デンレゼ過激派転生者   作:翁。弁当

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見逃し三振

 パタリ、と目の前でドアが閉まった。

 忘れ物が無い事は何度も確認したし、しばらく待っても帰ってくる気配は特にない。

 

 それはつまり、アサは過不足なく学校に向かったという事だ。

 

「あー……ねむっ」

 

 そんなカッコつけの無い素の言葉が零れ落ちる。

 

 7時にアサを起こしてから、送り出した7時40分までの間は、まさしく戦場の様相を呈していた。

 まず目が覚めたら全く別の場所に移動していたアサが、混乱のあまりに勉強合宿のすべてを夢だと思ってしまい、眠気が飛ぶまで日付を8月28日だと誤認していた。

 

 事前の計画通りにエナドリを流し込んで強引に目覚めさせたが、しゃっきりしたらしゃっきりしたで混乱してしまった。

 俺としても可能であればある程度説明したくはあったが、折角済ませた宿題を家に忘れて提出できないでは徒労にもほどがある。登校の準備を強引に、かつ最優先に進めさせた。

 

 まぁ、これについては仕方ないと言うか、何が起きたのか知りたいのは人情だと思うので、ここのロスタイムは別に良いのだが。

 

 問題は朝食だった。

 一応、シリアルとTKGとルームサービスの朝食Aの3択を用意して、入れられそうなものをさっさと詰め込んでもらうつもりだったのに、アサが選んだ朝食Aを食べきるのに20分もかかったのだ。

 起床して家から出るまでに40分しかないのに、その内の半分を要したのである。

 寝不足で胃腸の調子が悪かったとか色々あるのだろうが、それを想定して他の選択肢を増やしておいたのに。

 

 ともかく、間に合ったのだからこの際なんでも良いか。

 

「さー、寝よ寝よ」

 

 倒れ込むようにベッドに入り、うつ伏せのままで目を瞑る。

 久々にクラムボンが後頭部に居座って、そのまま丸まって眠った感触がした。

 

 そういえば、こうして部屋の中に、クラムボン以外は完全に一人きりという状況は随分と久し振りだ。

 

 もっとも、すぐに意識を落とすのだから、余り意味も無いのだけれど。

 

◆◇◆◇

 

 デンジが使い捨てカメラを元の場所に戻していたころ。

 少しだけデンジに遅れる形で、ナユタもまた目を覚ました。

 

「ふわ……ジョージ?」

 

 きょろきょろと何度か部屋の中を見回すが、口にした名前の主はどこにも見当たらない。

 部屋は確かに普段の部屋ではないが、それでも眠りに落ちるまではそこにいたはず。

 

 なぜか全身にまとわりつくレゼの腕をどかしながら、ひとまず部屋の中を散策する。

 

 元々分かりやすい位置に置いてあったという事もあって、早々に書置きを見つけた。

 

 書置きでは。

 一に曰く、『これからアサを東京に移動させる』

 二に曰く、『物凄く危険な手段を使うので、ナユタは同行させられない』

 三に曰く、『ジョージが迎えに来るかナユタが東京に移動するかを、レゼを通して連絡して欲しい』

 とのことであった。

 

「むぅ……」

 

 『物凄く危険な手段』というのが何のことなのかは分からないが、ともかく一人置いて行かれたことだけは理解した。

 希望としてはジョージに迎えに来て欲しいが、それを連絡するにも当のレゼがこれでは埒が明かない。

 

 かといって、レゼがアサの為に色々と頑張っていたのも知っているだけに、眠るレゼを揺り起こすというのも気が引ける。

 本音を言えば今すぐにでもそうしたいのだが、ナユタは既に『迷惑の掛け方』を考え始めていた。

 

「お、ナユタも起きたか」

「デンジ」

 

 別の部屋から、カメラを元の位置に戻してきたデンジが入ってくる。

 確か昨晩はアサとジョージとレゼが最後の大詰めをするために、デンジとナユタで一緒に眠ったのだったか。

 

 暑かったからかデンジは特に抱きしめたりはしなかったが、しかし濡れた犬みたいな良い匂いはしたので割と気持ちよく眠れた。

 

「デンジも今起きたの?」

「いや、ちょっとだけ先だったぜ」

「朝ごはんはもう食べた?」

「まだ。いつもはレゼが作ンだけど……」

 

 チラと目線を向けた先では、レゼがまだすやすやと眠っている。

 

「そういう訳にはいかねえよな」

「レゼも頑張ってたからね。じゃあ取り合えず私が作ろうかな」

「ナユタが?」

「冷蔵庫見てくる」

 

 灰色の地味なパジャマを少し整えて、ナユタはふらりと台所へ向かった。

 

「……?」

 

 なんと表現すればいいのか、デンジには分からなかったのだが。

 ナユタの滑舌というか、口調というか……そう言ったものが、急に落ち着いたように感じられた。

 

 成長。

 

 そうだ、ナユタの言葉遣いが妙に成長している。

 子供っぽい舌足らずな間延びした音が消え、昨日まではあった活力が無い。

 

 僅かに空気の抜けた風船の様な……張ってはいるが、張り詰めてはいない感じ。

 余裕があるという意味では望ましい事なのかもしれないが、そこには全身全霊で世界を生きている子供らしいエネルギッシュさが無い。

 

「……」

 

 とはいえ、それをデンジが言語化する事は出来なかった。

 なんだか元気なさげだなぁぐらいの理解に留まり、それ以上には至らない。

 想像力の欠如というより、単純に深く考えないタチなのだ。

 

 故に、なぜそうなっているのか、について考える事も無かった。

 

 それは単純に、ナユタが取り出した生卵がどのように使われるのか、という興味で上書きされたのも大きいのだが。

 

◆◇◆◇

 

 目を覚まして携帯を確認すると、日付も変わっていないし時刻も想定内。

 うつ伏せだったおかげで、今回は特に窒息死することなく起きられたようだ。

 

 クラムボンが俺の顔面に乗っかって寝るのは、どうせ蘇生できるから良いのだが、アサやナユタにやったりしないだろうな?

 その2人には変身トリガーなんてないんだぞ。

 

 まあクラムボンはとても賢い猫なので、分かってくれているとは思うのだが……親愛の証としてこの行動を取っているなら、止めさせた方が良いのか?

 

 保険を掛ける意味合いでも、あとでナユタに頼んでそのあたりを言い聞かせておいてもらおう。

 

「昼過ぎか」

 

 両手でベッドを押し出して体を起こす。

 

 この体になってから空腹感というのはかなり弱く、絶食しても相当持つ。

 だが、食事をとっておくと明らかに消耗の回復が早いので、例えば領域展開をした後なんかは適当にかき込むことも多い。

 

 挙句、過剰に飯を食うと銃の悪魔の肉片の総(・)量(・)が増えるのだ。

 とんでもなく微々たるものだが、おかげで肉片を消費するタイプの能力も、以前よりは気軽に使える様になっている。

 イメージとしては、肝臓や脂肪などが有する『エネルギーの貯蔵』という役割を、銃の悪魔の肉片が増減する事によって肩代わりしている様な感じだ。

 

 人体が有する代謝システムに、銃の悪魔が組み込まれた様な形と言えるだろう。

 武器人間が不老不変の存在であることを考えると、今の俺がどこまで悪魔に寄った存在であるかを象徴するかのような話だ。

 ちなみにこの代謝はほぼノータイムで完了するため、ほぼ無限に飯を食える。

 

 そして単純な娯楽以上に、飯を食っていると自分の中の『人間らしさ』を感じられてほっとする。

 

 中二臭い言い方をするなら、エネルギーだけではなく人間性の補給と言う訳だ。

 どうやら俺は、自分が想像していた以上に『人間であること』に拘りがあったらしい。

 

 つまり、俺にとっての食事は単なる補給以上に、もっと包括的な調整の意味合いを有する。

 

「朝は抜いたからな……昼はガッツリ行くか」

 

 一旦顔を洗って眠気を飛ばした。

 しかし、矢木(おれ)に電流走る―――!

 

「昼食ってる場合じゃねぇ!!」

 

◆◇◆◇

 

 レゼの意識が再起動を果たして最初に感じ取ったのは、何かが焦げる様な匂いだった。

 余りにも嗅ぎなれたそれに対し、寝ぼけて能力が『暴発』したのかと思って飛び起きた。

 

「……あれ、大丈夫だ」

 

 周りを簡単に確認したが、爆炎で焦げた布団も、爆風で消し飛んだ窓も見当たらない。

 であればこの匂いは一体どこから?

 

「わばばばばば!?」

「ああもうバカデンジ!」

「おぼっ!?」

 

 台所の方から、そんなにぎやかな声が聞こえてきた。

 焦げた臭いはどうやらそちらの方から漂って来ているらしい。

 

 覗いてみると、ナユタの指から飛び出した鎖がデンジを支配して強引に落ち着かせ、焦げ付いた卵焼きをどうにかこうにか皿に移動させた様だった。

 

 臭いの原因はこれだったか。

 

 ぐちゃりと潰れた卵焼きは皿の上でどこか物悲し気に横たわり、それを囲む2人も沈んだ雰囲気を醸し出している。

 

「ぷっ」

 

 小さく噴き出したレゼは、なるほどと納得した。

 確かにこれは、ジョージがナユタを預けたがる気持ちも分かる、と。

 

 まるで本当の兄弟であるかのように仲が良く、沈んでいるというのに一体感があるせいで微笑ましさが勝る。

 きっとデンジが料理をしようとして、それを監督しているナユタという構図だったのだろう。如何にも大雑把な兄としっかり者の妹という感じではないか。

 

 レゼの笑い声に反応したのか、デンジとナユタがゆっくりと振り返る。

 その姿もまた、兄妹の様にそっくりであった。

 

「レゼ、起きたんだ」

「あーっとだな、レゼ。これは……」

「ご飯作ろうとしてくれたんでしょ? もうお昼だもんね」

 

 すたすたと軽い足取りで台所の中へ。

 

「ごめんね、こんな時間まで寝ちゃってて」

「ンなことねえよ! レゼも頑張ってたんだろ?」

「まぁ、私じゃなくてアサちゃんの為だけど」

 

 デンジの手の中にある菜箸をするりと奪い取ると、焦げ付いた卵焼きを菜箸で切り取り、口に運ぶ。

 

「ああっちょ……」

「焦げてるよ? 大丈夫?」

 

 そんなデンジの動揺とナユタの心配を尻目に、レゼは笑みを深めた。

 

「大丈夫、美味しいよ」

「ほ、ほんとうか?」

「うん。少し焦げてるけど」

 

 それも不慣れなデンジがレゼの為に、というだけで十分お釣りがくる失点でしかない。

 幸い、塩と砂糖を間違えるという風なありがちな失敗も、黒焦げの物体を錬成する様な致命的失敗もしていないのだし、愛嬌の範疇だ。

 

 そもそも、多少焦げたぐらいで気にするような育ちではないのだし。

 育ちの悪さはデンジも似たようなものらしいが、それでもこうして気にしているのは……それだけレゼを思うがゆえに、という事なのだろう。

 

 その事実だけで十分すぎる。

 

「やったねデンジ」

「ナユタもありがとうな」

「ナユタちゃんも手伝ったの?」

「デンジ1人だとどうなるか分からなかったから……」

 

 確かにデンジは焦げた卵を相手に右往左往するだけの様だったし、下手を打たないように監督していたナユタのファインプレーが光る場面も多々あったのだろう。

 

 これでは、本当にズボラな兄と几帳面な妹のようである。

 

「本当にヤバそうな時にしれっと割り込むぐらいしかできなかったけど」

「ふーん……じゃあ教えてあげる、お料理」

「本当? ジョージは危ないからって火も包丁も使わせてくれないんだよね」

「確かに危ないけど、ちゃんと気を付けたら大丈夫だよ」

 

 ジョージ君ってば、本当にナユタちゃんのこと子ども扱いしてるなぁ。

 善し悪しというより、その胆力というか発想がどこから出てきたものなのか切に疑問である。

 

 そもそもそこらに売ってるような包丁で傷が付くのかさえ疑問だというのに。

 

「ねぇ、デンジ君もやろうよ」

「えぇ~? 俺下手だぜ?」

「大丈夫だってー。これも勉強勉強!」

「ほんとかよ」

「本当に『家庭科』って科目でお料理するらしいよ?」

「へー。ガッコーって色んな事教えてくれんだな」

 

 まあ本格的に教えるのは結局『らしい』勉強ばかりだが。

 

「じゃあねえ、今日は基本して奥義の、オムレツライスでもつくろっか」

「……オムライスじゃなくて?」

 

◆◇◆◇

 

「オムレツとライスでオムレツライス……!?」

 

 ぐにゃあ……などと驚愕したのも過去の話。

 

 黄金色のオムレツにはチャーシューと輪切りのネギがぎっしり。

 そして入っている、味覇。中華最強の万能出汁(半練りタイプ)。

 

 オムライスを出す様な洋食屋には絶対にない発想の組み合わせ。

 そのマリアージュが生み出す複雑な味わい。

 

 進む進むライスが。

 

「うめぇ!」

「おいしい」

「うんうん、2人ともよく出来てる」

 

 それぞれのオムレツは、少し形の崩れたデンジが作ったものと、言わずもがな完璧なレゼが作ったものと、加熱が短くて柔らかいナユタが作ったもの。

 いずれも3分の1ずつに切り分けられ、各々の皿に配分されていた。

 

 そうしてみんなで食べ比べをしているのだ。

 

「ちょっとずつ違うもんなんだな」

「やっぱり個性がでるんですねぇ」

「コレ火入れ甘かったかな。お腹大丈夫かな?」

「日本(こっち)の卵なら大丈夫でしょ。前は中国にいたんだっけ?」

「そう。そこの路地裏で、ジョージに拾われた」

「……中国の路地にジョージ君がいた理由も気になるけど、そこの卵に比べたらこれぐらいなんでも無いよ」

「仕事なんじゃねーの? あいつ世界中飛び回ってんだろ?」

「んー、でも直近で中国に行った記事では『仕事抜き』って書いてたんだよね」

「普通に嘘じゃないの? 隣にクァンシとかいう仕事仲間っぽい距離感の人いたよ?」

「中国のクァンシ? こりゃまた大物じゃん」

「知ってんの?」

「それなりにね。ジョージ君は『金で雇えば敵にはならない』って手段があるけど、クァンシは政府お抱えだから、いざって時は絶対ぶつかることになるんだよね。だからジョージ君より危険視されてたよ」

「地元で?」

「地元で」

「レゼの地元ってどこ? このへん?」

「あーっと……もっと、そう、北の方だね。北」

「北? 北海道とか?」

「北海道……まぁ、視点を変えれば、もしかしたら合ってるかも……?」

「視点……?」

 

 日本視点かソ連視点かによって、扱いの変わる土地だってあるのだ。

 まあ『停戦協定を真に受けるとか頭脳がマヌケか?』と思わなくもないのがレゼの本音だが、『約束破ったら獣じゃろうがい』という主張もわかる。

 

 ので、レゼとしてはこうして濁すぐらいしかできないのだった。

 

◆◇◆◇

 

 昼食を終えて、少し経った頃。

 

「……だめだ、全然繋がらない」

 

 レゼは携帯を放り出して、ナユタに向けて諦めの声を放っていた。

 書置きに残してあった『レゼを通して連絡を』という文言に従ってレゼに連絡を頼んだのだが、当のジョージがその連絡に全く応答しないという本末転倒。

 

「まだ寝てるのかな?」

「どーだろ。流石にもう起きてると思うけど……私は2徹だったけど、ジョージ君は1徹だったし」

「なんかと戦ってるとかじゃねえか? あいつ最近仕事してなくね?」

「言い方」

 

 仕事の頻度を自由に操れるのはフリーランスの特権である。生活が不安定という代償ありきの特権だが。

 

「連絡取れないなら仕方ないよ。自分で帰る事にする」

「……そっか。駅の場所分かる?」

「大体は分かる」

「じゃ後でメモ渡すね。新幹線の乗り方は?」

「分かる」

「忘れ物とかは?」

「そもそも大したもの持って来てないし」

「それもそっか。お金は?」

「……どれくらい要る?」

「ここからだと……2万円プラスアルファって所かな」

「……足りない」

「じゃああげるから、後でジョージ君に返すように言っといて」

「分かった」

 

 部屋の奥へお金を取りに行ったレゼを見送って、デンジが問うた。

 

「別に待ってても良いんじゃねーの? なんかと戦ってるとしても、ジョージの事だしどうせ死なねえだろ」

「まあ別にそれでもいいんだけど……1人で行動できるって証明したいの」

「証明、ね……」

 

 山口県から東京まで帰る。

 未成年、それも義務教育を終えないレベルの青少年からすれば、これはもうとんでもない大冒険だ。

 達成できれば、自分が自立していると言外に主張できるぐらい、大きな出来事。

 

 もちろんそれを以って自立と認定するほどジョージも甘くはないし、恐らくは何の意味も無いだろう。ナユタもそんなことは重々承知。

 それでも、ナユタはそうしたかったのだ。

 

 それが、どういう原因から生まれた情動なのか、ナユタにはよくわからないけれど。

 

「はい、じゃあこれ。ちょっと多めに3万円ね」

「ありがとう。余裕持ってくれたの?」

「ふふ、お釣りはナユタちゃんが好きに使って良いよ」

「どうせジョージが返すのに?」

「ジョージ君には2万5千円って言っとくから」

 

 要するに、これはレゼからお小遣いだ。

 

 なにせナユタは生後一ヵ月未満。直接的に渡すには気の引ける金額である。

 既にこの金額を過不足なく使えるだけの知能と知識と倫理がある事は確認済みだし、渡したくなるだけの情も湧いていた。しかしやっぱり厳然たる数字の事実が後ろ髪を引いてくる。

 

 そこでワンクッション挟んだわけだ。

 大人のやり方である。悪い意味で。

 

◆◇◆◇

 

 ナユタの去ったドアに鍵をかけながら、レゼが呟く。

 

「……行っちゃったね」

「あぁ。なんか、ジョージがこっちに預けたがってたワケが分かった気がするぜ」

「そだね。ジョージ君ってば、相変わらず変な所だけ目ざといというか、慧眼というか……」

 

 その慧眼っぷりをもう少し自分の周りに向けられないものか、とレゼは切に思う。

 そうしてくれれば、レゼもやきもきせずに済むのだが。

 

「けーがん?」

「『よくわかってる』ってこと! じゃあ、今日の100マス計算やっちゃいますか!」

「えぇ~?」

「ジョージ君からきつく言われてるんだからね。それで怒られるの私なんだから」

「んで俺が怠けてレゼが怒られんの……?」

「多分そっちの方がデンジ君には『効く』って事なんじゃない?」

「……けーがん、だな」

「本当にね」

 

 くすくすと笑いながら、テーブルの上に計算ドリルをレゼが広げ、対面にデンジが座った瞬間。

 

 テーブルと計算ドリルが、消し飛んだ。

 

「あ~ッ!?」

「なになになに!?」

 

 なにか、大きな何かが凄まじい勢いで転がり込んできたために、その軌道上にあったものが吹き飛んだのだ。

 その『何か』は必死に態勢を整え、四つん這いになりながらも周囲を見て状況を確認する。

 

 ようやく見えた顔は、やっぱりというか案の定というかいつも通りというか、ジョージだった。

 

「またお前か!?」

「はぁーっ、はぁーっ……っあぁ。ナユタは?」

「あ? さっき出たけど」

「そうか、入れ違いか……」

 

 はあ、とジョージは一息ついて。

 

「チキショオオオオオオオオ!!」

 

 叫んだ。

 それはまるで、肩から先を消し飛ばした事で致命傷を与えたと誤解した岩盤浴の達人を『なんちゃって☆』と小馬鹿にするための前振りの様な叫びであった。

 

「た、たかが入れ違いでそんなになる?」

「二度手間なのは分かるけどよ……」

「あなたには分からんでしょうね!!! 誰がねえ! 誰に投票しても! おんなじやおんなじや思って!」

「何の話!?」

「ていうかどうやって部屋入って来たの? 鍵とか全部閉まってたし、今も開いてないんだけど?」

 

 そんな2人の疑問に一切答えることなく。

 

「じゃ俺、ナユタ貰って帰るから……」

「お、おう。駅の方行ったから、すぐ見つかるんじゃねえかな」

「分かった。爆発するかのように襲い! そして消える時は、嵐の様に立ち去る!」

 

 『スピードワゴンはクールに去るぜぇえぇえぇえ!』と叫びながら、ジョージは窓から飛び出して行った。

 

「いつにもまして意味分かんねぇ……」

 

 レゼはしみじみと頷いた。

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