幽霊見える系男子と凪さん。ときどき遥ちゃんとビビッドストリート   作:ポケスリ

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イベスト読んでちょっとだけシナジー高そうだったのと本編ではあまりやれなそうな方面の凪紗くんの深堀りをしたくて。

進級後の話なので二人称が本編とちょっとだけ変わってたり他ユニとも知り合ってるのは許してください。


幽霊見える系男子と神様。ちょっとだけ祈りの演舞

 

 

 

『……』

 

 

 冬休みも半ば。とっくに宿題を終わらせて暇だったこともあり、フラフラと街を放浪していると鬼を祀っているという珍しい神社を見つけて心を引かれ、一通り境内を見てまわり帰ろうとしたときのことだった。

 コンタクトをつけ忘れたせいで少しぼんやりしている人々の輪郭とは違って、くっきりと捉えることができる半透明の小さな女の子が、境内の隅から寂しそうに行き交う人々を眺めていた。

 

 

「君、なにしてるの……んですか?」

 

 

 普通の人とは違った見え方をするものだから、いつものように幽霊だと思って声をかけて──────最後まで言い終わる前にしくじったことを悟った。そのせいで変な喋り方になってしまったが、そんなことを気にしている場合ではない。

 

 ここの神主さん曰く、この鬼姫神社で祀っている鬼姫様は幼い女の子の見た目をしているそうだ。目の前にいる少女は見た目こそ幽霊に近いが、その存在は決して幽霊などではない。こうして近くに寄って声をかけるまで気付かないくらいには力を抑えているが、幽霊と同列に扱うなんて畏れ多い…紛うことなき神様だ。

 そもそも、祀られている神の領域でもある境内に普通の幽霊が入れることなど基本的にはない。その時点で違和感に気付くべきだった。いくら見ることができても、それに伴う危機察知と判断ができないのならば意味がない。

 

 

『……驚いた。ここまで抑えてても見える人っていたんだ』

「……申し訳ございません。お恥ずかしながら、声をかけるまで御身の御威光に気付くことができず。ご無礼をお許しください」

『気にしないで。あと、そういう堅苦しいの嫌いだから普通に喋って』

「ありがとうございます。ですが、神様相手にタメ口は流石に……敬語を使ってお話しするのが一番やりやすいのでこのまま続けさせてください」

 

 

 …今のところは、機嫌を損ねている様子も見られない。

 

 

『そこまで言うならそれでもいいけど』

「…ありがとうございます。………それで、鬼姫様はこちらで一体何をされていたのですか?」

『………お祭りがないときは、たまにこうして外を歩く人たちを見てるの』

 

 

 お祭りというと、鬼姫様に感謝を伝えるために毎年正月に行われるという『鬼姫祭り』のことだろうか。屋台が出たり神輿を担いだり…一昔前には奉納舞に近しい演舞も披露されていたと聞いた。

 

 

「……『お祭りがないときは』ですか?では、お祭りがあるときは」

「そのときは参加させてもらってるよ。こんな感じで」

 

 

 ……実体を持って顕現するという離れ業をさらっとやってみせるのは心臓に悪いからやめてほしい。

 

 

「山吹くん?」

 

 

 内心でボヤいていると、後ろから声をかけられた。鬼姫様とて神様、彼らに見られるということはやらかしてないだろうが、一応警戒しつつ声が聞こえてきた方を振り向く。

 

 

「やっぱり山吹くんだ!久しぶり!」

「俺の方は…三日ぶりだな、凪紗」

「花里さんに冬弥じゃん。どうしたの?」

「誰かと話している様子が見えたから……その子は?」

「あー……この子は…地元の子だよ。この辺に住んでるんだって」

 

 

 

 

 

 

 


 

 

 

 

 

 

 

 

 『鬼は怖いもの』

 そう考えてしまうのは仕方のないことだ。しかし、鬼を怖がっているせいで鬼姫祭りに来る子供が減ってしまっている現状はどうにかする必要がある。そうして考えた結果、恐怖心を払って人々を笑顔することに慣れた人に力を借りることとなった。

 

 

「俺、ちょっとお手洗い寄ってくるから二人とも先に行っててくれない?司先輩との待ち合わせ場所は『carino/carina』だったよね?なにか変更があったら連絡してくれればいいから」

「別にそのくらいなら待つが…」

「うん、待ち合わせまでまだ時間もあるし」

「いやいや、この時期は寒いから!二人ともアーティストなんだし体調を崩したりしたら大変でしょ?先に暖かいところに行ってて!!」

「えっ!や、山吹くん!?……行っちゃった」

 

 

 

 困惑する花里さんの声を聞こえていないフリをしながら振り切って、少し離れた場所にある公園まで向かいベンチに腰掛けて頭を抱える。

 

 

「あ゛あ゛〜〜…………」

 

 

 …褒められた考え方ではないが、そもそも鬼姫様に声をかけるべきではなかった。

 神とは、人とは根本的に違う存在であり神職に就く人間もそこは弁えているので一線を引いた位置から携わっている。『触らぬ神に祟りなし』ということわざがあるように、人が無闇に神と関わってしまうとなにに巻き込まれるか分からない。ましてや、俺のような自分の身を守る術すらロクに持たないのに中途半端に強めの霊感だけはある人間が積極的に関わることなど以ての外。一度、忠告してくれた人を無視して痛い目にあったことで神様に関わることは避けてきたのだが、今回は不注意から接することになってしまった。

 

 

「……本っ当に、やらかしたぁ………触らぬ神ってなんだよ…もう触りまくってるよ……」

 

 

 …まあ、あのことわざは御霊信仰由来のものであって、この場合の神は元来の意味の神ではなく亡くなった人の魂のことを指しているのだが…今は関係のない話だ。

 

 鬼姫様はまず間違いなく善神に分類されるような存在…それも、慈悲深くて本当に人のことが大好きなタイプに見えた。大きな災害があった時に人を救ったという逸話に加えて、直接交わした言葉、なによりも……

 

『お祭りに来る子供が減って悲しい』

 

 ────そう告げたときの鬼姫様の表情。

 それだけの判断材料があれば、鬼姫様が人間をどう思っているのかくらいは分かる。

 だから、仮にその要望を完全には満たせなくとも、花里さんや冬弥、他にも手を貸してくれた人たちに何かしらの罰が下る、なんてことは有り得ない……と思う。人の身である以上、神の行動を予想して断言することなどできないのだ。

 

 

「かといって………今更、俺だけが手を引くのもないよな…」

 

 

 花里さんと冬弥は、あの子供が鬼姫様だということに気付いてはいない。それでも、純粋な善意からあの子のために鬼姫祭りに来る子供を増やそうと行動を始めた。

 かくいう俺も、鬼姫様の目の前だったので断りきれなかったとはいえ、鬼姫様だけでなく二人に対しても『力になる』と約束してしまった手前、ここでフェードアウトすることは絶対にできない。

 

 その手の方面の知り合いに声をかければ手を貸してくれるはずだし祭りに参加する子供も集めてくれるだろうが、鬼姫様が望んでいるのは、そういった畏敬の念から来る仰々しくて儀式然としたものではなく人の心が繋いだ文字通りの『お祭り』だろう。

 こうして俺がウダウダしている間にも、花里さんたちはなにができるか考えているはず。

 

 

「もう後には引けない……なるようになれ、だ」

 

 

 

 

 

 『carino/carina』と書かれたカフェの扉を開け、冷えきった頬や耳が外との寒暖差で少しだけピリピリとした感覚を味わいながら、店員さんが来るのを待つ。

 

 

「いらっしゃいませー!あっ、なぎさくん!」

「こんにちは、天馬さん。ちょっと待ち合わせしてて…他の人たちは先に来てるはずなんだけど」

「大丈夫、話は聞いてるから!お兄ちゃんたちの席だよね。こちらへどうぞ」

「ありがとう……………二人ともごめん、遅れちゃって。司先輩もお待たせしました」

「いや、オレもつい先程来たばかりでな。店に入ろうとしたところでちょうど二人とも合流したんだ」

 

 

 天馬さんに案内されるがまま四人がけのテーブル席まで移動し、空いていた花里さんの隣に腰を下ろす。アイドルである花里さんに無用の誤解を招かないように、隣には座らない気遣いをさらっとできるのが司先輩と冬弥が学校でも人気が出る理由の一つなのだろう。

 

 

「………ふむ、なるほどな。そういうことなら任された!」

 

 

 

 

 

 その後も色々な人たちの手を借りることができ、あっという間に話は進んでいった。

 

 祭り前日には、近くの公園で望月さんと草薙さんを加えた絵本の読み聞かせ。祭りの当日に来てくれた子供たちへの鬼の刺繍が入ったハンカチのプレゼント。

 そのどれもを手伝っていた冬弥と花里さんに倣って俺も手伝おうとしたものの、それ以上人手が増えてはさすがに人数過多になってしまうので、全体の繋ぎと調整に注力させてもらった。

 

 

「もう一回見たいって思ってくれてるなら……わたしにできることで力になりたいんだ!」

「じゃあ、わたしが教えるよ。たくさん見てきたから、覚えてるんだ」

「…!うん、ありがとう!」

 

 

 神主さんにハンカチを渡す場所を借りれないかの相談に来たついでに、状況の報告も兼ねて実体を持って出てきていた鬼姫様に話をすれば、花里さんが一度は途絶えた演舞をすることになりもした。

 

 

「それと、ね…」

 

 

 花里さんに演舞を教える約束をした鬼姫様は、俺を手招きして花里さんと冬弥にも聞こえないように耳に手を当てて静かに口を開いた。

 

 

「──────────」

 

 

 

 

 

 

 


 

 

 

 

 

 

 

 

 祭りが始まり参道に並ぶ屋台の方から聞こえてくる喧騒をよそに、神社を囲うように茂っている雑木林の中に入って古びた小さな祠の前で身を屈め、懐から紙の人形を取り出す。

 

 

「ここが最後…………急急如律令」

 

 

 上手くいきますように、と念じながら柏手を打って唱える。

 神様が見えてすぐ近くにいるのに神頼みというのもなんだか変な話だが、既にこれと同じことを別の場所で三回も行っている。そのせいで冷えきっている指先が手と手をあわせるだけでも悲鳴を上げているが、もう少し我慢してもらう。

 

 

「………よし」

 

 

 形代が僅かに浮かんで数秒間滞空した後に、変色したり途中で落ちることもせず、ゆっくりと欠片も残さず燃え尽きたことを確認して、ほっと安堵の息が漏れた。

 

 先日、ここに訪れたときに鬼姫様が耳打ちで依頼してきたのは神社の守りの見直し。

 昔もお祭りが始まってからすぐに、見える人が周りに見つからないように隠れながら直してきたと言われればその通りにやるしかない。確認の手順は鬼姫様が教えてくれたし、形代を作るときは神主さんが場所を貸してくれた。それに、神主さん自身も幽霊の類は見えない人ではあるものの、伝統に沿った手順で毎年祠を見ていてくれたようで神社の守りは多少の経年劣化のようなものは見受けられても綻びは見られなかった。

 

 そのお陰で、陰陽術は苦手なので不安だったが任せられた仕事はこなすことができた。もっと前もって話を聞いておけば、俺なんかよりも適任な人物を紹介できたのだが過ぎたことをどうこう言っても仕方がない。

 

 

『ありがとう。お祭りにこんなに子供が集まったのは久しぶりに見た』

「勿体ないお言葉です。それに、お礼なら……俺よりもあの二人に。今回手を尽くしてくれたのは主にあの二人ですし、手を貸してくれたのも元を辿ればあの二人の知り合いばかりですから」

『あの子達にはさっき伝えてきたから大丈夫。あなたも…わたしのことが怖いのにここまで手伝ってくれて、本当にありがとう』

 

 

 背後から聞こえてきた声に驚きのあまり一瞬だけ思考が飛んだ。驚いたのは、後ろからいきなり声が聞こえたことではなくその内容について。

 ……どう答えるべきか。神の御前で嘘をつくのはよくない、かといってその言葉をそのまま肯定して機嫌を損ねたりしたら…………万が一の事態がないとは言い切れない。

 

 

 誠実さと保身を秤にかける。

 どちらを取るべきか己の中で何度も考えて……

 

 

 

 

 

 

「……分かってらしたんですね」

 

 

 

 

 

 

 ─────前者を取ることにした。

 

 

『……色んな人を見てきたからね。君がわたしや困ってる子を見て放っておけないって思うくらいには優しくて、自分に嘘をつこうとしない真面目な子なのは…分かったつもり』

「買い被りすぎですよ…あれは優しさなんかじゃありませんから」

 

 

 本当の意味での優しさとは、それこそ花里さんや冬弥…この神社に子供を集めるために協力してくれた皆の持つ感情だろう。対して、俺の物は自分が生きていることから来る…憐れみに近いもの。優しさとは程遠い感情だ。

 

 

『神様のお墨付きなんだからもう少し自信持ってもいいのに。……君が幽霊に憐れみを抱いてたことはあるかもしれないけど、今がそれだけじゃないのは自分でもよく分かってるでしょ?………それに、友達のために怖いのを無視してここまで動いたのは立派な優しさだと思う』

「……そう、ですか……そう言っていただけると、少しだけ自信が持てます。では、俺も祭りの方に参加しますので」

 

 

 そう短く返して、一礼する。自分の内側にある薄暗い部分を否定せず、それでいて明るい方を向かせる言葉。……鬼姫様ってちゃんと神様なんだな、なんていうちょっと失礼なことを考えつつその場を後にした。

 

 

 

 

 

「……甘酒もいいけど…やっぱり最初は屋台から攻めるか…」

 

 

 木々の奥から密かに見える灯りを頼りに前へと進む。目的地は、並んだ屋台が開いて既に人が集まっているであろう参道。喧騒から離れた場所に身を置いていたせいで、すっかり冷えきっていた身体は温まるものを欲していた。どんな屋台があるのかはまだ見てないから分からないけど、この規模ならおでんやじゃがバターみたいな定番から多少はマイナーなものまで一通りは揃っているだろう。

 祭りが始まってからすぐに守りの見直しを始めて、現在は…時間からして演舞の予行をしている最中だろうか。ショーは見逃してしまったが、演舞はまだ始まっていないはずだ。

 

 

「…………なんでそんな場所から出てくんだよ。お前は野生のタヌキか」

「彰人…さすがにそれは俺でも傷付くんだけど……冬弥に小豆沢さんに白石さん、こんばんは」

「凪紗か…お疲れ」

「こんばんは、山吹くん」

「やっほー、凪紗………って、もしかして一人?バンドの子たちは?」

「皆、俺とは違って忙しいからね。ほら、二年参りとか除夜の鐘とかミサとか。色々あるらしいよ」

 

 

 木々の隙間を抜けて参道に出れば、すぐそこにビビバスの四人がいた。ただ、その顔には少しだけ思案の表情。

 

 

「…なんかあった?」

「実は、お守りの頒布をする巫女さんが今朝から風邪を引いてしまったらしい。そのことでどうにか手伝えないかと話していたんだ」

 

 

 演舞の本番が始まれば、人の目もそちらに向き多少は楽になるだろうが、終わればまたしばらくは忙しくなるはず…事情を知ってしまえば、手伝いたくなるのも分かる。

 

 

「あー、今の時期は色々と流行ってるからね。そういうことなら…そっちは俺がなんとかするから気にしないで。力になるって言ったのに、結局ほとんど花里さんと冬弥におんぶにだっこだったから…そのくらいはやらせて欲しいな」

 

 

 それに、身体を動かしていれば鬼姫様に言われてからずっとモヤモヤしている頭の中も空っぽにできる気がした。

 

 

 

 

 

 

 

「すみませーん!合格祈願のお守り一つ、それから健康祈願のも二つください」

「はい!こちらでお間違いないですね?……ありがとうございました」

 

 

 お守りの授与所で、参拝客の列をとにかく捌いていくと、先程別れたビビバスの四人とはまた別の知り合いがやってきた。

 

 

「桐谷さん、桃井さんに日野森さんも、こんばんは。花里さんは舞の予行かな?」

「こんばんは、山吹くん。みのりの演舞が始まるまでは見て回ろうと思って」

「杏ちゃんたちから手伝ってるとは聞いたけど……やけに手馴れてるわね」

「もしかして経験者だったりするのかしら?」

「はい。なんでかは分からないけど、昔からこういう場所でバイトをさせてもらう機会に恵まれてたんです。実はその関係で桐谷さんたちが手伝ってた桐谷神社の榎本さんともちょっとした知り合いだったり…ところで桐谷さん、お守りどれにする?」

「健康祈願四つ、それから心願成就を一つで。ごめんね、後ろに並んでるのに話込んじゃって」

 

 

 『なんでかは分からない』とは言ったが、当然幽霊が見えることに起因してできた知り合いたちのツテを利用したことは言うまでもない。彼らに話をして小遣い稼ぎのためにお寺や神社、教会といった場所でバイトをさせてもらったことは何度もある。雑用からちょっと危険なことまで、色々なことをしてきた。

 後ろに並ぶ列を伸ばさないように世間話を適当なところで切り上げて、桐谷さんに五つのお守りを渡す。

 

 

「いやいや、謝らなきゃいけないのは話しかけちゃったこっちだから……演舞が始まる頃には休憩くれるらしいから、またその頃に」

 

 

 手を振って去っていく桐谷さんを見送ってから、またしばらく参拝客を捌いていくと、再び知り合いの四人組がやってきた。……今度は、ちょっとだけ気まずい人も含めた四人組。

 

 

「次の方────司先輩…こんばんは」

「うむ、いい夜だな!山吹、オレたちのショーはどうだった?だいぶいい出来だったと思うのだが」

 

 

 気まずい理由がこれ。この人の演劇にかける熱意からして、見ていた知り合いに感想を聞くというのは簡単に推測できる。今回は誘った立場の俺も当然見ていると思うだろう………だというのに当の俺は見てないときた。神社の守護の確認がどうしても外せない用事だったとはいえ、失礼極まりない行動であることに変わりはない。

 

 

「司先輩…………すいません、実は「健康祈願を四つ、お願いできるかな?」…え?は、はい」

「後ろも並んでいるからね。司くん、感想を聞くのはまたの機会にしよう」

「…む、それもそうか。山吹、すまなかったな。また後で聞かせてくれ」

「あっ、待って待って!あたし、お父さんたちの分も買ってくから…五つ追加で!あと商売繁盛も一つ!」

「えむ、あんまり乗り出しちゃだめ…!」

 

 

 大変心苦しいが、嘘の感想を言ったところで俺にとっても司先輩にとってもプラスになることはないと思って、素直に謝ろうとしたところで神代先輩が助け舟を出してくれた。

 ……こういう時はありがたいけど…あの人、たぶん俺が幽霊とか見えてること気付いてるんだよなぁ。一人でいるときに、よく俺の名前と幽霊って単語がセットで出てるらしいし。そのことに確信を持っていても、こちらが線引きしている限り踏み込んでは来ないし周りに言いふらしたりもしないことについては、本当に助かっている。

 

 

「はい、どうぞ。……草薙さんも、またね。読み聞かせのことは…また改めてお礼させて」

「…うん。またね」

 

 

 あまり話せなかった草薙さんにも声をかけ、参拝客を捌くことに再び意識を向ける。

 

 

「次の方、どうぞ」

「無病息災四つ!お願いします!!」

「咲希、声大きいよ…」

「こんばんは、天馬さん、星乃さん」

「あの、開運のお守りっておみくじにも効果ありますか?」

「穂波…………山吹くん、ところでバンドのベースの人って今日は…」

「ごめんね、日野森さん。あいつ実家の神社手伝ってて来てないんだ。本人も日野森さんとベースの話したがってたし伝えておくね。……それと望月さん…立場上あまりこういうことは言いたくないんだけど……たぶん、おみくじのためにお守り買ってもほとんど意味ないと思う…」

「…!…そう、ですよね……」

 

 

 健康祈願ではなく無病息災を頼むのが、天馬さんらしいというか。望月さんがこの世の終わりみたいな顔をしていることについては……触れないようにしよう。なんなら日野森さんと星乃さんにも苦笑いされてるし。

 

 

「やっほー、凪紗くん。ちゃんと働いてる?」

「暁山さんに言われなくてもきちんと働いてるよ」

「お疲れ様、山吹くん」

「こんばんは」

「朝比奈さんに宵崎さん…どうも……それに、東雲さんも」

「…な〜んか、私にだけよそよそしくない?」

 

 

 彰人のお姉さんの絵名さんは…どうにも、彰人から聞いた話の印象が強すぎて怖い人のイメージが拭いきれない。実際に話してみると全然そんなことはないのだが、今でも顔を見ると一瞬だけ身構えてしまう。

 それにしても……手伝ってもらった以上、来るのは分かっていたが次から次へと知り合いが来る。

 

 

「そんなことないですよ?皆さん、どのお守りにします?」

「……わたしは、なにか音楽に関係するものにしようかな」

「それなら…芸事上達が一番それっぽいですね。芸術とか芸能の上達を祈るお守りなんですけど」

「私も、せっかくなら絵に関係するのがいいしそれにしようかな」

「じゃあボクは無難に開運にしとこうかな。まふゆは?」

「私は…健康祈願にしとこうかな」

 

 

 

 

 

 暁山さんたちにお守りを渡してからもしばらくの間仕事をしているとベテランの巫女さんから声をかけられた。

 

 

「山吹くん、そろそろ舞が始まるし休憩入っていいよ」

「はい。お疲れ様です」

 

 

 ショーは見逃してしまったので、こちらまで見逃したという事態は必ず避けなければならない。舞を見るために授与所から出て拝殿の方へと向かえば、多くの人が集まっていた。それだけ、この舞を地元の人が見たがっているということだろう。それ自体は喜ばしいことなのだが…

 

 

「この数じゃ前の方は無理かな…どう思います?鬼姫様」

 

 

 人の波をかき分けて前に行くのは難しそうだし、この中から知り合いを見つけて舞が始まる前にたどり着けと言われれば確実に無理。そう判断して、いつの間にか傍らに来ていた着物の女の子に指示を仰ぐ。

 

 

「いい場所教えてあげる。こっち」

 

 

 隣の少女は、いきなり話を振られたことに驚く様子も見せずにそう言って、こちらに背を向けて歩き出した。人の波が見ている方向とは真逆、むしろ拝殿から遠ざかるように進んでいき、たどり着いたのは境内の端に静かに佇む御神木のすぐ横。

 

 

「…すごいですね。ここからなら拝殿もよく見える」

「そうでしょ?お気に入りなんだ」

 

 

 人の壁があるにも関わらず、この位置からならそれを気にせずに演舞を見ることができる。何十年…ともすれば何百年もこの神社にいたとなれば、どこが一番見やすいのかも分かっているのだろう。

 

 

「どう?自分の中で幽霊に向けてるものはなにか分かった?」

「そんな……すぐには無理ですよ」

「……本当に?」

 

 

 声をかけてきた鬼姫様の視線は、装束に身を包んで扇を持ちながら演舞を始めた花里さんの方を向いているが、その声色はこちらの内をしっかりと見抜いた上で声をかけてきたことが分かるものだった。

 

 

 まだ小さい頃、幽霊に声をかけたきっかけは間違いなく憐憫だ。『自分は生きていて、相手は死んでいる。そこに『いる』のに気付かれないのが可哀想…』なんていう幼さ故の無意識の驕り。当時は自分の考え方なんて分かっていなかったけど、今だからこそはっきりと分かる。

 

 ……では、今は?

 

 凪さんに声をかけたときはどうだっただろうか。凪さんには『放っておけないから』と言ったこと、あれは間違いなく本心から出た言葉だった。俺が今の俺になるきっかけをくれた凪さんに対してかけた言葉だけは……絶対に否定したくない。

 

 

「……今も、優しさとは違うと思っています。でも、それが結果的に…誰かの助けになっているのなら…それでもいいのかなって……」

「…そう。それだけでも聞けてよかった」

 

 

 きっかけがきっかけなだけに、自分で自分のことを優しいとは到底思えない。でも、幽霊を見て親愛の情を抱いて行動してしまうことにも変わりはない。……我ながらめんどくさいことは自覚しているが、こればっかりはどうしようもないのだ。

 演舞を終えたばかりの花里さんが、こちらを見つけて大きく手を振ったのを見つけて鬼姫様が見た目相応の子供のように小さく手を振り返した。花里さんの周りには、冬弥や司先輩を始めとした、たくさんの人たちが集まっている。

 

 

「山吹くんにあなたも!皆で写真撮ろうよ!」

 

 

 花里さんの明るい声が、境内に響き渡った。

 

 

「………神様って写真に写るんですか?」

「今の姿なら普通に写るよ。さすがに霊体のときに撮られたら元から見える人じゃないと見えないと思うけど…」

 

 

 鬼姫様と話をしながら、花里さんたちの方へと足を踏み出す。

 ……動かした足は、鬼姫様に言われたことを考えながら参道に向かって歩いたときよりも、ちょっとだけ軽くなっていた気がした。




司だけ下の名前+先輩呼びなのは咲希ちゃんと区別しやすくするためです。咲希ちゃんと知り合う前は名字+先輩呼びだったという設定。
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