デンレゼ過激派転生者   作:翁。弁当

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逃げ上手のデビルハンター

 あとから来た民間デビルハンターの人たちに『先程まで爆発する悪魔がいたが、どこかに逃げた』とだけ通報して、俺とアサはひとまず祭り会場に戻った。

 人通りの多い場所では攻撃してこないだろう、という読みだ。相手がデンジなら盛大にやってくるかもしれないが、単なる障害物を相手にそこまで危険を冒してくるとも思い難い。

 ちょいとショートカットしたものだから、少し注目されてしまったが、まあいいだろう。

 

 しかし、アサは見るからに沈んでいて、とても祭り会場にいられるような雰囲気ではなかった。

 

 そこで適当な食事をアレコレ買い込みつつ会場を突っ切り、少し閑散としている公園まで移動する。

 全体的にやや薄暗いのがマイナスポイントだが、都合よく明るい街灯の下にあるベンチが空いていたので、座面にハンカチを敷いてアサを座らせる。

 

 うげ、今気づいたけど、この公園()()()()スポットかよ。

 どおりでこんなベンチが空いてるわけだ。

 

 アサはずっとぼーっとしていて、顔は能面の様に無表情で、血色のなさ故か生気を感じられない。

 こんな状態で一度座らせてしまった以上は、改めて立たせるのも酷というものだ。

 

 幸い、どいつもこいつもある程度『お忍び』でやっており、特別鋭敏でなければ気付きはしないだろう。

 

「アサ……アサ?」

「……」

 

 名前を呼び問いかけるが、反応はなし。

 相当に堪えているな。レゼに入れ込んでいたのは知っていたが。

 

 買い込んだ食事を脇におき、隣に座って肩を寄せる。

 そして強引に抱き寄せ、顔をこちらに向けさせて、アサと目を合わせて。

 

 その口にフランクフルトを突っ込んだ。

 

「ウボッ!? ごぶっ……」

 

 たっぷりと乗せられたマスタードがアサの口内を蹂躙し、思考の全てが辛味に支配される。

 咳き込んだので少し引き出してから、もう一回ねじ込む。

 

 そんなことを何度か続けているうちに、酸欠からアサの顔色が赤くなり、目に涙が浮かぶようになった。

 

 ようやく冷静になったアサがフランクフルトを噛み千切って、咀嚼の後に飲み込む。

 

「……何してんのいきなり!」

「元気なかったからまずは飯を食うべきかなと」

「だからって人の口に食べ物突っ込む普通!?」

「いや俺もだいぶ不作法な話だとは思ったよ? しかしそうでもしないと食べなさそうだったからさ」

 

 これは本心である。

 ただし前後させたのは遊び心である。下心ではない。

 

「そりゃ、そうかもしれないけど……今はそういう気分じゃないって言うか」

「お前が今どんな気分だろうと知ったことじゃない。とにかく飯を食え」

「えぇ……?」

 

 ここまでアサの心情を慮らない言動は、俺自身が覚えている限りでは初めてだ。

 実際、珍しい言動にアサが目を白黒させている。

 

 しかし、ここはアサの心情をある程度無視してでも、強引に何かさせるべきだ。

 

 茫然自失になってしまうほどの負の感情など、まともに向き合う事は無い。

 適当に別のタスクで埋め立てて、時間をおいて……その後で十分だ。

 

「食わんのなら強引に食わすけど、どうする?」

「分かったって……食べればいいんでしょ、食べれば」

「それでいい」

 

 フランクフルトを手渡して、俺は焼きそばを手に取って勢いよく貪る。

 マナーもへったくれも無い食べっぷりに気圧されていたアサだったが、少ししてから一口ずつ食べ始めた。

 

 アサの手が止まる度に、別の食べ物をねじ込む作業がしばらく続く。

 

「ジョージ、凄い量食べるじゃん」

「なんだかんだ言って、デビルハンターなんて結局は肉体労働だからな。それを抜きにしても食べ盛りなんだし。その点、アサは全然食わねえな」

「だから、そう言う気分じゃもがが」

 

 たこ焼きである。

 無駄に高速で回転したたこ焼きは、ジャイロ効果によって安定的な軌道を描き、アサの口へ放り込まれた。

 

「イカン、いかんぞアサ。生き物というのはまず飯を食って、きっちり眠って、それでようやくやりたいことができるようになるんだ」

「……今のはひっかけじゃない?」

「引っ掛かる方が悪い。大体、言霊って考えもあるんだ。たとえそうだとしても、ネガティブな事は口に出すもんじゃあない。少なくとも、しばらくの間はな」

 

 俺もたこ焼きを食べる。

 ふむ、6個で400円というお祭り価格だったが、それを差し引いてもあまり美味く無いな。

 この時代なら、的屋のあんちゃんはまだまだヤクザの類だと思うが……新入りなのだろうか? いや、飯炊きはそもそも新入りや役立たずの仕事か。的屋が飯炊きに入るのかは知らないが。

 

「あんま美味くねーな、これ」

「ジョージが選んだくせに」

「的屋の目利きなんかできるかよ……」

「意外、ジョージにもできない事とかあるんだ」

「当たり前だろ。お前俺の事なんだと思ってんだ」

 

 意識的にそうである様に努力はしていたが、そう何もかもを完璧にできる訳がない。

 人生経験でどうにかなる範疇と、デビルハンターの業務。この辺りにはリソースを蕩尽しているから何とかなりがちだが、それ以外は結構難しいものだ。

 

 まあ、そのように言われて悪い気はしないが。

 

「だって、ジョージが仕事してるところ始めて見たけど……すごかったから」

「あ~……まあ、なんだかんだ長いからな、この業界」

 

 デビルハンターというのは老後の心配が無い職業、というジョークがある。

 何故なら、大抵の場合は老後を迎えるよりも先に死んでしまい老後そのものがなくなるからだ。

 

 そんな業界で、まだまだ未熟な肉体を駆って5年以上も生き残っているのだ。

 一般人がその職人技(やや烏滸がましいが)を見た所で、『すごい』以上の感想など出て来ないだろう。

 

「思いっきり刺してたけど……躊躇ったりとか無いの?」

「まあ、その為の仮面って所もあるし」

「仮面……」

 

 言って見れば、これも一種のルーティーンなのだ。

 仮面を被って狭まった視界が、今のお前はジョージ・スマイルズなのだ、と暗示してくる。

 自らの精神の片隅に作り上げた別人格の仮面が、その囁きによって鎌首をもたげ、『イカレたデビルハンター』としての振る舞いを強要する。

 

 ネジが外れてない俺には、なんだかんだで必要な装備なのだ。

 

 そういう意味では、デンジやレゼの様に『戦闘に応じて変身できる』というのは非常に羨ましい話である。

 なにせ仮面が安物ゆえにすぐに壊れるし、シンボルマークになってしまったために安物以外使えないので何かと手間だ。

 

 当初は身バレを防ぐため、というのが大きかったのだが……自分の心なんて、自分では分からないものである。

 

「別に俺の専売特許って訳じゃねえぜ? 日本じゃ『能楽』つって仮面を付けて役になりきる伝統芸能があるし、仮面を被ることは別の何かになる暗示なのさ」

「……レゼ先輩も」

「おん?」

「レゼ先輩も、仮面被ってたのかな」

 

 沈んだ声でアサがそう言った。

 

「ふむ、どうだろうな……」

「……」

「……俺の経験則だが、仮面というのはそこまで万能な物じゃあない」

 

 アサが黙り込んでしまったので、とりあえず持論で場を繋ぐ。

 そして食事を中断しているので、アサの口にイカ焼きをねじ込んでおく。

 

「もががが」

「どこまで行っても仮面は仮面、仮は仮……その下にある『肉』の全てを守り、覆い隠せるほどのものじゃあない」

「ふがふが」

「だが同時に仮と断じて切り分けられるほど、『肉』との境界がハッキリしてるわけでもない。仮であるはずのそれに影響されて、自分の中のどれが本物なのか分からなくなることも多い」

 

 たとえフリであっても狂うのは止めておいた方が良い。

 そのまま箍が外れて、アッチ側から戻ってこれなくなった奴を何人も知っている。

 

 多分、それと同じだ。

 

「は、仮面被れば気狂いになって、仮面外せばまともになれるんなら、誰も苦労はしないのさ。こればっかりは、訓練したって逃れられるもんじゃあない」

「んぐ、ごくっ……はぁ~……じゃあ、ジョージは仮面じゃないって言うの?」

「いや? ある程度は仮面だっただろうな。だが、仮面被ったぐらいで敵も味方も自分までも騙せたりはしないって話だ」

「自分も……」

「仮面を被ってるかどうかなんて俺達には分からない。だから俺たちが見るべきはそこじゃない」

「じゃあ何を?」

「楽しかったか、さ」

 

 アサは疑問を整理できない様な表情のままだ。

 

「一緒に居て、一緒に話して、仕事して、遊んで、笑いあって……そんな時間がお前にとって本物だったかどうか。それだけいい」

「でも、レゼ先輩は」

「この際『レゼ』が本物か偽物かなんてのはどうでもいい。大切なのは、お前があの時間を本物にするか、偽物にするか、だけだ」

「私が決めるの?」

「他の誰が決めるんだよ……そもそも、『レゼ』が本物になるか偽物になるかだって、まだわかんねえんだから」

「……どういう事?」

「……さぁな」

 

 もしも、俺が望む通りに事が進んで。

 

 デンジと一緒に、マキマとソ連から逃げるという選択を取ったのなら。

 ”彼女”は本当に『レゼ』になる。

 

 逆に、何らかの理由でソ連に帰還するというのであれば。

 『レゼ』は単なる仮面の1つになる。

 

 俺が望むのは勿論前者だが……後者になる可能性も十分に残っている。

 

 世界はインクの染みではなく、誰かの筋書き通りに動いてもいないのだから。

 

◆◇◆◇

 

「俺が知り合う女がさぁ! 全員俺ン事殺そうしてんだけどぉ!?!?」

 

 チェンソーマンとなったデンジの悲痛な叫びが木霊する。

 なお、ここで言う『知り合う女』というのは『ある程度付き合ったりできる目が存在する女』というニュアンスなので、既に彼氏のいるアサの事は勘定に入っていない。

 

「みんなチェンソーの心臓ばっか欲しがっちゃってさぁ!! デンジーの心臓は欲しかねーのかァ、アァ!?」

 

 色々と溜まっていた所に、チェンソーマンへの変身に伴う最高にHighな気分がその叫びを助長するのだろう。

 思いっきり叫ぶデンジはどこかスッキリしていた。

 

 その叫びは聞いていられないほど悲痛だったが、正直だいぶ面白かった。

 

「私がデンジ君の事好きなのは本当だよォ?」

「え? マジ?」

 

 パァーーーーー!!!

 

「敵の言葉を聞くな! おまえはチョロ過ぎだ!」

「……ふーあぶねぇあぶねぇ。危うく騙されるところだったぜ」

「本当なんだけどなぁ」

「マジ?」

 

 パァーーーーー!!!!

 

◆◇◆◇

 

 今頃、どこかの道路で盛大にやり合っているのだろうが、少し離れた祭り会場の辺りは静かなものである。

 

 しかしそう言うとは無関係に、今いるスポットは大分危ない。

 

 アサは気付いていないが、なにせバカップルどもの発展場である。

 箍が外れた馬鹿が変な騒ぎを起こす可能性が比較的高い。

 

 と言う訳で、買い込んだ食糧を全て……大部分は俺だったが……食べきったのを機に、一旦家に帰ることにした。

 帰路でもできるだけ他愛のない話を振り続け、ちょっとネガティブな方向に行きそうだったら強引に軌道修正し、時々説教染みたことも言ってみる。

 

 ガラじゃないのは重々承知だが、放っておくとそのまま自殺しかねないほどの危うさがある。

 

 いや、自殺は流石に大袈裟か。ともかく、安易に放っておけないぐらいには、何をしでかすか分からないのは本当だ。

 嘘八百吹き込んででも、前向きになってもらわないと困る。

 

 情報の濁流でネガティブな方向への思考を妨害し続ける。

 具体的には……大体、明日まではそうするか。一晩眠れば幾らか落ち着くだろう。

 

 飯を食って寝る。これ以上のメンタルヘルスは無い。

 

「にゃあ」

 

 訂正しよう。

 飯を食って寝る、そして猫と戯れる以上のメンタルヘルスは無い。

 

 部屋から出てきたクラムボンは即座にアサにまとわりついて、抱き上げて撫でれと全身で主張していた。

 

「……」

「ハハ、やっぱりクラムボンはアサが好きだねぇ」

 

 御意のままにクラムボンを抱き上げたアサ。

 そしてアサは無言で適当なソファへ移動し、座り込んでクラムボンと戯れ始める。

 あの辺りには猫じゃらしをはじめ、色々なおもちゃもあるので、存分に楽しんでほしい。

 

 その間に、俺はルームサービスから課金アイテム(ねこのおやつ)を手配する。

 

 まだまだ夜は長い。

 

◆◇◆◇

 

「……なんか、風強くない?」

「おん? 確かにな」

 

 クラムボンがおやつを食べて満足げにアサの膝の上で寝転んでいる。

 そのクラムボンを穏やかな顔で撫でていたアサだったが、ガタガタとなる窓枠に違和感を覚えていた。

 

 実際、俺としても少なからず意外である。

 

 そりゃあ価格帯と比較して手狭ではあるものの、それでもこのホテルには高い金を払っている。

 スペースが狭いというのはまだしも、壁が薄いとか窓の立て付けが悪いという様な安普請が許される額ではない。

 

 となると、相応の異常事態が起きていると考えるべきか。

 いや、考えるも何も、大体見当はついているのだが。

 

 カーテンを開いて外を確認する。

 

「おーおー、誰だか知らんが、派手にやっとるなぁ」

 

 嘘である。

 

 案の定、台風の悪魔によるものと思われる局所的過ぎる竜巻と、散りばめられた爆炎が夜の空に垣間見える。

 あの調子でいくと、恐らくデンジとビームもどこかしらに居るのだろう。

 

「デビルハンターってこと?」

「多分な。どっちがどっちかは分からんが」

 

 つまり、爆炎の方が悪魔なのか、竜巻の方が悪魔なのか、という意味だ。

 まあ原作知識を抜きにした順当な予測で行けば、爆炎はレゼだろうから、竜巻の方がデビルハンターってことになるか。

 

 実際は、爆炎と竜巻の方が悪魔で、デビルハンターはチェンソーと鮫で戦ってるわけだが。

 

「……」

「アサ? どうした?」

「んなぁ!」

 

 クラムボンが不快気な声を上げて、アサの膝元から降りた。

 どうもアサが強くクラムボンを抱きしめたせいらしい。

 

「窓、閉めて」

「窓? だが……」

「良いから!」

 

 その言葉に従って、カーテンを閉めた。

 

 アサの顔から血の気が引いて、呼吸は早く浅い。

 少なくともただ事ではないと察し、アサの隣に座って手を握る。体温が低い。

 

 そのまましばらく待っていると、アサが少しずつ話し出した。

 

「わた、私の家……お母さんが、死んじゃった時の……」

「そうか。それが、どうした?」

「台風の、悪魔」

 

 ……あぁ、そう言えば。

 アサの家を破壊し、母親を殺したのは台風の悪魔だったな。

 

 確かその時の台風の悪魔はちょび髭を生やしていた。

 また、今あそこにいる台風の悪魔は比較的に生まれてすぐの個体だったらしく、デンジが倒せたのはその未熟さに由来する、と特典冊子のどれかに書いてあった気がする。

 

 つまり、『台風の悪魔』はアサにとって親の仇ではあるが、同時に『今の台風の悪魔』とは何の関係も無いわけだ。

 

「そうだったか……つまり、アイツがねぇ……」

 

 閉じたカーテンの方に目を向ける。

 その向こうでは未だに窓枠がガタガタと揺れ動き、隙間から極々僅かな爆炎の光が垣間見える。

 

 生まれてすぐの個体、未熟な幼生体。

 それでありながらこの力。

 

 悪魔の力は、その悪魔の冠する名前が如何に恐れられているかで決まる。

 

 台風と言えば地域を比較的選ばない災害だ。災害列島と名高い日本でも多いが、言葉が違うだけの同じ現象は世界各地で散見される。台風の悪魔は確認できるが、ハリケーンの悪魔は確認できないし、竜巻の悪魔も今の所は見たことが無い。

 そのあたりの恐怖が全て台風の悪魔に集約されているのだとしたら、そりゃあ強いに決まっている。

 

 拳銃に対する恐怖と機関銃に対する恐怖が、どちらも銃の悪魔の糧になっているあたり、普遍的概念の名前を持つ悪魔は恐怖の当たり判定が広く、強力になる傾向があるのだろう。

 

 逆に、中国で殺した『(イナゴ)の悪魔』はそこまで強くなかった。

 蝗害という1つの災害を司る悪魔だ。勿論弱いわけではなかったし、クァンシ含む複数名での合同作戦を取っての討伐だったが、目の前にいる台風の悪魔に比べれば何枚も劣る。

 恐らく、蝗害が比較的局所的な地域の農耕民族に特効の災害であり、現代であれば殺虫剤の散布などである程度は抵抗可能な災害になっているからだ。

 

 現代でも抵抗できず、場所を選ばず、複数の……言うなれば『分霊』を持つ悪魔。

 

 これがある程度成熟した後となると、一般人の親子など、文字通りに吹けば飛ぶチリのようなものだ。

 まともな戦力になれるデビルハンターだってどれだけいるやら……。

 

「ジョージ」

「どうした?」

「ジョージは……もう居なくならないよね?」

 

 ……何とも、また難しい事を聞いてくるな。

 

「まあ、出来るだけそうするつもりではあるが……」

「あるが? あるがって何?」

「前も言ったろ。『仕事の目標がある』って。とんでもなく強力な悪魔がいる。名前を出すのすら憚られるほどにな。そいつを殺せる機会がもう少しで来るわけだが……そこできっちり殺し切れるか、そもそも俺が勝てるのか、勝ったとして生き残れるのか……正直見当もつかん」

「止めないの? 止めたらいいじゃん、そんな危ない事」

「ふむ……」

 

 まあ、別に止めて何か不都合があるかと聞かれれば、ぶっちゃけ全く無い。

 現時点での極端な差異はアサぐらいのもので、言い換えれば2部まではおおよそ原作と同じ筋書きで動くだろうという事だ。

 

 つまり『マキマを絶命させる』という大目標自体は、このまま何もしないでも達成はされる。

 

 だが、俺が先んじて殺すことを決意したのは、そこに至るまでに積み重なる悲劇が多い割に、その大体がマキマの差し金であり、その事実を知っていることからくる『ふざけんなこの厄介オタクが!』という感情である。

 デンレゼの実現はあくまでも副産物であることをここに明記しておきたい。なお価値の序列。

 

 単純な死者数でいくと多分俺が動いた方が10倍は増えることになると思うが、それはそれこれはこれ。

 見ず知らずのオッサンと自分の娘の命が等価ではないように、ハッキリ言って知ったことではない。

 

 俺は俺がやりたいからこうしているだけで、その過程で生まれる俺以外にとっての不都合などどうでもいい。

 

 そして、それはアサですら例外ではない。

 

「そりゃ無理だ」

「どうして?」

「俺がそいつの事をぶっ殺したくてしゃーないから」

 

 まあ、ありのままに言えばそれだけだ。

 差し支えない範囲であれば人助けもしよう。必要なら時間も割こう。片手間で良ければ恋人や保護者の真似事だって構わない。

 だが、それはあくまでも脇道。

 

 この殺意の満願成就こそ本道。

 楽しく安穏とした暮らしをするのなら、これが終わってからで十分だ。

 

「ふうん……しの、なのに」




自分を狂人だと思ってない真性の狂人
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