デンレゼ過激派転生者   作:翁。弁当

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ボムとチェンソー

 寒い。

 

「……?」

 

 全身がリラックスして、程良く冷たいもので覆われている。

 視界が暗くて、まるでインクの海に沈んでいる様な。

 

 そしてゆっくりと浮上していくかの様なこの感覚。

 

 あぁ、自分は死んだのか。そしてピンを抜かれて、蘇生しているのだ。

 

 その時の感覚について、レゼはもう慣れたものだった。

 なにせ、何度も何度も味わったのだから。

 

 最初は気持ち悪くてしょうがなかった。

 自分の存在、尊厳そのものが模造されているようで、自分が本当に自分なのかと疑ったこともある。

 

 死ぬことのない偽物の命。

 替えが利く偽物の尊厳。

 複製されたの偽物の自我。

 

 視界を覆う闇は、或いは本当に欠けたものの代替品を書き込む為のインクなのではないかと。

 そんな詩的なことまで考えてしまうぐらいには、気分が落ち込んでいた。

 

 なにより、『こう』なった後が憂鬱で仕方なかった。

 

 言っては何だが、レゼは強い。

 成熟と成長の境界にある年頃の素体。すらりと長い手足。ロシア仕込みの軍隊格闘術。そして爆弾の悪魔の心臓。解剖学や心理学を修めて立ち回りを研究し、爆薬は勿論ナイフも拳銃もロープだって自由自在。

 

 一部のスキも無い鉄壁の戦闘者だ。

 爆弾の悪魔の心臓は万に一つも奪われてはならないのだから、ソ連も必死である。

 

 そんなレゼが死ぬといったら、レゼが抵抗できず、蘇生も確実に行える『制御された死』に他ならない。

 

 スパイや戦闘者としてのレゼではなく、モルモットとしてのレゼ。

 悪魔の心臓と適合した人間のデータ取り。レゼが強力であればある程、その研究は重要なものとなっていく。

 

 だから、死んで蘇った時、レゼの周囲は冷たい独房だった。

 拘束を前提とした寝台。清潔すぎて人間味に欠ける純白の部屋。影も死角も生み出さない監視の目。

 

 暗い、冷たい、寒い。

 

 死から蘇った時は、経験則的にその様な未来が来ると分かっていた。

 だから、蘇生している最中のレゼは憂鬱だった。

 

 だが、今回は違った。

 

「レゼ?」

「……デンジ君」

 

 インクの海から浮かび上がったレゼを出迎えたのは、無機質でも網羅的でもない一人の視線。

 デンジは血や煤で所々汚れていて、レゼの全身は自由なまま心地よく水の中に浮かんでいる。

 

 そしてレゼを支えるデンジの腕は、やはり男の子なのだと分かるぐらい太くて逞しく、何より温かった。

 

「デンジ君、寒い」

「え? あ、あぁ……悪ィ、やっぱ冷てぇよな」

「寒い……」

 

 状況を把握するよりも先に、レゼは情動で動いていた。

 すぐそばにある温かいモノ(デンジ)に抱き着いて、暖を取ろうとしたのだ。

 

 これに激しく動揺したのはデンジである。

 レゼの抱き着き方はまるで幼子の様に無防備で、己に全てを委ねるかのようだった。

 

 そうなると、デンジの全身には当然()()()が無防備に押し付けられるわけで。

 

 しかしここで理性を揮発させるわけにはいかない。

 デンジはチラッ……とだけ()に視線を向けてから、おずおずとレゼの体を抱きしめ返す。

 

 あったかい。

 

 ただ熱を受け取っているからではない。悪魔のそれになって久しい心臓が、内側から熱を生み出している。

 胸と頭と、そして腹から湧き出す熱が、レゼの芯にじんわりと熱を行き届かせる。

 

 しばらくしてようやく人心地付いたレゼは、周囲の状況把握を今更ながらに始めた。

 

 場所は、どうやら海辺であるらしかった。

 レゼの記憶が正しければ、確か下水道の中に拵えたセーフハウスの中で、ジョージからの『手土産』を開封していたはず。

 そして気が付いたら体は海水塗れで、炎天下の浜辺で蘇生しデンジと抱き合っている。

 

 何が起きたのか全く分からない。

 あのセーフハウスの中に時限爆弾かなにかが仕込まれていたのだろうか? それでデンジだけが生き残って……だとすると海辺でレゼの体を濡らしている理由がない。

 

 右側にはサメの魔人がいる。多分デンジが乗り回していた奴だろう。意味不明すぎて笑ってしまった記憶がある。

 顔がサメになっているものだからどういう表情をしているのか分かりにくいが、見た感じでは眠っているように思える。

 

 左側には『やさしくそっと抱きしめて』というカンペを捧げ持つジョージが膝を折りながら天を仰いでいた。

 カンペだけは微動だにせず、無駄に見やすい位置に固定されていた。多分デンジからも見えていただろう。

 

「……ジョージ君? なにしてるのかな?」

「……」

 

 ジョージは無言のままでカンペを一枚めくった。

 そこには『気にせず続けて』と書いてあった。

 

「いや無理だから、絶対に気になるから」

「そりゃそうか」

 

 ジョージは左腕前腕を擦るルーティーン……に、見せかけた変身トリガーの操作で状態をリセットし、普通に立ち上がった。

 

「……もしかして、最初からいた?」

「一部始終をこの目に収めたが?」

 

 レゼは嫌な予感がした。

 

「……録画は?」

「絶賛ダビング中だが?」

「うんうん、なるほどなるほど……」

 

 ピィン。

 

◆◇◆◇

 

「えー、レゼさんにはね。是非とも、『爆発オチなんてサイテー!』という日本文化をね。今後は学んでおいて欲しいと、そう思う訳なんですけれども。何か言い訳は?」

「誠にごめんなさい」

「は?」

 

 クレーターができた浜辺の隅にある岩陰で、レゼは正座させられていた。

 絵にかいたような『腑に落ちない』顔で説教されているレゼだったが、そこにデンジがフォローに入る。

 

「レ、レゼも寝起きでよくわかんなかったんだろうし、その辺で良いんじゃねえか?」

「……まあ、爆心地に居たお前がそれでいいなら俺はもういいけどさ……」

 

 正直何のフォローにもなってないが、被害者のデンジがそう言うならそれで終わりだ。

 血液と替えの服を調達してきた俺の苦労もあったが、被害者感情より優先されるようなことでもないし。

 

 ちなみに俺は完全に避けたので被害0だ。録画ファイルも無傷である。

 

「で、ジョージは何しに来たんだ?」

「ちょっと確認をな。レゼ、マキマについて今どう思ってる?」

「マキマ……? って、確かデンジ君を飼ってたっていう、あの?」

「”その”マキマだ」

「どうって言われても……通り一遍の知識があるだけで、特に何か思う所があるわけでもないけど……?」

 

 レゼは何を問われているのか分からないという感じだが、この調子なら恐らく問題無いだろう。

 バルエムにもやった支配の確認である。レゼはちょっと状態が違ったので参考になるかは怪しいが、とりあえず偏向評価がされていなさそうな事だけで十分だ。

 

「よし、問題無さそうだな」

「ジョージ、お前がここにいるって事は……」

「あぁ、支配の悪魔は始末した。だが本当に始末できているのか分からんので、その確認をしに来たんだ」

「確認……? 私で?」

「うむ。状況から説明しよう」

 

 俺はマキマが支配の悪魔であること、支配の条件のこと、レゼがその条件を満たしていたこと、恐らくは支配下に置かれていたこと、マキマに異常なまでの復活能力があったこと、悪魔の能力である為本当に死んでいれば無効化されていること等など。

 バルエムにもやった説明を100倍丁寧に2人にやった。2回目という事で多少は上手く纏められたと思う。

 

「で、レゼにその兆候が無い事が今分かったので、マキマの死がほぼ確定状態になった訳だ」

「マキマさん……死んじまったのか……」

 

 どこか打ちひしがれているデンジを気遣ってか、レゼが言葉を繋ぐ。

 

「……じゃあ、ついでに聞くんだけど、ジョージ君って、それどうなってんの?」

「それ?」

「どう見ても18歳か19歳って所だと思うんだけど」

「ああこれか」

 

 銃の悪魔の肉片を捏ね繰り回して作った今の俺の体は、ちょうどそれぐらいの年齢だった。

 

 どうも元の素体に忠実に作り過ぎてしまったせいで、『銃の悪魔の肉片の取得量に応じて肉体が成長する』という特性も反映されてしまったようなのだ。これは銃の悪魔の心臓を得たタイミングが幼少の頃であったことと、世界中に遍在するという銃の悪魔の生態が噛み合わさった結果発現した特性だと思われる。

 そのため現在48%ほどの肉片で構成されているこの肉体は、『成熟と円熟の狭間』程度の年齢帯になっている。

 

 アスリート等が『脂の乗った年齢』と言われるのが25歳前後なので、最終的にはそのあたりに収束するのではないだろうか。

 

 しかし、これを一から説明するのは面倒だな。

 

「マキマと戦うにあたり、以前の肉体では足りなかったからな。乗り換えた」

「乗り換えたって、そんな簡単に……?」

「勿論簡単ではなかったし、それなりに手痛い出費もあったが、結果は御覧の通りだ」

 

 ちなみに、手痛い出費とは元の素体の事である。

 

「それって、失敗したらどうするつもりだったんだよ」

「失敗したら? 何言ってんだデンジ……成功しただろ?」

「……マジかよ」

「うわぁ……」

 

 正直な所、成功するかは五分五分だったと思う。

 いくら全ての肉片を統制できると言っても、あれほどの巨体を誇る銃の悪魔の体を人間大までに圧縮し、人体構造を構築させられるほどの強制力があるかは微妙な所だったからだ。

 

 実際、過度に力を使えば肉体の制御が乱れたりもしたしな。

 マキマ戦ではいわゆる『ゾーン』に入っていたし、それ以降は支配の悪魔の心臓を喰ったおかげか、特にそういう兆候は見られないが。

 

「勝算はあったさ。ある程度熟練した我々であれば『心臓で考える』ぐらいは造作も無い事だからな」

「……我々?」

「レゼは心臓が爆弾の悪魔になっているんだろう? 俺も同じ様に、心臓が銃の悪魔になっているんだ」

「ハァ!?」

「うぉい待て待て! なんか今すっげえ重大発表しなかったか!?」

 

 レゼが声を上げ、デンジが慌てている。

 なかなか見れない光景で微笑ましい。

 

「う、嘘でしょ? じゅう? じゅう、って、あの銃? 呪とか自由とか獣とかじゃなくて?」

「そうそう、その銃。全世界に肉片が散らばってる銃」

「ほ、本当に……?」

「変☆身」

 

 ジャキン。

 

「うわぁすっごく銃だぁ……」

 

 レゼが途方に暮れている。

 無理もない。これを現実の地球に置き換えるなら、『一個人が全ての核兵器の管理者権限を有している』という構図だ。

 国家が、大統領が、総書記が、どれだけGOサインを出しても、その一個人がNOといえば絶対に動かない。

 逆にその一個人がその気になれば、いつでもどこでも全面核戦争勃発だ。

 

 国際秩序の全てが一個人の手中。

 

 そんな状況である。

 現実逃避ぐらいしたくもなるだろうさ。

 

「正直、レゼが俺の匂いについてなにか気付いた時は焦ったぞ」

「そりゃそうでしょ……絶対報告に上げてたもん」

「まあ、これもレゼが自国に帰るつもりがなくなったから言えたことだわな」

「……もしかして、私の『地元』も知ってる?」

「そこでやってた『お手伝い』もな。ざっくりと、だが」

「なんの話?」

 

 さっきまで『つまりジョージを殺せばマキマさんと……?』とかぶつぶつ言っていたデンジが混ざって来た。

 俺の重大発表のおかげで聞かれてなくて良かったな。そういうのって絶対に尾を引くぞ。

 

 キーワードだけは共通させたうえでちゃんと誤魔化しておくか。

 その辺の告白は2人きりの時にやってくれ。できれば俺が見れるところで。

 

「これからどうするかって話さ。レゼの地元に戻るのはどうかって話だったんだが、どうも地元に良い思い出が無い様でな」

「あぁ……」

「かといってデンジの地元はここらへんで、逃亡もへったくれも無いだろ? 俺は孤児だから地元知らないし、どうしたもんかと思ってな」

「だったらだァ~れも知らねえような遠くに行くしかねえなぁ。ジョージが言ってたもりおかとかいう所じゃダメなのか?」

「俺とマキマの戦闘の余波で公共交通機関が大体全部止まってる。使うなら車だが、東京から盛岡まで車は遠すぎる。デンジが運転できるんなら良いが、無理だろ?」

「そうだな」

「で、どうしたもんか、って事さ」

 

 幸い、時間的猶予はある程度存在する。

 俺が起こした混乱が大きすぎたおかげで検問などが敷かれるのはまだ先の事だろうし、ソ連の工作員たちもしばらくは統制を引き締め直す必要があるはずだからだ。

 

 おかげで考える余裕と選択肢に幅がある。

 勿論限度はあるが……。

 

「……あるかも」

「え?」

「そこそこ早くて、ある程度目立たなくて、包囲網を組まれても多分すり抜けられるやり方」

 

 そう言ってレゼが視線を向ける先には、銃の悪魔の肉片の影響でだいぶパンプアップしたビームが居た。

 

「なるほど……では、俺は少し小舟を探してこよう。漁船か……客船の救命艇ぐらいなら見つかるだろう」

「お願い」

「例の銃は持ってるな? 手放すなよ」

「もちろん」

 

◆◇◆◇

 

 ジョージが岩陰から歩き出して船を探しに行ったのを確認したデンジは、レゼに問いかける。

 

「……どういうこと?」

「え、何が?」

「いや、こっからどーすんのって話」

「あぁ、それね」

 

 あまりにもジョージが察してしまうものだから、なんだかすでに説明してしまったような気分になっていたレゼは、改めて考えを話す。

 

「まず前提として、私たちはできるだけすぐに逃げないといけない。正式に悪魔として認定されたデンジ君を倒しに来るデビルハンターとか、私の元々の上司とかが追ってくるから」

「上司?」

「それは後で説明する。でも、さっきの混乱で新幹線は使えない。車も無理、徒歩は下策。『どこに向かうか』は一旦置いておいて、『どうやって向かうか』を考えるの。その『どうやって』が、彼」

 

 レゼが指差したのは、未だ目覚めずに眠っているビーム。

 

「デンジ君が乗ってた時みたいな姿になってもらって、それに乗って海の上を行く」

「なるほどォ! そん時にビームにボートを引っ張らせるって事だな!」

「正解、100点!」

 

 にっこりと笑ってそういうレゼ。

 しかしその言葉に対して、デンジはどこか複雑そうだ。

 

「……どうしたの?」

「いや……いや、全部言う、だったな」

「全部?」

「レゼってさぁ……その、聞いて良いのか分かんねえんだけど……『どっち』が本当のレゼなの?」

 

 虚を突かれたかのような間が、2人の間を駆け抜ける。

 

「……どっち?」

「いや、なんて言うか……カフェに居た時と、今のレゼって、なんか……キャラが違うって言うか……間違ってるかもだけど」

「ううん、間違ってないよ。言ったでしょ? キミに会ってからの表情も頬の赤らみも全部嘘。訓練で身に付けたものだって」

 

 何かバツが悪そうな顔で、デンジから視線を背ける。

 

「だから、どっちがって言うと……多分、今の方が本当の私」

「そうだよな……でも、俺にはなんか、そうには思えねえんだ」

「どうして? 私がそう言ってるんだよ?」

「でもよ、もし本当に全部嘘って言うんなら、なんで今日、カフェに来たんだ?」

 

 ジョージは言った。

 仮面とはそこまで万能な代物ではない、と。

 

 全てを守れるほど堅牢でも無ければ、易々と切り捨てられるほど軽薄でもない。

 

 それがどのような物であれ、何かを模して振舞うことは、自らをその『何か』に寄せる意味を含有する。

 

 ただ。

 

「……デンジ君」

「んだよ」

「デンジ君のえっち」

「なんで!?」

 

 ここでいう、その『何か』とは。

 『バイト先のお客さんとひょんなことから仲良くなった女子高生』であり。

 『そのまま恋に落ちてしまった女の子』であり。

 

 それを嘘ではないと認めるという事は。

 改めて、デンジの事が好きだと、言葉にするようなものなのである。

 

 今の、恋と素が混じり合ったばかりのレゼには、『告白のおかわり』に応えるだけの余裕が無いのだった。

 

「デンジ君は、どっちの方が好き?」

「……? どういうこと?」

「だから、可愛くて愛想たっぷりで社交的な『レゼ』と、無表情で無愛想で内気な『私』。どっちが好き?」

「……よくわかんねえ。どっちもレゼだろ? そんで俺はレゼが好きだから……どっちも好き、じゃダメなの?」

 

 レゼは少し目を見開いて、膝を抱え込んでその間に顔をうずめて。

 

「ふーん……」

 

 とだけ返した。

 

 膝は人体でも大きな関節部である。

 可動性・伸縮性に優れた構造は、その繊細さゆえに血液の流量が少なく、比較的体温が低い部位となる。

 

 故に、熱くなった頬を押し付けて冷ますにはうってつけだ。

 

「デンジ君さ、全部言うっていうのは、ジョージ君と約束したんだよね?」

「あえ? そうだけど?」

「他に何か約束したことってある?」

「えーっと……1日1回抱きしめる、3日に1回は褒め言葉か愛の言葉を言う、思ったことは全部言う、だったかな」

「うわぁ……それホント?」

「夫婦円満の秘訣だってよ」

 

 確かに、その習慣を続けられればいつまでも怒りの熱量を保っていられるとは思えないし、そもそも火が付くこと自体稀だろう。

 褒め言葉の頻度が少し物足りない気もするが、それは個人差の域か。

 

 そして、これは恐らくデンジでも実践できるように噛み砕かれた輸出用劣化品(モンキーモデル)

 

 となると何か。

 アサはこれ以上に細やかで包括的な愛情表現を日常的にやられているとでもいうのか。

 

 なるほど、これはアサが落ちてしまうのも無理はない。

 入り口に必要な最低限の好意さえあれば、そのままズブズブと深みにハマっていってしまうだろう。

 

 レゼは今更ながらに、ジョージの事がちょっと怖くなった。

 

「じゃあデンジ君、今日の分のハグはまだやってないね」

「うぇ!? でもさっき」

「寝起きだからノーカン……それとも、デンジ君はハグするの嫌?」

「したいでぇす!」

「ふふ、声デカ」

 

 ハグをするにはちょっと不都合な体勢だったので、一度立ち上がってお互いに向き合う。

 そしてゆっくりと手を伸ばし、相手の背中に腕を回す。顔は肩に乗せて、全身を預けるように。

 

 アサを相手にやったじゃれつく様なハグではない。

 もっと湿度の高い、しっとりとしたハグ。

 

「ぎゅ~……」

「ぎゅ、ぎゅう……」

 

 しばらくお互いの体温に浸ってから、レゼは少し体を離してデンジと視線を合わせる。

 

「うぁ」

 

 ふと顔を近づけると、デンジは怯えた様な声を出して顔を歪めた。

 

 ああそうか、そう言えば、キスと一緒に舌を噛み切ったのは私だったな。

 

 そんな思いがよぎり、チクリと罪悪感が胸を刺すが……それよりも、デンジのその表情は。

 

「……可愛い」

「!?」

 

 レゼは強引にデンジの唇を奪い、しかし舌を入れずに、そして気持ち良いままで終わらせた。

 

「怖かった? ごめんね……でも、デンジ君はこれから私とずっと、何度も何度も気持ち良いだけのキスをするんだよ。他のキスなんて全部忘れちゃうぐらい、ずぅ~っと」

 

 そのように囁いてから、レゼはまた同じキスをした。

 何度も何度も繰り返していると、デンジがへたり込んでしまったので、その上にのしかかる様にしてキスを続けた。

 

 ようやくレゼが落ち着いたころ、ポケットの中からレゼがあるものを取り出した。 

 それは以前にコーディネートをしあった時に調達した、予備のチョーカー。

 

 そのチョーカーをデンジの首へ勝手に装着する。

 

「ずぅ~っと、一緒だからね?」

 

 そして次の瞬間。

 

「おぼろしゃあああああああ!!!!」

「!?」

 

 デンジとレゼが振り返った先では、『気にせず続けて』と書いてあるカンペを捧げ持つジョージが居た。

 

「いや無理だから、絶対に気になるから」

「そりゃそうか」

 

 ジョージは左腕前腕を擦るルーティーン……に、見せかけた変身トリガーの操作で状態をリセットし、普通に立ち上がった。

 

「……もしかして、最初からいた?」

「一部始終をこの目に収めたが?」

 

 レゼは嫌な予感がした。

 

「……録画は?」

「絶賛ダビング中だが?」

「うんうん、なるほどなるほど……」

 

 ピィン。






オチに便利すぎる男
結局デンジ君の記憶には『爆死したキス』が刻まれた
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