デンレゼ過激派転生者   作:翁。弁当

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なお鬼滅は未履修


判断が早い!

「おーい、クラムボン、いるかー?」

 

 ホテルのドアを開けながら、そう呼びかける。

 部屋の奥から『にゃあん』と返事が返って来たので、今日は部屋で寝るつもりらしい。

 

「飯食ったのかなアイツ……ま、いいか。さあさ入って入って」

「お、お邪魔します」

 

 おずおずと一礼して、アサがドアを潜る。

 

 濃厚なデンレゼを摂取する絶好の機会をものの見事に逃したことを悔いていた俺は、二道で1日中項垂れていた。

 その項垂れ方が余りにもあんまりだったらしく、マスターがこうして部屋まで送る様にアサに言いつけた。

 

 まあ二道を出れば流石に切り替わってしゃっきりしたし、そもそもデビルハンターが夜道に気を付ける事とは一体って感じでもあったので、アサについては無駄足だったかもしれないが。

 

 ともあれ、なんだかんだで中学生が1人で外を歩いていたら普通に補導されそうな時間帯だったし、仮宿とはいえ家の前まで来てそのままハイサヨウナラってのも味気ない。

 

 立ってるのもなんだからここ座んなよ、お茶でも飲んで……話でもしようや……ってな具合である。

 

「うわ、いい部屋……」

「まあここ結構高いからな」

 

 ただ、価格帯と比べると若干手狭である。

 その分ペット同伴可という点で差別化を図っているホテルな訳だ。

 

「しかも綺麗にしてるし……」

「ぶっちゃけ寝る以外に使って無いからなぁ。それ以外だと……金と、武器と、あとPCぐらいか」

「あのキャットタワーは視界に入ってないの?」

「アレはクラムボンの物だから」

 

 キャットタワーの頂点には、以前にクラムボンがねだり買わせてそのまま飽きた玩具が、当てつけの様に置いてある。

 なおクラムボンのお気に入りスポットはクローゼット内の引き出しな模様。

 

「まあ適当に座ってくれや。1人部屋だが、まあ何とかなるだろう」

「うん」

 

 なんとなく、だが。

 アサが元気がないように感じた。

 

 まあ今日は二道でずっとバイトしていたわけだし、その疲れといってしまえばそれまでかもしれないが。

 

「あ、ホテルのルームサービスをお願いします。夕食Cを2人分。ドリンクはオレンジジュースとジンジャーエールで……ちゅーる?」

 

 視界の端でがばりと起き上がったクラムボンがこっちを見ている。

 暇なカレー屋の店主の様にこっちを見ている。

 

「……お願いします。清算は代引きで。ついでに今日までの料金の精算もお願いできますか?」

 

 ちょっとイレギュラーな清算だが、なにせもうずいぶん長い事居座っている。

 そろそろキャッシュを入れないとお互いに不安というものだ。チェーンのホテルではないので、結構柔軟に対応してくれる。

 

 クラムボンを探してみると、どうやらアサの膝にさっさと収まったようだ。

 

「ったく、ちゃっかりした猫だこと……」

 

 アサの正面に座るが、クラムボンは『実家のような安心感』と言わんばかりにアサの膝から動こうとしない。

 まあ確かに実家みたいなもんか。

 

「良かったの?」

「何が?」

「ご飯」

「あぁ……まあいいだろ。今から買い出しに行くわけにもいかんし」

「これぐらいの時間帯だったらたまに行くけど?」

「それ大丈夫なのか? 補導とかされない?」

「でも総菜とかの値引きがあるから」

「おん……」

 

 そう言えば、アサはどっちかといえば苦学生の類か。

 親は悪魔被害で死んだらしいし、その保険金は多分他の親族にかっぱがれた後だろうから、アサの収入の内訳は施設からの援助と奨学金を含む公的な補助金、そしてバイト代といった所。

 

 バイトが現実的では無い事まで含めると、二道のマスターが雇ってくれたのは本当に渡りに船だったのだろう。

 

 夏休みの内に出来るだけシフトを入れて貯蓄しておくつもりなのだろうが、それでも出費は少ない方が良い。

 多少攻めた時間帯に外出することになっても、食材が値引きされているなら十分つり合いが取れているのだろう。

 

「また攻めた節約生活してるな、お前……」

「ジョージには関係ないでしょ」

「いやあるわ。流石に知り合いがそのレベルで逼迫してたら助けるわ」

「知り合いが、ね……」

 

 いくらデビルハンターがイカレポンチ揃いだからって、別に義理人情が無いわけじゃない。

 復讐心だの正義感だのと言った人間性だって相応に持ち合わせている。

 

 ただ、必要に応じて切り捨てられるだけだ。

 

「つっても普通に金渡すと色々とアレな感じになっちゃうから、それ以外だな」

「アレってなに」

「詳らかに言及したくない感じの言葉」

 

 具体的にはパパ活の二世代前。

 

「そうさな……今家賃いくら?」

「今? 5万円」

「高く……も無いか」

 

 なにせ女子中学生の1人暮らし。

 これで家賃3万未満のボロアパートでは、もはや襲ってくださいと言っているようなものだ。

 変態に目を付けられて、日常的に下着を盗まれた結果、今の家賃よりランニングコストが高まる可能性まである。金では取り戻せないものまで奪われる可能性も考えれば妥当な判断だ。

 

 特にアサの場合は顔が良いので、なおさら用心するに越したことは無い。

 

 勿論まだまだセキュリティは甘いだろうし、月々の固定費として痛い金額なのだろうが、安全と出費を天秤にかけたギリギリがそこだったのだろう。

 

「じゃあさ、どっかやっすい所に引っ越して、実際は一緒にホテル暮らししないか? そうすりゃ家賃は随分と抑えられるんじゃないか?」

「……それ大丈夫なの?」

「居住実態が無いわけだから、大家から立ち退きとかの要請があったら断れなくなるぐらい? 郵便物は定期的にチェックしに行けば良いし」

「そういう意味じゃなくて」

「これ以外だと……未成年者だけで契約できる特約が認可されてて、かつ安い物件はそうそう見つからないとか?」

「そういう意味でも無くて」

「えぇ……? あぁ、確かにここ1人部屋だから、お前の荷物まで運び込むと手狭が過ぎるな。まあそれは2人部屋取り直せばいい話だろ」

「そうじゃなくて!」

 

 えぇ……?

 もう思いつかないぞ。

 

「もっとこう、感情的にさ、不味くない?」

「……あっ、男女十を数えて(しとね)を同じくせず、みたいな話?」

「聞いたことないけど多分そんな感じ!」

 

 俺も詳細に覚えてる訳じゃないけど、そんな感じか。

 

「まあアサが嫌ならやらなくてもいいけどさ」

「え?」

「え?」

 

 沈黙。

 

「……いや、私って言うか……レゼ先輩が嫌なんじゃない?」

「うん? なんでここでレゼ?」

「え?」

「え?」

 

 沈黙。

 

「……これは、あれか。何かしらのすれ違いが起きてる感じか」

「えっと、ジョージって、その……レゼ先輩の事が、好きなんじゃないの?」

「無感情といったら流石に嘘になるが、特別恋愛感情を抱いているという事は無いぞ」

「そ、そうなの? だって、今日とかあんなに……」

「ふむ?」

 

 そう言われて、ひとまず今日の自分を振り返ってみる。

 

 とはいえ今日のイベントらしいイベントといったら、デンレゼが二道から直帰してデートに行ったぐらいだろう。

 変にその現場に居合わせただけに、2人のデートをストーキングできなかったからと延々二道のカウンターで沈んでいたりもしたが、それはまあどうでもいい蛇足みたいなもんだ。

 

 ……ああ、あとデンレゼがこれからデートに行くって事を知った時は、その事実で盛大に発作を起こしながら喜び、同時にそれを見れない事実にハラワタが煮えくり返っていたな。

 

 まあ蛇足のディティールを強めてもそれぐらいだ。

 

「……なんかあったっけ?」

「嘘でしょ? アレをノーカンは流石に通らないと思うけど?」

「ンな事言われても……」

 

 分からんもんは分からん。

 

「だって、デンジとデート行くって言った時、凄い表情してたじゃん」

「そうだっけ?」

 

 確かに色々と複雑な心境だった故に、その表情は凄絶なものがあったかもしれないが……はて、そんなに表に出していただろうか?

 

 ……いや、発作という形で結構頻繁に表に出してるか。

 

「アレ絶対、好きな人が別の人とデート行くからって絶望の表情だと思ったんだけど……」

「んー……まあ、絶望の表情って所は当たらずとも遠からずって感じなんだよな」

「じゃあやっぱり」

「いや、恋愛感情が無いのはガチだぞ。まあ大なり小なり好感を抱いているのは間違いないが……そういうニュアンスじゃない」

 

 しかし、なるほど客観的に見ればそういう風にも取れる言動ではあったか。というか、むしろそういう風にしか取れない行動だ。

 恐らくそれ以前のレゼ単体に対する発作についても、加味されているのだろう。

 ますます説得力に満ちた仮説だ。

 

「えーっと……これどっから説明したらいいんだ……?」

 

 というか、どういう風に説明していけばいいのだろうか。

 

 ありのままに表現するのであれば『前世の記憶』から始まり『この世界はマンガ』とか言い始めて……現実的じゃないな。普通に病院を手配されてしまうだろう。

 つーかアサの膝上にクラムボンが居る時点で、会話がマキマに盗聴されている可能性があるじゃねーか。

 となると建前だけで説明を構築する必要がある。

 

 クソ、だから後悔するぞと言ったんだ。

 

「そうさな……実は……何て言うか……ゴホッ! エホン。フェチってわかる?……ちょっとしたフェチがあってさ……」

「まずフェチが分からないんだけど」

「んー、日本語訳すると『性癖』って所なんだろうけど……」

 

 性癖ってこの時代だと『先天的・性分的な癖』って意味で、もっと広義的なんだよな。

 変に言及するとセクハラになりそうだし、ここはこの意味で通すか。

 

「なんて言うかさぁ……ああいう、頑張って勉強したから色々と小器用に出来るんだけど、本質的には不器用な人間が、勉強とかはあんまりやってないし頭も悪いけど、本質的な所はちゃんと分かってる様な、ある意味天才肌な人間に絆される、って感じの、一連の流れ? あれに興奮する」

「……? 本とかで好きな展開って事?」

「まあそんな感じ。それを現実で見れたら嬉しい」

「で、その組み合わせがデンジとレゼ先輩って事?」

「俺はそう解釈してる」

 

 この『あくまでも自分なりの解釈である』という点を強調しておくのが大切だ。

 

 ココを履き違えて自分の解釈を押し付けると、それはもうただの厄介オタク(マキマ)である。

 自分の勝手な解釈・脚色を『これこそが正史』とか宣って株価を溶かした企業もあったし、棲み分けは大切なのだ。

 

「……いやまあ、そのフェチってのは分かったけど、あの表情の理由にはなって無くない?」

「ちょっと極端で不謹慎で悪し様な例え話だけど、絶対に見たいってテレビ番組を見逃したら落胆するじゃん」

「えぇ、なにそれ……」

「いや、俺もちょっとどうかなとは思う言い方だけど、一番分かりやすいのがそれしか思いつかないってだけだから。流石に他人様の人間関係をただのコンテンツとは思って無いから」

 

 これだけはハッキリと真実を伝えたかった。

 

「じゃあ初対面の時に発作起こしてたのは?」

「あれは普通に美人過ぎてビビった」

「えぇ……」

「お前はもう見慣れたからピンと来ないかもしれないけど、あのレベルの美人は普通に迫力があるからな?」

 

 しかも日本人離れした目鼻立ちをしているものだから尚の事だ。そもそも若いロシア人女性は美人が多い。

 一応、ソ連の中では比較的アジア寄りの顔立ちをしているスパイを選抜したのかもしれないが……ボムの心臓のことまで考えると、その辺は結構杜撰な気もする。

 

「じゃあ、本当に、レゼ先輩が好きな訳じゃない?」

「もちろん」

「そっか……そっか……」

 

 恐ろしく小さい声……俺でなきゃ聞き逃しちゃうね。

 

 声色の感じは、安心? 安堵?

 

 まあ確かに俺がレゼを好いていると、二道の人間関係が昼ドラさながらに複雑化するからな。

 せっかくありつけた職場がそうなってしまっては、アサとしても困るのだろう。

 

「そういや、結局どうする?」

「どう……?」

「いやだから、一緒に暮らすって奴」

「あっ、そう言えば元々そんな話だったっけ」

「まあ俺は基本パトロールしてるから、多分同棲って感じにはならないと思うけど……」

「新しく部屋を取るだけじゃダメなの?」

「お前それ外から突っつかれた時にどう言い訳するんだよ。同じ部屋なら中学生カップルが馬鹿やってるで片づけられるけど」

「……やっぱ、外からはカップルに見えるの?」

「そりゃそうだろ」

 

 むしろ見えなければ困る。

 

 そうする事によって、いざという時は『若気の至り』ということで諸々の問題にお目こぼしを貰おうという狙いもあるのだ。

 令和の世であればほぼ間違いなく許されないが、今はまだまだ人情と非合理の残る平成初期。起こす問題の程度を弁えれば勝算は高い。

 

 それこそ、彼氏と一緒にド短期家出、なんて典型的だ。

 

「まあ、俺はその内戸籍を復旧するつもりだから、本格稼働はその後にした方が良いかもな」

「えっそうなの?」

「あくまでも追々の話な?」

 

 決戦のタイミングはレゼ編のラスト。

 通しで10日間のレゼ編に突入してから、既に4日が経過している。

 

 若干ブレる所もあるだろうが、それを加味しても半分ぐらいの日程を消化した形だ。

 

 更に今は8月の月初。

 現実的に考えて、アサが次の家賃を支払う日よりも先にケリが付くだろう。

 

 やや不遜ながら勝利を前提に考えさせてもらうと、この時点でマキマはいなくなるわけだから、戸籍を消している理由がなくなる。

 逆に敗北した場合も、マキマが俺を運用するのは正体を突き止めてからのハズだ。その過程で、かつて消した戸籍の中に俺の名前がある事は発覚するだろう。管理の簡便さを考えると、復旧だってすると思われる。

 

 つまり、決戦の結果がどうあれ、来月には俺の戸籍は復旧する公算が高い。

 

 まあ敗北した場合は、その後アサと同棲できるような管理状態に置かれるとは思えないが……こちらは言う必要の無い事だ。

 

「だからアサが嫌じゃ無ければ、とりあえず今月末まで試しにやってみて、上手い事行きそうだったら続ける……ってのが一番丸いと思うんだが、どうだ?」

「……そりゃ、私も家賃が安くなるなら助かるけど……」

 

 節約の基本は固定費の見直し。

 セキュリティも考えなければならない家は特にデカい所だ。普通に万単位の節約になることだろう。

 それも単発ではなく、毎月の可処分所得が万単位で増えることになる。

 

 単純な貯蓄、勉強時間の確保、教材や課外活動への投資、クラスメートとの交流……可能性は無限大だ。

 

「……分かった、いいよ」

「そうか。じゃあどっかのタイミングで借り換えないとな。あと、お前の荷物も運びこむか」

 

 家具の類はまあ置きっぱなしで良いとして、着替えや勉強道具などは必要だ。

 そう言えば下着類の問題があったな。まあ気にしなければいいだけの話か。

 

 ここで、ドアをノックする音が聞こえる。

 

「お、ちょうどよく来たな」

 

 隠してある金を取り出しつつ、ドアへ向かう。

 アサには隠しどころがバレてしまったが、盗んだりはしないだろうし誤差だろ誤差。

 

◆◇◆◇

 

 夕食を済ませ、ちゅーるを餌にクラムボンを引き受けたジョージに勧められ、アサはシャワールームで入浴を始めた。

 

「……」

 

 周りを見回してみる。

 それなりに高い所、というジョージの言は正しい様で、シャワールーム1つとってもアサの家とはモノが違う。

 いやまあ、ホテルのものとアパートの物を比較するのもおかしな話ではあるのだが。

 

 お金って、ある所にはあるんだなぁ。

 

 このシャワールームと、先程垣間見えた札束を見て、アサはそんなことを考えた。

 もっとも、これは社会人と中学生の収入を比較している様なものだ。格差がある事は当然といえば当然である。

 

 なお、ジョージの稼ぎはこれでも結構セーブしている方である。

 

 デビルハンターの仕事を入れていないという意味でもあるが、倫理観を揮発させた方法でならもっと稼げるという意味だ。

 それ自体も結構めんどくさいし、普通に後始末が出来ないし、そこまでやる必要がないと思うのでやっていない。最善に拘るならやっておくべきかもしれないが。

 

 しかし恐らくは学校に行っていないジョージが、こうして立派に稼いでいるのだから、自分が学校に行っている意味とは……?

 

「あーもう、やめやめ」

 

 危うい方向に行きかけた思考を頭を振って切り替え、思いっきりシャワーを浴びる。

 なにせここはホテル。水道代を気にする必要は無いのだから、思う存分に浴びればいい。

 

 ちら、と横を見る。

 そこには大量のお湯を並々と(たた)えた浴槽があった。

 

 足を曲げないと入れない様な風呂ではない。

 腰を据え、足を延ばし、それでも背中を倒す余裕がある広い浴槽だ。

 

 ジョージからは『入り終わったら抜いて良い』と言われているが、これを入れるのに必要な水道代及び光熱費は、恐らく100円いくかどうか。

 100円といえば、もやし二袋と卵一個ぐらいだ。塩コショウで味付けすれば、それだけで一品出来てしまう。

 

 実際に払う値段が変わるわけではないにせよ、とてもじゃないが自分一人が入ったからと廃棄できるものではない。

 

「あぁ~……」

 

 そんな小難しい事を考えていても、体は正直なもので。

 熱い湯の中に体を沈めれば、全身が弛緩して溜息がまろび出る。

 

 忘我。

 

「……あれ?」

 

 どれくらい浸っていただろうか。

 恐らく5分も経っていないはずだが、冷静な意識が戻ってきてようやく思い至る。

 

「私、今……だいぶ凄い状況じゃない?」

 

 それはジョージがデビルハンターだとか、稼ぎがどうとか、同棲を提案されたとかではなく。

 

 それなり以上に親密な異性と、ホテルの同じ部屋で一泊する事が決まっていて、自分は今まさに体を清めていて、恐らくこの後はジョージも同じ様に入浴するだろう。

 

 この状況、ありのままに見れば……本やドラマで幾度となく見た『あの』状況なのでは?

 

 つまり、これから。

 

「セッ……」

 

 飲み込んだ。

 言い切りはしなかった。

 

 だが……そうしたところで、消えて無くなったりはしない。

 

 風呂の熱気で上気する以上の赤らみが、アサの頬を染め上げていく。

 熱い。こんなに熱い風呂に全身が浸かっているというのに、その全てを合わせたよりも、顔が熱い。

 

 興味は、無いと言ったら嘘になる。

 

 性欲というものを明確に感じる機会こそ無かったが、それでもやはり思春期は思春期。

 例え教室で漏れ聞こえる猥談に聴覚を集中させるぐらいことはあったし、そもそも本やドラマで幾度となく見ている時点で言い逃れは出来ない。

 

 あとは、相手がジョージという点だが。

 

「……」

 

 正直な所、アサはジョージに対して、異性としての情動を覚えたことは無い。

 

 分類としては家族……それもこれまでに幾度となくされた保護を省みれば、『兄』か『父親』あたりか。

 敢えて既存の枠組みに入れるのであれば、という話であって、実際のそれとは扱いが大分異なるが。

 

 アサはイメージする。

 

 ジョージの前で、生まれたままの姿になる。

 自分の裸体を、ジョージの両目が凝視する。

 全身をまさぐる様に、ジョージの掌が蠢く。

 

 ジョージの体が、視線が、意識が、『三鷹アサ』で一杯になる。

 

 そして……自分の”ソコ”に、ジョージの”ソレ”が……。

 

「……ハッ!!」

 

 無意識に下腹部を撫でていた動きを止めて、さっきまで繰り広げていた桃色の空想を振り払った。

 

「なに……何考えてんの、何考えてんの私! 不潔! 不謹慎! 不衛生!」

 

 などと自分を咎めてはみるものの、理性が『止めろ馬鹿』と喚くほどに、かえってその空想は根強く記憶に焼き付けられる。

 考える事を止めることは出来る。しかし考えたことを思い返すのはあまりにも容易い故に。

 

 ふと、視界の端に光を見つける。

 なんだこれはと視線を向ければ、それは恐らく髭を剃る為のものと思われるカミソリが。隣にはシェービング材も置いてある。

 

「別に、髭生えてるわけでもない癖に」

 

 デビルハンターはイカレ揃いと、ジョージはよく(うそぶ)いている。

 だが、ここまで身だしなみに気を払う人間がそんなことを言っても、説得力がないというものだ。

 

「……一応、一応ね。これはその、そう言うのじゃなくて、あくまでも身だしなみの一環だから」

 

 誰に向けるでもない言い訳をしながら、アサはシェービング材を手に取って、生えているわけでもない脇に塗り始めた。




速攻でそういう展開を連想するあたり、やっぱりデンジ君と似た者同士なんじゃないか?
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