デンレゼ過激派転生者   作:翁。弁当

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なんかエライ伸びてると思ったらランキング入ってたのか……
ランキング入るとポイント伸びて、伸びたポイントでランキングを登る
これが格差社会って奴か


仕上げ、浴衣、号砲

「え、待ち合わせすんの?」

『うん』

 

 電話口の先にいるアサは、意見を許さない強情な感じでそう言った。

 

「どうせスタートもゴールも同じなんだから、全部一緒じゃダメなのか?」

『ダメ』

「……まあいいけど」

 

 がちゃり。がちゃがちゃ。

 

「あーっと……じゃあ駅前にあるドーナツの店の前でいいか?」

『分かった』

 

 がちゃがちゃ。

 がちゃん。がちがち。

 

『……その、何してるの?』

「あー?」

 

 手元に視線を落とす。

 

 そこには、俺の身長と同じぐらいの大きさの麻袋が、口を結ばれて置かれていた。

 中身は大量の拳銃だ。大体200丁弱って所か。勿論弾薬は満タンにしてある。揺らすたびに金属音がするのであまり動かしたくないが、これは今日中に既定の場所に設置しなくてはならないので、そう言う訳にもいかない。

 

「……まぁ、荷運び?」

『なんで疑問形なの』

「現段階では荷造りに近いから。じゃあ18時半な」

『……分かった』

 

 電話を切った。

 

「さて……行きますか」

 

 一路目指すは、日本一の電波塔。

 東京タワーだ。

 

◆◇◆◇

 

 東京タワーでの仕込みを終えた俺は、適当にパトロールして時間を潰していたが、ここで岸辺と遭遇する。

 

 これまでと同じ様に隠れ家に同行して、話を始める。

 

「いやぁ、ちょうどよかった。岸部さんには是非とも頼みたい仕事がありましてね」

「……なんだ?」

 

 岸辺が俺を見る目は随分と複雑そうだ。

 そりゃそうである。俺という存在は、公安という組織にとってある意味で不俱戴天の仇だ。

 マキマがのさばる現状よりはマシだろうが、対応し得る存在が居ないという意味では、マキマ亡き後に俺が生きているのも都合が悪いだろう。

 

 だが、マキマがのさばる現状よりはマシにはなるのだから、色々飲み込んで俺にオールインするだけの腹を決めざるを得ない。

 

 当然誰にも相談できるわけがない話題である。きっと酒の量がさぞかし増えたことだろう。

 かわいそ。

 

「明日の昼、『二道』という名前の喫茶店から見て、右前側のビルの屋上に、ネズミ一匹と天使の悪魔が来ます。合図を聞いたら、両方無力化してください」

「ネズミは分かるが……天使? 公安を裏切れ、と?」

「無力化、ですよ。殺せなんて言ってません。死角から忍び寄って後頭部に一撃……それで十分です」

「……合図は?」

「銃声です」

「それだけか?」

「はい。それだけで、後は離脱してくれて構いません。その時に天使を連れて行くのも放置しておくのもご自由に」

「……分かった」

「後は、私がマキマを殺します。失敗しても、貴方の立場はそこまで大きく揺らがないでしょうから、安心して今走らせている手段を続けてください」

「……」

 

 岸辺は何も言わない。

 というより、何を言うべきか考え込んでいるように思える。

 

「何も無いなら、もう帰りますよ? これからデートなので」

「一世一代の大勝負を前に、デートとはな……」

「えぇ、遊びを欠かしちゃあいけませんからね」

「はっ……なぁ、勝率はどんなもんだと踏んでる?」

 

 勝率、か。

 

「ふむ……マキマの力の恐ろしい所は拡張性です。悪魔や契約者を支配する度に、その力は多様に枝葉を茂らせる。故に、その全貌を詳細に見通すことが不可能なので、確実な数字は言えませんが……」

 

 しばらく考えて。

 

「しかしながら、こちらも色々と準備をしていますからね。オマケして8割って所でしょう」

「……十分だ」

「でしょうね。いくら好機とはいえ、これぐらいの勝率じゃないとそもそも決行しませんよ」

「まぁ、そりゃそうだな……実の所、俺が別で進めてる計画は、どう甘く見積もっても4割って所でな……特に、攻撃を押し付ける契約の実在を前提に置くと0%だ」

「実際、あれは反則的な防御策ですからねぇ」

 

 だからこそ、こっちもちゃぶ台返しの様な真似をする必要があるわけだ。

 

「これでお前の作戦が上手くいってくれれば……まあ、プラスマイナスで酒の量は減って、長生きできそうだ」

「……もしかして、激励してます?」

「そんなところだ」

 

 そりゃまた、不器用と言うかなんというか……。

 

「ま、精々長生きしてくださいよ……アンタが死ぬと、デビルハンターの仕事が増えちまう」

「仕事があるのは良い事だろ」

「時代遅れのロートルめ、今はワークライフバランスが大切なんだぜ?」

 

 そんな軽口を言って、岸辺とわかれた。

 

◆◇◆◇

 

「後は……もう無いか……?」

 

 そんなことを呟きながら、程良い時間帯になったので、ドーナツ屋へ向かう。

 歩きながら周りの通行人たちを見てみれば、存外に浴衣を着た人間はちらほらと居る感じで、祭りへの期待感は道中から膨らむかのようだった。

 

「案外、形から入る奴もいるもんだなぁ」

 

 待ち合わせ場所に到着して、人通りを眺めて時間を潰すこと10分。

 一応、これでも20分前に来たのだが、アサは10分前の今に来た。

 

「お待たせ」

「いや、待ってないよ」

 

 儀礼的ですらあるやり取りを済ませてアサを見る。

 

 なんと、アサは水色を下地にして紫色の飾りが入り混じる、涼やかな浴衣を着ていたのだ。

 履物まで草履に足袋と本格的な装いだ。

 

「おいおい、元々の素材が良いのは知ってたが、ここまで化けるとは思わなかった。凄く綺麗だぞ、アサ。伝統的でともすれば堅苦しい装いだが、露出ばかりが女の華じゃあないと全人類が啓蒙を得てしまうだろうな」

「なにそれ、大袈裟すぎ」

「そうか? ああ、確かに全人類だと女性も入ってしまうか」

「そういう事じゃないんだけど……ま、いいか」

 

 アサと連れ立って歩き始める。

 流石に少し歩きづらいだろうから、歩調は普段よりも更に緩く。

 

 正直こんな服装で来るなんて予想だにしていなかったが、いつも携行しているカバンには簡単な治療キットが入っている。

 コケたり靴擦れを起こしたりしても、最低限は対応可能だ。

 

「ていうか、その浴衣どうしたんだ?」

「その、マスターがお金くれたの。買っておいでって」

「……なんでまた? 給金とは別って事だよな?」

「うん。聞いたんだけど、レゼ先輩には『人が来なくて花火が良く見えるマル秘スポット』を教えたから、アサちゃんには何も無しってのは不公平って言ってた」

「なるほど?」

 

 これは、恐らくマスターなりの後押し、という事か。

 

 現時点でほぼ熟年夫婦に近い関係性の俺たちと、今まさに流動的に距離感を計り続けているデンレゼでは、『告白の場』が持つ価値には天と地の差がある。

 俺たちは最悪その辺の道とかでしれっと告白できるが、あの2人はある程度ロマンチックなシチュエーションが欲しいだろう。

 

 人が来なくて花火が良く見えるというのは、告白を考えればまさに絶好のシチュエーション。

 

 あくまでもレゼアサの2人は公平に扱いたい。

 しかしマル秘スポットは1つだけで、そこに2ペアを入れてしまうと意味が無い。

 そこでやや下品ながら金で解決、と言う訳だ。

 

 結果として、原作の展開に収束を起こしていくのだから驚きである。

 マキマの命は違っていると良いのだが。

 

「ってことは……あの2人、今日で決めるつもりって事か」

「え? ……うわ、本当じゃん!」

 

 俺の呟きを拾ったアサが、少しの時間差を置いて気付いた。

 

「えぇ~……? 勘弁してよ……レート帯が違うってなんとなくわかるでしょ」

「すっげえ失礼で笑える」

「だって実際そうじゃん」

 

 流石、(恐らく)同レート帯の女は言う事が違うな。

 

「実際そうだとしても、だよ。お前あれだよな、『ハゲにハゲと言って何が悪いこのハゲ』派だよな」

「なにその派閥。でも実際そうなんだから良いじゃん」

「ダメだぞ。ハゲの心は防壁がツルッパゲなんだから、繊細に扱わないと」

「いや今のジョージの方が絶対に失礼だから」

 

 まあぶっちゃけ俺も同じ派閥だし。

 

 話は戻って。

 

「デンジが告白したって上手く行くわけないじゃん……」

「そうかなぁ? レゼさんの方は結構脈ありに見えたけど」

「まあレゼ先輩は優しいからね!」

 

 なんでお前がドヤ顔をするんだ。

 

「じゃあもしデンジが告白しなかったら?」

「は? レゼ先輩相手に告白しないとかそれこそありえないでしょ」

「もう俺にはお前のポジションが分からん」

 

 娘愛が強すぎて常にデッドロックを強いてくるタイプの父親みたいになってるぞ。

 

「レゼ先輩を心配してるの!」

「ホントかよ」

「だってデンジを振ったら、レゼ先輩はしばらく落ち込むでしょ! レゼ先輩は優しいから!」

「あー……あーはん? 確かに?」

 

 そうか、あの日常が続くことの前提で行くと、確かにそうなる可能性はあるか。

 

「デンジはデンジで、諦められないからまたお店来るでしょ!? そしたらめっちゃ気まずくなっちゃうじゃん!」

「まあ、それはそう」

「最悪、レゼ先輩のストーカーになる……なんてことも……」

「でもデンジって結構サッパリしてるというか、無理なもんは無理って諦めがちゃんとできると思うんだがなあ」

「何言ってんの! レゼ先輩はそんな理性で諦められる高嶺の花じゃないでしょ!」

「お前レゼさんのこと無限に肯定するじゃん」

 

 敬愛というよりは、段々と崇拝に見えてきたぞ。

 ……まあ言わんとすることは分かるがね。あんな美人と接点ができて、舞い上がらないなんて嘘ってものだ。

 

「こ、こ、こうなれば、そのマル秘スポットとやらを自力で探して……」

「やめとけやめとけ。人の恋路を邪魔する奴は馬に蹴られて死んでしまうぞ」

 

 そんな話を続けながら、俺たちは祭り会場へと歩みを進めた。

 

◆◇◆◇

 

「お~……流石東京、結構にぎやかだな」

「屋台も結構多い」

「りんご飴、フランクフルト、輪投げ、金魚すくい……食べ物もアトラクションも目白押しだな。どう回る?」

「まずはアトラクションでしょ。食べ物系は荷物増えてからでもできるし」

「了解」

 

 輪投げ。

 

「ほっ……あー、駄目だ」

「うわ、ジョージ下手」

「うるせー」

「えいっ……やった!」

 

 射的。

 

「……うし、大体わかった」

「撃っても無いのに?」

「結局は銃の調子次第さ……ほいほいほい」

「なんでそんなにボロボロ落とせるの!?」

「いやまあ、銃は本職だし……」

 

 わたあめ。

 

「さっすがお祭り価格」

「えぇ……? これ原材料はザラメでしょ?」

「まあ機材のレンタル、回転率、客単価、人件費、ショバ代とか色々織り込むとこうなるんだろうな」

「そう言えば、ザラメが溶けてゲロになりそうって何の歌?」

「……あー……まあいいか。ハニトラ仕掛けようとしたら自分が標的にホレちまった色ボケモルモットの歌」

「なんか散々じゃない?」

「事実だからしょうがない」

 

◆◇◆◇

 

 そうして回っているうちに、必然的に出会う事になった。

 

「あっ、アサちゃんとジョージ君だ!」

「おお」

 

 自動定型文みたいな反応しか返さないデンジを若干無視して、レゼに対応する。

 

「奇遇……でもないですね」

「イベントごとには乗っからないとね! うわぁ~! アサちゃん綺麗! 可愛い!」

「あ、ありがとうございます」

「ね、ね。ぎゅ~ってして良い? ぎゅ~って」

「うえぇ!? ……その、いいですよ」

「やった! ぎゅ~」

「ぎゅ、ぎゅ~」

「アサちゃんあったか~い」

 

 正面から抱き着くレゼ。

 おずおずとハグを返すアサ。

 

「美しい……これ以上の芸術作品は存在しえないでしょう」

「俺馬鹿だからよくわかねえけどよォ、ジョージってたまに変な事言うよな」

「たまにとは何だ。いつも言っとるわ」

「そっち?」

 

 全く、俺馬鹿だから構文で本当にトンチンカンなことを言う奴があるかってんだ。

 

 アサを抱きしめながら、レゼが話し出した。

 

「……あと、その、聞いて良い?」

「何か?」

「なんで膝をついてるの?」

 

 濃厚な百合と純度の高いデンレゼを短期間に摂取してしまったからだが?

 突然崩れ落ちたのは確かに俺に非があるが、むしろ明確な発作を起こさなかった分だけ成長を褒めて欲しいぐらいだ。

 

「まあ気にしないでください。ちょっと脱力しちゃっただけなんで」

「そ、そう?」

 

 ルーティーンを実行してリセットし、立ちあがる。

 流石に屋外という事もあって砂ぼこりが付いてしまった。

 

 膝を叩いて汚れを落としていると。

 

「そうだ、レゼ先輩。ここはひとつダブルデートにしませんか?」

 

 コイツ……まだ諦めてなかったのか……そんなんだから地雷女とか言われるんだぞ。

 

「……もー、駄目だよアサちゃん。せっかく男の子が勇気出してくれたんだから、正面から受け止めてあげるのが女の子の勤めじゃない」

 

 コイツ……俺をダシにして断りやがった……そんなんだから地雷女とか言われるんだぞ。

 

「ゆ、勇気……」

 

 ちらりとアサがこっちを見る。

 正直な所、その手の行動を起こすつもりは全く無いのだが、ここでデンレゼと合流すると先が読めなくなってしまう。レゼとしても、不確定要素が絡んでくると決行に差し障るだろう。

 

 俺とレゼの利害は一致している。

 

 してはいるが……んな事急に言われても困る。

 そういう準備は全くしてないんだから。

 

 まあ、ともかくデンレゼからアサを引きはがすか。

 

「ほらほら、いくら後輩だからってそんなに独り占めしたら、そっちの彼氏が拗ねてしまうぞ」

「ちょっと、彼氏ってやめてよぉ。まだそういうのじゃないって」

「おっとそうでしたか失礼失礼。『まだ』そういうのじゃないんでしたな。HAHAHA」

 

 まだ、の部分を強調しながら、パッとハグを解除したレゼからアサを受け取る。

 

 そのままアサと恋人繋ぎに移行して、この場から去るように促す。

 

「じゃ、行くか」

「え、えぇ、え……うん」

 

 アサは特に逆らうことなく、先導について来てくれた。

 

◆◇◆◇

 

 一時的に引っぺがすことは出来たものの、さてこれからどうするか。

 

「ジョージ、その……勇気って、出したの?」

「そんなガラじゃねえよ」

 

 生憎と、俺の勇気やモチベーション、リソースのほぼ全てはマキマを倒すために集約している。

 こうしたデートや雑談に興じるのは、精神を休める為の補給行動だ。

 

 そんなものにいちいち勇気など出していられない。

 

 そりゃあ普段とは違う飯屋に入るだとか、新発売の敷布団を試してみるとか、そういうレベルでの勇気を出すことはある。

 だが、いわゆる一世一代の告白なんてことはあり得ない。

 

 一世一代の大勝負は、この後に控えているのだから。

 

「敢えて何かやるとすれば……一通り全部片付いて、その後だ」

「……そう、なんだ」

「ま、無謀な男の玉砕を見物したいという下世話な心が無いといったら嘘になるが……流石に、現場は当事者だけの特権だろうさ」

「ふーん……?」

 

 アサの手を引いて、祭りの人込みを掻き分ける。

 

 花火大会の開始時刻が迫っているという事で、人が多いな。

 

「少し、人がいない方に行くか」

「うん」

 

◆◇◆◇

 

「花火見たいから……こっちじゃない?」

 

 そう言ってアサが先導するのは、山を登る形の道路だ。

 ガードレールの他には歩道も無い様な山道で、人が少なく高度が高いため、確かに花火を見るにはうってつけだろう。

 

 打ち上げ花火、上から見るか下から見るかって話だわな。

 

 もう一つの選択肢として、駅から離れる方向の選択肢もあったが、確かに人が少ないものの、会場から離れてしまうわ高度が稼げないわで余りよろしくない。

 

 正直、多分この山道の頂上あたりが『マル秘スポット』って奴なんだと思うので、あまり近付きたくはないのだが……そんなことを言ったら、逆にアサは登ろうとしそうなので、このまま気付かない事を祈るばかりである。

 

「ここらへんか?」

「うん」

「じゃあ……ちょっと道路から出ておくか。車が来たら危ないからな」

 

 ガードレールの外に出て、カバンからナイフを取り出して生い茂る草木を打ち払う。

 幸い視界は良好。花火も良く見える事だろう。

 

 適当に虫よけスプレーをバラまいて、アサの手を取りエスコートする。

 

「どうぞ、お姫様」

「本当に勇気出してないの?」

「こんな足元の悪い場所にエスコートしてるんだから、勇気出してる方だろ」

 

 ってか蒸し返すなよな、そんなの。

 

「もしかして必要に応じて他の女にも……?」

「したことは無いけど、必要に応じてならすると思う」

「……」

 

 なんでそんな戦争の悪魔みたいな目をするんだ。

 

 必要に応じてって言ってるじゃないか。必要じゃない限りはしないっつーの。

 

「ジョージってさぁ……なんで学校行ってないの?」

「また急だな。目指してる大仕事があるって言っただろ?」

「そうだけど、そうじゃなくて」

 

 要領を得ないことを言っている自覚はあるのだろう。

 考え込むアサをしばらく待つ。

 

「ジョージって……学校行ってない割に物知りじゃん」

「本を読めばいいのさ。大抵の事はそこに書いてある」

「そう。それはその通りだと思う。でも、今日レゼ先輩が言ってたんだけど」

「レゼ先輩が?」

「デンジは、漢字読めないんだって」

「……」

 

 確かに、その通りだったな。

 

「デンジは小学校にも行ってなかったから、漢字も知らないんだって」

「まぁ、小学校で習う漢字だけでも結構な数になるからな」

「でもジョージも学校に行ってない」

「そうだな」

「それでも、大体の本を読めるぐらいには漢字が分かるんでしょ?」

「あぁ」

「それって、なんか、おかしくない?」

「確かにな」

「そんな他人事みたいな……」

 

 実際、もうこの時点では探られてもさして痛くない腹だが……まあ、念には念だ。

 ちゃんと誤魔化しておくか。

 

「実の所、悪魔との契約のオマケみたいなもんでな」

「オマケ?」

「文字も分からないのであれば、やり取りが面倒すぎるって事で、中学生レベルの日本語識字能力を貰ったって事」

「……そんなことあるの?」

「悪魔との契約は、お互いが納得さえしていれば何でもいいからな。貰ったというよりは、教わったと言った方が正確かもしれんが……ともかく、その知識を元手に、更に別の知識を収集していったわけだ」

 

 アサと出会う以前の施設とかで、寺子屋よろしく手習いを教わったという事にしても良いが、それだと知識量と当時の外見年齢との差異が激し過ぎてやや不自然だ。

 俺がとんでもない天才というなら話は別だが、そんな期待をされても困る。

 

 ここはアサでは裏を取れない分野の情報で誤魔化す。

 俺はそんな契約結んでいない、という点を除けば、別に嘘も言ってないしな。

 

「その契約って、どんなの?」

「流石にそれは言えないな。アサが信用できないからって話じゃないぜ? 秘密って言うのは知る人間が少なければ少ないほど守られる物だからな。それこそ、頭の中を読み取る悪魔だっているし」

「なんでもアリじゃん、悪魔って」

「そうだよ」

 

 便乗しておく。

 

「特に強い個体となると、パッと見万能だからな」

「ふーん……強い悪魔って、例えば?」

「まず、全ての悪魔は名前を冠する。その名前が恐怖されていればいる程、悪魔の力は増す傾向が強い。例えばコーヒーの悪魔なんかが居ても、コーヒーに怖いイメージはないから、多分相当に弱いだろうな」

「傾向?」

「強さと厄介さは別だからな。あと、単純に生まれてすぐの個体は名前に関係なく弱いってのもあるし」

 

 それこそ、マキマとナユタを比べれば一目瞭然だろう。

 

「強い悪魔としては、やっぱ『銃の悪魔』かなぁ」

「……ジョージは、復讐したいとか思ってる?」

「全然? 正直両親の事とか覚えてないし、結果的にアサと会えたわけだからプラマイで言ったらプラスまであるわ」

「……ふーん」

「あ、今のオフレコな。公安のデビルハンターは結構、銃の悪魔に恨み骨髄って奴が……お」

 

 眼下の人の動きが変わった。

 アナウンスの声は聞こえないが、群衆が空を見上げている。

 

「どうしたの? ……あぁ、そろそろか」

「あぁ……『始まる』ぞ」

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