デンレゼ過激派転生者   作:翁。弁当

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私の作品で一番評判が良かったのはR18なので初投稿です。


追記:二重投稿になっておりました。大変失礼致しました。


裏、悪友、歌

「うつべしうつべし」

 

 二道のカウンターで、1人のバカがカウンターに突っ伏していた。

 口から恐らく日本語と思しき言語を零しつつ、機械の様に時折コーヒーを口に運ぶ。

 

 これで本日3杯目である。

 

「……アサちゃん? 大丈夫?」

「右内角を攻めて脇腹を抉る様にうつべし」

「これはもう駄目かも分からんね」

 

 バカはアサだった。

 お手上げといわんばかりにコーヒーのお代わりを注ぐレゼ。

 

 レゼは先日のシフト代打の返礼として、本来今日のシフトを担当するはずだったアサの代わりにシフトに入っていた。

 モーニングの喧騒をやっつけるまではアサにも入ってもらっていたが、それ以降のアサは自由時間だ。

 

 だが、アサは二道に残って項垂れていた。

 

「もー……マスター、ちょっとアサちゃんと裏行きますね」

「分かったよ。その……がんばってね?」

 

 マスターの強引に絞り出した様な声援が、ただただ虚しく感じるレゼだった。

 

◆◇◆◇

 

「どもどもー。昼前も暑くなってきましたねぇ……あれ、マスター、今日はお一人ですか?」

「テメエに飲ますコーヒーはねえ! けーれけーれ!!」

「えぇ!? どうしたんですかマスター、キャラまで変わっちゃって!」

 

◆◇◆◇

 

 二道のバックヤード。

 今は女子更衣室として使われているその一室にて、アサとレゼは寄り添うように座っていた。

 

 なにせ元々は倉庫だった部屋だ。窓すら存在しない。

 主に掃除道具などの荷物をパーテーションで掻き分け、ロッカーをねじ込んででっち上げた更衣室である。

 

 座るだけのスペースなんてあるわけも無く、予備の椅子を1つ運び込んだらもう碌に動けない。

 その一つの椅子の上に2人で寄り添うように……否、もはや縺れ合う様に座るしかないのだった。

 

 そんな中、レゼはアサがふてくされていた理由を『私だけに』という枕詞を使いながら聞き出していた。

 

 女2人、暗闇、密着、内緒話。なにも起きないはずも無く……。

 

「うんうん、そっかそっか~。それはジョージ君が悪いね~」

「レゼせんぱ~い……」

「もー、そんなにぐりぐりしないの。それに目を擦っちゃダメだよ? 折角の可愛い顔が台無し」

「うぅ……はい……」

 

 女子更衣室には満開の百合が咲き誇っていた。

 

 レゼが聞き出した限りでは、事の顛末はこうだ。

 

 まず、レゼがデンジとデートに行った後。

 何事かにショックを受けていたジョージを、アサが家まで送ることになった。

 

 ちなみに、時系列を整理する限り、この時点でレゼはデンジとのデートから直帰していた。

 

 さて、ここでジョージの家に着いたは良いものの、この時点で結構な夜更け。警察に捕まれば補導もあり得る時刻となった。

 アサには手間をかけさせたという事でお茶しながら腰を落ち着けている間に、補導どころか犯罪被害も覚悟しなければならないところまで時間は進行。

 

 ジョージからの提案で、ルームサービスで夕食を摂り、そのまま一泊して帰る事になった。

 中学生でお泊りデートとは相当に攻めているなと感心したが、問題はここからである。

 

 レゼも揶揄できるような身の上ではないが、アサは結構な耳年増だったようで、ああ今夜『する』んだなと半ば覚悟しながら風呂を出た。

 そして、脱衣所の中から一番良さげな……つまり、セクシーなバスローブを着て、ジョージのいるベッドルームに入った。

 

 そこには、丸まったクラムボンを顔に乗せて眠るジョージがいた。

 

 肌には潤いが残り髪はやや濡れていたことから、どうやら別にある大浴場か何かで入浴を済ませ、就寝の運びと相成ったと思われる。

 窒息するんじゃないかと思ったが、翌朝クラムボンが胸元を何回も殴りつけているうちに起きた。もっと殴ってやれという念が通じたに違いないとアサは語る。

 

 本当に1から100までジョージが悪い。

 

 レゼはそう思った。

 ので。

 

「うぅ~……なんですかこれ……まるで私が……その、そういう事したかったみたいな……」

「そうだねぇ、そんなことないのにねぇ」

 

 こうして真っ赤になってしょぼくれる後輩の可愛い所は、レゼが独り占めすることにした。

 

◆◇◆◇

 

「あ? ジョージ、ここで何してんだ?」

「おぉ、デンジさんじゃあないですかへへへ」

「なんだ気色悪い」

 

 二道の前にて、昼飯を食べに来たデンジと、何故か締め出されたままの俺が合流した。

 

「いやぁ……なんかマスター怒らせちゃったみたいでさぁ……上手い事仲立ちしてくれない?」

「えぇ? なにしたんだよお前」

「それが分からないから何とかならないかなと」

「ぶん投げすぎだろ」

 

 俺もそう思う。

 

「まあでも一息は付けて多少は落ち着いたと思うし、一応客の前で大々的に声を上げたりしないと思うし、マジで一緒に入ってくれるだけで良いから」

「えぇ……?」

「頼むよ~、ホラ、仕事道具貸してあげるから」

「要らねえよ……そもそもお前の道具なんだよ」

「ナイフと銃」

「合わね~」

「これ以上なく最高の組み合わせだと思うけど……デンジは何使ってんの?」

「斧」

「斧?」

「斧」

「斧……」

 

 まあ、そうか。確かにアレは斧か。

 そう言えば、岸辺との訓練では手ごろなハンドアクスを使っていたし、そもそもそれを最初に支給されたっぽい描写もあった。

 

 仮に、ここで『チェンソー』と言われても普通はピンと来ない。

 

 まあデンジとしては、本当に日常使いしてる方を挙げただけだろうが。

 チェンソーマンというか、武器人間の変身って痛いからな……場合によっては服も破けるし、一山いくらレベルの悪魔を相手取るには色々と過剰だし。

 

「斧か……合わね~」

「だろーな」

 

 俺は総じてフィジカルにやや乏しい。パワーはまだしも、リーチが無い。

 故にリーチを補う銃と、逆にリーチを潰し切ってしまうナイフの併用である。

 

 逆に、デンジはリーチは十分でパワーはやや過剰。

 故に対応力に優れる長物の近接武器、それもパワーを生かして叩き割る斧だと言う訳だ。

 

 ちなみに『ジョージ・スマイルズ』はナイフ一本を公言しているが、これは半分ウソ。

 基本的にナイフだけで戦うが、状況に応じて銃も使う。ナイフだと許認可や税関が楽で、依頼人が呼び出しやすいのだ。

 これもまた、営業努力という奴である。

 

「……あれ? 銃って使って良いんだっけ?」

「デビルハンターが届け出をして認可された上で、ならセーフ」

 

 なおその認可はまず通らない模様。

 実際、俺も別に認可されているわけでは無いので、武器というよりはお守りとしての側面が強い。

 

 銃を使って生き延びれば、処罰を食らうだけで済むのだ。

 死ぬよりは安いと事前に割り切っておけば、いざという時の引き金も軽い。

 

「へー……そーいや、俺、こういう話すんの初めてかも」

「こういう話?」

「仕事の話」

「あぁ……公安は根暗が多いからな。特異課となれば機密も多いだろうし、そもそもデビルハンター自体が後輩を育てるって感じの業界でも無いし」

「そうなの?」

「岸部さん」

「あぁ……」

 

 実際問題、公安デビルハンターの教育が大体全部あの人の感性に依存しているのはどうかと思う。

 そりゃあそれで成果が上がっているから良いものの、そもそもの計画性と言うか、育成マニュアルみたいなものはないのか。

 

 生まれて5年そこらの組織というならまだしも、公安設立って多分戦後まで遡るだろ。知らないけど。何年前の話だよ。

 ……いや、そうか。この世界だと第二次世界大戦が無くなってるから、マジにいつできた組織なのかこれもうわかんねえな。

 

 で、その岸部はアルコールに脳をやられてると来ている。

 

 これにはデンジも思わず納得の溜息である。

 

「じゃ、そろそろ行きますか」

「あーもう、わーったよ。しゃーねーな……」

「まあ真面目になんか奢るからさ、それで許してくれたまへ」

「わかったわかった」

 

 デンジがドアを開け、その後ろに引っ付いていく形で俺も入店する。

 

 おっかなびっくりマスターの方を確認するが、マスターはいつも通りに穏やかなままだ。

 むしろ怖いわ。

 

「いらっしゃい」

「昼食いに来た……あれ、レゼは?」

「レゼちゃんなら今、アサちゃんの介抱中」

「介抱? 特に怪我も病気もしてなかったと思いますが」

「まぁ……敢えて言うなら、心の病気って所かな」

「ふーむ、イマイチ釈然としませんが……」

 

 とりあえず怒ってはいない様だった。

 じゃあ本当に何の発狂だったんださっきは。完全に別人だったぞ。

 

 悪魔でも憑いていたのか?

 

「じゃあ野郎2人でむさ苦しくやりますか」

「俺、レゼに会いに来てんだけど……」

「まあまあ。何も押すだけが恋愛の駆け引きって訳でも無し。すれ違ってもどかしいからこそ、なんて話もございまさぁな」

「そうなの?」

「人による、としか言えないけど」

「んだよソレ!」

「ハハハ、恋愛だって結局は人間関係なんだから、人それぞれに決まってるだろ?」

「おぉ、ジョージ君は良い事を言うねぇ。後は実態さえ伴えばいいんだけどね」

「マスター?」

「おっとっと」

 

 もしかしてまだ怒ってる?

 頼むから何についての怒りなのかを表明して欲しい。

 

 『察して』なんてレゼとかアサぐらいの美少女でも、ギリ地雷判定される奴だぞ。

 

「まあ、ともかく僕から言える事は何もないかな」

「にしては火力高めな罵倒が飛んできましたけど……」

「ヤジと怒号は国会の華って言うだろう?」

「この店はいつから老人ホームになったんですか」

「「HAHAHAHA」」

 

 ブラックジョークで一段落したが、この調子だとデンジが混ざって来れないので話を変えよう。

 

「じゃあマスター、俺チャーハンね」

「はいはい。デンジ君は?」

「そーだなー……」

「マジで一品奢るから、好きなの頼んでいいよ……一品な?」

「やりぃ。じゃこの、みるくれーぷ、な。あとオムライスと、シーザーサラダと……コーラ!」

「はいはい」

 

 注文を伝票に書き留めたマスターはカウンターの奥に引っ込んでいく。

 しかし、ここは喫茶店だと思うのだが、なんだって『チャーハン』なんてゴリゴリの中華料理が出てくるのだろうか。

 

「ここのチャーハンって美味いの?」

「知らね。頼んだことないし」

「そうか……純喫茶でチャーハンじゃ、期待薄だな」

「でもこの店、何頼んでもウメーぜ?」

「じゃあなんでこんなに客来ねえんだよ」

「知らね」

 

 デンジの味覚についての言及はここらで適当に切り上げる事にする。

 この手の話は学校探検の当日の昼にやって欲しい。レゼに『バカ舌』と言われてちょっと舌を出されてて欲しい。そしてそのシーンを生で鑑賞させてほしい。

 

 大丈夫だから。最近の俺は結構耐性が付いて来たから。

 今なら完璧な観葉植物になれるから。

 

 まあ観葉(する)植物はホラーだとは思うけど。

 

「そう言えば、公安って食堂とかあるの?」

「あー? 聞いたことねえな……」

「無いのか。公安のデビルハンターは一番福利厚生が充実してるって話なんだが」

「あぁ、それマキマさんも言ってた」

「誰それ」

「俺の上司」

「岸部さんじゃなくて?」

「なんてーか……俺下っ端だから、大体皆上司だよ」

「なるほど……男? 女?」

「女の人」

「へぇ、珍しいな」

「そーか?」

「デビルハンターって結局肉体労働じゃん」

「えぇ……? でも結構女もいるぜ?」

「マジか。公安っていい所だな」

「だろ? 俺もそう思う」

 

 なんだろう、デンジと話しているとドンドンIQが下がっていく気がする。

 そう言えば原作では兄貴分も妹分も憧れのお姉さん枠も居たが、対等な友人枠が居なかったな。

 

 ひとえにデンジの能力的・体質的・性格的特異性に寄るところが大きいのだろうが……倫理観が薄い点以外は結構常識的と言うか、そう逸脱した狂人という感じはしない。

 敢えて性格的な特徴を挙げるなら受動的な気質がやや強い様に思えるが、それだって一般的な範疇に収まる。

 

 戦時と平時でテンションが切り替わるのはよくある話ではあるが、岸辺が100点判定をする程のものは今の所感じない。

 ぶっちゃけ、チェンソーマンだの武器人間だののフィルターを抜きにした上で学校にでも通えば、なんだかんだで結構充実した学生生活を送れそうに思える。

 

 ……いや、それが2部の冒頭か。

 

 言っちゃあなんだが、コブ付きの状態だったのであまり参考にならないかもしれないが。

 むしろあの状態で過不足なく高校生をやれていた当たり、しれっと人気者になっているかもしれない。チェンソーマンとは無関係に、だ。

 

「民間は男ばっかだからなぁ。事務員すら男だわ」

「うげー……俺やっぱ公安でいいや」

「でも公安は悪魔との契約しないとダメなんだろ? 今は良いとしても、契約内容変えたら何を要求されるか分かったもんじゃないぞ」

「らしーな」

「らしいなって……まあ、多分言っちゃダメな奴も多いだろうから良いけど」

 

 公安におけるデンジの今の扱いってどうなんだろうか。

 ある程度自由な行動を許されているのは分かるが、未だに人権も無いのだろうか?

 

 悪魔の心臓絡みは……デンジとは無関係に超の付く機密事項だろうな。

 考えようによっては不老不死の妙薬である。マキマに独占されている現状が一番平和なのだろう。

 

 もっとも、目ぼしい武器の悪魔は大体が既に武器人間になっているので、あまり変わらないかもしれないが。

 

「はい、ジョージ君。チャーハンお待ちどおさま」

「ありがとうございます」

 

 レンゲはチャーハンと一緒に運ばれてきた。

 

「あとデンジ君のシーザーサラダとコーラね。オムライスはもう少し待ってて」

「おお」

「オムライス抜きにするとひでぇ食い合わせだな」

「なんかレゼにも同じ様な事言われたなぁ」

「マジ? どんな事? どんな状況で? 出来るだけ詳しく」

「なんだよいきなりコエーよ……」

 

 そろそろデンレゼを補給しないと死ぬぜ!

 

「一昨日にさぁ、パスタ2種類一気に頼んだんだよ」

「おお」

「そしたらレゼが、食べ合わせおかしくないかって」

「なるほど!」

「……」

「……え、続きは?」

「え、まだ要る?」

「要る」

「……えーっと……で、俺はウメーからいいじゃんって言って……その後、前にアサが着てたエプロン、レゼは着ないのかって聞いて……」

「おお! あのフリルが付いたやつだな!」

「そうそれ。で、聞いたら、レゼが『着ているところ見たいか?』って聞いてきたから、俺は見たいってすぐに答えたんだ」

「なるほど! それで!?」

「したらレゼがめっちゃ笑ってさぁ……見せてあげるって言うから、デパート行って試着してもらったんだ」

「なるほど! それが昨日のデートって訳か!」

「そういう事だぜ。その後デパートで服を選びっこしたけど、ちょっと派手過ぎるから俺の前でしか着ねえんだって」

「おぼろしゃああああああああ!!!!!」

「なんでだぁああああ!」

 

 死んだぜ!

 

◆◇◆◇

 

 デートの内容を聞けた、というのも大きかったのだが。

 むしろ、それを語るデンジの表情の方が、俺には尊かった。

 

 デートの内容を語るにあたり、デンジには順序の混乱や前提の省略など、幾らかの手落ちがあった。

 そもそもの語彙が乏しいという事もあって、その情景描写にはツッコミどころも数多くあっただろう。

 

 だが、頭を捻るのはあくまでも表現に迷う時ばかりで、日常会話はともかく、デートの内容そのものを思い出すのには苦労していなかった。

 そして、『俺の前でしか着ねえんだって』の所では、独占欲と優越感と微笑ましさが渾然一体となった、薄い笑みを浮かべていた。

 

 これだ。この表情だ。

 この表情だけで、『昨日のデートは最高に楽しかった、幸せだった』と伝わって来た。

 

 まさしく、百聞は一見に如かず。

 

「ふぅ……致命傷で済んだな」

「その言葉では済まされないからね?」

 

 盛大に倒れ込んだ俺は、マスターに壊したコップを弁償しつつ、迷惑料を上乗せしていた。

 金で解決するというのも下品な話ではあるのだが、実際問題として、金でないと解決できないものもある。それこそ、壊したコップや倒した椅子などがそうだ。

 

「じゃあ、バックヤードに掃除道具あるから、持って来て掃除してね」

「ハイ……ホントすいませんでした……」

 

◆◇◆◇

 

 時はやや遡って、女子更衣室。

 ちょうど、ジョージが倒れて大きな音を出した時。

 

「うわ、なにこれ?」

「ジョージの声、ですね」

 

 アサとレゼが1つの椅子の上で絡み合い、レゼの胸にアサが顔を埋める様な姿勢で、2人はその音を聞いていた。

 勿論、2人は同性愛者(レズビアン)ではない。ただ、状況的合理性がそうさせただけだ。

 

「なにかあったのかな」

「さぁ……ジョージはよくわからない所でよくわからない事言い出したりしますから……」

 

 アサはしみじみと語る。

 

 苦労してるんだな、とレゼは不憫に思った。

 

「……アサちゃんってさぁ、ぶっちゃけジョージ君のどこがいいの?」

「え?」

「その、こう言っていいのか分からないんだけど……正直、良さが分からないって言うか……」

「レゼ先輩がそれ言います?」

「……もしかして、バレてる?」

「結構露骨に。お客さんの、デンジ……って人ですよね?」

「そっかー……うわー……」

 

 アサのつむじに顔を押し付けて、ちょっと赤らんだ顔を隠す。

 ほんのりと香るシャンプーと、アサ自身の臭いがレゼの鼻腔をくすぐった。

 

 ガチャリ。

 

「!!」

 

 アサの視界の外で、不意の物音にレゼが諜報員の表情で音源に目をやる。

 遅れて、アサもその方向に目線を向けるが、その時にはレゼの表情は元に戻っていた。

 

「お掃除お掃除~っと」

 

 聞きなじみのある声だった。特に、アサにとっては。

 

「ジョージの声だ」

 

 アサが小さく呟く。

 

「ジョージ君? なんでバックヤードに……?」

 

 アサの小声に釣られて、レゼも囁くような声。

 

「なんか零しちゃったとかかな」

「ですかね……? でもジョージに限って……限って……」

 

 瞬間、アサの脳裏を駆け巡る、発作を起こすジョージの姿。

 

「まぁ……そうかもしれないですね……」

 

 折れた。

 

「ザラメが溶けてゲロになりそう~っとくらぁ」

 

 ジャバジャバとバケツに水を満たす様な音に紛れて、鼻歌が聞こえてくる。

 歌詞まで入って随分とご機嫌な様子。

 

「気付いてないっぽい?」

「みたい……ですね」

「でも、なんか零したって割には結構ご機嫌な感じ?」

「歌を口ずさんでるところなんて初めてですし、なんか嬉しい事でもあったんでしょうか」

「んー、それで掃除ってのもよくわからないけど……」

 

 足音を立ててバックヤードからジョージが出て行った。

 ドアも閉められ、更衣室に暗闇が戻ってくる。

 

「……行っちゃったね」

「はい……」

「ジョージ君、来てるんだね」

「……そうですね」

 

 どこが居心地が悪いかの様に体をよじるアサ。

 

「ひぁっ」

 

 暗闇に響く艶めいた声。

 

「……今のって、レゼ先輩?」

「も、もぉ~! 変な所触らないでよ!」

「す、すいません。でもその、なんていうか、凄くカワイイ声でしたよ……?」

「……そういう事言ってるんじゃないでしょ~!」

 

 アサを抱きしめて何度か体を揺するという、お仕置きにもなっていないお仕置きをする。

 しばらく続けていると楽しくなってきて、どちらからともなく、少しずつ笑いがこぼれてくる。

 

「はぁ~、もー……」

「ん、ふふっ」

「……戻ろっか」

「はい」

 

◆◇◆◇

 

 掃除をはじめとする諸々の始末が終わった頃、バックヤードからアサとレゼの2人が出てきた。

 あそこには別の空間の出入り口まであったのか。気付かなったな。

 

 さておき、2人はレゼがアサを支える様な形で寄り添っていて、その手はいわゆる恋人繋ぎで握られていた。

 

「……ふむ。なあデンジ」

「あん?」

「もうあの2人がくっついたらいいんじゃねえか?」

「急にどうしたお前」

「レゼがお前とアサで二股かける感じでさ、多分上手い事やっていけると思うんだよね」

「本当にどうしたお前」




ちなみにレゼ先輩にレズ先輩されてヒロインじゃ無くなるアサという可能性もあったことをここに白状したいと思います。
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