デンレゼ過激派転生者   作:翁。弁当

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レゼ編は3回しか見てないニワカです。対戦よろしくお願いします。


前振り
銃、孤児院、生姜焼き


 この世界がチェンソーマンの世界であることは、生まれてすぐに分かった。

 まず、第二次世界大戦が始まっている年代にも拘わらず行われていない状態な上、ソ連が存続している時点で『おや?』って感じだった。

 そこになんちゃらの悪魔だのデビルハンターだのの話題を耳にすれば嫌でも気が付くというものだ。

 

 今世の家族は、前世を自覚するよりも先に銃の悪魔に殺されたらしい。

 

 とはいえ、銃の悪魔の被害は甚大過ぎたので、その後のモラルハザードに伴う二次被害的な死亡者も銃の悪魔によるものとカウントされているし、実際の下手人が誰かは曖昧だ。

 しかし銃の悪魔が全ての主犯であると、10も数えぬ子供へとつとつと説教する施設職員の様は、まるで宣教師の様に盲目的に見えた。

 

 よくある話と言ってしまえばそれまでだ。

 防衛本能としての意識的誤解。

 

 しかしそれに対して共感するには、俺は死を経験していて、家族への情も碌に湧いていない。

 そうした恐怖や怨恨を煽る様な言葉を連ねられたところで、ピンと来ないというのが本音だった。

 

 子供の体というのは敏感なもので、そうした俺の感情を隠し通すことは出来ず、施設職員もまたそうした機微を悟って、俺からゆっくりと距離を取った。

 

 さて、こうなると俺としては孤立する一方である。

 少し考えてみれば当然の話で、孤児ばかりが集まった環境で数少ない権力者である大人から敬遠されているというだけで、他の子どもが俺を敬遠するのは社会性動物の本能と言える。

 当の俺にしても、子供の輪の中に入っていけるだけの社交性も、またそうしたい熱量も持ち合わせていなかったのだから。

 

 6人部屋の寝室で眠り、食堂の端で飯を食い、共用スペースの隅で寄付された中古の本に目を通す。

 

 それが俺の、施設での暮らしだった。

 

◆◇◆◇

 

 どうも世の中には『寄付』と『リユース』を履き違えている人間が結構いるらしい。

 

 本棚に置いてあったドストエフスキーの『罪と罰』を流し読みしながら、そんなことを考える。

 

 この施設は大体15歳ごろには独り立ちする制度であり、施設にいる人間は職員を除いて思春期以前の人間ばかりだ。

 そんな人格形成期の只中にある子供に対して、ロシア文学特有のニヒリズムを過剰摂取させることがどれだけ有害であるかぐらい、良識を持った大人であれば分かりそうなものだが。

 

 いやしかし、原作を見る限りでは良識的な大人なんて全然いなかったし、案外これぐらいがスタンダードなのかもしれない。

 

「うぶ」

 

 大人に対する不敬という罪に対する罰なのか、俺の顔面に謎のモフモフした毛玉がぶつかってくる。

 慌ててその毛玉を引っぺがすと、そこにはなかなか美麗な長毛種の猫がいた。

 

「にあ」

「ねこですか……よろしくお願いします」

 

 なんとなく、敬語でそんな断りを入れてみる。

 

 しかしこの毛玉は一体どこからやって来たのだろうか?

 確か、ここの施設にペットの類はいないはずだが。

 

 周囲を見回してみると、なるほど異物感マシマシの子が一人いた。

 

 その子は長く真っ直ぐな黒髪が印象的な女の子で、恐らくはこちらに向かっていたのだろうが、或いは寝落ちしてしまったのかもしれない。

 なぜなら、今の俺から見える姿はつむじを中心とした頭頂部が主であり、少女は完全にうつぶせで寝転がっていたからだ。

 

 繰り返して言うが、ここは共用スペースである。

 眠るのであれば眠る為の寝室が存在するのだから、そちらで眠れば良い。他に多くの子供が居て騒がしいここで眠る理由は全く分からないが、何をしているのだろうか?

 

「っ……たぁ~……」

 

 少女が声を上げた。

 どうやら眠っていたわけではないらしい。

 

「おーい、大丈夫かい?」

 

 抱きかかえた猫の手で綺麗な髪をてしてしと叩く。

 がばっと起き上がった顔は少し赤くなっていて、やはりコケて顔を打ったのだろうと推測できる。

 

 顔立ちは中々に美しいのだが、何と言うか生気や活力を感じさせない。

 血の気が無い、というわけではないのがなんだか不気味な少女だった。

 

「あっ……クラムボン」

「この猫の名前?」

「うん……」

「へぇ、クラムボンね……」

 

 猫……もとい、クラムボンと目線を合わせる。

 

「にゃあ」

「……やっぱり、かぷかぷとは笑わないぞ?」

「なにそれ、宮沢賢治?」

 

 少女はそこで少しだけ笑顔になった。

 笑うと整った顔立ちがさらに映える。

 

「残念、俺は宮沢賢治じゃなくて種ヶ島譲司(たねがしま じょうじ)だ」

「私は三鷹アサ」

「にゃあ」

 

 アサに渡そうとしたクラムボンが全然離れてくれない。

 

「あっ」

 

 世の中には『寄付』と『リユース』をはき違えている人間がいる。

 今着ていた服もまた、そのような品だった。

 

 クラムボンの特別鋭いわけでもない爪でも、ズタズタに切り裂かれてしまうぐらいに。

 

 胸元が大きく開いた場末のホストみたいな格好になってしまって一言。

 

「俺が……何をしたっていうんだ……」

 

◆◇◆◇

 

 その日から、いつもの日常に猫と少女が加わるようになった。

 と言っても、大抵はクラムボンが謎に絡んで来て、それを追う様な形でアサと絡むようなものばかりだ。

 

 そんな猫主体の関係性であっても、やはり人間関係というのは妙薬の様で、アサの表情は少しずつ明るくなっていった。

 生来の顔立ちの良さの全てを陰鬱とした雰囲気で台無しにしていたアサだったが、少し朗らかになっただけで劇的に変わるらしく、一部の男子からチラチラと目線を向けられている。

 

 これは俺が上手い事フェードアウトすれば、アサは人気者になれるかもしれないな、などと感慨に耽っていた折。

 

「逃げなさい!」

 

 職員の悲痛な叫びの直後に、その職員がバラバラになる。

 あとからのっそりと姿を表したのは、明らかに人間でも動物でもない生命体。

 

 いわゆる、『悪魔』だ。

 

「キャアアアアアアア!!!」

 

 施設の中に居た子供は全員がパニックを起こして、蜘蛛の子を散らすように思い思いの方向へ逃げ出す。

 幸い、中庭に直通で出られる巨大な窓があったおかげで将棋倒しの様な惨劇は防がれたが、悪魔そのものは何も解決していない。

 

「アサ! 逃げるぞ!」

「うっうん!」

 

 少し呆然としていたアサを呼んで気付けをすると、一緒になって他の子どもたちと同じ様に中庭へ……。

 

「あっ」

 

 場違いなほどに軽い声。

 出したのはアサだった。

 

 振り返ると、アサが転んでいた。

 

◆◇◆◇

 

 そうだ。私はいつも、肝心な所で転ぶんだ。

 そして、事態を悪化させてしまう。

 

「アサ!」

 

 ジョージの叫びが聞こえる。足音もだ。

 

 ……ここで、『助けて』と言えればどれだけ良いだろう。

 

 私の口は自分でも驚くほど頑迷に閉ざされて、何の声も出て来ない。

 『逃げろ』なんて自己犠牲精神にあふれる言葉も、『助けて』なんてヒロイックな言葉も、何も出て来ない。

 

 だってもし、『助けて』なんて言葉にしてしまって。

 本当に助けに来てくれたら。

 

 まるで、私が危険の中に引きずり込もうとしているみたいではないか。

 

 私が何も言わずに誰かが助けに来てくれたら、それは私が望んだことではないのだから、私の所為じゃない。

 私を助けるために危険を冒して、そのまま死んでしまったとしても、私の所為じゃない。

 

 そのくせ心底助けてほしいから、『逃げろ』なんて言葉も出て来ない。

 

 結果として、私の口は閉ざされている。

 

「何やってんだ早くしろ!」

 

 ぐいと腕が引っ張られ、強制的に立ち上がらされた。

 ジョージは足が速い。だから私までは結構距離があったのに、戻ってきてくれた。

 

 そのことが本当にうれしくて……同時に、やはり事態を悪化させていた。

 

「ヂュ~~っ、ヂュ~~~~っ!!」

「なんだコイツは……悪魔、ネズミの悪魔か?」

 

 すぐそば、ほんの3m先の距離まで詰められたというのに、ジョージは焦った様な雰囲気ではない。

 先ほどまでは私が転んだだけで取り乱していたが、ここまでくればどうとでもなると言わんばかりだ。

 

 ……いや、そんなはずはない。それは私の、単なる願望。

 そのような思考をしているのであれば、きっと2人で五体満足のまま助かる、冴えたやり方に見当があるだろうから、私はそのアイデアを当てにしているだけだ。

 

 現実は、違う。

 

「アサ、逃げろ。俺が時間を稼ぐ」

 

 彼は死を覚悟して、ある意味諦めたのだ。

 自分はもう死ぬ。そのことを腹の底から理解しているから、どんな状況になっても揺らがない。

 

 どんな状況になったとしても、結局は死ぬのだから。

 

 そうして死を悟った人間の瞳を、私は知っていた。

 クラムボンを助けた私を助けるために、私の母がしていた瞳だから。

 

 私は、そこから逃げた。

 

 まるで悪魔から逃げ出したかのように見えただろう。

 しかし私が本当に逃げ出したかったのは、その瞳からだった。

 

 その『覚悟の瞳』が映す、弱く醜い自分から、私は逃げた。

 

◆◇◆◇

 

「勝ち目が薄いからって、逃げ出す理由にはならない、か……」

 

 これでも、前世では結構な漫画読みだった。

 チェンソーマンもそこそこ早い段階で手を付けたし、知る人ぞ知るって感じの作品だっていくつも知っている。

 

 その中の1つの、遅効性SFなんて呼ばれていたものに、こんなセリフがあった。

 

 頭の良さと言うか頭のおかしさで戦う主人公だったが……そういう意味では、割と似たような漫画だったのかもしれない。

 そう言えば、読者間では『頭ペンチか?』とかいう罵倒もあった。

 

「ヂュ~~~~ッ! ぢゅ~~~~っ!」

「頭チェンソーか?」

 

 鳴き声からして多分ネズミの悪魔だとは思うのだが、案外別の悪魔と言う可能性もある。

 モチーフがあるんだろうなという事はなんとなく察せることではあるのだが、ではそのモチーフが何かと聞かれるとピンと来ない。

 

「ネズミの悪魔、だとしたらヤベエな。千葉の東京にいる黒いのだってネズミの悪魔みたいなもんだし……いや、じゃあ鳴き声は『ハハッ』であるべきか」

 

 幸いなことに、この悪魔はアサを追いかけない。

 ならば、ここで自分が踏ん張るほどにアサの生存確率が上がる。

 

 だが。

 

「別に、殺してしまっても構わんのだろう?」

 

 吶喊。

 現在の年齢が6歳であろうことを加味しても、やや小さい体躯を弾丸のように前方へ打ち出す。

 

 転生者のアドバンテージとは何ぞや?

 

 この問いに対して、多くの者は『人生経験の持越し』を挙げるだろう。ゲームに例えるなら2周目……強くてニューゲームだ。

 なるほど確かにアドバンテージだ。人生とは究極的には情報戦。人生一回分の前情報がある事は大きな強みと言える。まして同じ世界の過去に転生したともなれば、株価の上下も新技術の発明も国家の浮き沈みも全て言い当てることができる。事実上、無尽蔵の富を得たに等しい。

 

 しかし俺は別のことを考えた。

 

 己の魂が違う肉体に搭載されていること……言い換えれば、前世の肉体を採点基準として、今の肉体を評価・分析できる事だ。

 そしてその2つの肉体の間にある共通項は、いうなれば『人体の原理』。

 

 そうした原理原則を体感的に知っている人間にとって、全ての『体術』はごく簡単に再現できる振り付けに過ぎない。

 

 果てしない修行の末に『理』を握り込んだ老人武術家。

 そんなキャラが前世の漫画にいたが、その境地に半ば生まれつき滞在できる。

 

 勿論、悪魔相手には大したアドバンテージではない。

 あくまでも自分の事をよく理解できるというだけの事であり、体術の習得速度が他人とは劇的に違うだけ。

 

 だが、十分。

 

 『この場から全員が逃げ出すまで』の時間を稼ぐのであれば、それだけで。

 

◆◇◆◇

 

 悪魔と戦いながら、施設をめぐる。

 避難が遅れた人間と、戦うための武器を探す為だ。

 

 後者については色々とアテがあるし、最悪無くても構わない。

 しかし前者は絶対にダメだ。徹底的に誰もいないことを確認する必要がある。

 

 悪魔が繰り出してきた攻撃を避けて、台所からかっぱらってきた包丁を何度も何度も突き刺す。

 これで倒せるとは思っていない。やられっぱなしでは攻撃が激しくなるので、そうさせない牽制のための攻撃だ。

 

「落ち着け」

 

 自分に言い聞かせる。

 勝負は一瞬。チャンスは一度。

 

 腹に抱え込んだ『切り札』を、最高のタイミングで叩き込む。

 

 だが、その瞬間は決して見られてはならない。

 自分以外の人間は勿論、警戒を徹底するなら小動物の類にもだ。

 

 その上、切り札で本当に仕留めきれるかは微妙。

 いざとなれば、更なる切り札もあるが……それはそれで、絶対に小動物の類が見逃せなくなる。何なら音だって聞かれたくない。

 

 マキマは小動物の耳を借りる。

 

 更なる切り札が見つかれば、マキマは確実に支配しに来る。

 理想を言えば、マキマを抹殺できるというタイミングまで伏せておきたい。

 

 まず、上手い事を足をもつれさせて転ぶ。

 

「うわぁ」

 

 多少棒演技でも良い。この悪魔は知能が低い。

 

 無様に床を這いずって、少しでも距離を取ろうとするが……哀れにも片足を掴まれ、口元に持って行かれる。

 より恐怖を煽る様にゆっくりと、そして大きな口が視界に入る様に。

 

 すべて、予想通り。

 

「くたばれ」

 

 悪魔の上顎にねじ込んだ『拳銃』が発砲され、無煙火薬の文字通り爆発的なエネルギーが悪魔の骨格を貫き、脳漿を蹂躙する。

 だが悪魔はこれだけでは死なない。有効打ではあるが、致命傷ではない。

 

 その力の源泉は常に『心臓』だ。

 

 心臓を破壊するまで悪魔は決して死なない……と言う訳でもないが、やはり最も重要な部位である。脳と一緒に破壊すれば、ほぼ確実に殺せる。

 悪魔の体に突き刺さった包丁を抜き取って、心臓と思しき部位に何度も突き刺し、切り開き、肉を抉り続ける。

 

 その果てでついに見つかる、脈動する肉塊。

 1秒たりとも躊躇う事なく包丁を叩き込む。

 

「チッ」

 

 が、駄目。

 

 ここまで至る為に荒っぽく使い過ぎた。刃毀れを起こし、短くなった包丁に切れ味は無く、もはや単なる鉄板でしかない。

 別の包丁を調達してきても良いが……再生されては手間だ。

 

 渋々ながら、先程の拳銃を使って今度こそ仕留める。

 

「2発、か……」

 

 完全に静止し、体毛が寝た悪魔から手を引き抜きながら呟く。

 

 この世界において、銃刀法違反は元の世界よりも遥かに厳罰化されている。

 銃の悪魔を弱体化させるために、銃の規制を徹底する事で、銃に対する恐怖を少しでも和らげようとしているのだ。

 

 銃はどこまで行っても道具でしか無く、むしろ悪魔に対する武器として英雄視される側面もあるだろうに、ただ規制して遠ざけるだけ。

 それではむしろある種の神格化が進んで恐怖が増すだけだと思うのだが、とにかくそういう事になっている。

 

 ともかく、いくら銃が強力な武器であろうとも、これを使うことには高いリスクが付き纏う訳だ。いくら小学2年生そこそこの身分であっても、能動的に銃を使ったことで銃刀法が適用される可能性はある。

 悪魔関連については超法規的措置が割と横行している節もあり、未成年だからと保護されることが無いかもしれない。主にマキマの所為で。

 

「そうじゃん。考えてみりゃ、大体全部アイツの所為じゃん……」

 

 三鷹アサが小学生ぐらいの年齢だったことを考えると、デンジが公安所属になるまでは結構時間が空いている。

 だが、現時点でもマキマはこの国に根を張り、『支配』を強めているハズだ。

 

 そして原作でデンジに起きた不幸。その大部分はマキマによってもたらされた物ばかりだ。

 というかマキマが幸福を与えて、マキマが利子付きで取り立てるというマッチポンプが、第1部のあらすじと言って良い。

 デンジだけではない。アキもパワーも天使もレゼもクァンシも、ほぼ全員がマキマの魔の手に掛かっている。

 

「あ~……改めて考えるとなんかムカついてきた……」

 

 最終的にはきっちり(しょうがやき)が当たるのだが、しかしそれまでの間にどれだけ悲惨な展開がある事か。

 

「己の生きる意味、か……」

 

 決意した。

 マキマを殺して、『取り立て』を踏み倒す。

 

 その為の力は、ある。

 

「……うん?」

「にゃあ」

 

 足元にまとわりつく感触を見れば、そこにはやはり美しい毛並みのクラムボンが身を寄せていた。

 

「なんだ? アサの所から逃げてきたのか?」

「にゃうにゃう」

 

 聞かれたか?

 マキマは下等生物の耳を借りる。その中には当然猫も含まれる。映画での描写を見る限りでは間違いない。

 

 つまり、クラムボンがマキマの耳になっている可能性は否めない。

 

 マキマがどうやって下等生物を支配し、その耳を借りるのかの機序については不明だが……レゼが『マキマが相手じゃ逃げられないか』みたいなことを言っていたあたり、その条件はかなり緩いだろう。ともすれば、人間と悪魔以外は生まれた瞬間からマキマの耳という可能性まである。

 

 どうする? 殺すか? 今すぐに。

 

「……」

 

 しばらくクラムボンとにらみ合いを続ける。

 殺気や害意が伝わったのか、どこか名残惜しそうにクラムボンが離れて行った。

 

「そうだ、それでいい」

 

 別に好き好んで殺したいわけではない。穏便に離れてくれるならそれが一番だ。

 なにより、これからはアサの方がよっぽど大変だろう。なにせ完全に自分の過失で俺を悪魔の前に引っ張りだして、挙句『ここは俺に任せて先に行け!』をやられたのだ。精神的な負荷は計り知れない。

 

 俺がアサの所に帰ったらそれが一番の特効薬だろうが……俺は死んだという事にしておいた方が都合が良い。

 

 マキマを殺すことを大目標にする場合、とにかく既存の『体制』から逃れておかなければならない。その内側にいる限り、支配者であるマキマを殺すことは難しい。

 

「……」

 

 まずはこの死体だ。

 もしかしたら、のレベルではあるが、案外これからの生活に欠かせないアイテムが手に入るかもしれない。

 

 ズタボロの包丁でえっちらおっちらと解体を始める。

 

 その周囲で感じる小さな気配。

 

 ちらりとそちらを見ると、物陰からこちらを見つめるクラムボンがいた。

 何してんだと思ったが、無視無視。その内どこかに行くだろう。

 

◆◇◆◇

 

「お、あった」

 

 思いのほか簡単に見つかったそれは、弾薬の様な形をしている肉片。

 

 銃の悪魔の肉片だ。

 強力な悪魔の肉片を食らい取り込むことで、悪魔は勿論、人間も劇的に強化される。

 銃の悪魔は直近で出現した際に、自らの肉片をぶちまけながら移動した。その為、銃の悪魔の肉片は比較的ポピュラーな強化素材と言える。

 

 そして悪魔の肉片の性質として、同じ悪魔の肉片と惹かれ合う。

 

 つまり、銃の悪魔の肉片を持っておけば、同じく銃の悪魔の肉片で強化された悪魔を見つけることができる。

 これからはデビルハンターぐらいでしか生計を立てられないのだから、この探知機は食い扶持の生命線になり得る。

 

 最悪、公安に対する交渉カードにもできる。

 或いは円やドル以上に、『通貨』として使える可能性だってある。

 

 肉片をポケットに入れて、その場を立ち去る。

 

 そして追ってくる、小さな気配。

 

「……」

 

 後ろを振り返ってみると、案の定クラムボンがまだそこにいた。

 

 無視して歩く。

 まだついてくる。

 

 無視。

 ついて来る。

 

 歩く。

 ついてくる。

 

「にゃあん……」

「ああもう!」

 

 気が付くと、俺は既にクラムボンを抱き上げていた。

 

「分かった、わかったよ。降参だ……全く……後悔するぞ、甘ちゃんめ」

 

 その言葉は自分に向けて言ったものだった。

 勿論、この行動を正当化する事はいくらでもできる。監視とわかっている監視の目は、かえって好きな情報を与える事ができ、間接的に相手の動きを誘導できる的な事は言える。

 だがマキマを相手にするなら、わざわざ猫なんて増やす必要は無い。どうせそこかしこに小動物はいるし、駆除できない時点で誘導が成立しない。

 

 結局、馴染みの猫を殺すこともできない根性なしというだけの話なのだ。

 

「はぁ、向いてねぇなぁ、デビルハンター……」

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