デンレゼ過激派転生者   作:翁。弁当

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神映画か糞映画か

「少し早いが、クリスマスだ」

「……プレゼントは誰に?」

 

 ドイツのある場所で、老人と若者のそんな会話が始まった。

 

「日本で話題の電ノコ悪魔に……見つけられるか?」

 

 老人……サンタクロースは考える。

 

 サンタクロースは人形の悪魔との契約者である。

 触れた人間を自分の人形にする能力で手駒を作り、あちこちに配置する事で、目の前の若者が、ひいてはその背後にいる組織が思っている以上の情報を得ていた。

 

 しかし日本の電ノコ悪魔の所在は不明。

 主要都市に配置していた人形が銃の悪魔の襲撃で壊滅状態で捜索も難しい。

 

 まあ所在が不明だとしても、残っている人形を日本に偏らせれば時間の問題だろうが、この『時間がかかる』と言うのがネック。

 

 日本のジョージ・スマイルズが、電ノコ狩りに意欲を示している。

 

 根暗の秘密主義者が多いデビルハンターの界隈では珍しく、明るくオープンに仕事をしている奇異な男だが、その実力はサンタクロースをして舌を巻くばかり。

 サンタクロースはドイツに現れた『サリンの悪魔』を討伐するジョージを目撃している。

 元々捨て石として雇った男だった。情報を引き出せれば十分と思いながら観察してみれば、まさかそのまま殺しきってしまうとは。

 

 しかも商売敵”かもしれない”というだけで、中国のクァンシに噛みつく狂犬ぶり。

 あっさり返り討ちにされているが、クァンシとジョージは同じタイプのデビルハンター。サンタクロースと相性が悪いという意味では何の気休めにもならない。そもそも全力を出していたかも怪しい。

 

 同じ調子で人形を潰されては、いよいよどん詰まりになりかねない。

 

「報酬は?」

「何が欲しい」

 

 即座にそれか。

 よほどチェンソーに執着しているらしい。

 

 さて、実はサンタクロースは同じ依頼を別の存在から受けている。

 依頼というよりは『契約』なのだが。

 サンタクロースからすればそっちの方が優先度が高い。あと半年永らえるかどうかの己を救うにはそれしか無いからだ。

 

 ジョージ・スマイルズの事も併せて考えると……生贄だけでなく、専用の人形もいる。

 

「……性別は問わない、健康体の美男美女を6人養子にしたい。それとは別に、屈強で従順な成人男性を3人。こっちは健康じゃなくてもいい」

「目的は?」

「契約と趣味だ」

「……用意しよう」

 

◆◇◆◇

 

「チッ……こりゃサンタクロースは確定で来るな」

 

 緊急用に用立てておいたラップトップでネットに繋ぎながらぼやく。

 

 ジョージ・スマイルズという存在によってインターネットの技術が原作よりも注目された結果、まだまだセキュリティが甘いインターネット上に多くの情報が集まるようになった。

 

 チェンソーの心臓にかけられた懸賞金もその一つ。

 誰かへ内密に依頼する訳ではなく、誰でも参加できるオープンな競争になった。

 

 技術への注目度もそうだが、銃の悪魔に襲撃されて懐事情が厳しいというのも正直な所なのだろう。

 この形なら前金や着手金が必要にならないからな。本当に持ってこられてもチェンソーの心臓にはそれだけの価値があるわけだし、その場で殺して心臓だけ持って行くこともできる。

 

 チェンソーマンの能力について確たる証拠を持っている所は少ないだろうが、『存在を消去する』という荒唐無稽な力は無視するには大きすぎる。

 かといって、そんなおとぎ話みたいなものにいつまでも国家のリソースを蕩尽し続けるわけにもいかない。

 

 そんな色々な思惑が合わさった結果が、懸賞金の提示という折衷案。

 

 だがそのために開設したWebページのIPアドレスやソースコードから、『懸賞金を張り出した国』をある程度特定できた。

 そしてその中に、ドイツはいなかった。となれば、ドイツはこれまでと同じ様にサンタクロースへ秘密裏に依頼を出すだろう。

 

「さて、何処にどんな布陣でやってくるやら……」

 

 一番困るのは、有象無象が大量に日本になだれ込んでくるケース。

 多少はデンレゼのところまで届いた方が逃亡生活に緊迫感があっていいと思うが、流石に限度がある。

 

 だからこのケースを潰すために、ジョージ・スマイルズの名前で電ノコ狩りへの参加を表明しておいた。

 

 ただでさえ法外の報酬。おまけにホームでの仕事だ。これに興味を抱くのは不自然ではない。

 この懸賞金を知れるだけでもネットをある程度使えるという事だし、それなら俺のブログもチェックしているハズ。抑止力としては中々のモノになるはずだ。

 

 サンタクロースはどうせ死ぬ運命だし、来日したら殺すか。

 

 こっちから乗り込んでもいいが、流石に所在が分からなさ過ぎるからな。

 人形の射程距離が無限なら原作で日本に乗り込んでくる必要は無かったわけだから、多分サンタクロースの本体はドイツのどこかしらに居るんだと思うが……それでも『ドイツの山間部』だけではどうにもならない。

 トーリカの暮らしぶりを原作で見た時はなんとなくカナダだと感じたが、その辺についてはそこまで詳しいわけでも無い。『それは間違ったカナダ人のイメージだ。本物のカナダ人は……』と言われてしまえばそれまでだ。

 

 これでデンレゼを脅かすのは1999年のノストラダムスの大予言まで何も無いだろう。

 

 これ以外で何か飛んで来たら普通に自分達で対処して欲しい。流石に手に余るわ。

 いや俺とデンレゼとアサの4人でシェアハウスするって言うんなら話は別だけど。

 

 溜息を吐いてラップトップを閉じる。

 

「終わった?」

「ん、終わっ」

「ピザ!」

「へいへい」

 

 中国でとっておいた宿。

 その一室でそんな鳴き声を上げたのは、何を隠そう支配の悪魔である。

 

 現時点で既にナユタを名乗っており、名前を聞いた時は『皆さんご存じ』みたいなノリで名乗って来た。

 それが効くのは俺だけなんだよ。

 

 ひとまず接触したところ、なんでも飼い犬と玩具を探しているんだと。

 心当たりがあると言ったら簡単について来てくれた。警戒心が薄くておじさん心配です。

 その後餌付けしたピザにドハマりした。警戒心が(ry

 

「クァンシ様? この辺でピザ食える所ってあります?」

「……あぁ、まぁ、あるぞ」

 

 クァンシはナユタを見ながらとても惜しいという表情を隠そうともしていない。

 そりゃそうだ。やはり支配の悪魔というだけあって、ナユタの顔はマキマのそれと瓜二つ。つまりはとても美しい。

 まだまだ12歳そこらといった所だが、クァンシ程の女たらしであれば、その将来性は手に取るようにわかることだろう。

 

 そんな将来性たっぷりのナユタは、俺が日本に持ち帰ってしまう。

 

 クァンシは不老不死の武器人間。故にこそ愛人には同じく不老の魔人を選びもする。

 ナユタは支配の悪魔だ。不老ではないにせよ、おおよそ永遠を生きる。クァンシの愛人要件をばっちり満たした、見目麗しい女。

 

 そりゃあ惜しいだろうさ。

 

 ところでクァンシ様って愛人を人質に取られてるんじゃなかったっけ?

 

 ……いや、この人そもそもハーレムだったか。

 その上で、代替可能とか思わないで普通に『効く』人質になるぐらいには情が深いんだよな。

 

「教えてもらいたいものですね……誠実さと4股を両立させるその淫らなテクニックを。この泥棒猫ッ!」

「なんだいきなり」

「どろぼうねこー!」

「ナユタちゃん、コイツの真似したら悪い大人になっちゃうよ」

 

◆◇◆◇

 

 用が済んだので中国から出て、日本に戻る。

 出国の際はどうするのかと思ったら、ナユタは職員を支配して簡単にゲートを通過した。

 

 目的の為に手段を選ばないその姿には好感が持てるが、デンレゼと暮らして倫理道徳を得られる日が来ることを祈るばかりである。

 

 とはいえ、日本の成田空港に到着して早々に関西へ……と言うのもまだまだ幼いナユタには酷というもの。

 

「一泊してから行くのと、このまま直行するの、どっちが良い?」

「一泊」

「俺以外の同居人もいるんだが、他に人が居ても寝れる?」

「慣れてるからヘーキ」

「そうかそうか。どこでも寝れるってのは大切なスキルだぞ」

 

 ナユタの頭をぐりぐりと撫でる。

 特に表情が変わったりはしないが、振り払ったりもしない。

 

「まあ流石に1人部屋に3人だから、それなりに息が詰まるとは思うが、それも一泊だけだ。辛抱してくれ」

「わかった」

 

 はぐれないように手を繋いで、ホテルまでの道を行く。

 今が1995年で良かった。成人男性と小中学生の女児が手を繋いで歩いていたら通報不可避だからな。

 後ろ暗い事があるのは間違いないのが更に面倒臭い。

 

「あ、ちなみに犬派? 猫派?」

「犬!」

「そっかぁ、犬かー。そりゃそうだよなぁ……ウチ猫居るんだけど、大丈夫?」

「別に嫌いな訳じゃない」

 

 流石にここから犬の多頭飼いは無理だから、そう言うのはちゃんとあっちの子になってからにしなさいね。

 

 しかし、岸辺さんってこの辺どうやってあしらってたんだろうか。

 レズの女に惚れて酒と煙草に溺れる高齢男性に女児の世話は無理だろ。

 

◆◇◆◇

 

 自分で言う事では無いかもしれないが、俺はこれでも結構肝の据わった人間だ。

 

 そもそも人生の初手で『銃の武器人間』とかいうルナティック級の厄ネタを抱えていたのだから、それに比べればどんな事態も些細な話。

 デビルハンターを続ける中で、驚天動地の能力を持った悪魔や、それに対抗する同業者(イカレポンチ)にも数多く出会って来た。

 

 そんな俺でも『ビクッ』とさせられるジャンプスケアは苦手だ。

 

 なので、ホテルのドアを開けたらそこに戦争の悪魔みたいな目をしたアサが立っていることに『ビクッ』としてしまったのも仕方が無い事なのだ。

 

「……入ったら?」

「ッス,オジャマシヤッス」

 

 ここがホテルの一室な以上は家主もへったくれも無いにせよ、どっちかというと俺の方が家主だと思うのだが、今のアサには奇妙な迫力がある。

 なんだろう、もしかしてアサに断らずに冷蔵庫のプリンを食べたことがバレたのだろうか。でもあれって別にどっちのとかそう言うアレは特になかったはずだし違うか?

 

「なにその子」

「親戚の子」

「無理だよ? 私ジョージが天涯孤独なの知ってるのに、よくそれで通せると思ったね?」

「そりゃそうか……ヨルなら分かるか?」

 

 ダメ元でちょっと呼び掛けてみると、意外とあっさり交代した。

 なんか、割と友好的というか、お互いに結構受け入れて共存してるなコイツら……何か共通の敵でも見つけたのだろうか?

 

「……もしかして、支配の悪魔か?」

「ザッツライト。はい、自己紹介」

「ナユタです。よろしくお願いします」

 

 ぺくりと一礼。

 

 えらいえらい。

 

「お、おぉ、これはどうもご丁寧に……せ、戦争の悪魔ことヨルです」

「敬語似合わねえな」

「うるさい! で、なんで支配の悪魔なんか連れてるんだ?」

「俺が殺したかったのは『マキマ』であって『支配の悪魔』じゃない。転生したコイツはもうマキマじゃない。しかし適当にほっといたらまたマキマみたいになるかもしれんので、そうさせないために回収してきた」

「これもまた、『マキマ殺し』の一環と言う訳か。徹底してるな」

「まあそう言う事だ」

 

 流石に『デンレゼにナユタを挟んでデンレゼナユの状態にしたい。その状態で疑似家族やってるのが一番好きだから』なんて本音をあけっぴろげに言ったりはしないぜ。

 ちゃんと言い訳を考えてあるんだよ。

 

「と、言っても明日には信頼できる奴に引き取ってもらうつもりだがな。稼業がデビルハンターでは子供の世話など無理だ」

「信頼できる人? いたの?」

「……」

 

 もしかして、今物凄く失礼な事言われなかったか?

 

 俺ってボッチだと思われてたの?

 いや別に否定できるほど友達いる訳でもないけどさ……だとしても面と向かって言う事じゃなくない……?

 

「にあ」

「ネコちゃん、名前は?」

「にゃんにゃかにゃーん」

「クラムボン? 珍しい名前」

 

 クラムボンとナユタが早速和解を始めようとしている。

 

「……ねえ、ナユタちゃんはなんで猫と話せてるの?」

「支配の悪魔だからだろ。格下と認識した相手の事を支配できるからな。その応用で動物と意思疎通もできる訳だ」

「なにそれ、怖くない?」

「別に? そうならないように教育を施して行こうって話なんだし」

 

 現時点でのナユタは、マキマと比較するまでもなくクソ雑魚ナメクジだ。

 

 確かに『支配の悪魔』は凄まじい存在だが、それはあくまでもポテンシャル。上限値の話だ。

 転生から3日と経っていないだろう現状では未熟が過ぎる。いくら上限が高くてもこれでは意味が無い。

 実際、原作でデンジと過ごして2年経っても鎖は3本。現時点で出せる鎖は恐らく1本だけだろう。

 

 そしてその状態で、全身から『銃』の匂いを立ち上らせる俺を即座に格下認定などできる訳がない。

 

 将来的には分からないが、向こう1年はまず効かない。

 デンレゼに引き渡すぐらいならどうとでもなる。

 

 引き渡した後?

 2人の愛情に期待するって事で。

 

「まあそれはそれとして……凄いなナユタ、クラムボンの言葉が分かるのか」

「わかるよ」

「じゃあクラムボンに俺のことどう思ってるか聞いてくれるか?」

「分かった……一番弟子だって」

「ぶふぉあ!」

 

 このナチュラルに見下してくる感じ。

 凄く猫。

 

「ちょ、ナユタちゃん、私も私も」

「ヨルも?」

「いや、違うから。今の私はアサだから」

「???」

 

 そりゃそうだわ。

 俺は事前知識があるから秒で飲み込んだけど、普通はそうなるわ。

 

 その後、俺たちはナユタという通訳を得て喋れるようになったクラムボンを中心に遊んですごした。

 

◆◇◆◇

 

「じゃ、ナユタはアサと一緒にメインの方使え。俺は客用の簡易ベッドだから」

「わかった!」

 

 そういうと、ジョージはベッドルームから出て簡易ベッドを組み立てに行った。

 

「……じゃあ、寝よっか」

「うん」

 

 とはいうものの。

 正直な所、アサはナユタとの距離感を計りかねていた。

 

 そもそもジョージとの関係性も未だ適切な言葉が見つかっていないというのに、そのジョージが突如として連れてきた女児。

 しかも正式には女児ではなく支配の悪魔というではないか。

 

 どう取り扱ったものか。

 

 ナユタをお風呂に入れたのはアサだったので、その肉体が人間のそれとおおよそ同一であることが分かっている。

 とはいえ悪魔は悪魔。その精神性は人間とかけ離れているというし、どう見ても12歳そこそこの外見でありながら生後3日ぐらいらしいのも困惑に拍車をかける。

 

 まあ、精神性についてはヨルを見る限り、案外分かり合えるところもあると思うが……。

 

「……」

「……」

 

 寝よう、と提案してからナユタが動かない。

 てっきりナユタが中心辺りに入って、アサがベッドの端で寝るような形になると思っていたのだが。

 

「えっと……」

「……」

 

 しばらくにらみ合う両者。

 

 いや、考えてみれば当然のことだ。

 なにせナユタは生後3日。しかもその3日は中国で路上生活であったという。

 ベッドの使い方など分かるはずもない。

 察せられる部分もあるだろうが、それはそれとして『作法』とでもいうべきものがあるかもしれないと、二の足を踏んでいるのではないか。

 

 で、あれば。

 

 仮にも年上のお姉さんとして……お姉さんとして、ナユタをちゃんと導かなければならない。

 お姉さんとして!

 

 アサは妹が欲しかった。

 

「そんなに興奮すると眠れなくなるぞ」

 

 今はそんなヨルからの苦言も気にならない。

 むしろ『どうしてそこまでフラットでいられるのか』と逆に苦言を呈したいぐらいだった。

 

「大丈夫だから」

「え?」

「絶対に、痛くとかしないから」

「え?」

「アサ、一旦落ち着け。落ち着いて文面をよく思い返せ」

「さ、おいで」

「う、うん……」

「暴れんなよ……暴れんなよ……」

「ダメだなこれは」

 

 ヨルは少し意識を集中して体の主導権を奪った。

 瞳が上書きされ、面傷が浮かび上がる。

 

「よし、では寝るぞ」

「あ、ヨルになった」

「先に入れ」

 

 もそもそとナユタが布団の中に入り、それを追う形でヨルも入る。

 ヨルはナユタに背を向けるつもりだったが、ナユタが話しかけてきたので寝返りを打つタイミングを見失い、結局向かい合って寝転ぶことに。

 

「なんでヨルになったの?」

「アサの為だな。あのままだと後日苦しむことになる」

「ふーん……?」

 

 分かった様な分からない様な。

 そんな表情を浮かべたナユタに、ヨルはなんとなく苦笑してしまう。

 

 あれほど悪辣外道であった支配の悪魔が、なんとまぁ可愛らしくなったものである。

 

 ヨルは戦争の悪魔。ジョージが言ったように、『死』『飢餓』『支配』と並び称される強大な悪魔の一角だ。

 この四姉妹の仲はお世辞にも良いとは言えなかった。チェンソーマンを倒すべく結託したこともあったが、それは利害の一致に過ぎない。

 

 或いは、少し歯車が噛み合わされば殺し合う事も十二分にあり得る。

 そんな2人が、こうしてひとつ屋根の下で同衾に耽っているという事実。

 

「私も聞きたいんだが」

「なに?」

「なぜあの男を信用して、日本までついてきたんだ?」

 

 種ヶ島譲司(ジョージ・スマイルズ)がもたらした、奇妙な一夜。

 長く降り積もるばかりの思い出の中でも屈指の数奇。

 

 ならば、楽しまねば損というもの。

 

「共に過ごしている私が言うのものなんだが、胡散臭いだろ」

「たしかに」

 

 生後3日でも感じ取れるほどには、ジョージは胡散臭かった。

 

「でも……」

「うん?」

「なんてゆーか……すっごく根っこの所には、好きって気持ちがあるって感じ」

「あぁ……」

「そう! そこなの!」

 

 感嘆符だけになって少し気を抜いたヨルの隙をついて、アサが交代してきた。

 

「アサになった」

「いっつも滅茶苦茶やるし、意味わかんない事ばっかり言ってるし、糸が切れた凧みたいに突然どっか行くし、なんか子供拾ってくるし!」

「切実だな」

「つらい」

「でもなんか、なんか根本のところで、こう……『あれ? コイツ私の事大好きじゃん?』みたいなことしてくるから……なんか、つい……つい許しちゃって……」

「つらそう」

「だからあんな男やめておけと言ったんだ」

 

 ヨルの忠告が身に染みる。

 

「多分……多分っていうか、ナユタちゃんから聞いて確信に変わったけど……ジョージって、そういう『大好きな相手』が一杯いて、私なんかただのその中の1人なんだろうけど……」

 

 布団の中で、囁く様なアサの声が響く。

 それはヨルとナユタだけに聞こえて、くぐもった音は布団の外には出て行かない。まして部屋の外になど、とてもとても。

 

「でも……私は、私には、ジョージだけだから……」

 

 蚊の鳴くような声は、ナユタにはしっかりと届いていた。

 そしてナユタの中に去来する、得も言われぬ感覚。奇しくも、ジョージがデンレゼを見て抱くそれと類似した、言語化しがたいが少なくとも笑顔が浮かぶ情動。

 

 ジョージにとって、自分の人生は糞映画だった。

 マキマにとってのデンジがそうであったように。

 

 だが、誰かにとっての糞映画は別の誰かにとっての神映画たり得る。

 ポチタにとってのデンジがそうであったように。

 

 アサとヨルにとって、ジョージは人生を変えられるほどの神映画だった。

 そして映画の評判とは口コミで広がるもの。劇場から出てきた観客こそ何よりの広告。

 

「どんな事されたの?」

「え?」

「だから、ジョージにされた『コイツ私の事大好きじゃん』って感じの事」

「え、えぇ~? それ言う~?」

 

 DVDに焼き付けられた、映画館での体験には遠く及ばない代替品であったとしても。

 ひとまず、ナユタはこの映画を観てみることにした。

 

 神映画か糞映画かは、まだ分からないけれど。

 

 結局アサとナユタは、眠り落ちるまでずっと恋バナをしていた。

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