デンレゼ過激派転生者   作:翁。弁当

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戦争と差別としろがね人と未来の悪魔が嫌いです
プロット0で書いているので、面白い展開を思いついても『でも未来の悪魔にこう言わせちゃったしなぁ……』ってなるからです


恋、花、銃

「お……台風は居なくなったらしいな」

「ホント?」

「間違いない。あれだけ強力な悪魔だからな」

 

 カーテンの向こう側にある窓枠は、もうガタガタと揺れてはいない。

 しかし空を叩く爆轟はいまだ健在であり、鋭敏な感覚があればビリビリと振動する空気を感じ取れる。

 

 十分前後で台風の悪魔は討伐されたらしく、その後は爆炎だけが夜空を彩っていた。

 あの爆炎の中でデンレゼがお互いの事を必死こいてぶっ殺そうとしているのだから、傍から見ているこっちとしても感無量である。

 

 殺し合い以上に『全力』のやり取りがこの世に存在するだろうか。

 こんなもん事実上のセ〇クスみたいなもんですよ実際。範馬〇次郎もそう言っている。

 

 見に行きたいなぁ、見物したいなぁ、応援歌にJANE D〇E歌いながら観戦したいなぁ。

 IRIS 〇UTは日常パートが似合うと思うんだよね。曲調で言うとこっちが戦闘BGMっぽいけど、デンレゼの関係性と曲の内容を考えると、やっぱ戦闘中はJANE D〇Eでしょ。

 

 何ならもうここから歌いたいね。

 

 流石にアサの前で歌ったら狂人だから我慢するけど……アレだ、寝かしつける子守唄の体なら上手い事行けないか?

 

「……そろそろ眠るか。台風の悪魔はどっかのデビルハンターが倒してくれたようだし」

「ジョージなら倒せた?」

「んー、五分五分って所じゃねーかな。俺は空飛べるけど、突風の中を突っ切れるかは微妙だし」

「ふーん」

「さ、寝ろ寝ろ。何なら子守唄でも歌ってやろうか?」

「まだお風呂入ってないんだけど……」

「今日は入らない方が健康的だ」

「なにそれ」

 

 実際、風呂に入るとなると俺が干渉してネガティブな思考を掣肘(せいちゅう)できない。

 風呂は命の洗濯ではあるが、手入れ(メンテナンス)修繕(レストア)の後にやることだ。

 

「寝ないんならアレだからな。もう勝手に子守唄歌うからな」

「普通に意味不明」

「嫌だったら大人しく寝ろ」

「寝るけども……」

 

 アサは既に部屋着である。

 浴衣はレンタルの奴だったが、帰りしなに返却しておいた。

 

 アサは渋々といった感じでベッドに向かい、ちゃんと布団の中に入った。

 

「ジョージ」

「うん? 子守唄か?」

「どんだけ子守唄歌いたいの」

 

 正確には子守唄にかこつけてJANE D〇Eを歌いたい。

 

「そうじゃなくて……手、握ってて」

「手? まあいいけど」

 

 布団から小さく伸ばされた手は、年齢を差し引いても華奢なものだった。

 応じて伸ばした俺の手も、やはり年齢相応に華奢なままだ。

 

 ナイフを握り、銃を撃ち、悪魔を殺したって、そうそう変わるものではない。

 

 今のままでは戦力的な不安が残る。

 レゼを自由にするためにはソ連を潰しておく必要もあるし、やはり凄まじい数の犠牲は避けられそうにないな。

 

 アサを手を握って窓を眺め、口の中でJANE D〇Eを歌いながら、俺はそんな算段を付けていた。

 

◆◇◆◇

 

「ソ連の母親が子供を叱る時にするおとぎ話がある」

 

 先日おきた、市街地での爆破テロ及び悪魔被害。

 対魔2課の訓練施設さえも標的にされ、夥しい程の被害が出た。

 

 特に、訓練施設への被害は甚大であり、まだまだこれからの人材が何人も死んでしまった。

 人手不足がさらに深刻化する。公安のデビルハンターは忙しくなるだろう。

 

「軍の弾薬庫には秘密の部屋があって、そこには親のいない子供たちでぎゅうぎゅうにあふれている。そこにいる子供たちに自由はなく外にも出られない。物の様に扱われ、死ぬまで体を実験台に使われる」

 

 語るのは岸辺。

 スキレットに入ったキツイ酒と、懐に忍ばせた煙草を交互にやりながら、淡々と語る。

 

「ただのおとぎ話のハズだったが……その秘密の部屋は本当にあったと新聞に載ったんだ。アメリカのジャーナリストが突き止めて、一時期話題になったよ。そこにいた子供たちの写真も当時公開されていたが、すぐに聞かなくなったな」

 

 紫煙を吐き出す。

 

「今回の下手人はその部屋の1人だ。ソ連が国家に尽くすために作った戦士……モルモットと呼ばれる連中だ」

「モルモット、ですか……流石と言うかなんというか……」

 

 隣に立つ岸辺の部下がそう零した。

 

「しかし目的は一体?」

「4課所属の人外の1人が付け回されていた。恐らくそいつの身柄か何かだろう」

「にしては随分と派手にやりましたね。どうもあちこちからスモークグレネードも見つかってますし、相当入念に準備してただろうに、なんでこんな力業を……」

「……確かにな」

 

◆◇◆◇

 

 レゼは道を歩いていた。

 かつてデンジに応用した服飾……否、変装の技術をいかんなく発揮し、普通の人に成りすまして。

 

 動きやすく、耳目を集めず、どこでも入手でき、いつでも破棄できる。

 そんな衣装である。頭にかぶった帽子は少し不釣り合いかもしれないが、顔と視線を隠すためには必須だった。

 

 なにせ急な動きだったものだから、デンジに選んでもらったあの服を運ぶことは出来なかった。

 殺風景なセーフハウスで唯一温もりを感じられるあの服は、ずっと壁に掛けてあった。あんなデカくてかさばるものを畳んで仕舞い込む時間など無かったのだ。

 せめて事前に畳んでおけば、とも思うが……ただの未練だ。これ以上はよそう。

 

 未練、未練か……。

 

 レゼはポケットに意識を向ける。やはりこれも未練なのだろう。

 デンジの写真だ。

 

 ちょっとかわいそうな所が一番かわいいと謎の太鼓判を押してきたジョージが切り抜いた、デンジの一瞬。

 元々野犬の様な男だったが、確かにこの写真のデンジは捨て犬の様な愛嬌がある。思い返せば舌を噛み切った時のデンジは非常に愛らしく、絶対に不必要であったキスを追加してしまったぐらいだった。

 

 レゼが自覚する。

 自分は、デンジに……或いは、デンジやアサと過ごす日々に、未練があると。

 

 おっと。

 

 警察だ。日本の警察は制服を着ているから分かりやすい。

 レゼの鋭敏な感覚が、警察からの視線を感知する。

 

 もう顔が出回っている?

 いや、いくらなんでも早すぎる。もしそうだとしたら、相当以前から監視されていたという事になってしまう。デンジについていた魔人に人相書きができる程の器用さがあるとも思えないし。

 

 ただの偶然だろうか?

 ともかく、一旦彼らの視界から逃れなくては。

 

 ちょうどすぐそばにあった募金活動に立ち寄る。

 

「悪魔被害を受けた子供たちに、募金お願いします!!」

「お願いします!!」

 

 隣の看板にはデフォルメされた台風の悪魔(もっとも、実物を見たわけではないようだが)が書かれており、昨晩の戦闘は表向きには全て台風の悪魔による被害であると公表されているらしい。

 そしてその被害を受けた人たちへの募金を募っている訳だ。

 

 ……妙じゃないか?

 

 そりゃあ台風の悪魔とレゼでは、能力の規模が違う。爆発だって言ってしまえば普遍的な現象であり、台風の悪魔による二次被害と解釈する事は可能だ。

 しかし同時に、レゼがボムの力を存分に振るったことも事実なのだ。目撃者がそれなりに多かった自覚もある。

 

 なのに、表に流れている情報が台風の悪魔だけ?

 情報統制が早すぎないか? 

 

 いくら事前に手を回していたとしても、限度がある。

 

 勿論、この募金団体が敢えて台風の悪魔だけにフォーカスしたという可能性もあるが……なんにせよ、相当にキナ臭くなってきた。

 

 早くこの国を離れなくては。

 

 幸い、今の自分には成果がある。

 日本の要注意人物、ジョージ・スマイルズの秘密。

 

 遅れた不手際と失敗の烙印を相殺する程のものではないだろうが、同時に懲罰を喰らうほどの失点からは免れるはずだ。

 

 募金箱に100円を入れる。

 二道でのバイト代は、先月分まででそこそこの額になっていて、路銀として持って来ている。今月分については完全にとりっぱぐれる形だが、そこは二道に鳴く閑古鳥と可愛い後輩、そして気になる男の子との出会いに免じて負けておくことにしよう。

 

「ありがとうございます! 募金してくださった方に、花をプレゼントしています!」

 

 花?

 レゼの疑問が結実するよりも先に、募金団体の女性が赤いガーベラを渡してくる。

 

 少し手の中でガーベラを回して、物思いにふける。

 思い出すのは、デンジと初めて出会った時の事。

 

 彼はどこからともなく……恐らくは本当に消化器系の中から花を取り出し、泣いているレゼに渡してきた。

 正直な所、得体のしれない濡れ方をしている花に戸惑う部分も大きかったが、それ以上にその性根がレゼの心に響いていた。

 

 見ず知らずの誰かが目の前で泣き出した時、咄嗟に気を遣える人間。

 強力で恐ろしいデビルハンターと聞いていた標的は、自分では思いつきもしないほどに善良で優しかった。

 

 そっか、デンジ君も募金してたんだ。

 

 気が付くと、もう新幹線の乗り口が目の前にあった。

 チケットは事前に手配していたが、いつ改札を通ったのだったか。まさかずっとこの一輪の花に夢中になっている間に、全て無意識で処理したとでもいうのだろうか。

 

 もう少し、ガーベラを揺らして香りを立てる。

 

 自分は、なぜこんな所で立ち止まっているのだろうか?

 

◆◇◆◇

 

 閑散とした二道に、ドアベルの音が鳴る。

 

「お、デンジ君。どうしたのそれ?」

 

 花束を抱えて入店してきたデンジに応対したのは、いつもとは違う声だった。

 マスターがカウンターの向こうから話しかけてきたのだ。

 

 デンジは店内を見回してから、やや気落ちしたかのような仕草をしていつものテーブルに座った。

 

「マスター、俺さぁ」

「皆まで言うな!」

「あえ?」

「プロポーズ、するんでしょ? レゼちゃんに」

「おぉ、そうだぜ。ってか、それはもうしたんだけど……」

 

 デンジが思い返すのは、一緒に逃げないかと声をかけたレゼ。

 結局その場では首を折られ、必死に二道で待ってると声を張り上げるしか無かった。

 

 とぼとぼと遠のいていくレゼの背中が、最後に見た姿だった。

 

「なるほど、駄目押しの花束とは……案外とやり手だな? デンジ」

「ジョージ、なんでいんだ?」

 

 店の奥から話しかけてきたのは、観葉植物に隠れて気付かなかったジョージだった。

 

「喫茶店に客が居ちゃ悪いかよ」

「……そりゃそうか」

「まあ、お前の気持ちもわかるよ? こっから凄絶な愛の告白をぶちかますって時に、部外者がいるのは憚られるってこったろ?」

「はば……? まあそんな感じ」

「ケケケ、そうはいくかってんだ。この閑散とした二道唯一の売りである看板娘をかっさらおうってんだ、邪魔はしこたま覚悟していてもらわないとな」

「ジャマってンだよ……お前にはアサがいんだろ?」

「それはそれ、これはこれ! ってかその歳で公安って事は、お前何かしらの形で悪魔と契約しちゃった系だろ? それで公安を足抜けするとか、普通に『悪魔との非認可契約』で犯罪者だからな?」

「……マジ?」

「大マジ。何の悪魔とどういう契約したのか知らねえけど、足抜けするんなら今の内に破棄しといた方が良いと思うぞ」

「マジか……でもポチタをどっかにやるなんて俺には出来ねえし……」

「できないんなら……まあ、いわゆる愛の逃避行を覚悟することになるな」

「それは、どうなんだ?」

「道中でのお前はほぼ役に立たんだろうな」

「ふぐぅ」

 

 デンジは自分が学が無い事、そして常識や分別に欠ける事も自覚していた。

 自覚していた、というよりは、そのように扱われることが多いので、恐らくはそうなのだろうと考えていた。

 

 普段であれば楽観的思考によって表に出て来ないが、ジョージに認識させられた『現実』という重みがその自省を浮かび上がらせていた。

 

「ん?」

 

 と、ここでデンジはある違和感に気付く。

 

「なんでジョージは俺とレゼが逃げること知ってんだ?」

 

 デンジは知識こそないが、別に頭が悪いわけではない。

 ジョージが『公安からの足抜け』を前提に話していることが、あまりにも奇妙に映ったのだ。

 

 普通に考えれば、2人とも逃げれば国家から追われる身だとは思わない。これまでの付き合いがあればなおさらだ。

 

「え!? デンジ君、レゼちゃんと逃げるの!? 愛の逃避行って奴!?」

「あーっとだな……」

 

 突如色めき立ったマスターを『クソめんどくせぇ』という視線で一瞥したジョージは、デンジの肩を組んで一緒に椅子へ沈みこむ。

 そして耳元で口を隠しながら囁いた。

 

「実はな、昨日の夜、変身したレゼを見たんだ」

「マジ?」

「勿論。悪魔だとしても魔人だとしても、姿形を自由に切り替えられるなんてのは見たことが無い。レゼが何かしら……『特別』な身の上ってことは察しが付く。少なくとも、自由恋愛なんて認められないぐらいには貴重な存在だとな」

「……そうなの?」

「普段は人間の姿で、戦闘時には悪魔になれる? いくらなんでも都合が良すぎるだろ。そんなのがある程度の数いるんなら、絶対に俺の耳に入ってくる」

「……」

 

 デンジは『実は自分もそうなんだ』と言いそうになったが、ジョージの迫真の表情を見て飲み込んだ。

 

「そんな激レア生物が『バイト先の男の子と恋に落ちたんで』なんて許されるわけがない。となると、もう逃げるしかないと、ここまで推測が立つわけだ」

「な、なるほど」

「レゼの『派遣元』がどこなのか、までは分からんが……動きを見るに軍隊系だったから、大方アメリカかソ連だろうな」

 

 その多くは、ハッキリ言ってチート知識を適当に誤魔化しているだけだったが、デンジを誤魔化すぐらいの説得力はあったのだった。

 

「さてさて……そんな愛の逃避行へ臨むデンジ君に、この俺からありがた~い手助けをしてやろうではないか」

「えあ? なんで?」

「友達だろ。手土産ぐらい渡させろってんだ」

「おお、なんか、改めて言われると照れるな」

「やめろ気色悪い」

 

 ジョージはそう言ってカバンの中から紙袋を取り出す。

 

「ほれ」

「ありがと……で、なにこれ?」

「金属探知器に引っ掛からない護身用の武器、盛岡行きの新幹線のチケット、あと現金を少々って所だな。あ、後は武器の説明書も入ってる」

「もりおか?」

「岩手県の……いや、まあ要するに、中途半端に北の方」

「ふーん?」

「王道の逃亡ルートとしては空港で海外へって所だろうが、そのあたりは臨検が厳しい。常駐してる戦力も多く、戦力動員の導線もよく練ってある。田舎に行って潜伏すれば、その討伐は特殊作戦だ。時間が掛かる」

「……よくわかんねえけど、それってどん詰まりじゃね?」

「よくわかったな。確かにこれは抜本的な解決にはならない。最終的には海外脱出が必要だ」

「やっぱり」

「だが税関を突破するにはやはり相応に準備がいる。レゼだけなら、恐らく脱出の手はずは整っているだろうが……お前パスポートも持ってないんだろ?」

「なんだそれ?」

「……まあ、正規のパスポート出したって止められるだけだろうから、どっちにせよ偽造が必要だ。人脈、資金、そして何より時間がいる。イカダ作って日本海横断、なんて馬鹿な手段を使わない限りはな」

 

 まあ、レゼは爆発で飛行できるので、自力で国境を超えられるかもしれないが。

 

 なお、恐らくイカダ作ってビームに引っ張らせるのが一番丸い。恐らくはプリンシと同じ様にマキマを呼べるか、最低でも耳になっていると思うので、越境後は切り離す必要があるが。

 

 そう言えば、デンレゼ逃亡ifの二次創作で、ビームについて処理してる奴を見た覚えがあんまりないな……とジョージは思った。

 

「……」

「どうしたデンジ」

 

 不自然に黙り込んだデンジに問いかける。

 

「なんつーか……俺って知らねーことばっかりだなって……」

「そりゃそーだろ。お前学校行ってなかったんだろ? おまけに公安で籠の鳥。知識も常識も身につくわきゃあないわな」

「んな俺と一緒に居て、レゼは大丈夫なのかな」

「こんバカチンッ!!」

「いってぇ!?」

 

 デンジの頬をひっぱたいた。

 

「大丈夫なわけねえだろッ!!」

「えぇ~!?」

「これまでの生活を全部捨てるんだぞ!? 家、金、立場、仲間、家族、仕事……全部だ!!」

 

 そう言われて、デンジの脳裏にアキとパワーの姿が、そしてマキマの顔がよぎる。

 

「レゼがこの二道に来るって事はな、それ全部よりお前の1人の方が大切だと、お前の為に全部捨てても構わないって覚悟したって事だ!!」

「覚悟……」

「女がそれだけ腹括って飛び込んできたんなら、死に物狂いで幸せにしてやるのが男の責任ってもんだろうが!!」

「ンな事言われても……わかんねえよ」

「おーけー分かったボケナスマンゴスチン。じゃあ極限まで具体化した行動を3つ教えてやるから、もしレゼがここに来たらお前は死ぬまでそれを続けろ」

「マンゴスチン……?」

 

 そこはどうでもよかったが、まあ話を聞いてくれるなら何でもいい。

 

「1、褒め言葉か愛の言葉を3日に1回は言え。2、1日1回は思いっきり抱きしめろ。3、思ったこと全部言え。以上!」

「……あえ? そんだけ?」

「とりあえずは、な。これ以外に必要なもんは、その都度自分で考えろ。言っとくけどこれマジで効くからな。夫婦円満の秘訣だから」

「どこ情報だよ……」

 

 実際、この世界の悪魔は結構ハグに弱い。

 ツン100%だった天使もハグ一発で『……まあ天使ですから』するぐらいだ。

 

「あ、後さ。お前はお前でそこそこの不義理を公安に働くわけだから、その辺の整理も付けとけよ」

「ふぎり?」

「ある意味で上司とかも裏切るわけじゃん?」

「あー……」

 

 アキはなんだかんだで面倒を見てくれるアニキみたいなものだし、パワーは何かと世話の焼ける妹の様なものだ。

 岸辺先生には戦い方を教えてもらったし、マキマさんには命を助けられた。

 

 レゼと一緒に逃げるという事は、そう言う『全部』を捨てるという事なのだ。

 デンジはある程度理解していたつもりだったが、改めて考えてみるとしんどいものである。

 

「ま、それもこれも、レゼが来なけりゃそれで終わりの話だがな……」

 

◆◇◆◇

 

 なん、で……初めて会った時に殺さなかったんだろう……。

 

 右腕と左肺を破壊され、貫いたままの槍の表面を伝い、レゼの血潮がアスファルトに広がる。

 

 レゼは、新幹線を見逃して、駅から引き返して二道に向かった。

 脳みその中から『止めろ馬鹿』と理性(モラリティ)が喚いていたが、バラバラになった頭とこの体は言うことを聞かなかった。

 

 あのカフェで待っている。

 

 デンジの言葉に、レゼは縋った。

 かつては遠回しに断られた、一緒に逃げるという告白を、今度はデンジの方からしてくれた。

 

 だから今度は私は断る番。

 なんて、思っていたのに。

 

 気が付いたら、あのカフェに向かっていた。

 

 優しいマスターが居て、可愛い後輩が居て、少し苦手な隣人も居て、そして好きな男の子もいる。

 レゼにとっての『田舎』に。

 

 二道が視界に入り、窓からデンジの背中が見え、レゼが口の中で『あ、いた』と感嘆した時。

 

 マキマが来た。

 

 変身を躊躇ったせいか、そこからは一方的だった。

 そして今、レゼの命は燃え尽きようとしている。

 

 もはや思考すら贅沢となりつつある中、レゼが思う。

 

 デンジ君、ほんとはね。

 私も学校行ったことなかったの。

 

◆◇◆◇

 

 この日。

 1995年8月15日、午後0時24分8秒。

 

 東京都江東区より。

 

 『銃の悪魔』、略式顕現。

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