そして、体力審査当日。
私のコンディションは、これまでで一番良かった。
それでも――
胸の奥に沈んだ不安は、完全には消えてくれない。
ここから本当に、体力のある人たちを押しのけて、最後の六人に残れるのか。
同じ問いが、胸の奥で何度もこだまする。
大丈夫?
本当にいける?
答えの出ない問いだけが、静かな残響のように心を巡り続けていた。
やがて、審査員の声が会場に響く。
「それでは、体力審査を開始します」
その一言が落ちた瞬間、
空気はまるで張りつめた弦のように鋭く緊張した。
最初の種目は――
シャトルラン。
……最悪だった。
会場の床に引かれた白いライン。
一定の間隔で鳴り続ける電子音。
往復。
往復。
また往復。
あまりにも単純で、
だからこそ残酷な競技。
逃げ場は、どこにもない。
「ピーッ」
音が鳴るたび、身体が前へと駆り立てられる。
最初はまだ余裕があった。
呼吸も整っている。
けれど回数が増えるにつれて、脚はみるみる重さを増していった。
まるで、見えない重りを一つずつ括りつけられていくみたいに。
「はぁ……っ、はぁ……っ」
肺が焼けるように熱い。
喉は乾ききり、視界の端がわずかに揺らぐ。
周囲を見る余裕など、もうない。
ただ、電子音に追い立てられるように走り続ける。
もう止まりたい。
このまま膝をついてしまいたい。
それでも――
(ここで止まったら、全部終わる)
歯を食いしばる。
もう一往復。
あと一歩。
「ピーッ」
鳴り響く音に、身体が反射する。
脚はすでに限界だった。
肺もまた、悲鳴を上げている。
それでも――
止まれない。
ここで止まるわけにはいかない。
夢は、まだ終わらせたくない。
胸の奥で灯り続ける小さな願いが、
倒れそうな身体を、かろうじて前へ押し出していた。
そして――
「終了です」
その言葉が耳に届いた瞬間、
張り詰めていた糸がふっと切れた。
私は、その場に崩れ落ちる。
「はぁ……はぁ……」
息がまともに整わない。
胸が激しく上下する。
全身が、鉛のように重い。
それでも――
やりきった。
その確かな実感だけが、
静かに胸の奥へ残っていた。
やがて、結果発表が始まる。
会場は水を打ったように静まり返る。
審査員の口から告げられた人数は――
六人。
私は、その中にいた。
胸の奥から、じわりと熱が広がる。
……残れたんだ。
その実感が、ゆっくりと心に染み込んでくる。
けれど、喜びに浸るより先に気づいてしまった。
梨央と紗良の姿がない。
落ちてしまったんだ。
胸の奥に、鈍い痛みが走る。
(二人の分も、頑張らないと)
そう思った、そのときだった。
審査員が次の説明を始める。
「最後はグループ審査です」
再び、会場の空気が張り詰める。
「三人ずつに分かれて競い合います。ただし、これはあくまで個人審査です」
その言葉に、客席がざわめいた。
そして、続けて告げられる。
「最終審査の上位三名が――
Stellaとしてデビューします」
Stella。
その名前が、胸の奥で静かに反響する。
星。
夜空の中で、ただひときわ輝く存在。
(私が……Stellaに?)
今まで遠い空の彼方にあったはずの夢が、
初めて現実の輪郭を帯びて迫ってくる。
手の届かない場所にあると思っていた星が、
ほんのわずかに、こちらへ近づいた気がした。
その瞬間。
胸の奥で――
まだ小さく、頼りない光が、
夜の闇に灯る星のように静かに瞬いた。
それはきっと、
もう二度と消えない光だった。