デンレゼ過激派転生者   作:翁。弁当

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ちょっとオマージュ増えてきたんで、そろそろ「クロスオーバー」のタグでも付けときます


きぶりジジイの悪魔

 簡易ベッドの所為でバキバキになった体を適当にほぐしていると、ベッドルームからアサとナユタが出てきた。

 

 アサがナユタを肩車している。

 

「……!?」

 

 完全に予想を超える事態を目撃してSANチェック0/1って感じの気分だったが、たった一晩で想像以上に仲良くなったなコイツら。

 

 原作での絡みは結局『泥棒』だけだったから、この2人の相性がよく分からん。

 割と男の趣味は似通っている様だったし、案外親和性が高かったりするんだろうか?

 

「おはよう」

「お、おはよう……」

 

 動揺しながらも気を取り直して、すこし手頃な品を探す。

 この辺はちょっと乱暴扱いたくないし、これだとちょっと痛すぎるし……お、なんか長ネギがあったからこれで良いか。

 

「ぶえっ!?」

 

 長ネギでぶん殴られたナユタがアサの上から落ちる。

 ナユタの指からはじゃらじゃらと鎖が伸びていく。繋がっている先はアサの頭だ。

 

 落下で頭を打たないようにナユタをキャッチすると、そのころには鎖が外れていた。

 

「ちょちょちょ! 何やってるのジョージ!」

「いやこっちのセリフだから」

 

 ナユタを地面に降ろして、その頬をもにもにと捏ね回しながら、ガッツリ目を合わせて説教だ。

 

「ナユタ、ナユタ、ナユタよォ~~~……支配の力をそうホイホイと人に使っちゃあダメだろうがよぉ~~~」

「うぶぶぶぶ」

「そりゃあ分かるぜ? お前は支配の悪魔だ、本能的に支配したくなるって気持ちは分かる。俺も四捨五入すれば銃の悪魔みたいなもんだからな」

「うぶうぶうぶうぶ」

「だから『とりあえず銃を撃っておけば解決するだろ』って発想がずっと頭の片隅にある。だからお前の気持ちもよーくわかる」

 

 しかしコイツのほっぺ、もちもちぷるぷるスベスベだな。

 犬猫のモフモフとはまた違った意味で、ずっと触っていたいような心地よさだ。

 

「だけどなぁ、やっちゃいけねえんだよ、そう言うのは。解決はするさ、目の前の課題が解決はする。簡単にだ。だがそういう事を続けてると、お前は何時かひとりぼっちになっちまう」

「……」

「なんでかわかるか?」

 

 捏ねるのを止めて回答を待つ。

 

「……怖いから?」

「正解だ。偉いぞ」

 

 なでりなでり。

 

「だから、それ以外じゃ解決できないって時か、最低でも相手の同意を得てからやるんだ。分かったか?」

「分かった」

「かしこい! 100点!」

 

 笑顔で抱きしめて頭を撫でる。

 体格差の都合上、抱きかかえるような形になってしまったが、些細な事だ。

 

「……なんか、めっちゃ手慣れてない?」

「ナユタがルナティック級に素直で良い子だからだろ。難易度が低いからそういう風にも見えるだけさ」

「そういうもんかな……?」

 

 親の機序なんぞ俺だって知らないが、短期間だけそれらしく振る舞うぐらいなら知識の蓄積で何とかなる。

 意思疎通ができずに一番しんどい乳幼児期を飛ばしているし、そもそもナユタ自身が子供とは思えないほど聡明だから尚の事だ。

 

「てゆーか、ナユタちゃんには私からお願いしたんだけど……」

「え?」

「いやその、私って外から見たらアサかヨルのどっちかしかいないわけじゃん?」

「まあ、確かにどっちかが表面化してるって感じだよな。その都度スイッチしてるって言うか」

「だから私とヨルとナユタちゃんの3人で話せないわけ」

「……なるほど? それで、支配の力で3人同時に話せるように繋いでいたわけか」

「そういう事」

「そっか、そうだったか……」

 

 ナユタの額を……長ネギでぶん殴った所を撫でる。

 

「ごめんなナユタ。早とちりで殴ってしまった」

「いい! ジョージのいう事にも一理ある!」

「許してくれるのか、ありがとうナユタ。お前はいい子だなぁ」

 

 なでぐりなでぐり。

 

「……本当に引き渡す必要あるの?」

 

◆◇◆◇

 

 少し落ち着いて、朝食の席。

 

「えー、良いニュース……って訳でもないけど、ナユタを引き渡すのは延期します」

 

 そんな中で切り出したこの話題。

 最初に反応したのはアサだった。

 

「やっぱり」

「やっぱりとは何だ」

「だってもう『このまま暮らせば?』ってぐらい相性よかったから……」

「延期っつってもそこまで伸びる訳じゃないからな? 精々1日2日だ」

「何かあったの?」

 

 ここでナユタが聞いてきた。

 

「んむ、先方の『お引越し』がブッキングしてしまったようでな。腰を落ち着けるまで待った方が良かろうと言う訳だ」

「事前に話通してたんじゃないの?」

「お互いに脛に傷持つ身だからなぁ。緊急事態とあっては仕方ないだろう」

 

 アポを取っていない事実をしれっと誤魔化しつつ。

 

「そんなわけで、ナユタとはもう何日が過ごすことになった。異存は?」

「ない!」

「無い……その場合、ナユタちゃんはどこで寝るの?」

「アサの所で良いんじゃないか? ナユタはどう思う?」

「アサお姉ちゃんのところがいい」

「決まりだな」

「お姉ちゃん……」

 

 ふむ、念のため一旦自害しておいた方が良いかもしれないな。

 

 百合の間に挟まるとどんな天罰が下るか分かったもんじゃないし、ならばいっそ自裁しておけば制御できると言う訳だ。

 

「分かった! じゃあこの延期した時間を使って、お姉ちゃんと遊びにいこう!」

「どこ行くの?」

「昨日水族館がリニューアルオープンしたらしいから、そこ行こう!」

「行く!」

「ちょいちょいちょいちょいちょい」

 

 アサ+水族館とか永遠の悪魔確定演出じゃねえか。

 正直、アレに対抗する手段なんて3つぐらいしか思いつかないぞ。

 

「どうしたの?」

「俺も行くわ」

「えっ最初からそのつもりだったけど……寂しいの?」

「男にはなぁ……分かっていても赴かないといけない死地だってあるんだよ!」

「水族館を何だと思ってるの!?」

 

 いや水族館って言うか、お前ら(アサナユ)が百合百合してるところに混ざるのが、なんかバチが当たりそうって言うか……。

 

 やっぱり一旦切腹はしてから行くか。

 

◆◇◆◇

 

 クラムボンは本当に賢い猫である。

 なにせ俺の胸元を殴りまくったら蘇生する事を知っていて、必要に応じてそうしてくれるのだから。

 

 これは心臓マッサージという意味ではなく、『機関銃の武器人間』の変身トリガーが胸元にある為だ。

 

 セーフティ、3点バースト、フルバーストの切り替えを行うスイッチみたいなのがあって、これを操作しても変身・蘇生できる。

 もっとも、クラムボンも正確に知っているわけではない様で、胸元を何度も殴っているうちに偶然操作されるだけといった感じだが。

 

 クラムボンが俺の顔に乗っかったまま眠って、窒息した俺をクラムボンが蘇生する流れがたまにある。

 

 血塗れになった浴室を念入りに洗浄してから燻煙剤で消臭し、着替えて玄関に向かう。

 

「お風呂で何してたの?」

「……禊?」

 

 そんなトンチキな会話をしつつ、3人で水族館に向かう。

 

 『お姉ちゃん』呼びで気合十分といった感じのアサがナユタを手をつなぎ、そのナユタと俺が手をつなぐ。

 ちょうどナユタを挟んで3人並ぶ感じだ。

 

 こういうのをデンレゼの間でやって欲しかったんだけどなぁ……などと思いつつ歩いて行った。

 まあ、楽しい行楽になれば良いか。

 

◆◇◆◇

 

「イソギンチャクはクラゲの仲間で生えている細かい毛で魚とか海老とか動物性プランクトンを痺れさせて食べているんだって。でもなにも食べなくても数年ぐらいは生きるらしくそこはクラゲと一緒だよね。ちゃんと飼育環境を管理した場合は70年以上も生きた場合もあるんだって。世界中どこの海でも……」

 

 忘れてた。アサが気合を入れてるって事はこうなるって事じゃないか。

 

 幸いなのは、今隣にいるのはデンジではなくナユタである点だ。

 ナユタは学習意欲が非常に強く好奇心旺盛。この読経みたいなうんちくを割と楽しそうに聞いている。

 

 普通に考えるとマジでただの地雷行動だけど、結局ケースバイケースなんだなぁ。

 

 ちなみに俺は興味が無いので、ずっとアサとナユタが並ぶというレアショットを目に焼き付けていた。

 

「なあなあ、ペンギン見にいかね?」

「ダメ。ここは後10分見る予定だから」

「予定?」

「私きちんと水族館を楽しめる計画立ててきてるから。大丈夫だから」

「ウィッス」

 

 相変わらず面倒臭い地雷女だぜ。

 Fooo~~!!(テンション爆上げ)

 

◆◇◆◇

 

 アサが設けたトイレ休憩の時間を、ナユタと戯れる事で潰してアサを待っていると。

 

「……あれ? アサ、お前ってそっちに行ったっけ?」

「……」

 

 アサが逆方向から帰って来た。

 明らかな異常事態。しかしアサは何も言わない。

 

「これは……」

 

 ふと周囲を見回してみると、人が居ない。

 まあ元々が平日の昼間。そう多くも無かったが、かといって0という事はあるまい。

 

 眼球だけ悪魔になって望遠すると……うーんこの。

 

「永遠の悪魔ですね……」

 

 禊には何の効果も無かったらしい。

 マジで勘弁してくれよ……コイツ銃で解決できないから面倒臭いんだよ……。

 

◆◇◆◇

 

 ナユタを肩車して適当に無限の水族館を直進する。

 ちゃんとアサが付いてこれるようにスピードは加減しているが、それでも風景が一切変わらないのでは精神的な疲労が重いらしく、思ったよりも早々にアサはバテた。

 

 そんなアサをひとまずスタッフルームで休ませつつ、ナユタと現状を話し合う。

 多分アサにも聞こえているだろう。

 

「まず下手人は『永遠の悪魔』。ある程度の閉鎖空間を外殻として、無限ループの空間構造を生み出し対象を閉じ込める。そして干上がるまで待つって戦法だ」

「陰湿」

「悪魔だからな。さて、今回の場合はこの水族館……ウニやヒトデ等、あまり動かないものが集められたブースが対象になっている。おかげで水と食料にはひとまず困らないと見て良い」

「余裕はあるって事?」

「多少な。水槽の水に酸素を供給するポンプが動いてなかったから、水棲生物はそのうち窒息死するだろうが、それまではまあ食える」

「……私、魚ダメなんだけど」

 

 虫の息なアサが、そんな注釈を挟んできた。

 そう言えばそうだったな。確か……なんかこう、死体って感じが強いのが嫌とかなんとか。

 

「じゃあまあ『代替的食料源』で凌いでくれ」

「代替的食料源?」

「1つだけ問題があるが……まあいいだろ」

「本当に? 本当に1つだけ?」

「1つだけだぞ? まぁ、これも量を弁えれば恐らく問題無い」

「……やっぱり頑張る」

 

 何かを察した風のアサが、苦虫を噛み潰したような表情で、絞り出すように決意表明した。

 そうしてくれるんなら、こっちとしても手間が省けて助かる。

 

 ちなみに、アサの直感は大正解である。

 

 なんて言うかこう……前作主人公みたいな事するからな。

 

 まあこれ以上は言及しないとして。

 

「魚って生で食べるの?」

「新聞紙が山と積んであるし、水槽の装飾の中に棒っぽい物もあった。火は俺が出せるし、魚を焼くぐらいの焚火は起こせるだろう。海水が使われている水槽があるから塩分も大丈夫だ」

「待って、じゃあ保存の為に魚を干そう」

「名案だな。この無限回廊を巡れば燃料も魚も海水も集まる。ややインク臭いだろうが、燻製にしてみてもいいかもしれん」

「むふー」

 

 ナユタが褒めて欲しそうにしている。

 

「えらい! かしこい! かわいい! かっこいい!」

「うぶうぶうぶうぶ」

 

 ので、ほっぺを捏ねる。

 罰なのか褒めなのか自分でもよく分からんけど。

 

「でも、いくら保存しても限度がある……脱出の手立ても考えないと」

「いいぞナユタ。そういう『攻め』の発想は大切だ」

「むふー……うぶうぶうぶうぶ」

 

 また捏ねる。

 

「で、脱出方法というか、この空間の攻略法だが3つほど案がある」

「思ったより多い」

「だがその内の1つはさっきやった所、駄目だった」

「判断が早い。ちなみに何だったの?」

「この領域の外にいる銃の悪魔の肉片に命令して、水族館を丸ごと吹っ飛ばす」

「ダメだった理由は?」

「感触としては、命令が届いてない感じだ。多分、時間も歪んでいるんだろう」

 

 おかげで美容室の予約を心配しなくてもいい……何て冗談を交えて続ける。

 

 まあ今だと外に残っている肉片の量はかなり少ないので、単純な戦力不足の不安もあったがな。

 どっちせよ、と言う訳だ。

 

「で、残りの2つは、片方が『理論上は可能だが実現に時間が掛かりそう』で、もう片方が『アサに負担を掛けることになる』案」

「どっちの方が良いの?」

「前者。確実だし、アサに負担を掛けないからな」

 

 そう言って2人が見る先のアサはひとまず回復こそしていたが、やはり未だ弱々しい気配が漂っている。

 

「もしかして、ジョージってやさしい?」

「俺ほどのズウェントゥルメェアンを捕まえて何をいまさら」

「なんて?」

 

◆◇◆◇

 

 アサが万全にまで回復するのを待ってから、3人で分かれて各々行動する。

 

 俺が魚と海水の回収。

 ナユタがこの異空間の調査。

 アサが新聞紙をはじめとする各種物資の収集。

 

 この分担にした理由は、単純な腕力の多寡が1つ。

 そしてアサに『落ちている金銭』を認識させる目的が1つだ。

 

 つまるところ、『水族館槍(アクアリウムスピア)』のフラグ立てだな。

 

 できればアサに負担を掛けたくないのは事実だが、それはそれとして保険はかけておく必要がある。

 また、あくまでもアサが能動的に動いた方が成功率が高いと踏んだ。

 

 ……こんなことばっかりしてるから『胡散臭い』とか言われるんだろうな。

 

「……」

 

 銃の悪魔の能力ででっち上げたテレキネシスで魚を拾い、普段使いの銃剣で軽く捌いて血抜き+軽量化。

 ハラワタをつまみ食いしながら、延々と周囲を睥睨(へいげい)する。

 

 見ているのは水族館ではない。この空間、領域そのものだ。

 

 似たようなものは以前にも体験したことがある。

 監獄の悪魔。厳密には監獄の悪魔が有する異空間の入り口といった所だが、現実空間を上書きして自分のルールを強制するという意味では似たようなものだ。

 

 あの時は『武器化の為に持って行かれる』という奇跡なんだか厄災なんだかよく分からん現象のおかげで助かったが、今回はそう言う当てはない。

 餓死したら死の悪魔か飢餓の悪魔のどっちかが拾ってくれるかもしれないが、蘇生可能な武器人間ではそれも望み薄。

 

「さてさて……どこまで粘るつもりなのかね……」

 

 俺は不死身の武器人間だし、ナユタは支配の悪魔で割と絶食が利く。

 ただ干からびるの待つだけで確実に取れるのはアサだけだ。

 

 である以上、永遠の悪魔はどこかで攻めに転じる必要があるはずだが……現状、その気配はない。

 チェンソーマンにミンチにされたのがよほどトラウマだったのか、あるいは別の狙いがあるのか。

 

 どこか不気味なものを感じつつ、拠点のスタッフルームへ向かった。

 

◆◇◆◇

 

 さて、再集結のスタッフルームで報告会。

 傍らでは新聞紙の焚火で海水を沸かして塩を作っている。これ時間かかるんだよな。

 

「じゃ、まずは俺から。見ての通り食えそうな魚が多く手に入った。海水も考えなしに使って良いだろう。逆に燃料が不安なぐらいだ。アサ、その辺はどうだった?」

「どのスタッフルームにあるのも量は同じだったけど、新聞紙の他にも燃料になりそうなものはたくさんあるから、こっちもあんまり考えなくていいかも……あとカバンの中にお金が入ってて、これも燃やせる」

 

 よしよし、フラグは順調に立っているな。

 

「金か……まあ、わざわざ燃やすことはあるまい。適当に積んでおこう」

「え?」

「なんだ?」

「いや、ジョージなら割と普通に燃やしそうって言うか……」

「……必要ならそうするが、必要でもないのにすることはあるまい」

「それは、まあそうだけど」

 

 アサの中で俺ってどんなイメージになってるんだ?

 ともかく、アサは続ける。

 

「あと冷蔵の中に水があったから、水槽の水を飲む必要もない。ある程度は耐えられそう」

「……(ねぐら)にするスタッフルームはずらして行った方が良いな。そうした方が物資収集が楽だ」

「それなら掃除の必要も無い」

「私からはこれぐらいかな。ナユタちゃんは?」

 

 ナユタの担当は異空間そのものの調査だったが、はてさて。

 

「まず床とか天井とか外してみたけど、同じ様な水族館に戻るだけだった。ダクトも通ったけど同じ。一応後でジョージに頼むけど、多分壁を壊しても意味は無いと思う」

「この調子だと、脱出方法は特に設定されて無さそうだな」

「……」

「同感。で、これが重要なんだけど」

 

 ナユタの指から鎖が飛び出し、適当な魚の一匹に命中。

 魚は跳ねて、自分からゆだった海水に飛び込んでいった。

 

「悪魔の力は使える」

「……そうなのか? いや、それはそうか。火を起こしたのは銃の炸薬だったしな」

 

 確か原作だと使えなかった様な……いや、戦争の悪魔は使えていたはず。

 となると時間的な断絶があるから、通信が必要な()()悪魔の力は使えないのか。

 

 逆に、力の出所がループ構造の内側で完結していれば使える、と。

 

「まあ、概ね予想通りだな。良くも悪くも」

「どうするの?」

「……ひとまずは待機だ。永遠の悪魔が何か仕掛けてくるかもしれんからな」

 

 俺はひとまず魚を焼きながら、領域を睨みつける作業に戻った。

 

◆◇◆◇

 

 アサはずっと回想していた。

 それは自分が設けたトイレ休憩の時間。その中で自分がトイレの中で出くわした異常事態について。

 

 その少女の事は、当初何の変哲もない少女だと思っていた。

 

「……ハンドクリーム、貸してくれる?」

「え? ……まぁ、どうぞ」

 

 そんな一声が始まりで、アサはその少女と会話をすることになった。

 

「ありがとう。彼氏と来てるの?」

「かれっ……って程ではないんですけど、まあ、男の子と、あと親戚の女の子も」

 

 よく通ると思ったな、などと揶揄した言い訳を今度はアサが使う。

 これも一種の因果応報か。

 

「ふぅん……最近は妹に追い抜かれることが多い」

「妹さんがいるんですね」

「泣き虫と、生意気と、腹黒のがいる」

 

 酷い評価だ。

 アサはそう思ったが、ひとまず黙っておくことにする。

 

 曖昧な笑みは大体の難しい話題を解消してくれるのだ。

 

「特に、三女の方はおませさんらしい」

「えっと……?」

 

 適当に流す話題かと思えば、そうでも無いらしい。

 しかしそんな話をされたところで、一人っ子のアサとしては困るばかりと言うか。

 

「私は戦争の悪魔のお姉ちゃん。『飢餓の悪魔』」

「え?」

「キガちゃんって呼んで」

「キガ……?」

「アサ! こいつは……!」

 

 パチン。

 

 少女が……飢餓の悪魔が指を鳴らすと、一瞬でヨルがいなくなった。

 

「ヨル!?」

 

 消えたヨルがいた所を振り返るが誰もいない。

 もう一度振り返って飢餓の悪魔がいた所を見るが、こちらも誰もいない。

 

「ヨルは私が外に連れて行った。一時的に、だけど」

「えっ」

「飢えればある程度の道理を捨てられると思うの。だから私がその舞台を作ってあげる」

 

 飢餓の悪魔は居ない。

 しかしその声だけは妙に反響して、何処からともなく聞こえてくる。

 

「ジョージ君とセックスするまで水族館から出られないから。それじゃあね」

「!?」





ちなみにジョージ君のSAN値は最初から0なのでSANチェックは無効です。
アダム・スマッシャーと同じ扱い。
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