プロセカ歌パロ集   作:七瀬ぴの

7 / 13
証明された、刹那

本番。

照明が落ち、舞台袖の空気が一気に張りつめる。

それまでざわついていた会場の音が、嘘のように遠のいた。

 

Cグループは、最後の発表だった。

 

すでに披露されたA、B両グループの完成度は高い。

特に、寸分の狂いもないフォーメーションと、感情の起伏まで揃え切った表情管理は、客席だけでなく、待機していたCグループの心にまで重くのしかかっていた。

 

――正直、凄かった。

認めざるを得ないほどに。

 

胸の奥に、かすかな焦りが滲む。

このあと自分たちが、同じ舞台に立つのだという現実が、遅れて追いついてくる。

 

……それでも。

 

ここまで積み上げてきた日々は、決して偽物じゃない。

転び、ぶつかり、すれ違いながら、それでも前に進んできた時間が、確かにある。

 

互いに視線を交わす。

言葉はない。

短く頷き合うだけで、十分だった。

 

「……よろしくお願いします」

 

軽い挨拶と同時に、軽快なリズムが会場を満たす。

 

音が鳴った瞬間、五人の身体は迷いなく動き出した。

 

最初の一歩。

足裏から伝わる床の感触。

照明の熱。

突き刺さるような観客の視線。

 

逃げ場はない。

それでも、美凪は逃げなかった。

 

すべてを受け止めながら、踊る。

 

それぞれ異なる温度を持つ五人の動きが、次第に一つの旋律へと溶け合っていく。

個性は削がれず、しかし誰か一人が突出することもない。

 

失敗ばかりで、何度も噛み合わなかった日々。

衝突し、立ち止まり、泣いた夜。

それらすべてが、ここにきて不思議な均衡を生み出していた。

 

呼吸が合う。

ターンが揃う。

歌声が重なり、音程が天井へと真っ直ぐ伸びていく。

 

汗が額を伝い、視界の端が滲む。

肺が焼けるように苦しい。

脚は悲鳴を上げている。

 

それでも、止まらない。

止められない。

 

――この瞬間だけは。

この短い時間だけは。

 

私たちは、確かに“アイドル”だった。

 

最後のポーズが決まり、音が止む。

一拍の静寂。

そして、次の瞬間。

 

拍手が、波のように押し寄せた。

 

耳がじん、と鳴る。

歓声と拍手が混じり合い、会場全体を包み込んでいく。

 

舞台を降りた直後、全員が大きく息を吐いた。

脚が震え、肩が上下する。

 

荒い呼吸を必死に整えながら、すぐに始まる結果発表を待つ。

心臓の音が、やけに大きく感じられた。

 

五人で手を合わせる。

まるで祈るような仕草。

周囲を見渡せば、どのグループも同じことをしていた。

 

――今回は、1チームだけが落ちる。

 

その事実が、遅れて重くのしかかる。

 

審査員の声が、静まり返った会場に響いた。

 

「2位、Aチーム」

 

安定感と完成度を評価するコメント。

その言葉と同時に、Aチームが歓喜に包まれる。

 

拍手の中で、美凪の胸の奥がきゅっと締めつけられた。

 

……だめだったのか?

 

一瞬、思考が沈む。

けれど、すぐに首を振る。

 

まだだ。

終わっていない。

 

残るのは、私たちCグループとBグループ、どちらが最下位か。

 

「1……」

 

ごくり、と誰かが唾を飲み込む音が、異様なほど大きく聞こえた。

 

時間が、引き伸ばされたように感じる。

 

「Cチーム!」

 

一瞬、意味が理解できなかった。

言葉が、頭の中でうまく噛み合わない。

 

次の瞬間。

 

「……やった……?」

「やったぁ!」

 

誰かの声をきっかけに、全員が叫んでいた。

 

抱き合い、肩を叩き、泣いて、笑う。

声にならない声が、喉から溢れ出す。

 

胸の奥が熱くなり、視界が滲む。

 

――嬉しかった。

心の底から。

 

残れた。

繋がった。

まだ、ここにいられる。

 

ふと視線を向けると、Bグループの方から、複雑な視線が向けられていた。

羨望と、悔しさと、そしてどこか刺々しい感情が入り混じった眼差し。

 

空気が、急に重くなる。

さっきまでの高揚が、嘘のように居心地の悪さを残していた。

 

勝った、という事実は、誰かの敗北の上に成り立っている。

その現実が、静かに胸に沈む。

 

こうして、残りは10人。

 

次回は、体力審査。

 

体力に自信のない美凪にとって、それはほとんど宣告に等しかった。

 

――喜びの余韻が、冷えるよりも早く。

次の不安が、すでにすぐそこまで迫っていた。

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。