幽霊見える系男子と凪さん。ときどき遥ちゃんとビビッドストリート   作:ポケスリ

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こはねちゃんの過去捏造みたいなのがほんのちょっとだけあります。


幽霊見える系男子と蛇。ごく稀にVivid BAD SQUAD

 

 動物は本当にすごいと、常々思う。

 

 

『ウーッ…グルルルル…』

『ワン!ワンワン!!』

『……マジ?……どこで引っかけてきちゃったんだろ…俺でも見えないって相当なんだけど…………とりあえずお祓いしてもらうかぁ……』

『し、しばお!?急に走り出したと思ったらどうしたの?……ご、ごめんなさい…しばお!知らない人にそんな怖い顔しちゃダメでしょ、めっ!』

『わわ〜っ!サモちゃんまで…こら、サモちゃん!…ごめんなさい、人に吠えることなんて滅多にないんですけど…』

『いやいや、お気になさらず。俺は急ぎの用ができたので…君たちも教えてくれてありがとね

 

 

 忠義と親愛の塊とでも言うべきかこちらが与えれば相応のものを返してくれる。生きている間は物理的に主人や家族を守ってくれる。いい人が近付けば心を開くし、逆に悪い人間や悪いものに憑かれている人間が主人の近くに寄れば追い払おうともする。精神的に傷付いてるときに寄り添ってくれたりもするが、今は『飼い主を守る』という観点から見ているのでひとまず置いておこう。

 そして、死後は様々。飼い主の望んだ通り安らかに眠り虹の橋を渡る子もいれば、飼い主や家族を守るために敢えてこの世に留まることを選択する子もいる…これに関してはどちらが良い悪いという問題ではないので、これ以上は言及しないこととする。

 

 そんな彼らからしても幽霊が見える人間というのは珍しいらしい。

 

 

「あの、なにか…」

「ん?…ああ、ごめん考え事。神山通りに行きたかったんだよね?ついてきて」

 

 

 つまり、何が言いたいのかというと────

 

 

『………』

 

 

 動物の霊と遭遇するとすっごい見られるということ。

 人でないが故のカンの良さか彼らにしか感じ取れないなにかがあるのか、こちらがどれだけ巧妙に見えることを隠していても彼らには簡単にバレてしまう。霊を見ることができる人に対する興味とか警戒とか、そういったものをごちゃ混ぜにした視線を隠そうともせずに直接ぶつけてくる。

 

 

『………』

 

 

 大蛇(おろち)朽縄(くちなわ)蟒蛇(うわばみ)…大きいヘビを指し示す言葉は数多くあれど、今の俺の目の前にいるのは一般的の範疇に収まる大きさのヘビだ。

 

 それにしても………………………ヘビかぁ。人を見た目だけで判断するつもりはないけど、ヘビの霊を連れたこの女の子は大人しそうな見た目と違って結構派手な趣味してるのだろうか?

 危害については気にすることはない。この手の存在は飼い主に害を与えない限りは襲ってくることはないから。飼い主がいい人でないと動物も霊となって守ることはない。だからこそ動物の霊に守られているというのは俺が生きてきて相手の人となりをそれとなく把握するのに大変役に立ってきた。もちろん、守られていることが人を判断する一つの指針となるだけであって守られていないからといって悪い人ということではない。その辺は動物と飼い主の関係によって様々だ。

 

 

「えーっと、小豆沢さんって言ったよね?実はうち、ネコ飼っててさ…ほら、こんな感じの。小豆沢さんもなにか飼ってたりする?」

「う、うん…お父さんが飼ってるパール伯爵っていう白いヘビがいるんだけど……よくお世話するんだ」

『………』

 

 

 白いヘビ……うん、どう見ても違うよな、これ。小豆沢さんの言い方的にパール伯爵はまだ生きてるっぽいし、それ以前にこのヘビは真っ黒だし。動物を虐待して怨霊に憑かれてる人を見たこともあったけど、小豆沢さんの首に軽く巻き付くようにしてポジションを維持しながらこちらを見つめている蛇はその手のタイプにも見えない。

 

 いつものようにフラっとストリートの方まで来て、一曲だけ歌って帰ろうとしたところで顔見知りの幽霊に『あっちの路地に女の子いたんだけど迷子みたいだから助けてあげてよ』なんて頼まれて…見にいってみたらヘビを連れた女の子がいて、ヘビが自分以外には見えていないことも女の子の様子から明白だった。

 

 

「白ヘビか。いいね、ご利益ありそう。名前もかっこいいし」

「ご利益があるかは分からないけど…ありがとう、かっこいいよね。伯爵、メスだけど」

 

 

 好きなものを褒められれば嬉しい。どんな人間だってそこは変わらない。さっきまではガチガチになっていた小豆沢さんが笑って、緊張が和らいだのを確認してから少しだけ切り込んでみる。

 

 

「ヘビか………そういえば、昔遠足で山に行ったときに黒いヘビ見たんだよね。黒いのなんて珍しいから友達にも教えたんだけど結局見つからなくて嘘扱いされちゃってさ」

 

 

 半分が嘘で半分が事実。あのとき見たのは黒ヘビではなく白いスズメ。こうして嘘をつくのは心苦しいが、今は小豆沢さんと黒ヘビの関係を明かす方を優先すべきだ。祓うことに関しては二流どころかド三流の俺だが、見ることに関してだけはお墨付きを貰っている。…とはいえ、それも100%の精度で見抜けるわけではない。万が一の可能性もあるので、今のうちに洗っておくに越したことはない。

 

 

「もしかしたら、それカラスヘビかも。黒化型(メラニズム)っていう、色素の異常で色が変わっちゃったシマヘビのことなんだけどね」

「へー、アルビノは知ってたけど黒くなるのもいるんだ」

 

 

 ここまで話せるようになれば大丈夫かな。あとは、まあ…適当に。話の随所で相槌を打ってこちらの聞きたいことに誘導してやれば聞き出せるだろう。

 

 

「私もお父さんから聞いただけだから詳しくはないんだけど…」

「……お父さんがそこまで詳しいなら…もしかして、お父さんって昔カラスヘビ飼ってたりした?」

「うん。私が生まれるちょっと前にいなくなっちゃったんだけど、お父さんからしたら私とパール伯爵のお兄ちゃんみたいな子でとっても賢かったんだって」

「お兄ちゃん…」

「うん、オニキス公爵っていうんだけど」

 

 

 どうにも、小豆沢さんのお父さんは独特なネーミングセンスを持っているらしい。

 ヘビを兄や妹に例えるのは正直無理があると思うが、小豆沢さんと家族にとってはパール伯爵も死んでしまったオニキス公爵もそれくらい大切な家族なんだろう。それだけ大切にされていたのなら、飼い主の娘である小豆沢さんを守っていることも納得できる。もしも彼が幽霊として小豆沢さんが生まれたときから見守っているのなら、それこそ小豆沢さんは公爵にとって実の妹のようなものなのかもしれない。

 

 

『………』

 

 

 お前疑ってたのかよ、とでも言いたいのか無言でこちらを見つめてくる公爵に、小豆沢さんに気付かれないように小さめにこそっと手を合わせておく。

 

 

「……これ…歌?」

「ん?…ああ、本当だ。この声は…『WEEKEND GARAGE』かな。気になるなら行ってみる?」

 

 

 公爵に手を合わせていると、急に小豆沢さんが立ち止まったので俺もそれに合わせて立ち止まり耳を澄ませてみると、確かに漏れた音に合わせて少しだけ歌が聞こえてきた。

 

 ただ小豆沢さんが気になるようだったから提案しただけだったんだけど、このハムスターみたいな小さな女の子が後にこの街に旋風を巻き起こすきっかけになるとは、この時は思っていなかった。

 

 

「おじゃましまーす。ほら、小豆沢さんも入って。そんな固くならないで大丈夫だから。白石さん…は歌ってるし声かける前に席座っちゃおうか」

「……は、はい…!」

 

 

 

 

 

 


 

 

 

 

 

 

 小豆沢さんを『WEEKEND GARAGE』に連れて行ってから実に一週間ほど。あれからもちょくちょくあのカフェには顔を出していたのだけど、いつの間にやら小豆沢さんが白石さんとコンビを組むことになっていた。

 

 

「前から思ってたんだけど、山吹くんってアイドルのこと全然知らない?」

『伸ばせ、伸ばすんだ!緊張した筋肉をしっかりとほぐすんだ!』

『どこを解しているかをしっかりと意識して!ストレッチも柔軟性を鍛える筋トレの一環だよ!』

「…まあ、詳しくはないね。昔に色々とあってからあまり見ないようにしててさ」

 

 

 桐谷さんに背中を押されながらそんな風に返す。幽霊たちは今日も今日とてやかましい。

 凪さんが成仏してからも習慣となっていた朝のトレーニングや発声練習はやめていない。今の俺では、凪さんに教わったことを引き出した状態で気が済むまで歌うことができないから…せめて五、六曲は続けて歌えるようにならなくては。ちなみに、桐谷さんのメニュー管理も一曲歌い切れるようになるまでという条件だったので『WEEKEND GARAGE』で凪さんに体を貸して歌わせたあの日以降は、食事やら睡眠時間やらは自由になった。

 

 

「あっ…ごめんね、あまり聞かれたくないことなら聞かないでおくけど」

「……ありがとう、そうしてくれると本当に助かる」

 

 

 まだ小学校低学年の頃、テレビ越しに見たアイドルに大量の怨霊がしがみついていてテレビの画面が百鬼夜行みたいになっていた。

 あれだけでもかなりショッキングだったのだがそれから一ヶ月後にその人を別の形で見ることになった。飛び降りたときの衝撃で頭が弾け、首から上は顎しか残っておらず脳髄やらなんやらが飛び出たままの状態で気さくに声をかけてくるフリフリとした服装のお姉さんを見て、まだそういったものに耐性の付いていなかった幼い自分はつい逃げ出してしまった。しかも逃げたら逃げたで自分の状態が分かっていないお姉さんが心配して追いかけてくるし。最終的にお互いの誤解は解けたものの、あのときのことは今でも鮮明に覚えてる。

 

 おどろおどろしい光景にもグロテスクな光景にも耐性が付いたし、今思い返してみればテレビの中もあのアイドルのお姉さんが異常だっただけで他の人は普通だったんだけど………それでも、アイドルに関してだけはどうにも苦手意識が拭いきれず話を聞いているだけで思い出してしまいそうになるのでその手の話題は完全にシャットアウトしてる。

 

 

「そういえば白石さんが相棒決めたって」

「へえ、どんな子?」

「桐谷さんと同じ宮女の一年。素直で優しいし、意外と肝も据わってる。いい人だよ」

 

 

 白石さんと桐谷さんが幼馴染だということは既に聞いているし、お互いに俺を通して互いの近況を把握しようとしてくる。仲違いしているわけではないのだから直接聞けばいいのに変なところで遠慮しているのはどうなのか。

 

 

「まあ、まだ二回しか会ったことないけど」

「二回……それだけしか会ってないのに山吹くんがそこまで言い切るなんて珍しいね」

「そうかな?そこまで言った自覚はないんだけど…」

「なんとなく、人付き合いには慎重なイメージがあったから。そんなにすぐ信用するなんてよっぽどいい人なのかな?」

 

 

 祖父の言いつけを守ってできる限り気を付けていたものの、一度だけくっきりと見えすぎた霊を生者と勘違いして話していたら酷い目にあったことがある。あのときの反省から、人かどうか見極めることに関してだけは慎重になったと思うけど相手が人間だと分かれば普通に接していた…と思う。

 小豆沢さんに関しては……やっぱり動物に守られているのが信用する決め手になったのかな。

 

 

「……ちょっと妬いちゃうかも」

「白石さん取られちゃいそうだから?」

「ううん、山吹くんが取られちゃいそうだから」

「!?」

「柔軟中だからこっち見ちゃだめだよ。そのままの姿勢キープしててね」

「あっ、ごめん」

「ふふっ、山吹くんが取られそうっていうのは冗談だよ。…でも私が初めて話しかけたときの山吹くん、こっちが見ても分かるくらいには警戒してたんだよ?あのときのことを考えれば二回しか会ったことない人を信用するなんて…本当に珍しい」

 

 

 桐谷さんは、ときどきこうした冗談を顔色も変えずにさらっと言ってくる。驚くべき演技力だがかつては劇団にでも所属していたのだろうか。

 

 

 

 

 

 

 

 

 


 

 

 

 

 

 

 

 

 

『………っ!……っ!…』

 

 

 結局、小豆沢さんの初イベントは音響設備の不具合によって台無しとなった。イベント全体で見れば、生声だけでフロアを盛り上げた白石さんやトリを持った『BAD DOGS』のお陰で成功したと言っても間違いはないだろう。

 

 また、音響設備の不具合も人為的なものだったことは幽霊が教えてくれた。Who done it(誰がやったのか)Why done it(なぜやったのか)How done it(どのようにやったのか)も分かってる。推理小説みたいな複雑な手順を踏んだのではなく、そこら辺を漂ってる幽霊たちが聞かずとも吹き込んできたものだけど。

 下手人にはちょっとしたお説教くらいはしようと思ったが、なぜ分かったのか聞かれて『幽霊に聞きました』なんて言えるはずもない。俺は同時刻には別の場所で歌っていたので実際に見たという言い訳も使えない。そもそも、第三者からお説教されたところで腹が立つだけだろう。結局のところ『Vivids』の二人がパフォーマンスで認めさせて謝らせるのが手っ取り早い。

 

 でも、せめて『Vivids』から『BAD DOGS』への誤解だけは解こうと思っていた。例の小豆沢さんを守ってる公爵も怒ったらなにをするか分からないし。

 小豆沢さんの性格を尊重しそうな公爵の様子から見るに、向こうが謝ってきて小豆沢さんが許すのなら自分が出る幕ではないと静観を決め込むと思うのだが、あちらが謝ってこなかったり不誠実な態度を取るならば、小豆沢さんが悲しむようなこと…直接呪い殺すなんてことはさすがにないけどちょっとした罰を与えるくらいはやると思う。タンスの角に両足の小指を連続でぶつけるとか外に出たら鳥のフンが直撃するとか運が悪いで済ませられるくらいのものだろうけど。

 

 

『………』

 

 

 …だから、『BAD DOGS』の二人を前にしても公爵がある程度の様子見をするのは予想通りだったけど、ここまで落ち着いているのは正直意外だった。むしろ、あの二人じゃなくて俺の方にちょっと威嚇してる。余計な口出しをするなとでも言いたいのだろうか。

 

 

「……………そりゃそっか。俺なんかよりもそっちの方がよく知ってるもんな」

「?」

「あっ、独り言だから。お気になさらず」

 

 

 コーヒーを飲みながら呟いた一言がバチバチしている四人にも聞こえてしまい、計八つの目が一斉にこちらに向けられた。正確に言えばバチバチしてるのは二人で、ほか二人はただ真剣なだけだけどこの場においては些細なことだ。

 

 

「(それにしても…)」

 

 

 幽霊は無闇矢鱈に吹聴するようなことも嘘をつくようなこともないけど、人間は真逆だ。

 だというのに、言葉にしなければ幽霊にも伝わらないのに言葉にしたら人間にも届いてしまう。

 

 

 

 

 ───本当に難儀なことだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 


 

 

 

 

 

「そういえば…私、山吹くんの歌って聞いたことがないんだけど。どんな感じなの?」

「……凪紗か」

 

 

 ある日のストリートのセカイの中で、こはねが三人に向けて投げた言葉に対して、彰人が苦々しい顔で答える。

 自分たちとは違う形の物だがその奥には確固とした信念がある。だからこそ、その人物を中途半端だと断じることはないし、その在り方も公共の福祉に反したりしない限りはどうこう言うつもりもない。しかし、個人的な好き嫌いはある。

 

 

「凪紗の歌は…オレたちとは目指す場所もなにもかもが違う。どこまでも自分勝手なやつだよ」

「正直に言っちゃうと同意。でも、技術的には参考になる部分も多いからね。一度は聞いてみた方がいいよ。憧れるのはやめた方がいいけど」

「二人の言う通りだ。…あまりこういう言い方はしたくないがあの形を目指すのは……やめた方がいい。あれは、凪紗だけに許された歌い方だ。クラシックの世界にもたまにああいう人はいる」

「…そ、そんなに…?」

 

 

 実力は間違いなく認めているのだろうが、普段の仲間たちとは思えないほどの言いようにこの話題を出したことをこはねは少しだけ後悔した。

 そんなこはねの様子を知ってか知らずか「でも」と三人が口を揃えた。

 

 

 だからこそ、自分たちが『RAD WEEKEND』を超えるイベントを開くには、彼を玉座からステージへ引きずり下ろす必要があるのだと。

 

 

 




山吹凪紗
 色々見えてる。杏ちゃんえななんほなちゃん特攻持ち。アイドルという概念にトラウマがあるのでモモジャンの四人には逆に特攻対象。アイドルってことを隠してればなんとかなるけどバレたら致命的に相性が悪くなる。
 実はアイドルが突出して苦手ってだけでテレビで見る芸能人全般が得意じゃない。


桐谷遥
 基本的には、自分が面倒見る側であったが、自分が困っているときにアイドルってことは隠していても色々と相談に乗ってくれた相手が取られそうになってた。半分勘違い。
 冗談(実は半分くらい冗談じゃない)が上手い。


小豆沢こはね
 恩人だと思ってる。恋愛感情はなし。
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