そして、本番。
最終審査。
眩いライトの下、
ステージに立つ六人。
静まり返った会場の奥で、
観客の息づかいだけが、微かに揺れている。
最初のグループ――
花グループのパフォーマンスが始まった。
音楽が流れる。
軽やかなステップ。
風にほどけるように揺れるスカート。
ひとつひとつの動きが、花びらのように重なっていく。
歌声は透明で、
ダンスはしなやかで、
そのすべてが舞台の空気を柔らかく染めていく。
まるで――
春の庭が、一瞬で花開いたみたいだった。
観客の視線が、静かに彼女たちへ吸い寄せられていく。
(すごい……)
胸の奥で、思わず呟く。
どの子も、完成度が高い。
歌も、ダンスも、輝きも。
積み重ねてきた時間が、
そのまま光に変わっているみたいだった。
(みんな……すごいな)
パフォーマンスが終わる。
一瞬の静寂。
そして――
会場を揺らすほどの拍手が、湧き上がった。
その余韻が、胸の奥に静かに残る。
そして――
「次は月グループです」
私たちの番だった。
ステージに出る。
ライトが降り注ぐ。
客席は、
まるで星空のように広がっていた。
音楽が始まる。
最初の一歩。
身体が、自然に動き出す。
歌う。
踊る。
息を合わせる。
六人の動きが、
夜空を巡る月の軌道のように重なっていく。
跳ねるステップ。
伸びる手。
回転する光。
ステージの上で、
私たちはひとつの物語を描いていた。
悔しさも。
不安も。
迷いも。
全部を抱えたまま――
それでも、前へ進もうとする物語。
胸の奥が、熱を帯びる。
声が、空へと解き放たれる。
(届いて)
誰かに。
この場所に。
この光に。
曲は、クライマックスへと駆け上がる。
最後のフォーメーション。
そして――
静止。
一瞬の沈黙。
次の瞬間。
拍手が、嵐のように押し寄せた。
パフォーマンスが終わる。
ステージの光。
客席から降り注ぐ拍手。
まだ鳴りやまない胸の鼓動。
私は、その余韻の中に立っていた。
(出し切った)
それだけは、確かだった。
結果発表。
会場が、静まり返る。
審査員の声が、ゆっくりと響く。
「1位――白鷺玲奈」
歓声。
波のように広がる拍手。
「2位――風間春陽」
また歓声が上がる。
胸がざわつく。
鼓動が、少しずつ速くなる。
そして。
「3位――桜庭羽音」
一瞬、音が遠のいた気がした。
「4位――東雲美凪」
――理解できなかった。
落ちた。
そういうことだ。
言葉が出ない。
身体の奥が、急速に冷えていく。
胸の中で、
何かが静かに崩れていく。
やっぱり。
やっぱりお父さんの言う通りだったんだ。
私には――
アイドルの才能なんて。
そのとき。
審査員が言った。
「では続いて――国民投票の結果です」
ざわめきが起きる。
会場の空気が揺れる。
巨大スクリーンに、数字が映し出された。
票が、動く。
増えていく。
一票。
また一票。
その感覚が、不思議だった。
まるで――
遠くにいる誰かが、
静かに手を差し伸べてくれているみたいだった。
モモジャンのみんな。
笑顔で応援してくれた、あの屋上。
お兄ちゃんとお姉ちゃん。
何も言わなくても、
ずっとそばにいてくれた人たち。
そして――
お父さん。
厳しい言葉の奥にあった、
不器用な想い。
全部が、
少しずつ集まってくる。
まるで光の粒が、
夜空から静かに降り積もるみたいに。
そして。
最終結果。
審査員が、ゆっくりと告げる。
「3位――東雲美凪」
一瞬、理解できなかった。
時間が止まる。
そして――
会場がどよめいた。
大逆転。
私は――
Stellaのメンバーになった。
涙が、止まらなかった。
その夜。
家に帰る。
玄関を開けた瞬間。
お兄ちゃんとお姉ちゃんが拍手した。
「すごいじゃん」
お兄ちゃんが、照れくさそうに笑う。
「ほんとにアイドルになったね」
お姉ちゃんの声は、どこか誇らしげだった。
胸の奥が、じんわり温かくなる。
お父さんは、少し離れたところに立っていた。
何も言わない。
ただ。
静かに、こちらを見ている。
そして――
小さく頷いた。
ほんのわずかな動き。
それだけなのに。
胸の奥に溜まっていたものが、
一気に溢れそうになった。
認めてもらえた気がした。
やっと。
ほんの少しだけ。
前に進めた気がした。
翌日。
モモジャンのみんなに会う。
「美凪ー!!」
みのりが真っ先に駆け寄ってきた。
そのまま勢いよく抱きつく。
「すごいよ!!本当にすごい!!」
目をキラキラさせながら、何度も言う。
「私ね!絶対いけるって思ってた!」
愛莉も笑いながら言う。
「昨日、みんなで配信見てたんだよ!」
雫は優しく微笑む。
「あなたなら、きっと届くって思っていたわ」
遥も、少し照れたように言った。
「……頑張ったね」
その言葉を聞いたとき。
胸の奥が、静かに震えた。
屋上で歌った日々。
夕焼けの中で笑った時間。
夢を語り合った夜。
全部が、ここにつながっている。
私は、やっと実感した。
ステージの光。
観客の拍手。
仲間の笑顔。
そのすべてが――
遠い夢じゃなくなった。
静かに、胸の奥で言葉が浮かぶ。
――夢が、始まったんだ。
でも。
それはきっと、
終着点じゃない。
ここはまだ、
物語の入り口にすぎない。
私の物語は、これから先も続いていく。
夜空の向こうにある、
まだ見ぬ光を目指して。