……」
目に怒りを灯した様子のトウコ。かなり心強い。さすが目力で知られるBW主人公の片割れ。
だからって訳じゃないが俺のプレイ時はトウコ選んだんよなあ。強い女の子はいいぞ。
とか思っていると。街の方から一人のしたっぱ団員が揚々とやって来る。
女の団員はアーティの姿を認めると急に慌て出す。
「なんでジムリーダーがいるの!? せっかく上手く行ったからもう一匹奪おうとしたのに……!」
そして一目散に逃げていく。お決まりのような動向。
いつぞやか10番道路でお仲間が先にやってたが……一度上手く行ったからってまた騒ぎ起こした現場に戻ってくるとか短絡的すぎるだろ。大義で思考回路溶けてんのか。
「トウコさん、行くよ! アイリス! 君はその子の傍にいて」
逃げていった
「あたしベルおねーちゃんのボディーガードをしてる!」
アイリスは、自分のポケモンをなすすべなく奪われてしまい意気消沈するベルに寄り添うようにしてトウコにそう投げ掛ける。だから悪いヤツを追いかけて、と。
「うん。絶対取り返してくるからね」
トウコも頼もしくそう応え、アーティに続く形でプライムピアを後にした。
「……ごめんね、ムンナ。トレーナーなのに守ってあげられなくて……あたし……」
「ベルおねーちゃん……」
自身を責めるように落ち込むベルをアイリスが慰める。
むぅ。原作の通りとはいえ、いい気分にはなれないところなんだよな、ここ。この前にあたる夢の跡地イベントでもそうだが、妙に心を痛めつけてくるシーンというか。面白くない場面だ。
だからこそプラズマ団に敵対するに足る理由になるんだが。あの野郎ども……
さて。じきに俺たちも動くことになるだろう。そのための連絡待ちだ。
この後の流れは知ってるが、それはそれ。
せっかくだし、ゲーチスのツラは一度拝ませてもらうとしようか。
第一話後書きでも言ったように、アニポケからBW入門した身なので、このヒウンでのイベントで初めて出会うことになる原作アイリスには驚いたものです。そしてギャップにやられた今がある。ある意味印象的な原作イベントってことで。
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