デンレゼ過激派転生者   作:翁。弁当

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奇襲、襲撃、爆撃

 ジョージ・スマイルズのデビハン日記。

 

 当初ただの珍妙な経営スタイルのデビルハンターとだけ思われていたこのブログは、運営が続くにつれて運営者がめきめきと頭角を現し、今や『知らない奴は三流』とまで言われるほどの知名度を誇っていた。

 なにせ悪魔の特性を分析する方法論、仕事上の失敗やそれを予防する注意点、即席チームでの交流ハウツー、報酬金の取り立てなどなど……デビルハンターをやっていくなら値千金の知識が大量に書いてある。

 

 レゼはあくまでも諜報員。

 日本に潜入するので日本のビッグネームを、ぐらいの認識でしかなかったが、デンジがデビルハンターを始めるということで改めてこのブログを総ざらいしていた。

 

 そうなると、出るわ出るわ実績の山。

 

「えぇ……? マキマを倒すだけの事はある、みたいな……?」

 

 ソ連での実績が掲載されて無い一方、レゼには『ジョージ・スマイルズと思しき男がソ連に入国した』という知識があった。

 ただ不穏なだけ。何かの下見。そう思っていたが、これほどまでに方々を飛び回る男が、たかが下見でソ連にまで来るだろうか?

 順当に考えれば、ソ連の国家公務員を虐殺するための仕込みをしていたという事になるが。

 

「ほんとどこまで見据えて行動してるの……コワ~……」

 

 いや、これは流石に買いかぶりだ。今のこの状況になることを見据えて行動できる訳がない。

 仮にそうだとしたら、レゼがデンジに惚れてソ連から足抜けする事を、レゼがデンジに出会う前から知っていたことになる。

 

 この状況を正確に予見していたわけではないだろう。

 しかし同時に国家レベルの事態に巻き込まれる可能性を考慮していて、そうなった時の為の備えを流用したという所か。

 

 彼の『心臓』について考えれば、その備えも過剰とは言い難い。

 

 と、言うのが理論的に導ける妥当なシナリオなのだが、レゼは理論とは無関係な直感で、『本当にこうなることを予見していた』様な気がしていた。

 本当に、ただの勘でしかないのだが。

 

「……っと」

 

 そう言えば、この部屋に運び込むための台車を借りっぱなしだった。

 翌日に返すという話だったから、今日の内に返しに行かなくては。

 

 デンジは今デビルハンターの仕事中だし、そもそもレゼが借りたものなのだからレゼが返さなければ話がこじれる。

 

「ついでにお買い物も行こうっと」

 

 デンジが稼ぎ、レゼが回す。

 逃避行の真っ最中でありながら、その姿はまるで本当にただの新婚生活だった。

 

 そのことについて考えが至るたび、レゼは歪み吊り上がる口元を抑えるのに苦労する。

 

◆◇◆◇

 

 こっちに逃げる時に使った変装用の衣装。少し多めのお金が入っている財布。買い物を入れる為のバッグ。

 ジョージからもらった500万円の隠し金を下着の中に詰め込で隠し持つ。

 そしてガムテープと紙で作った即席ガンホルダーと、そこに収められた特殊拳銃。

 

 上着を1枚羽織って武装を隠せば、レゼの身支度は完了だ。

 夏場という事で上着はやや目立つが、用心とのトレードオフとして諦めることにした。

 

「じゃ、お留守番お願いね」

「ハァイ!」

 

 庭でぐるぐるしていたビームに声をかけて、台車を押しながら敷地から出る。

 ビームはテンションが上がると思わず飛び出してしまうことがあるので、念の為デンジはビームを連れずに仕事に出ていた。

 

 ごろごろと台車の転がる音が閑静な住宅街に響く。

 

 時刻は昼過ぎ。

 あるものはテレビを楽しみ、あるものは仕事に戻り、あるものは午睡にまどろむ、人通りの少ない折である。

 台車を押すレゼは特異な存在でこそあったが、それでもそう注目を集めはせずに進めたのだった。

 

◆◇◆◇

 

「じゃあ、ありがとうございました!」

「また来てね~」

 

 店主に愛想よく送り出され、レゼはひとまずの用事が終わったことに安堵した。

 そこまで激しくうるさかったわけではないとしても、台車を押して進むという目立つ行為には忌避感が否めなかった。

 

「さて、と」

 

 レゼは少し考える。

 

 現時点で、デンジとレゼの逃亡生活はある程度上手く回っていると言っていい。

 まだ始まって3日と経っていないが、雨風凌げる家を確保できて、デンジは仕事を得て、レゼも情報収集できる環境が整った。

 当初考えていた2人で段ボールを纏って橋桁で夜を明かす様な事は特になく、想像以上に人間的な生活が出来ていると思う。

 

 しかし『好事魔多し』と(ことわざ)にある様に、上手く回っているからこそ不安でもあった。

 

 やはり粘っこく残り続ける不安要素としては、ソ連からの追手か。

 日本の公安は特に不安視していない。マキマが居なくなったことで起きている混乱は、マキマが脅威的であったからこそ見当が付く。

 

 逆に、ソ連の方は何も分からない。現役の工作員にすら情報が集まっていない状態なのだ。足抜けしたレゼに入ってくるわけがない。

 極端な話、現時点で既に統制を取り戻している可能性だって0ではない。

 

 そして最近湧いてきた不安要素としては、チェンソーの心臓にかかった懸賞金。これを狙ったデビルハンターが何時襲ってくるか分からない。

 この場合はデビルハンターであるとは限らないのも厄介だ。例えば、それこそ今デンジが仕事を貰っている暴力団が、懸賞金目当てにデンジを襲うかもしれない。その際の人質としてレゼを確保しようとしてくるかもしれない。

 

 更に言えば、ジョージ・スマイルズが……『銃の武器人間』が興味を示しているのも不安要素だ。

 

 単純な戦力関係として、デンジとレゼは恐らくジョージに勝てない。十中八九無いとは思うが、仮にジョージが懸賞金を求めて襲い掛かってきたらどうしようもない。

 競合潰しと称して牽制をしてくれているのは、あとでデンジが指摘してくれたから気付けたが……注目度の高い案件として喧伝してしまったのも事実。

 

 ジョージ・スマイルズで足切りをしたという事は、これから襲ってくるのは『ジョージ・スマイルズと戦っても逃げるぐらいはできる』と踏んでいる実力者ばかりという事でもあるのだから。

 

「……よし」

 

 とくれば警戒するに越したことは無く。

 レゼは思案の果てに見出した、一番人通りの少ない路地を通ってスーパーに向かうことにした。

 

◆◇◆◇

 

 薄暗い路地にどことなく安心感を覚えるのはなぜだろう。

 

 レゼの生い立ちだろうか。逃亡者という今のレゼの身分だろうか。

 それとももっと根源的な、胎内回帰願望だろうか。

 

 しかし今日、この日というタイミングにおいては例外だったようだ。

 

「……」

 

 つけられている。

 足音や呼吸音が聞こえるし、体臭も漂ってくる。総じて気配の消し方が下手だ。

 

 レゼは気付いたことを気付かれないように注意を払いながら思考を巡らせる。

 

 恐らくプロ……特別な隠密の訓練を受けているわけではない。

 となるとデビルハンターか。それもごく一般的な、武器を伴う正面戦闘に特化したタイプの。

 

 契約悪魔の力で戦うタイプだと厄介だったが、デビルハンターも人だ。

 銃には勝てんだろう。

 

 だがそれはこの追跡者が一人だけだった場合の話。

 

 わざと気配を消さずに自らの存在を主張する事で、こちらの注意を引いて別の人間がバックスタブ、という計画の可能性もある。

 というか現実的にはこっちの方がありそうな話だ。

 

 その場合、レゼが今捉えている気配の持ち主はそもそも隠密できない人間だろう。

 そうする事で『わざとらしさ』が消える。

 

 本命は別とすると……銃はあまり使いたくない。

 銃は鬼札だ。しかもこの特殊拳銃は金属探知機をすり抜けられる優れもの。弾薬を補給する宛ての無い現在、そう軽々に使いたくはない。

 

 手元にある特殊拳銃の装弾数は12発。確実を期して3発撃ち込むとして、落とせるのは4人。

 だがそれは全員レゼの視界に映り、射程距離に収まっていればの話だ。こう入り組んだ路地では難しい。

 

 最初の1人は素手で落として、不意を打てないと諦めて出てきた所で司令塔を狙撃。

 理想としてはそんな所か。

 

「……あれ?」

 

 そんなことを言いながら、わざとらしく周囲をグルグルと見回す。

 そして。

 

「……ここどこぉ……?」

 

 出来るだけ情けない声を意識して、まるで『薄暗い路地でショートカットしようとしたら、そのまま迷ってしまった』かのような状態を演出。

 しばらくその状態を続けてから、気配のある方向へ(おもむろ)に歩き出す。

 

 その出鼻をくじくかの様にして、路地の闇から人影がレゼの前に飛び出してきた。

 

 内心でほくそ笑みながら、まるでストーカーに出くわした少女の様に体を強張らせ、怯えたように振舞う。

 

「ひっ」

「あ、あぁ、ゴメンゴメン……驚かせちゃったかな? ゴメンゴメン……」

 

 ……デビルハンター、だと思っていたのだが、何か妙だ。

 

 デビルハンターなんて言ってしまえば肉体労働なので、その従事者は大抵ガタイが良いと相場が決まっている。

 悪魔との契約で戦うタイプはそうでもないが、『特別な力を持っている』という自負がそうさせるのか、何処か堂々とした雰囲気を醸し出しているものだ。

 

 そうでもないと悪魔を相手に挑みかかるなんて出来ないだろうから当然と言えば当然だが……目の前の男からは、そのどちらも感じられない。

 

 筋肉の付き方は『一般的』の範疇を逸脱しておらず、とてもデビルハンターなんて過酷な肉体労働に従事しているとは思えない。武器を使うにしてはそれらしい筋肉の偏りも無い。

 契約悪魔の力を使うタイプにしては弱々しい雰囲気。契約の代価と思しき欠損も特に見られない。

 

 まさか素手?

 ……いや、だとすると体幹が不安定すぎる。これでは簡単に態勢を崩されてしまう。

 

 外見から考えると、天性の戦闘センスで戦うかなり珍しいタイプと見た。

 その割には自信が無さげだが……新人でよっぽど扱いが悪いとかだろうか?

 

 警戒すべきはやはり悪魔の力。

 次点はナイフなどの軽量武器。投石や投げナイフ、クロスボウ……一応は拳銃も見ておいた方が良いか。

 あとはこの路地の環境利用闘法なんかも厄介そうだ。

 

「でもほら、大丈夫。俺だよ」

「……?」

 

 急にどうしたのだろうか。今流行りのオレオレ詐欺という奴だろうか。

 

 周囲を警戒しっぱなしなので、正直勝手に話してくれるなら情報を抜く手間が……いや。

 

「『それ』は捨てたでしょ」

「ん? なんだい? 何を捨てたんだい? もしかして」

 

 ピィン。

 

 レゼの全身に爆弾の悪魔の力が巡る。

 可能な限り小規模に……しかし目の前の男を蹴り殺すのに十分な勢いが付くように、足の裏に爆発を起こして推力を得る。

 

 男は動かない。

 

 刹那の2択。

 このまま直線で殺すか、1枚フェイントを挟むか。

 

 レゼの選択は、前者。

 

「おごえっ!?」

 

 吸い込まれるかの様に、男の喉にレゼの前蹴りが突き刺さる。

 

 それと同時に変身を解除。

 変身していた時間は全て合わせても1秒未満。それも路地の薄暗闇の中、超高速で移動していた。

 

 仮に目撃されていても、見間違いとしか思えない。

 

「……」

「おえぇ……ごっ、ごあぇ……」

 

 慣れない力の使い方をしたせいで加減を見誤ったか、或いは……とてもそうは思えないが……男の方に何か特異性があったのか。

 ともかく、その男は生きていた。

 

 しかし陥没した喉を抑えてうずくまり、地面を這い回るしかできないこの男が、今生きているからなんだというのか。

 完全に無力化されている現状、さっき死んでいたか今から死ぬかの違いでしかない。

 

 だが、レゼは止めを刺しはしなかった。

 

 無力化したままで周囲をしばらく睨み付け、演技を捨てて全力で気配を探る。

 しかし誰かが来ることは無く……レゼは自分の発想が間違っていなかった事を確信した。

 

 ピィン。

 

 今度こそ本当に変身して、爆発を用いて空へ飛びあがった。

 男は爆発で火傷こそしたが、まだ一応は生きていた。

 

◆◇◆◇

 

 途中まで、レゼは考え方を間違えていた。

 

 確かにこの場で全員始末しきれるなら最上だ。

 だがそれは、いうなれば『諜報員のレゼ』にとっての最上に過ぎない。

 

 今の自分はチェンソーマンのオマケ。

 彼らの本命はあくまでもチェンソーの心臓。

 

 ならば本命の戦力が送り込まれているのは、デンジの所に他ならない。

 

 この場所で何人倒した所で、ある意味では無駄なのだ。

 そのことに固執して時間かけ、そのままデンジが連れ去られでもしたら……レゼはもう自分を許せなくなる。

 

「……」

 

 空中を爆発で飛びながら、小さくレゼは歯噛みする。

 『一人用』の思考が染みついている。どうしようもなく。

 

 これからのレゼは、ある意味でデンジと運命共同体。

 そういう前提での思考ができなければ、デンジと逃げた意味が無い。

 

 どこか自罰的な思考を携えて、レゼは空を駆けて行った。

 

◆◇◆◇

 

 デンジが暴力団からデビルハンターとして一時的に雇われるにあたり、2人で作ったカバーストーリーを先方には伝えておいた。

 

 デンジは最近流行りの電ノコヒーロー、チェンソーマンのファンボーイという事になっている。

 

 自分で自分のファンと言うのも妙な気分だが、ジョージからの贈り物である『三千年チェンソー』を出来るだけ違和感なく使えるようにするためにはこれぐらいしか思いつかなかった。

 チェンソーマンが話題になったのは最近の事なので時系列的に矛盾があるが、以前に行った東京旅行の際に助けられたという事にした。

 

 で、レゼはデンジの地元の恋人で、親からの許嫁を拒絶して駆け落ち。

 日雇いとデビルハンターを半々ぐらいの割合でこなして、日々を送っている。

 

 とまぁ、そんな感じの事をふわっと伝えてある。

 

「テメエ……『漢』じゃねえか……気に入ったぜ!」

 

 その時の反応がこれだった。

 

 ヤクザだの侠客だの博徒だの、そういう『漢を売る稼業』は関西の方が歴史が深い。

 京都の歴史が深すぎて相対的に東京の歴史が浅いといった方が正しいが、ともかくいわゆる『任侠道』という奴がより保存されているのは関西の暴力団の方なのである。

 

 経済的な理由から勢力を伸ばしているのは東京のヤクザになるが、ヤクザもんが利益追求してどうすると若干下に見ていた。

 その東京のヤクザも時代遅れの骨董品が負け惜しみしてらぁと若干下に見ていた。

 

 そんなわけで『普通の暮らし』とは言い難いにせよ、一時的な腰掛であることも含めて、それなりに受けいられた様子だった。

 

 なにせ日数が立っていないので、デンジの技量も三千年チェンソーの威力もバレていない。

 おかげでまだまだ囲い込みの動きが出てないので、その気になればいつでも抜けられる。

 

 だが、今はもう時間が無い。

 

 今この瞬間にデンジがデビルハンターから襲撃を受けるかもしれない。

 である以上は、まずデンジと合流。その後に襲撃を返り討ちにして、予定を繰り上げて拠点を変える。

 

 ちょっとしたビルの屋上に着地すると、そこからデンジの姿が見えた。

 

 位置情報を共有していたわけではない。事前に付けておいた硝煙の臭いを辿るのは以前もやったことだ。

 

「さて……どーしよっかなぁー……」

 

 見た所、デンジは誰かに襲撃をされているという訳ではないらしい。

 むしろ構成員の人と割と仲良く和気あいあいと歓談の真っ最中と見える。

 

 しかしレゼの方に派遣されてきた以上、デンジが野放しという事はあるまい。

 

 さっきの男がソ連の粛清であるというだいぶ無理のある考え方をしても、チェンソーの心臓を欲しがっていたのはソ連も同じことなのだし。

 

 となると、現時点でデンジは既に包囲されていると踏んでいい。

 それらしい気配は特にないが……よほどうまく隠れているのだろうか。

 

 これで場所が分かれば1人ずつの斬首戦術で片付いたのだが、分からないとなると厄介だ。

 

「仕方ない、か」

 

 ちょっと乱暴でおまけに不義理なやり方だが、まず確実に逃げられる算段を付けたレゼは、爆発を起こして空に飛びあがった。

 

 少しずつデンジ達に近付きながら爆発を起こし、彼らがレゼの存在に気付くまで高度を落とし続ける。

 爆発音に気付いてこちらを見上げ、レゼの方に注目が集まったことを確認してから、ダイナマイトのエプロンを解いて広範囲にばらまく。

 

 このダイナマイト自体は攻撃ではない。

 爆発ではある以上熱や衝撃は伝わるだろうが、投下地点はあくまでも彼らの周囲。

 

 しかも今回使うのは現代兵器の主流である『無煙火薬』ではなく、科学がまだまだ未発展だった時代に見出された『黒色火薬』だ。

 燃焼効率が悪く、グラム当たりのエネルギー量は低い。

 

 ほとんど無傷か、精々服が煤で汚れる程度。運が悪くても軽傷で済む。

 

 火薬、爆薬としては失格レベルの威力しか出ないのだ。

 実用されていた当時も、これだけで殺傷能力を得る目的で使われることは少なかった。

 

 主な用途は火縄銃や大筒といった原始的な銃砲の炸薬と……その多く、濃く、なかなかに晴れない黒煙を用いた『攪乱』であった。

 

「げっほ! ぐえっほ!?」

 

 眼下の構成員たちが咳き込むように、黒色火薬はとにかく煙が多い。

 無煙火薬もそれなりに煙は出るが、それでも『無煙』と呼ばれるのは、比較対象が黒色火薬であったからだ。

 

 しかもただの煙玉と違って、爆音と光と熱と衝撃までついてくる。

 攪乱にはまさしく持ってこいの火薬なのだ。

 

 やがて十分に煙が満ちた所で、レゼは更に追加の黒色火薬を時間差で爆ぜるように調整してから投下し、自分自身も煙の中に突っ込んでいく。

 そして両腕から伸ばした導火線を操り、デンジと三千年チェンソーを絡め取る。ロープワークは工作員のたしなみである。

 

 まだまだ爆発が続く中を突っ切って上空へ。

 爆発が続く間はまず見つからないので、その間に出来るだけ距離を稼ぐ。

 

 黒煙を利用して、レゼとデンジは確実に脱出した。

 

「レゼ!? どうしたんだよ!」

 

 爆発で空を飛ぶ中、デンジが必死に話しかける。

 

 それを聞き逃すレゼではない。

 導火線を短くして距離を詰め、話しやすい様にしてから口を開く。

 

「いきなりでゴメンね! さっき、追手っぽいのに襲われちゃってさぁ!」

「大丈夫か!? 怪我は!?」

「大丈夫、無傷だよ! 多分懸賞金目当てのデビルハンターだと思うから、私の方に来てるんだからデンジ君の方にも行ってると思ったの!」

「なるほどなぁ~ッ! それでそいつら撒くために思いっきり派手にやったんだな!?」

「正解! だからこのまま逃げるよ!」

「分かったァ!」

 

 少し間をおいて、デンジが気付いた。

 

「あ! ビームは!?」

「ゴメン、まだ家!」

「迎え行けっかなぁ?」

 

 デンジの問いに、レゼは後ろを振り返って黒煙の状況を見る。

 

 まだまだ現場ではもうもうと立ち込めてはいるが、爆発は既に収まったようだ。

 そう遠くないうちにデンジの失踪がバレるだろう。

 

 このまま家に直行して、ビームを連れて、街に紛れて……微妙な所だ。

 特に、レゼの顔が割れているのが痛い。

 

「……ダメ、多分もう手が回ってる」

「……そっかぁ。レゼが言うんならしゃーねーな」

 

 デンジがビームを大切にしていたのは知っている。

 ペットや家族というよりは、どっちかと言うと舎弟って感じだったが、それでも大切な思いには変わりない。

 

「……ゴメンね。捨てるみたいになっちゃって」

「あぁ? レゼは別に悪くねーだろ!? それに、レゼは俺を捨てねーんだろ? 俺もレゼを捨てねーから、これでいいんだよ!」

「なにその理屈!」

 

 レゼは少し笑い、デンジの首についたおそろいのチョーカーを撫でた。

 

 こうして2人の仮宿は、想像以上に早く引き払うことになったのだった。





デンジが抵抗しないとはいえ、お前めっちゃ簡単にチェンソーの心臓持って行けるじゃん
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