デンレゼ過激派転生者   作:翁。弁当

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まだGWかもしれない


呪いと海に底は無く、故に全てを受け入れる

「……マジっすか?」

 

 デンジの鋭い視線がレゼを射抜く。

 その声色はどこかおどけた風を装っているが、しかし表情にはとんでもない『真剣(マジ)』の迫力があった。

 

 そのギャップ……というよりは、隠しきれないからギャップになってしまった未熟が、どうにもレゼには可愛らしく見えてしょうがない。

 これもまた惚れた弱味、という事だろうか。

 

「胸だけ、だからね?」

 

 改めて念押ししておくことにした。

 レゼだってそれなりに悪環境での生活にはなれているが、それはそれとしてこんなシチュエーションで初めてを迎えたいわけでもない。

 

 まあ、デンジにエスコートを期待するのはお門違いも良い所だとレゼは理解しているので、何も一日通しのデートのクライマックスに、みたいなものは望まないにしても。

 清潔な布団とシーツがあって、警戒の必要が無いリラックスできる空間で、ぐらいは望んだってバチは当たらないはずだ。

 

「お、おぉ……」

 

 しかしここでデンジの中に去来する疑念。

 デンジは胸を揉むために文字通りの死闘を演じたことがある。結果としてその戦いには勝利して、きっちり胸を揉む権利を取得したし行使もしたが。

 

 偽乳。

 

 邪知暴虐たる血の魔人パワーは、前々から仕込んでおいた胸パッドによって胸囲を盛っていた。

 その欺瞞が暴かれて以降のパワーの胸は、前向きに表現しても『ささやか』としか言いようがなく。

 

 デンジは『あれ……? こんなモン……?』という失望に打ちのめされた。

 

 レゼが偽乳(そう)ではない事は分かっている。これだけ長く一緒にいたのだ。流石に隠し切れまいとは思う。

 

 しかしその失望に打ちのめされた後が問題だ。

 その時のクソッタレな気持ちを、マキマに対してつぶさに語ったのだ。そりゃあもう、微に入り細を穿つと言わんばかりに、乏しい語彙力をフル活用して可能な限り情緒的に語った。

 

 するとマキマは、デンジの手を取って自分の胸に当てさせた。

 

 その瞬間の衝撃、動揺、高揚、ときめき……今でも思い出せる。

 マキマの胸は、デンジがかつて夢想し、しかし砕かれた空想を体現していた。

 

 レゼの胸は衣服の上から伺える限りでは、恐らくマキマのそれよりも小さい。

 果たして、あれほどの衝撃があるのだろうか。

 

 或いは、『あれ……? こんなモン……?』なんて思ってしまわないだろうか。

 

 失望そのものではなく、レゼを相手に失望してしまう自分の可能性こそが、デンジの抱いた疑念の正体であった。

 

「……どうしたの?」

「いや……大丈夫、大丈夫だ」

 

 流石のデンジも、そんなことを詳らかにしたってろくなことにならない事はなんとなくわかっている。

 故に、賢明なる沈黙を選んだ。

 

「……別に触りたくないなら良いけど」

「触りたいデェス!!」

「ふふ、声デカ」

 

 レゼは少し笑って。

 

「じゃあ……どうぞ!」

 

 照れ隠しなのか、どこかおどけた風な声色でデンジに体を向けた。

 しかしデンジにそんな細かい所を気にする余裕は既になく、視線はレゼの胸へと一点集中。

 そしておずおずと手を伸ばして……

 

 ふに。

 

「んっ……」

「!?」

 

 結果から言えば、デンジの疑念は杞憂だった。

 実の所、ブラジャーとブラウス越しの感触である。真実ありのままのものではないのは確かだが、そんなことはどうでもよかった。

 

 顔を真っ赤にして、眼を細めて逸らし、口を固く結んで、それでもわずかに漏れ出た声。

 恋人以外では決して聞けない秘密の声。

 

 パワーの様な演技ではない。マキマの様な余裕でもない。

 デンジと同じ目線にいる、等身大の反応。

 

 まさしく心臓も月までブッ飛ぶこの衝撃をなんと例えようか。

 

「レゼ……」

「デ、デンジ君……」

 

 正直な所、レゼとしてもあんな声が出るとは予想外だった。

 

 ハッキリ言って、女性の胸部とはそこまで『都合の良い』構造になってなどいない。

 よほどの『熟練』であるならまだしも、レゼにそうした経験値は無いのだから尚の事。

 

 敢えて理屈をつけるなら……などと小難しいことを考えて平静を保とうとしたレゼだが。

 

 ふにに。

 

「ふぁ……っ」

 

 散逸する。

 ほんの数ミリ。デンジの指の第一関節が、たったそれだけ動いただけで。

 

「レゼ……」

「!!」

 

 どこか熱に浮かされた様なデンジの声。

 それに対して反射的にレゼは両腕を突き出して、デンジを押し出すことで一旦自分から離させようとする。

 

「デッ、デンジ君終わり! 終わりだから!」

「エ~ッ!?」

 

 凄く残念そうな顔をしつつも、デンジは割と素直に体を引いた。

 

 デンジはなんだかんだで逆らわない。

 短い人生の中で磨いた処世術というよりは、生まれ持った生来の気質。

 

 だが同時にデンジには素直さがある。自らの瑕疵を認め、反省し、成長する素直さ。

 まぁ、瑕疵を瑕疵と認識する分析力が無いので、あまり生かされる機会もない素養だが。

 

 しかしこの素養を活用して、デンジにはちょっとした(さか)しさが芽吹きつつあった。

 

 デンジは確かに、一度体を引いた。

 そして次の瞬間、強引にレゼに抱き着いた。

 

「ちょ、デンジ君! もう終わりだって」

「こ、これは今日の分のハグだから! まだだったろ?」

「そうだけど……」

 

 終わりだと言われ、離れろと促された。

 故にそこには従おう。

 

 だから別のルールを活用する。

 

 1日1回は2人でハグするというルール。

 7割の喧嘩を6割ぐらいの確率で5割引きにするボディランゲージの取り決めである。

 やるとやらないとでは関係性の継続率が大きく違うとはジョージの談。

 

 しかし。

 

「レ、レゼもしねえと終われねえぞぉ……?」

「もー……」

 

 ここでデンジの善性が良心を咎める。

 ルールの抜け穴をついたクレバーな解決法というより、ただのズルやグリッチの様な後味の悪さがデンジの中に残る。

 

 その後ろめたさを感じ取って、レゼは少し落ち着いた。

 まあでも、ああいう積極的なのも結構……などと満更でもない気分でデンジを抱き返す。

 

 デンジの体温と、心臓の鼓動がレゼを包み込む。

 しばらくすると完全に落ち着いて、小さく安堵のため息を漏らす。

 

「あ……」

「おうッ!?」

 

 しかし、デンジに電流走る。

 具体的には股間の辺りに。

 

「……」

「……」

 

 雨が降っている。

 レゼを普通の女の子にする雨が。

 

 そして、『秘め事』を覆い隠す雨が。

 

「……」

「……」

 

 レゼは少し、気を鎮める意味も込めて周りを見る。

 

 薄暗く薄汚い小屋だ。シーツの1枚も敷かれておらず、電球の1つも贅沢品という有様。

 ムーディなBGMなど雨音以外に望むべくもなく、吹き溜まった埃の擦れる音は耳障りで、人によっては咳もくしゃみも止まらない事だろう。

 

 ありていに言って、最悪の場所だ。

 清潔な分だけモルモットの頃の部屋の方がマシかもしれない。

 

「でも、ま……いっか」

 

 人がましく生きているだけの犬とモルモットらしいこの空間に、謎の親和性を感じてしまった。

 そして何より、相手がデンジなら、まあ最悪どんなところでも良いか、という諦めも。

 

「いっか? いっかってのは、つまり、その……?」

「デンジ君、そう言うのは……女の子に言わせることじゃないでしょ?」

 

 視線を少し上げて、デンジの顔を見る。

 逆光で影になったデンジの顔は黒く塗りつぶされて、その表情を読むことは出来ない。

 

 ……逆光?

 

 おかしい、とレゼの思考が再起動する。

 しかしその思考は、()()()()()()()()()デンジの顔によって散逸した。

 

「―――ッ!?」

「取ったぞ、チェンソー!」

 

 ブゥン。

 ピィン。

 

 デンジの胸元に顔を近づけて、噛み含んだスターターの紐を引っ張る。

 同時に、自分自身の首元に手を伸ばしてピンを引き抜く。

 

 飛び掛かってくる謎の影に、レゼの爆発が襲い掛かり、しかし身を翻して距離を取られた。

 

「むぅん。まさか女も悪魔であったとは……しかもこの熱……」

 

 改めて周囲を見回すと、そこは既に寂れ古びた物置小屋などではなかった。

 

 天井には快晴の空が多い、夏を思わせる日差しがさんさんと降り注ぐ。

 床にはきめ細やかな砂が積もり、規則的な潮騒が足元を洗う。

 壁には南国を思わせる植生が生い茂って、所々に岩場も散見された。

 

 夏の離島。

 

 デンジとレゼは、いつの間にかそんなところにいた。

 否、デンジとレゼだけではない。

 

 あと一人、或いは一匹。

 

 ぱっと見の印象は、人型になった頭足類といった所か。

 瞳の形状はまさしくそんな感じだし、体表を覆うテカりは粘液か何かだろう。

 四肢を生やして二足歩行しており、頭足類の肝心要である触手は口元と思しき部分に密集してまるで口髭のようだ。

 

 しかし腰部には皮膜状の小さな翼。

 

「……タコの悪魔?」

「私をタコにした罪は後で償わせるとして……」

 

 タコではないらしい。じゃあイカ?

 いや、どっちにしても翼の説明にはならないか。

 

「まずはチェンソーだ」

 

 両手を複雑に組み合わせたなにがしかの悪魔の周囲の空間が波打つ。

 その波紋の中心から飛び出した、明らかに既存の生物ではない魚類が、未だ再生中のデンジに襲い掛かる。

 

「ぼんっ」

 

 レゼの両手が光り輝き、生み出された爆轟が空を叩く。

 呼び出されたよくわからない魚類っぽい生物を消し飛ばして、その圧倒的な熱量は悪魔の元まで届く。

 

 そして生じる膠着状態。

 

 レゼは戦線復帰するまでデンジの傍に張り付いて時間を稼ぎたい。

 悪魔は相性の悪いレゼに近付かずにチェンソーを仕留めきりたい。

 

 そうした思惑の合致が、遠距離での火力戦という構図を生み出した。

 

 だがそう長くは続かない。

 元よりチェンソーの再生力は一級品。頭部こそ吹き飛んだが心臓は無傷で、血が足りなくなるほどの継戦もしていない。

 

 レゼの背後で砂が擦れる音がする。

 

「デンジ君!」

「なんか……スゲェー良い夢見てた気がするぜぇ……ふぅー……」

 

 デンジが両腕のチェンソーを吹かして絶叫する。

 

「俺の人生、こんなんばっかかぁぁぁぁああああ!!!」

 

 だいぶ悲痛な叫びだった。

 

「出会う女にゃあ片っ端から殺されかけるしよォ! 胸ぇ揉んだら偽物だしよォ!! キスしたらゲロ流し込まれるしよォ!!!」

「えっ待ってデンジ君キスは聞いてない」

「挙句エッチできるかと思ったらなんだこりゃあ、ええおい!? 悪魔かテメエはぁ!!」

「悪魔だが?」

 

 何ならこの場には悪魔しかいない。

 

「決めた決めましたぁ! テメエんこたぁ、チェンソーでしこたまチタタプにしてから、ミソとネギで煮込んで喰う!」

「チタタプなんてどこで知ったの?」

 

 アイヌはソ連と日本を結ぶ平和の象徴だとジョージに適当吹き込まれたからである。

 ジョージの質が悪い所は、最低限嘘は言っていないと強弁できる範疇でしか適当を言わない所だ。

 

 悪魔はチタタプについては知らなかったが、最後の捕食宣言には過剰に反応した。

 

「喰う? 喰うだと!? この私を……この『深海の悪魔』である私を喰うといったか!? それが何を引き起こすか分かったうえで言っているのか!?」

 

 悪魔がチェンソーマンに喰われるという事。

 それは、喰われた悪魔の冠する概念が、この世から消滅するという事だ。

 

 今回の例では、世界から『深海』がなくなるという事。

 

 その影響を推定することは出来ない。

 生態系の破壊、地殻変動に対する影響、海流システムの破綻……ともすれば、それだけで世界が終わりかねないほどに大きな事態。

 

 当然デンジはそんなこと知らないし、そもそも赤いチェンソーマンでしかない現在のデンジにその能力を発動することは出来ない。

 言ってしまえばただの杞憂に過ぎないのだが、その恐怖がデンジに注がれ、チェンソーがわずかに肥大化する。

 

「俺がスッキリしてぇ……テメェがくたばるって事だァ!!」

 

 勢いそのままにデンジは踏み切った。

 深海の悪魔に対して、正面からの吶喊。

 

 それを迎撃すべく、深海の悪魔は次から次へと魚の眷属を放つ。

 圧倒的な、無尽蔵の物量。両腕のチェンソーを振りますだけでは到底追いつかない。

 

「自分の力を理解しないと、って言ったでしょ?」

 

 だがその物量を、レゼが爆撃で押し潰す。

 遠く離れてからはミサイルを放ってデンジを守る。

 

「ぬぅん……」

 

 もはや眷属の吶喊による消耗戦術に優位性無し。

 それでも深海の悪魔は、この戦術を中断する事はできなかった。

 

 レゼの処理能力を圧迫するために。

 

 深海の悪魔の体表は粘液で覆われている。これは要するに保湿であり、それだけ大仰にしなければ追いつかないという事でもある。

 つまり、深海の悪魔は乾燥に弱いのだ。そして保湿の要である粘液を吹き飛ばせる爆風と、むき出しになった皮膚を焼く爆熱を併せ持つレゼとの相性はまさに最悪。

 

 故にその爆撃を引き受ける囮が大量に必要だが、いくら呼び出してもチェンソーとの格闘戦には何ら寄与しない。むしろ両手が塞がる分だけマイナスですらある。

 

 深海の悪魔からすれば、悪魔が協調し連携を取るなど想定外。ある程度似通った性質の悪魔同士であれば意気投合する事もあるが、この2人はそうではない。

 だからこそ生まれる相乗効果が、深海の悪魔を追い詰めていた。

 

「……致し方ない。横取りされるリスクはあるが、殺されてはしょうがないからな」

 

 深海の悪魔は印相を組み替える。

 

 既に展開している領域の、後付けでの仕様変更。

 水彩画を水で濡らして絵具を溶かし、全く別の絵に仕立て上げるが如き高等技能である。

 

 何か来る。

 その直感に従い、レゼは空へ飛んだ。

 

 そしてデンジのチェンソーが深海の悪魔に届こうとしたその瞬間。

 

「どわーっ!?」

 

 足元の海が一気に膨れ上がり、デンジの体を上空へ吹っ飛ばす。

 それは足元だけではない。異空間の中にある全ての海。その潮位が爆発的に上昇している。

 

「なにこれ……」

「この海ッ……深いッ! ごぼぼぼっ! ぼっ!!」

 

 チェンソーの重みで沈みつつあったデンジを導火線で拾ったレゼの肌に、背筋が震える程の冷気が襲い掛かる。

 正直に言って、何が起きているのか分からない。

 

 呆然とせり上がって来た海を眺めていると、その中に深海魚を見つけた。そして、それは先ほどまでの眷属の様に、支配されていない様だった。

 

 離れていても伝わってくる低温、そして統率されているわけでもなさそうな深海魚。

 併せ考えれば、事態の推測は立った。

 

「まさか……現実の深海を召喚した?」

 

 いや、それなら既にレゼは水没しているべきだし、逆に異空間そのものが圧壊していてもおかしくない。

 正確に言うなら、極一部を引き込んだ、と言った所だろう。

 

「おわわわわ!?」

 

 導火線で繋がったデンジを振り回し、ドッジロールを繰り返して的を絞らせないように動く。

 

 だが、ここは悪魔の領域(はら)の中。

 当たらないのが問題ならば、当たるようにすればいい。

 

 それは『壁』であった。

 

 大きな大きな海水の壁が、一撃で何もかもを飲み込み、渦の中で強かに打ち据える。

 

 直前で察したレゼは、次から次へと大爆発を起こして海水を蒸発させ、自らの爆薬が湿気るのを防ぎつつ、水中という致命的なイニシアティブを握られる環境を拒んだ。

 しかし圧倒的な物量を前に、その防衛線は次第に削られていく。

 

 やがてレゼの処理能力が限界に近付いた時……鋭く尖った石片が、デンジとレゼを繋ぐ導火線を切り離した。

 

 深海の悪魔は大量の海水の中に隠れて、ずっとその機を伺っていたのだ。

 

 レゼは爆風と爆熱を併せ持ち、おまけに海水から逃れる飛行手段まで持っているという最悪の相性。

 だが深海の悪魔にとって、レゼは天敵でこそあれど標的ではない。無理に撃破を狙う事は無いのだ。

 

 あくまでも目標はチェンソーの心臓。深海の悪魔は狙いをブラさなかった。

 そして、レゼもまた狙いをブラしたりはしなかった。

 

「ぼんっ!!」

 

 一か八か、全身全霊の大爆発。

 対象はデンジ。方角は海から脱する上向きの鉛直方向。

 

 相性や合理性に限って言えば、デンジを切り離してレゼが戦うべきかもしれない。

 それでも、目の前でデンジが窮地に陥っていて、たとえ合理的であろうとそれを見捨てることなどできるものか。

 

 それができるなら、レゼはあの日、あの喫茶店に向かったりはしなかったのだから。

 

 爆発のエネルギーで、デンジは海水の中を超高速で移動し、やがて水面を突き破って空に上がる。

 デンジに飛行能力は無い。このままでは通らず海水に落下して、深海の悪魔と水中戦という最悪のシチュエーションだ。

 

 故に、デンジは叫んだ。

 

◆◇◆◇

 

 深海の悪魔は、複数の領域効果を使い分けることができる。

 だが、深海の悪魔の単純なスペックは『根源的恐怖』どころか『四姉妹』にすら並ばない。

 

 力量と容量の矛盾は、様々な涙ぐましい創意工夫によってなされている。

 

 この深海を呼び込む領域では、例えば既に存在する海水を流用する事でコストを使っていない。

 他にも注水口と排水口を設けて循環させることで外殻への負荷を軽減しつつ水の低温を維持していたり、事前に別の領域を展開した上でしか発動できないようにして外殻のコストを踏み倒したり、色々だ。

 

 深海を呼び込む領域は、常に穴が開いている領域としては極めて特殊な構造なのだ。だからこそ、深海魚が混入する事もできる。

 当然、深海魚以外だって注水口に飛び込めば同じ様に侵入できるし、排水口も同じだ。

 

 当然、デンジの絶叫だって貫通する。

 

「ビィイーム!!!」

 

 デンジだって、理屈で叫んだわけではなかった。

 だが、ビームはデンジに後悔をさせなかった唯一のサメである。

 

 これまでも、そして、これからもだ。

 

「……ェンソー様ァ!!」

「えっマジで来た」

 

 一周回って変に落ち着いてしまったデンジは、思わずそう呟いた。

 

◆◇◆◇

 

「増援だと……? 一体どこから、いやそれよりも」

 

 チェンソーが『足』を得てしまった。

 本来であれば大量の水によって機動性を奪い去り、その上で嬲り殺しにして心臓を引っこ抜いてやる算段だったのに、これでは肝心の機動性を奪うというお題目が達成できない。

 

 窒息を狙って海水を増やすか……否、満杯にしてしまえば外殻が耐えられない。

 では領域効果を切り替えるか……否、これではレゼが自由になりかねない。

 

 レゼは今は爆発していない。窒息で失神したか、或いは何らかの発動条件を満たしていないのか。

 しかしいずれにせよ、現状を変えすぎると発動条件を取り戻す可能性がある。そうなればいよいよ深海の悪魔に勝ち目はない。

 

 選んだのは、中庸。

 

 領域内部の潮位を半分程度にまで下げ、余った海水を空中で渦巻かせる。

 さながら空中にまで延伸してきた渦潮の様に。

 

「テーマパークに来たみたいだぜぇ……テンション上がるなぁ!?」

 

 ブゥン。

 

 デンジが心臓を吹かし、チェンソーがうなりを上げる。

 その音に感銘を受けるかのように、ビームもまた全身をパンプアップさせていく。

 

 停止状態から一気に最高速度まで加速した双方は、逆巻く海を縦横無尽に駆け回る。

 

 のたうち蜷局を巻く海は全てが深海の悪魔の味方である。領域効果とは無関係に生み出した眷属も織り交ぜ、牽制も忘れない戦上手。

 単純なスペックだけに頼らない知性的な戦闘スタイル。

 

 だが、下半身がチェンソーで切り離されるのに、そう長い時間はかからなかった。

 

「ぐぅ……ッ!」

 

 致命傷。だが即座に水中へ逃げれば追撃はできない。

 領域を解いて脱出し、体勢を立て直す。十分な人血があればまだまだ再生ができる範疇だ。

 

 ごりっ。

 

「な……」

 

 深海の悪魔の頭蓋に硬いものが押し付けられる。

 それは水中に潜り、ずっと息をひそめていたレゼの銃。

 

 水中で能力は使えない。格闘も水がまとわりついて不十分。レゼの個人技はほぼ封殺された状況だ。

 だが、銃は個人技とは無関係に殺傷力を持つからこそ、『銃』なのだ。

 

 即座に引き金が引かれる。

 深海の悪魔は、こめかみに風穴を開けられて死んだ。




深海の悪魔:異空間特化型の悪魔。血縁関係は闇の悪魔の子供で宇宙の悪魔の弟。要するに呪術廻戦の陀艮。移動には多分ダゴン車を使っている。CoCの魔術を大体全部使えるという草案もあったが、こぶし+ダメボで5D6は回るだろうコンビを相手にすると勝ち目が無さそうだったので没にした経緯を持つ。

考えてみれば宇宙の悪魔のアレはただの無量空処だし、考える程に2作品の類似性に感嘆を禁じ得ない。

テーマパークに来たみたいだぜぇ:デンジなら多分言う
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