レゼ編は、全部で大体10日程度の期間しかない。
出会った当日。そこから1週間連続で二道で昼食。その日の夜に学校侵入。ここまでで8日だ。
その翌日に祭り。そのまま戦闘で一晩明かして、不明な期間海底で過ごし、目覚めたその日に終了だ。海底に沈んでいた期間は不明だが、24時間近く沈みっぱなしって事は無いだろう。
その内、レゼ以外で明確に関わることができるのは、最初の1週間だけ。
つまりは、およそ7日間でデンジに援助を受けさせられるだけの信頼を勝ち取る必要があるわけだが。
正直言って、そのような方策なんて全く思いつかない。
デンジはあれで結構警戒心が強いというか、危険を嗅ぎ分けるカンがある。相手が女だと性欲で塗りつぶされるだけで。
そのため、男でしかない俺が、恩や信頼を求めて不自然な行動を取ると、かえって警戒だけされてしまう可能性がある。
そこで一旦後々の援助を受けさせるところを諦め、『ここは俺に任せて先に行け!』ができるぐらいの信頼度を目標にする。
やはり男相手ならデンジの中での価値は相当下がるだろうし、だいぶ現実的だろう。
この場合、必要なのは程度だけではなく内訳も大切だ。
が、一方で余り忙しなく関わりすぎるわけにもいかない。
この7日間に明確なイベントらしいイベントは無かった様だが、同時にこの7日間がデンレゼの距離を縮める事に一役買ったことも事実であるはず。
そこを俺が『食う』という事は、2人の仲が進展しない可能性が生まれてしまう。
まあアサが居る時点である程度2人の交流は減るだろうから、むしろ積極的に出向いてアサをこっちに引きつけておくという発想も出来るが。
ともかく、俺に出来たプランニングというのは「高度な柔軟性を維持しつつ、臨機応変に対応する」でしかないわけだ。
「お邪魔します」
モーニングが終わり、そろそろ昼食を考え始める午前11時。
半ば開店休業状態となるこのタイミングで、二道に入店する。
「いらっしゃいませー。あ、ジョージ君。久しぶり」
するとレゼが対応してくれる。
なんだろう、この時点で既に金を払いたい。
「こんにちは、レゼ先輩」
「もー、先輩は止めてよ」
「じゃあ……レゼさん、で」
「はい、レゼさんです」
『にひっ』って感じで笑って、右手で雑に敬礼するレゼ。
なんでこの最高のファンサに金を払えないんだろうか……そういう店じゃないからか。
「アサちゃんならもうちょっと待ってね」
「もうちょっと? 何かありましたっけ?」
「んふふ~ん、それは秘密!」
秘密、ねぇ。
わざわざ秘密にするという事は、つまり単なる買い出しとかではないのだろう。
……新メニューの開発でもしてるのか?
最近はコーヒーを淹れるのを練習しているとか言っていたし、その意気を買われて、みたいな。にしたって抜擢が過ぎるか。
まあ、邪推はこの辺で止めておくか。
「それじゃあ、その秘密を楽しみに待たせてもらいますかね」
「きっと嬉しいサプライズだから、楽しみにしててね」
やたらと期待感を煽る様なレゼ。
ひとまずは、素直に定位置のカウンターに座る。
マスターにコーヒーとクッキーを頼んで、特等席でその手並みを眺めつつ、アサを待つ。
なんだかマスターがどこか苦々しい面持ちで豆を挽いているが、何かあったのだろうか?
「こういう小さな絶望がね、人を大人にするんだよ……」
話すつもりは無さそうなのでまあ良いか。
大方変に偵察に出してしまったものだから、他の店との差を余計に実感して煤けているとかそんなところだろう。
流石にコーヒーを淹れる腕でアサに負けたとかそういう事はあるまい。
先に出されたクッキーをぽりぽりと食べていると、奥のドアが開いた。
「マスター……これやっぱり、ちょっと派手すぎるって言うか……」
アサの声だ。
体を傾けてそちらを見ると、アサが明らかに私服ではない装いを身に纏っていた。
トップスは純白のブラウスと
ボトムスは機能的な長ズボンではあるものの、こちらも足のラインが丸わかりのスキニージーンズに近い設計。
そして頭部に乗っかるフリルは、ホワイトブリムという奴か。
アサの趣向を差し引いても、私服として使うには飾り気が強すぎる。
恐らくは、二道の制服の試作品か何かなのだろうが……。
「マスター」
「なんだい?」
「詳しい話は署で聞く」
「なんでさ!?」
当たり前だろ。中学生働かせてる時点でそこそこヤベエんだぞこの店。
その上で中学生にボディラインがよくわかる制服とか、もう摘発待ったなしだわ。
挙句メイド服テイストだ? 秋葉原じゃねえんだぞ。
男性陣が小難しい話をしているのをよそに、女性陣は華やかなもので。
「うわぁ~! アサちゃん可愛い~!!」
「そ、そうですかね……自分だと、そんなことないと思うんですけど……」
「ううん、バッチリ似合ってる! これやっぱりスカートでも良かったんじゃない?」
「ス、スカートは勘弁してください……」
「えぇ~? どうせ学校の制服で履いてるでしょ~?」
「制服のは長いから良いんですよ! レゼ先輩が勧めてきたのって、すっごい短かったじゃないですか!」
「アサちゃんって肌綺麗だから、もっと出していった方が良いと思うんだけどなぁ~」
「でもその、じょ、ジョージが肌隠した方が似合うって……言ってて……」
「……もうこの子は~!」
とまぁ、こんな調子である。
「ごばぁ」
「ジョージ君!?」
おかげで俺の臓腑も狂喜乱舞している。
だが安心して欲しい。
今の俺はこの弱点を克服できるようになった。
いわゆる、ルーティーンである。
事前に設定した『リラックスできる動作』を行う事で、いつ如何なる時であっても、まるでスイッチを切り替えるかのようにたちどころに平常心を得ることができる、スイッチイング・ウィンバックとも呼ばれるメンタルテクニックである。
左腕、正確には、左前腕の外側を撫でる。
この動作を行う事で、例え発作が起きても即座に復帰する事が可能となる。
発作そのものを無くすことは出来ないが、こればっかりはしょうがない。
「ふぅ……危うく致命傷でしたね、マスター」
「ジョージ君が何を言ってるのか僕には分からないよ」
デビルハンターの言う事なんていちいち真に受けるもんじゃないから、分からないままで良いと思う。
「さー、ジョージ君! どうですかこのアサちゃんは!」
そう言ってレゼがこちらにアサを突き出してきた。
アサは顔を背けて耳まで真っ赤に染め上がっているが、視線の方はこちらをチラチラと伺っている。
その視線にしっかり自分の視線を合わせながら、できるだけ誠実で落ち着いた口調で。
「凄く似合ってるぞ。随分と派手な衣装だが、その派手さに負けていないな。だがそんなに派手に美人だと変なトラブルを引き寄せそうだから、エプロンのフリルあたりはオミットした方が良いかもな」
「ふーん、そっか……」
めっちゃ髪の毛を弄って、全くこっちに視線を向けなくなったが、声色からして悪い気はしていないのだろう。
実際、これでアサが『お前はチーズだ』されても困る。
チーズ野郎本人は対面と同時に銃殺するので別に良いのだが、これだとレゼの麾下に台風の悪魔が入るイベントが起こせなくなってしまう。
まあ台風が居ても居なくても大まかな展開は変わらないと思うけど、シャークネードのオマージュが消えてしまうからな。
別にオマージュするのは良いけど、なんで原液100%まで行ってしまったんだろうか?
「ちなみにこれ、誰がコーデしたんだ?」
「これ? レゼ先輩」
「まじ?」
「アサちゃんに似合いそうなのを選んだらこんなことになりました!」
「うーん顔が良い、無罪!」
「ジョージ?」
「おっと失礼」
これも発作の一種なんだろうか?
思わずレゼを全肯定したら、アサが戦争の悪魔みたいな目をしている。
「まあ無罪は冗談として……なんだってわざわざこんな服を?」
「制服だよ。アサちゃんが偵察に行った時の報告に『他店は制服が可愛い』って言ってくれたからね。僕はもうおじさんだからよくわからないから、見立てはレゼちゃんに頼んだんだ」
「そりゃいい考えだとは思いますがね、多分コレ、別の店になっちゃいますよ?」
具体的には摘発されかねない感じの。
「そっかぁ……ごめんねレゼちゃん、折角選んでくれたのに」
「そんな謝らないでくださいよ。選ぶのも楽しかったですから」
「もうちょっと大人しいデザインの奴にすればいいんじゃないですか? つーか頭のソレ取るだけで十分だと思いますけど」
すると、大変珍しい事に、二道のドアベルが鳴った。
「あ、いらっしゃいませー!」
明らかにトーンが上がった明るい声で、レゼが客に応対する。
その客は、まるで捨て犬の様な少年だった。
金髪は全方位を刺すようにツンツンと逆立ち、睨み付ける様な赤い眼付きとギザギザした歯は何処か人間的でない。
見るからに警戒心の強そうな人相だが、しかしその意識と視線はレゼに集中して、周囲に一切気を配っていない。
チェンソーマンこと、デンジである。
そのデンジとレゼが、まるで帰って来た旦那とそれを迎え入れる新妻の様な光景を繰り広げている。
タンスの角に小指を思いっきりぶつけた時、痛みは即座にやってこない。全身に走る衝撃と、脳裏をよぎる事実確認。そして数瞬の祈りの時の後にやってくるのが痛みである。
今、俺はその『祈りの時』の中に居た。
あと2秒もしないうちに、俺は発作を起こしてあの光景を破壊してしまうだろう。
だが残念だったな、今の俺にはルーティーンがある。
左前腕の外側を右手で撫でるこの動き。
発作とほぼ同時にこの動きを完遂する事により、俺は今この瞬間、完璧なる背景として
「ぐはぁっ!」
「ジョージ!?」
バカな、俺のデータに無いぞ!?
リスキルか。
ルーティーンによって平静へと至った精神が、その先でもう一度発作を起こすところまで行ってしまったのか。
もう一度ルーティーンを行って精神をフラットに戻す。
ほぼ同じ表情をしたデンレゼがこちらを見ていたが、さっき発作を起こしたおかげでしばらくは大丈夫そうだ。
いやしかし本当に同じ様な表情だな。
まるで……いや、止めておこう。これ以上考えるとまた発作を起こしそうだ。
「なぁレゼ、なんだアイツ……」
「昨日言ってた、後輩の彼氏なんだけど……」
「マジで!? あんな奴に彼女いんのかよ!」
デンジにドン引きされるというなかなかのファンサービスを受けつつ、俺は2人に話しかける。
「いやいやすいませんね、いきなりお見苦しい所を見せてしまって」
「お、おぉ……」
「えーっと、お仕事の話ってしても大丈夫ですかね?」
「あ? そりゃいいけどよ」
「ありがとうございます。公安のデビルハンターの方ですよね?」
「そうだぜ?」
「うえぇ!?」
レゼがいっそわざとらしいほど驚いている。
「やはりそうでしたか。実は、以前に少し公安のデビルハンターの方に鍛えられた事がありましてね。その時のことを思い出してちょっとトラウマが……」
「あ~……」
瞬間、デンジの脳内を駆け巡る『存在する記憶』。
「ちなみに、所属を聞いても?」
「特異4課」
「あ~、じゃあもしかして、岸辺さんの部下?」
「そう……なんのかな? でも先生からはボコボコにされた覚えしかねえけど……」
「怪力は相変わらずのようで」
「「……」」
ガシッ。
すごい一体感を感じる。今までにない何か熱い一体感を。
風……なんだろう吹いてきてる確実に、着実に、俺たちのほうに。
この握手は、いうなれば『狂犬岸辺被害者の会』の発足だった。
まあ俺の方は嘘なので、後で適当に口裏を合わせてもらうようにお願いしておこう。
「もしも~し。今日は何にしますか、お客様~?」
レゼに注文を急かされたデンジが、慌てた様子でテーブルに着く。
俺も目礼して元の場所へ。
「……」
アサが戦争の悪魔みたいな目でこっちを見ている。
「……どうした?」
「別に」
「そうか……」
多分、というかほぼ確実に『別に』なんて片づけられるようなことではないのだろうが、ここで強引に掘り返しても痴話げんかの様になってしまうだけだ。
いったん適当に流して、後日フォローを入れた方が良いだろう。
「なぁ、コーヒー淹れてくれよ、アサ」
「……どれにする?」
何か思う所があっても、生来の生真面目さが『店員』の役割を放棄する事を許さないのだろう。
完全に接客もへったくれも無いが、応対してくれただけマシというものだ。
「アサのオリジナルブレンドで」
「……分かった」
ちなみに、メニュー表にそんな項目は無い。
ブレンドコーヒーならあるが、それは恐らく二道の公式レシピとでもいうべきものだろう。『アサの』とは言えないはずだ。
しかし最近アサが随分コーヒーに凝っていることは、彼女から時折香るコーヒーの臭いが教えてくれた。
なら、きっと何かがあるはずだ。
真剣な目でハンドピックを始めたアサを眺めつつ、聴覚に意識を向ける。
「ん~……文字ばっかで何が何だかわかんねぇ……」
「写真載せると高いからねぇ」
「あっ、でもこの辺は分かるぜ。コーヒー、コーラ、ソーダ……」
「でもコーヒーは嫌いなんでしょ?」
「あとビールも酒だから飲まねえかな」
「え? ビールはソフトドリンクだよ?」
「ぶっふぉあ!」
やめてくれレゼ、そのジョークは俺に効く。
つーか何を地元匂わせる発言してんだよ浮かれポンチがよ。
レゼがどのタイミングでデンジに惚れたのかは諸説あるけど、さては電話ボックスの時点で半落ちしてるだろコイツ。
「ど、どうしたの?」
テーブルに思いっきり突っ伏した俺を見てアサが驚いている。
「うん、まあ……ちょっとな」
「また発作?」
「いや、久々にキレのいいロシアンジョークを食らってな」
大きな音を出してこちらに注意を向けてしまったデンレゼに、ハンドサインだけで「気にしないで」と送っておく。
結果的には、レゼのミスをフォローした様な形なので、ここから持ち直して行ってほしい。
「コワ~……」
「たまにびっくりする事するんだよねぇ。普段はそれこそびっくりするぐらい落ち着いてるんだけど……」
「普段? あいつって結構来んの?」
「ジョージ君? 最初に来たのは1,2か月ぐらい前かな。そこからアサちゃん目当てに時々。ここ最近はあんまり来てなかったけど」
「ふ~ん……レゼもあんな感じのがいいの?」
自分から聞いた割に薄い反応。その割に踏み込んだ質問。
それを見たレゼが悪い笑顔を浮かべる。
「あー、さてはジョージ君の事ライバルみたいに思ってるなー?」
「はぁ!? ちっげーし!」
「照れるな照れるな~。男の子なんだから意地っ張りなぐらいでちょうどいいよ」
「だから、そーいうことじゃねーって!」
「えー? 私はそっちの方が良いと思うけどなぁ」
「……どういうこと?」
「デンジ君の方が好きって事」
「うえぇ!?」
ッふぅ~~~~~~……落ち着け、素数を数えて落ち着くんだ……1。
よし落ち着いた。
ルーティーンのおかげで表面的な体裁は保てている。これだけでも立派な進歩といえるだろう。
おかげでこの尊い光景を特等席で目撃できている。
産地直送の新鮮なデンレゼが五臓六腑に染み渡る。
世界広しといえど、今の俺よりも幸福な生物といったら、恐らく初めてフェンタニルをやってる奴ぐらいだ。
この光景を破壊しようとしてるマキマはやっぱり確実にぶち殺されなければ。
マキマもなぁ……外見は結構好きだけどなぁ……内面がなぁ……。
決意を新たにする俺を尻目に、アサはハンドピックを終えて、手早くミルを回して豆を挽いている。
やがて挽き終わった豆を取り出してフィルターにセットし、平行で沸かしていたお湯を注ぎこむ。『の』の字を描く様な軌跡は抽出の決め手。温度、量、スピード、バランス。全てが香りと味わいを変える。ゆっくりと泡立ち、その輪郭を丸く膨らませるコーヒー豆。
一連の手つきには躊躇いが見えない。アサの習熟が伺える。
そして滴り落ちる暗黒の液体。
「お待たせ」
アサはどこか誇らしげな表情でこちらにコーヒーを差し出してきた。
大きめのマグカップはテーブルの上に鎮座し、俺の前で静かに湯気を立てている。
「じゃ、いただきます」
アサが丹精込めて淹れてくれた一杯である。こちらも丹念に味わわねば不作法というもの。
香りを楽しみ、味を楽しみ、飲み込んで鼻に抜ける匂いを楽しむ。
先ほどデンレゼで活性した五臓六腑が、アサのコーヒーの味覚刺激を脳に送り込む。
ふと、言葉がこぼれる。
「……完璧だ」
ありのままの評価である。
やや俺の好みに寄り過ぎているが、それでも大衆受けだって十分にするだろう一杯だった。
これを出してここまで閑古鳥が鳴いている二道は一周回って何かがおかしいと言わざるを得ない。
やはり飲食店は値段と立地が9割という無情なのだろうか。
「いや、本当に美味いなこれ」
「会心の出来映えだわ」
その言葉に偽りは無いらしく、大仕事をし果たした時の高揚がアサの顔に現れている。
血色は良くなり、口角は上がり、目は
「ちょ、ちょっと僕もいいかな?」
「勿論」
アサが答え切った時、マスターは既にピッチャーから適当なカップにコーヒーを注いで一口飲んでいた。
「早~……」
「お、美味しいね……」
「何をそんな残念そうに……」
コーヒー以上に苦々しい顔になったマスター。
「いや、でもこれ二道の看板に出来ますよ」
「そうかなぁ……そうかぁ……」
マスターがどんどんしょぼくれた顔になっていく。どうしたマスター。
実際、『バイト女子中学生の手作りコーヒー』とでも銘打てば……別の店になってしまうか。
イカン、バイトの魅力度が色んな意味で高すぎて、どんどんそっち方面に寄っていってしまうぞ。
「アサちゃんアサちゃん! 私にも頂戴!」
「どうぞどうぞ」
レゼもこっちに来てしまった。
お前はデンジにハニトラを仕掛けていて欲しい。主に俺のために。
いや、さっきから押しっぱなしだったら、ここらで一度引いておくという駆け引きか。確かに、視界の端に映るデンジはこちらを切なげな目で見ている。
デンジはああいう感じの、若干弱った表情が可愛いと原作のアサが太鼓判を押していたが、なるほど確かに得も言われぬ愛嬌がある。
盗撮して後でレゼに渡しておこう。
「うわ~……やっぱりもうマスター超えてるね!」
「ふぐぅ」
今のは俺の発作ではなく、マスターの発作である。多分図星だったのだろう。
しかしそれなりに熟練っぽいマスターをこの短期間で超えるとは、そのモチベーションはどこから来ているのだろうか?
ただの生真面目や職務意識にしてはやや過剰な腕前の様に思えるが。
「デンジ君も飲んでみなよ! 昨日の奴より美味しいよ!」
「えぇ~? それコーヒーだろぉ? 本当に美味いの?」
「良いから良いから!」
やはりデンジに対してのみ声のトーンが高い。
もうこれだけで白米を食べられる気がするね。今日もコーヒーが美味い!
レゼに強引に勧められ、渋々という体でカップに手を付けるデンジだが、レゼが輪の中に入れてくれたことに対する嬉しさが表情から滲み出ている。
もうこれだけで白米を食べられる気がするね。今日はクッキーも美味い!
さて、デンジがコーヒーを飲んで。
「……」
完璧に映画館のスクリーンで見たのと全く同じ表情で舌を出したので、思わず笑ってしまった。
一番の浮かれポンチはお前定期