デンレゼ過激派転生者   作:翁。弁当

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ありがてぇなぁ……


クリア後の世界
幼年期の終わり


 朝日が黄色い。

 

「……ヴァ-」

 

 呻きとも喘ぎともつかぬ謎の音が、デンジの喉から這い出してきた。

 寝起きという事を考えると、本来はあくびだったのかもしれない。

 

 ひとまず体を起こそうとすると、全身に刺すような痛みが走る。

 

「……いてぇ」

 

 痛みの出所は、皮膚。

 

 考えてみれば珍しい部位だ。

 

 殴られれば内臓が、切られれば筋肉が、貫かれればその両方が悲鳴を上げる。

 終わった後は動かし過ぎた筋肉や関節が傷み、鬱血した部位はじくじくと染み出すように痛い。

 チェンソーは体の中から出てきて、何もかもが痛い。

 

 皮膚もまたそれらの中に入ってはいるが、所詮は過程だ。

 そんな皮膚『だけ』が痛いというのは、一周回って珍しい。

 

 しかしなぜ?

 

 体を見下ろして原因を探ると、すぐに分かった。

 布団に隠れていない上半身には特に多く呈している、ともすれば皮膚病を疑う様な痛々しい惨状。

 

 歯形。

 

 それが全身に刻まれ、僅かな傷となってデンジを苛んでいたのだった。

 

「っあー……そーいや……」

 

 自らの体を見下ろして、ようやくデンジは思い出した。

 昨日の晩……と言うか、昨日、丸一日ぶっ通しだったことを。

 

 『デンジ君の事、噛んでいい?』

 

 レゼがそんな”おねだり”をしてきたのは、多分夕方ごろだったと思う。

 

 『多分』というのは、大体昼頃辺りからデンジの意識は涅槃の境地にいたからだ。

 その頃にはデンジが『あ〜ッ……ジョージの言ってた”連戦“ってこういう事かぁ……』と思考の片隅で、どこか他人事のように理解していた。

 

 で、夕方ごろといえば、ジョージが渡してきたよくわからない、しかしレゼは全てわかっていたらしい謎の錠剤(バイアグラ)がそろそろ無くなるという折であったはずだ。

 

 夢現の中で、恐らく自分はそのおねだりを許したのだろう。

 

 結果、この惨状である。

 まだまだ残暑厳しいこの時期に、海水浴どころか胸元を開くことすら躊躇われるほどの歯型。

 

 正直な所、痛かったのか気持ちよかったのかすら覚えていないが、自分に文字通り食らいつくレゼの姿だけはハッキリと覚えている。

 なので、まあ……こんな事態になってしまっても、『割に合う』と思ってしまう。

 

 惚れた弱味という奴だ。

 

「……」

 

 隣で眠るレゼを見た。

 

 『デンジ君も、噛んでいいよ』

 

 すうすうと静かに寝息を立てるレゼの肌に、歯形なんてものは1つも付いていない。

 ミルクの様に白く、絹の様に柔らかく、そして真珠の様に輝いている。

 

 デンジの『本当に大切なモン』だ。

 たとえ本人が望んでいたとしても、傷付けるなんてことできる訳が無かった。

 

「……ツラ良すぎんだろ」

 

 レゼに対しては何度も言った言葉だ。

 それでも、こうしてまじまじと見る度に、そんな言葉しか出てこない。

 

 浅学な己の限界なのか、言語が有する表現の限界なのか。

 

 そんなことは分からない。分からないなりに、それでも言葉を尽くすしかない。

 

 デンジは胸元に視線を落とし、話し始めた。

 

「ポチタァ……俺ぁついに夢を叶えたぜ……こんなにツラの良い女とイチャイチャして、えっちして……ジョージの世話だけど、仕事まで貰えるんだ」

 

 希望に満ちた話だ。

 かつての……ポチタと過ごしていたころのデンジから考えられないほど、光り輝く未来だ。

 

 しかし、それを語りかけるデンジの表情は、どこか釈然としないと言うか、燃え尽きたような無気力を感じさせた。

 

 何かが足りない。

 そんな気がしてならないのだ。

 

 いや、それが何かなど決まっている。分かりきっている。

 そしてそれが決して手に入らない事も。

 いくら今から上手く行っても、既に失ったものを取り戻せるわけではないのだから。

 

 マキマ。

 早川アキ。

 パワー。

 岸辺先生。

 

 ポチタ。

 

 どれもこれも失ったものだ。レゼと一緒にいる為に。

 

 分かっている。

 支払ったのは自分だ。選んだのは自分だ。

 あの時、あのカフェの前で、マキマに決別を突き付けたのは自分だ。

 

 それでも、失うことなく全てあればと、強欲に願ってしまう。

 

 ぶるり、と。

 なんだか寒くなって来た。朝方とはいえ、まだまだ暑いこの季節に。

 

 デンジはもう一度布団にもぐり、そしてレゼに抱き着いて、もう一度眠った。

 

◆◇◆◇

 

 レゼは覚醒すると同時に絶望した。

 

 完全に失っていた意識、見覚えのない天井、拘束された体。

 

 これらの情報を一瞬のうちに処理したレゼの理性は、直感にも近しい速度で『拉致監禁』と結論付けた。

 随分と民家っぽい天井なので、恐らくはチェンソーの心臓狙いのデビルハンターだろうが、ソ連からの追手が取り急ぎ用立てた間に合わせのセーフハウスかもしれない。

 

 であれば、まだ脱出は可能かもしれない。

 ひとまずは周囲を確認して、状況の把握からだ。

 

 右を見る。

 

 デンジの寝顔があった。

 

「……」

 

 自分の体を拘束しているのは、抱き着いているデンジの腕。

 見覚えのない天井は、引っ越してそう時間が経っていないから見慣れないだけ。

 完全に意識を失っていたのは、昨日の自分が完全に理性と自制を失っていたから。

 

 要するに、ただの早とちりであった。

 

「よかったぁ……」

 

 ハラワタが引き絞られるような感覚が、安堵の溜息と共に虚空へと溶けていく。

 

 やっとだ。

 ようやっと『普通の生活』にそこそこの目途が立ったというのに、その直後に攫われてしまうなんて台無し過ぎる。

 

 レゼは神を信じていなかった。

 それはソ連が『宗教は麻薬』として弾圧していたのもあるが、それ以上にこれまでの人生の中で『ありがとう神様』なんて思う様な幸運に見舞われたことが一度も無かったからだ。

 正直な所、『ケツにカラシニコフ突っ込まれてくたばっちまえ』と思った回数の方が多い。

 

 でも、そうじゃなかった。

 今回ばかりは、素直に『ありがとう神様』と思える。

 

「ま、神様というよりジョージ君って感じだけど……」

 

 考えてみれば、ここまでのお膳立てはおおよそ全てがジョージの采配である。

 しかも本人も色々と代償を支払ったうえでのヘッドハンティングだった。

 レゼの見立てでは、明らかに打倒マキマの片手間で済ませられる便宜ではない。

 

 当初のレゼはジョージの事が結構嫌いだった。

 

 可愛い後輩のアプローチを無下にし続けているというのもあったし、レゼが焦がれてやまない『普通の暮らし』を自分から捨てているというのもあった。

 それは八つ当たりにも近い、的外れで筋違いな嫉妬であることはレゼも自覚していた。

 

 だからこそ、そんな感情は全くおくびにも出していないつもりである。

 

 だがジョージの事情……銃の武器人間という体質を知ってしまえば、その評価はがらりと変わる。

 

 最初から普通の暮らしなんてありえない。捨てているのではなく、捨てざるを得なかったことぐらいは容易に想像がつくほどの厄ネタだ。

 アサのアプローチを無下にしているのも、そんな己の宿痾(しゅくあ)に巻き込まないようにという、むしろアサを大切に思うからこそ。

 

 その割には随分アサと深くかかわっているようにも思えるが……アサとの会話から垣間見える彼女の対人関係の()()っぷりを考えると、ジョージとしても苦肉の折衷案なのだろう。

 

 そして考えようによっては、なまじ半端に『普通の暮らし』を知っているからこそ、何も知らなかったレゼよりも苦しい。

 本当に悲惨なのはずっと辛酸を舐める人間ではなく、最初に少しだけ甘露を含まされてから、ずっと辛酸を舐めている人間なのだから。

 

「うわぁ……こうして考えると、なんか少女漫画みたいじゃん……」

 

 嫌なことに気付いてしまった。

 

 最初は嫌っていたのに、知るほどに最初の評価が反転して、最終的には……というお約束的な展開である。

 改めて整理してみると、レゼの心境はそのお約束を忠実になぞっていた。

 

 そのことを自覚して起こるのが『ドキドキ』ではなく『げんなり』なのが、レゼの中におけるジョージという男の評価を物語っているが。

 

「……あれ?」

 

 ここでレゼは、デンジの全身についた歯形に気付く。

 全身を覆う大量のそれらは、何らかの感染症を疑うレベルだった。

 

 なぜなら。

 

「えぇ……? これ、私の?」

 

 レゼには自分がこんな歯型を付けた記憶がとんと無かったからだ。

 歯形のサイズと歯並びからして、なんとなく自分が付けたものなのだろうことは察しがつくが、実際にその様な行為に及んだ経緯と行為自体に全く覚えが無い。

 

「うっわぁ~、なにこれ……なんか、私がヤバい女みたいじゃん……」

 

 いや、別にソ連の工作員という素性とか、爆弾の武器人間という体質の時点でまあまあヤバい奴である事に間違いは無いのだが。

 

 自分の歯型塗れになっているデンジを見て、ほの昏い愉悦が沸き上がってくる様な気性の話である。

 

「……」

 

 なんだか、デンジが自分のものになったみたいだ。

 

 事実として、レゼは勝手に釣り上がる口角をもにもにと手で揉んで必死に押し下げようとしていた。

 その一瞬だけを切り取れば純情可憐な乙女にしか見えないあたりが、彼女の顔面偏差値の高さを物語る。

 

「……もー1回寝よっと」

 

 なんだか体温が上がって来たレゼは、だらしない笑顔を作りながらデンジの首筋に唇を寄せた。

 おそろいのチョーカーにキスをして、濡れた犬の様な匂いを吸い込んで目を瞑る。

 

 その姿は、初めての恋人に浮かれて他の諸々が疎かになる様な、普通の少女そのものであった。

 ちょっと倒錯的だけど。

 

◆◇◆◇

 

 一昨日の戦闘に巻き込まれたスーパーは、やはり当分の間休業する様だった。

 無理もない。悪魔被害には国から補助金が下りる事になっているが、金があっても時間はかかる。

 

 これを機にリフォームでもするのだとしたら、更に時間がかかる。

 そのリフォーム代をどれくらい国に押し付けられるかが経理部の腕の見せ所だが、それはさておき。

 

 今日のデンジとレゼが訪れたスーパーは、そんな高級志向の所とは完全に無関係。

 まあ業務〇ーパー程安いわけでもない、いわゆる普通のスーパーだ。

 

「あっ! ねえねえデンジ君、卵! 卵すっごく安いよ!」

 

 そんな普通のスーパーであったとしても、レゼは卵の安売りを見つけてはしゃいでいた。

 カゴ持ちのデンジの腕をぐいぐいと引っ張り、遠慮なしに抱きすくめる。

 

「こないだカレーだったもんねぇ。卵だから……チャーハンかな? マスターに習ったことあるんだよ」

 

 明らかに距離感が近い。

 もはやパーソナルスペースの悪魔がチェンソーマンに喰われたかのような有様だ。

 

「俺ぁ……今は、食えりゃーなんでもいいや……」

 

 しかし未だに『状態異常:賢者』のデンジは冷静沈着。

 昨日でどれだけ絞り上げられたのかが伺える。腹上死寸前まで行ったに違いない。

 

 それがどちらの我欲によるものであるかは、まあご想像にお任せするとして。

 

「もー、作り甲斐が無いなァ」

「だってレゼが作るメシってどれもウメーじゃん」

「信頼は嬉しいけど、マスター直伝のチャーハンだよ?」

「……なんかあったっけ?」

「ジョージ君もアサちゃんも『なんじゃこりゃあ……』って顔してたぐらい微妙な味のチャーハン」

「あぁ、あれか」

 

 思い出すのは、ジョージとアサの2人が一皿のチャーハンを分け合う光景。

 あの時はデンジとレゼも同じ様な事をしたが、あの2人は当時信じられないほど無感動にそれをやっていた。

 

 今であればデンジも多少は落ち着いてできると思うが、しかし……。

 

「……なんか、めっちゃ遠くまで来たなァ……」

「確かに……マスターとか今どうしてるんだろ」

「つーかそもそも生きてんのかな? なんか、ジョージが逃げろとは言ってたけど」

「わっかんないなぁ……今度ジョージ君に聞いてみよっか」

「そーだな。ケータイ貰ったし」

「……あっ! デンジ君、今日はネギも安いよ!」

 

◆◇◆◇

 

 デンジの右腕には、ネギやら卵やら豚肉やらが入ったカバンが下げられている。

 反対側の左腕には、レゼが腕を組んで寄り添いながら歩いている。

 

 スーパーで買い物を済ませた後、2人はそんな調子で静かな住宅街を歩いていた。

 

「……平和ですねぇ」

「……そうだなァ」

 

 悪魔が出てきて殺されるのが日常の世界というだけあってか、『近所のスーパーに悪魔が出現してデカい被害を出した』ぐらいのニュースで動揺する様な人間は少ない。

 自らが直接的に被害に遭う訳でもない限り、他人事として適当に流しがちだ。

 

 危機感が無いというよりは、そうでもないと精神が持たないのだろう。

 

 言うなれば、これは環境適応の一種だ。

 健全でない事は間違いないが、それで発狂してしまってはそれこそ不健全というものである。

 

 おかけで静かに暮らせるというのだから、2人には有難い話でしかないわけだが。

 

「こうまで何も起きないと、何かが起こる前触れみたいで怖くない?」

「何かって……何?」

「……ジョージ君が来るとか?」

「昨日帰ったばっかじゃん」

「そうなんだけど……だからこそ、みたいな」

「まぁ、なんか分かるけどよ……」

 

 扱いがほぼほぼ悪魔の襲撃と同レベルである。

 基本的に事態を好転させることしかしていない割に評価が低い。

 

「来るとしたら何の用で来ると思う?」

「えぇ~……? ただでさえよくわかんねー奴なのに」

「いいじゃんいいじゃん。遊び遊び」

「遊びねぇ……まぁ、なんかやたらナユタの事をこっちに預けたがってたし、それとか?」

「うーん、ちょっとありそう。でもそれだとナユタちゃんがかわいそうじゃない?」

「だよな。なんか、本当は自分の嫌いなんじゃねーかって思っちまいそうだ」

「だよねぇ。傍から見れば、ジョージ君ってナユタちゃんの事大好きっぽいけど」

「やっぱりそうなの?」

「いやだって、なんて言うか……受け入れ過ぎでしょ。何もかもを」

 

 一番そう思ったのは、ナユタを中心にしたコマンドリンクを構築した時だ。

 

 アレは要するに、ナユタに生殺与奪を預ける行為である。

 それが前々から打ち合わせておいた作戦とかならまだ頷けなくもない。

 しかし実際は、ほぼ完全にその場の思い付きで、実行の為にわざわざ肉片(ちから)を分け与えたのだ。

 

 そりゃあ今のジョージからすれば、ナユタに渡した力の割合は切れっ端みたいなものかもしれないが、それにしたって()()()()()()()()()()()()()()()力を与えるのはやり過ぎだ。

 

 いやまあ、それを素直に受け入れていた2人が言えることではないかもしれないが……。

 

 大体『支配の悪魔』と言えば、マキマがそりゃあもう好き放題した結果として、全世界から蛇蝎の如く忌み嫌われている存在である。

 それもまた悪魔の力になるので一長一短だが、少なくともその悪評からくる敵意を一身に浴びて育てば、大なり小なり歪んだ性格になることだろう。

 

 そのことについて、レゼは特に何も思わない。

 何なら、自らが世界に呪われている理由が明白なだけマシだとすら思っている。

 

 だが、ジョージは更に何も思っていない。

 マキマの事を周到に殺す程憎んでいた割に、その後継者とも言えるナユタの事はむしろ愛し慈しんでいるように見える。

 

 本当にただの子供に接するのと同じ様に。

 

 ジョージは『これもマキマ殺しの一環』と言っていたが……果たしてどこまで真意なのやら。

 

「だからまあ、なんだかんだで良かったんじゃない? 収まるべきところに収まったって感じで」

「アサもナユタの事は結構好きなんだっけ?」

「そうだよ。昔から妹が欲しかったんだって」

 

 まあそんなもの望める様な環境でも無かったので、早々に封じられた欲求であったが。

 

「妹か……なんかアサも大概だな」

「……確かに」

 

 今でこそ戦争の悪魔と同居しているが、その状態になってからそう時間が経っていないため、アサの精神性は常人のそれに近い。

 にもかかわらず、支配の悪魔を完全に妹として扱える胆力は一体どこから養われたのだろう。

 

「やっぱジョージのせいなのかな?」

「いやぁ……まあ……そうだと思うけど、普通にヨルと一緒だから麻痺してるんじゃない?」

「あぁ……」

「こうしてみると、アサちゃんってまともに社会復帰できるのかな? デビルハンター以外で」

「契約してる悪魔がいるのに黙ってたら不味いんじゃなかったっけ?」

「悪魔との非認可契約のこと?」

「多分それ。前にジョージが言ってた」

「……まあでも黙ってたらバレないでしょ多分。バレたらいよいよ公安就職待ったなしだし」

「バレたらヤバいで行くと、ナユタもそうだな」

「日本の契約悪魔が充実していくなァ……」

 

 チェンソー、ボム、支配、戦争、そして銃。

 このメンツだけでも『これから世界でも救いに行くのか』ってレベルの粒ぞろいだが、これから加入する新参組というのだから恐れ入る。

 

 今更祖国(ソビエト)に愛着も未練も無いが。

 それはそれとして、こんな狭い島国が随分恐ろしいことになっているものだと、元隣国民として遠い眼をしたくなるレゼだった。

 

◆◇◆◇

 

 2人が今借りている訳アリ物件に到着すると、ビームが出迎えてくれた。

 最近ではレゼにも挨拶をしてくれるようになったので、多少は関係性も改善されたとレゼは思っている。

 

 しかしてチェンソーマンのファンボーイなのは変わっておらず、やはり深く絡むのはちょっと遠慮したくなるような熱量だ。

 ちなみに、そんなビームとほぼ同じだが多少は取り繕えるのがジョージであることに、レゼはまだ気づいていない。

 

 まあ単推しと箱推しでは生態が被らない所もあるので、そうした関連付けができないのも仕方がないだろう。

 

「……あれ?」

 

 鍵を開けたデンジが、小さく疑問の声を上げる。

 その一言が、レゼを即座に冷酷な諜報員へと立ち返らせた。

 

「なぁレゼ、こんなに戸締りしたか?」

「……いや、してないね」

 

 デンジの隣からレゼが部屋の中を除くと、その部屋は驚くほど暗くなっていた。

 まだ8月だ。これぐらいの時間でもまだまだ日は没していない。

 

 にもかかわらずの暗室。

 シャッターを閉じればこれぐらいの暗さにはなるが、レゼもデンジもそこまで厳重に戸締りをしていたわけではなかった。

 

 侵入者。

 

 その可能性が2人の思考の中にぼこりと浮かび上がる。

 必然的に、手は拳銃と変身トリガーの方へと伸びた。

 

「……」

「……」

 

 レゼがアイコンタクトで自分が先に行くことを告げ、それにデンジが無言でうなずく。

 デンジがドアの横で周囲を警戒し始めたのを確認してから、レゼはするりするりと部屋の中へ入っていった。

 

 ぐぐぐ、とレゼの瞳孔が開く。

 

 身体操作の一種だ。本来は随意運動ができない眼筋を無理やりに操作し、暗順応を手動で行う。

 それが進むにつれて、段々とレゼの瞳が暗闇の中を見通すようになる。

 

 本来15分程度の時間が必要な暗順応を即座にできるこの技術は、レゼが体得している技術の中でも結構な高等技能になる。

 完全な暗闇の中では流石にどうにもならないが、シャッターを閉めたぐらいなら問題無い。

 

 より多くの光を取り込むべく開いたレゼの瞳孔に、小さな火のきらめきが飛び込んでくる。

 

 その光で切り裂かれた闇から覗いた顔が、グシャリと口を歪めた。

 

「ハッピーバースデーって奴さ」




ちなみに投稿頻度は多分そんなに上がりません。
どうせ番外編ですからね。完結状態でちまちま行きます。

まあランキングに乗るとかしたら上げます(承認欲求の悪魔)
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