デンレゼ過激派転生者   作:翁。弁当

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敵が人を育てる

「もー、ほんっと色々あったなぁ……追手はいなかったけど、悪魔との遭遇率高かったぁ……」

「た、大変だったんですね……」

「いざって時は銃が使えたからまだ良かったけど、無かったらしんどかった」

「銃? 銃使えるんですか?」

「昔に訓練受けたから、それなりに使えるよ」

「そもそもどこからそんなもの……」

「ジョージ君から貰ったけど。あ、そうだジョージ君」

 

 デンジはまだ台所で茶の準備をしている。

 レゼは思ったよりも早く来てくれたな。

 

「どうしたー?」

「リサイクル方法教えてもらっといてなんだけど、新しい弾薬くれない? 炸薬は時間かければ何とかなりそうだけど、弾頭がどうしても用意できなくて」

「あぁ……その問題があったな」

 

 弾頭は炸薬のパワーを受けて崩壊しない強度が必要である。

 入手性との兼ね合いを考えるとどうしたって金属素材に頼らざるを得ないが、その金属を弾頭の形状に加工するのが難しい。融点が低く加工しやすい鉛は第一候補だが、だとしても正確な寸法の鋳型が無ければ薬莢に入らない。

 よしんば首尾よく弾頭を作れたとしても、その弾頭を薬莢にねじ込む機材もないし。

 

 炸薬については、レゼが爆弾の悪魔である以上はそれこそ時間の問題でしかないのだろうが。

 

「どれ……じゃあ弾薬60発と、替えの弾倉(マグ)2つでもあれば十分か?」

「お願い」

「対価はどうする? 言っとくが、金じゃあ無理だぞ」

「……やっぱり要る?」

「払っといた方がすっきりするだろ?」

 

 いわゆる『只より高い物はない』って奴だ。後から何を言われるか分かったものではないのだから、最初から対価を払っておけばそういう疑いもなくなるというもの。

 最初に渡した餞別についてはそんなこと気にする時間もなかったが、今ならそういう配慮もできる。

 

「こっちの事ばっかり」

「何かと入用なのは事実なんだから、甘えとけって」

「まあ、確かにありがたいけど……」

 

 正直な所、生のデンレゼを目撃させていただいている俺としては、心情的にはむしろ金を払いたいぐらいなのだが、そんなこと言って通じる訳も無し。

 

「んー……じゃあ今晩カレーにするから、ジョージ君も食べる?」

「アサとナユタの分も頼む」

「交渉成立! 後で買い出し行こうね」

「おー、何の話だ?」

 

 ここでナユタを肩車したままのデンジが戻って来た。

 盆に乗ったコップは人数分あり、もし話が終わって無くても上手い事割って入れる口実と言う訳だ。

 

 なんだかんだでクレバーな所あるよな、コイツ……。

 

「みんなで買い出し行こうって話」

「目立たねぇか?」

「大丈夫だと思うよ。集団そのものが目立ってそれぞれの印象は薄れると思うし、多分一番目立つのジョージ君だし」

「お? 喧嘩か?」

「いい意味でね、いい意味で」

 

 それ付けときゃなんでも許されると思うなよ。

 

「うーん、顔が良い。無罪!」

「ね? こんなこと真顔で言うんだから」

「確かにそうだな」

 

 納得されてしまった。

 

 デンジは全員にお茶を配膳しながら、次の言葉を繋ぐ。

 

「で? ジョージは何の用で訪ねてきたんだよ。一応俺たち逃亡中なんだけど」

 

 ふむ、確かに全員の意識が集まってくれたことだし、ここらで話すとするか。

 

「良いニュースと悪いニュースがある。どっちから聞きたい? じゃあレゼ!」

「私? ……じゃあ、悪いニュースからで」

「悪いニュースは、お前らの追手にドイツの『サンタクロース』が参戦したと思われる事だ」

「うわぁ……」

「?」

 

 レゼは頭を抱えてげんなりしているが、デンジはよくわかっていないらしい。

 

「その、サンタクロース? ってのがどうしたんだよ」

「一言で言うと、クソ面倒臭いデビルハンターでな。人形の悪魔の能力で、触った人間を人形に変えて使役する能力があるんだが、人形になった人間に触った人間も人形に変えられるんだ」

「?」

「……要するに超物量で押し込んでくるクソ面倒臭いデビルハンターだ」

「なるほど!」

 

 確かに文章に起こすと分かりづらいな。

 

「能力使われたら終わりみたいなものだけど、人間が居ればそれだけで能力を使えるから止めようがない。本体を倒さないと能力が終わらないけど、本体が何処に居るのかは分からない。おまけに本体そのものの情報も『高齢男性』以上は無し……」

「どうしろってんだ……」

「パッと思いつくのは『素材』が尽きるまで殺し続けるぐらいだな。ちなみに今レゼが言った情報はちょっと間違ってて、本体は20代~30代程度の、黒髪ロングの女性だぞ」

「え? そうなの?」

「『サンタクロース』として一般に知られている高齢男性も人形なんだ」

「あぁ~……なるほど、確かに私でもそうするかぁ……」

「で、『サンタクロース』の更に面倒臭い所が、その人形も契約に使えるって所」

「んだそれ! ズルじゃん!」

「まあ悪魔との契約って如何にコストを踏み倒すか、みたいなところあるからね……」

「マキマも似たような事やってたしな」

 

 人形に変えるとその時点で死亡判定されて契約が切れるので、素材にした人間が結んでた契約悪魔の能力は使えないけどな。本当にただの契約素材にしかならない。

 

 まあこのリサイクルは流石に『上質な人形』だけの特権っぽいが。

 

「はぇー、俺他のデビルハンターの事とか初めて知ったわ」

「まあ、武器人間(わたしたち)には縁の遠い話だよねー」

「それ言い出したら、私の方がよっぽど縁遠いんですけど……」

「アサちゃんは一般人だし……」

「むしろ縁遠い方が良いぞこんな物騒な話」

「その分ガッコーの勉強とか俺たちわかんねえし」

 

 そういうもんかなぁ……なんてアサは言っているが、この場にいるのはマジで外れ値だけなので人生の参考にはしない方が良いと思う。

 いや、そもそもアサも十分に外れ値だったか。戦争の悪魔と契約してる時点で大概だわ。

 

「で、ここまでが悪いニュースだ。ここからが良いニュースなんだが……」

 

 カバンをガサゴソと漁って目的を茶封筒を取り出す。

 前に岸辺から貰った奴だ。

 

「じゃじゃーん、お前達の正式な戸籍です」

「へ?」

「え?」

「は?」

「ほ?」

 

 三者三様の困惑+ナユタの悪ノリが合わさって妙なアンサンブルが完成してしまった。

 

「正確には、行方不明者の中に混ぜ込んだお前達の偽造書類を正式な手続きで有効化するための書類だけどな。この茶封筒の中身にいくつか署名して印鑑登録して身元保証人を用立てたら、お前らは日本人としての権利と尊厳が保証されるようになる」

「待って待って待って待って……」

 

 レゼが頭を抱えている。

 

「言っておくが、これは俺の善意……というのもおこがましい、ただのお節介だ。断ってくれてもいい」

「……どうやって用意したの? 私も最初は戸籍偽造しようとしたけど、ガチガチで諦めたよ?」

「持つべきものは特異課の友ってな」

「……あぁ!? 先生ってこんなことしてくれんの!?」

「察しが良いな」

 

 以前に言った『もっと良い岸辺のコネの使いどころ』とはこれの事だ。

 

 マキマがいなくなり、首脳陣がいなくなり、首都東京は大混乱。

 そこに国家お抱えデビルハンターの総本山である公安の、それも最も危険で、ある種特権的な特異課の長。

 更に電子化されておらず、紙の原本でのみ保存されている1995年のお役所仕事で、『元々こんな奴いたっけ?』という疑問にも紛失・消失の言い訳が利く。

 

 ここまで条件がそろってしまえば、如何に厳正で優秀な戸籍制度であっても、行方不明者リストの中に架空の人物を2、3人ねじ込む程度は造作も無い。

 

 勿論いくら簡単だろうと不正は不正。

 危ない橋を渡らせたことに違いはないので、俺もそれなりの代償を支払うことになっているが、それはさておき。

 

「そう、東京の混乱に乗じて、岸辺さんにねじ込んでもらったわけだ。あの人お酒で意図的にネジ緩めてるだけで、素面だと割と常識人だから結構話通じるぞ」

「話すも何もギッタギタにされた記憶しかねえ……」

 

 さもありなん。

 

「で、どうする? 要る? 要らない?」

「えぇ……なんでそんな緩い感じなの」

「別にどっちでも良いし。今の調子の逃亡生活続けたいんならそれはそれで好きにすれば良い」

「……何が狙い?」

「んー、まあ、さっき対価を求めた以上はそうなるよな。コイツの対価は主に2つだ」

 

 ここで茶を一口……ん、まあまあ美味いな。

 

「まず1つ目は、お前たちの身柄を公安預かりにすること。人外だから多分特異4課だな。いや、武器人間の特戦隊ができるって話があるから、その特異5課かもしれん。まあその辺の人事はその時に聞いてくれ」

「ん、まあ妥当かな。協力した人が人だからね」

「悪いな。銃の悪魔の所為で人手不足らしいわ」

「じゃあお前の所為じゃん」

「HAHAHA。ちなみに、公安所属の人外は基本的に1人部屋の(どくぼう)生活だから。そうならないように配慮はするが」

「あれ? でも俺早パイんチで暮らしてたぜ? あとパワーも」

「それはマキマの取り計らいだな。お前らは人間の脳ミソが残ってる方だし、家主が腕利きで情に厚いから、何とか通せた異例の措置だよ」

 

 実際は『デンジを幸せにしてから一気に不幸にする』という仕込みの段階だったわけだが、そんな悪意などわざわざ伝える必要はあるまい。

 

「ま、デンジとレゼはどっちも人格は丸ごと人間のままだし、東京はまだまだ悪魔に敏感だ。特異課所属とはいえ対外的には人間として扱うかもしれん。その場合は同棲もできるかもな」

「んー……その辺は、ちょっと微妙かなぁ……」

「だよな。レゼと同棲するんなら、今でも出来てるぜ」

 

 確かにそれはその通りだ。

 だが少し大切な所を忘れているぞ。

 

「だが、収容とは保護でもある。先ほど言った『サンタクロース』や、それ以外の懸賞金狙いのデビルハンター。ソ連の工作員に、チェンソーの心臓を狙う悪魔……いくら武器人間が不老不死と言えど、神経をとがらせ続けるのには限界がある。そうだろ? レゼ」

「……」

 

 レゼは答えない。

 答えないが、答えない事こそが何よりも雄弁であった。

 

「デンジに索敵のスキルなんざある訳ねえからな。その辺は全部お前がやってたはずだ。逃亡してからこっち、まともに熟睡したことあるか?」

「……レゼ、どうなんだ?」

 

 不安そうなデンジがレゼに問いかけるが、レゼは押し黙ったままだ。

 

「そういうのの負担がなくなるんだ。安心ってのは何にも代えがたい物だぜ? そりゃあ国家に首輪付けられる立場に逆戻りって言っちまえばそれまでだが、結構な事じゃないか。寄らば大樹の影だ。さっきは脅かすような事言ったが、人権はちゃんと適用されるようにする」

「……2つ目は?」

 

 質問には答えず、か。

 まあそれはいい。レゼの中で勘定に入っていることが重要だ。

 

「2つ目は、これもさっきの環境にちょっと関わってくる話なんだが」

 

 ピッとナユタを指差して。

 

「ナユタを預かってくれ」

「え?」

 

 デンジが頭上のナユタを見上げる。

 

「今まではジョージん所に居たんだろ? じゃあそのままでいーじゃん」

「俺はデビルハンターだぞ。親の役回りなんぞ出来んわ」

「そうだけど、どうせコセキ手に入れたって俺たちデビルハンターだろ? 大して変わんねーじゃん」

「……ナユタは当然ただの子供じゃない。俺が中国で拾ってきた『支配の悪魔』だ」

「マキマさんと同じなんだろ?」

「そうだ。言い換えれば、ナユタはマキマになる可能性がある。そしてその可能性を潰すために、俺ではなくお前らが預かるべきだと判断した」

「……なんで?」

 

 無理か。まあ断りづらい理由は別に用意してある。

 『お前らが家族になるんだよ!』なんて願望駄々洩れにしないだけの冷静さが今の俺にはまだまだあるのだ。

 

「俺とマキマの露悪的な側面を知っているレゼは分かるかもしれないが……俺とマキマは、思考のパラダイムが非常によく似ている」

 

 代表的な例としては、それこそ『攻撃を肩代わりする契約』の構造だ。

 契約者を個人ではなく役職にすり替えるあのテクニックは、別にマキマがああしている確証があったわけではない。

 ただひたすらに、『俺ならそうする』という悪意の一点読みだ。

 

 当初の段階ではその契約に警報機能が付いているとは思わなかったし、『同じ様に機能する別の盾』がある事は知らなかったが、そうした予想外に遭遇する度に俺は考え、その時の発想はことごとくマキマの核心を突いた。

 

 なぜそのようなことができたのかと言えば、結局は思考回路がよく似ていたからに他ならないだろう。

 

 俺がマキマに勝てたのは、相性というより常に攻め手であり続けた立ち回りの結果と言える。

 そういう意味では、銃の悪魔の心臓すらも代替可能な些末事に近い。

 

「だから、俺の元で育つとそういう思考を学習してしまって、マキマと同じ様な人格に育つ可能性がある。それでは俺がマキマを殺した意味がない」

「そこで全く違う俺たち、か……」

「それって環境的にどうなの? 支配の悪魔なら、人外扱いで独房暮らしにならない?」

「そうならない監視の為に、俺も公安に入る」

「え?」

「まあ正規職員じゃなくて、アルバイトみたいなもんだけどな」

 

 元々岸辺に動いてもらった対価として、非常勤職員として公安に協力するという話ではあったのだ。

 

 それを逆手にとって、ナユタとデンジとレゼの待遇の監視に利用するというだけの事。

 

 岸辺から聞いた限りでは、誰かと固定のバディを組むわけではなく、既に組まれているバディの一方が休暇を取っている際の補充要員とか、レゼ編におけるパワーの様な調整中の魔人の代打とか、相方が『脱落』した奴に次の相方が見つかるまでの繋ぎとか、そんな感じの役回りが主らしい。

 後は体術メインの技術教官としても使うつもりだそうだ。この間やった岸辺との車中戦闘は、その最終試験という側面もあったのかもしれない。

 

 非常勤という事もあって本来の公安所属よりは自由に動けるが、これまでよりは大きく制限されることになるだろう。

 しかしマキマ打倒の目標が達成された現在、自由度の必要性は薄い。

 

 そんな薄い必要性をなげうってデンレゼナユを定期的に摂取できると考えれば、あまりにも安い買い物である。

 

 ちなみに、そうなって以降も『ジョージ・スマイルズのデビハン日記』は続けるつもりだ。

 事業としての『ジョージ・スマイルズ』はもはや不要なペルソナに過ぎないが、このペルソナが培った知名度・影響力・情報網はまさしく値千金。わざわざ捨てるなんてもったいない。

 

 理想を言えば、デビルハンターを育成して『ジョージ・スマイルズ』として振る舞ってもらう襲名制にしたいところだが、まあそんな人間に心当たりがあるはずもなく。

 

「勿論その監視はナユタだけではなく、デンジとレゼの待遇についても行うつもりだ」

「……それって、もし断ったらどうなるの?」

「別に? 単純にこの茶封筒焼き捨てて終わりだ。あぁ、ナユタの分まで焼くわけにはいかんので、それは取り分けた後の話だが」

 

 その場合は、流石にナユタはこっちが預かることになるだろう。

 デビルハンターと逃亡者はどっちも親失格の職業だと思うが、逃亡者の方が環境的には悪いからな。

 

 俺はこれでも分別がある厄介オタクなのだ。

 

「……ずっと前から思ってんだけどよォ……」

「なんだ?」

「ジョージって、なんでそんなに色々してくれんだよ」

「……そんなにしたか?」

「しただろ」

「したでしょ」

「してるじゃん」

「してた!」

 

 四段活用止めろ。

 てゆーかナユタはそこまで知らないだろ。

 

 さて、まあこの質問はそのうちされるだろうなと思っていたので、ちゃんと返答を用意してある。

 

「……まず前提として、『価値観の相違』があるな」

「ソーイ?」

「つまり、お前たちにとっては貴重で重大な事であったとしても、俺からすれば取るに足らない様な事でしかない、という風な事さ」

 

 それこそ、銃なんかは特に典型的だ。

 

 銃、特に拳銃は『対人武器の王様』だ。

 射程、殺傷力、連撃、携行性。銃を除く多くの武器に対して、大体の面で優越する。

 人間対人間に限定した話だが、一方だけが銃を持っているならそれだけで勝率9割は堅い。

 

 当然、拳銃の威力は犯罪や暗殺にも使える。故に日本において所持しているだけで懲役確定という厳罰化が為されている。

 銃の悪魔が現実的な脅威であるこの世界では更に重い。

 

 つまり日本で銃を手に入れるという事は、戦力において圧倒的なアドバンテージを得る事に等しい。

 手に入れる事自体が難しいからこそ、手に入れる事で相手を出し抜ける。

 

 だが俺からすれば、銃なんてものは鼻紙より簡単に手に入る代物でしかない。

 贔屓にしている誰かへ個人的にプレゼントするぐらいは訳無いのだ。

 

「非常勤とはいえ公安所属って言うのも、コンスタントに仕事をくれるって意味では有難くすらある。不安定はフリーランスの泣き所だ」

「……ブログに『どんな仕事も安く請け負う』とか書いてなかった?」

「今は単価上げてるからただの嘘だけどな」

 

 最近、ブログのヘッダに『Dirty Deeds Done Dirt Cheap』と入れてみたのだ。

 直訳するとそんな感じになる。

 

「『なんでそんなに?』に対する解答は『俺からすればそんなでもない』だ。友情に報いる無償の善意で十分カバーできる範疇というだけさ」

「んー……言ってるこたぁ分かるんだが……」

 

 まだダメか。

 ちょっと恥ずかしい事言ったんだから納得して欲しい。

 

 仕方ない、最後の切り札を出すか。

 

 俺はナユタをデンジから取り上げてレゼに預け直し、デンジの肩を組んで思いっきり女性陣から距離を取る。

 よし、これだけ離れていれば聞こえまい。

 

「惚れた女にゃあ、幸せになっていて欲しいもんだろ? 隣に立ってるのが俺じゃなくても、だ」

「お前……!」

「安心しろ、別に横から奪うつもりなんざねえよ。誰も幸せにならねえからな。だが、もしお前が手放したりしたら……俺が拾っちまうぜ?」

「……」

「それが嫌なら、お前が全力で幸せにしてやれってんだ。それが男の気概だろ?」

 

 デンジが何かを答える前にその肩を離して元のテーブルに戻る。

 

 これは半分ウソで半分は本当だ。

 

 デンレゼが好きと口では言うが、実際はレゼのポテンシャルを最も発揮させられる相手がデンジというだけで、結局見ているのはたくさんの幸せで輝いているレゼという側面がある事は否定できないからだ。

 

 それを恥ずべき事とは思わない。

 どこまでいっても俺は異性愛者の男で、女性に目が行くのは自然の摂理だからだ。

 

 しかし、真実を素材にした言い訳だからこそ、この主張の説得力は次元が違う。

 

「なんの話?」

「男の秘密さ。そうだろ?」

「……あぁ、そうだな」

 

 良い表情をするじゃないか。

 デンジには向上心が足りないと常々思っていたんだ。俺という脅威を感じて成長してくれるなら、それもまたヨシ、だ。

 

「まあ、別に今すぐ決める必要は無いさ。それこそ、ブログ越しにでも返答してくれればいい。さしあたっては……夕飯の食材でも買い出しに行こうか」

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