キンイロリョテイは気性難   作:白老好太郎

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前回あらすじ
同室で同期のキンイロリョテイとオースミサンデー。
キンイロリョテイは『来年の皐月賞、オースミサンデーが予後不良になる』
という予言めいた夢を見る。
同室の死を避けるため、キンイロリョテイは皐月賞への出走を目標に掲げた。
インフルエンザの影響でキンイロリョテイとオースミサンデー、沼川トレーナーの3名は
仲良く保健棟に幽閉されながら12月25日を迎える。

既存登場人物の簡易解説
◆97年クラシック世代
キンイロリョテイ:2戦0勝。レースにイマイチ本気になれない新人ウマ娘。
オースミサンデー:2戦1勝。リョテイの同室。オーちゃんと読んでください。
         2戦ともリョテイと同じレースを走り、2戦目で一勝を挙げている。

◆トレーナー陣
沼川トレーナー:キンイロリョテイの担当トレーナー。
        癖のあるウマ娘の育成を信条としてる変わり者。

山中トレーナー:オースミサンデーの担当トレーナー。
        真面目だかイマイチインパクトがない。

◆トレセン関係者
志麻先生:トレセンの保健室の先生兼、医者。
     一見近寄りがたいが、気さくなお姉さん。


M2-5「クリスマスプレゼント」

◆キンイロリョテイ 1996年12月25日(早朝)

「リョテイちゃん、リョテイちゃん、起きてください」

体をゆすられて起きた。

眠い。かなり眠い。

「ん」

一応声だけ返す。

「リョテイちゃん、これってリョテイちゃんが置いてくれたんですか?」

オースミサンデーの元気な声に耳をやられる。

もう少し声のボリュームを下げてくれ。

「これって?」

「これです。これが朝起きると机の上に置いてあって」

「どれ」

「これですこれ。私が今手に持ってる」

「見えない」

「あの、リョテイちゃん。目を開いてから言ってください」

あぁ。昨日、夜更かしをしたせいか瞼が重い。

そもそも無理に起こされるとは思ってもいなかった。

「ほら頑張って目を開いて」

オーちゃんには俺を寝かせたままほっておく選択肢は無いらしい。

症状が落ち着いたとは言え、病み上がりなんだけど。

「んーー」

努力の末目を開ける。

近くの時計を見ると6時を指していた。

いや、まだ寝かせてよ。

心の中の文句を噛み殺しながら、隣に立つオーちゃんを見る。

彼女の手元には赤と緑のストライプの包装紙に包まれた、

これどう見たってプレゼントですよって言いたげな箱を持っていた。

その特徴的な色使いに思い当たる節は一つしかない。

「あれ、今日ってクリスマスだっけ」

「そうです!クリスマスです!

そして起きたらこのプレゼント。

てっきりリョテイちゃんから、と思いましたが」

「記憶にございません」

寝起きのせいか、つい政治家みたいなことを言ってしまった。

「みたいですね。ほら、リョテイちゃんの机にもプレゼントが置いてありますよ」

よく見ると、ベッドのサイドテーブルには包装紙に包まれたプレゼントが置かれていた。

「ところで何が入ってたの」

「まだ見てないんです。見てみますね」

バリバリバリバリ。

直後、豪快な包装紙を破る音が病室に響き渡る。

厚紙の箱は大きく歪み、包装紙は跡形もなく四散している。

お前はおもちゃを貰ったチンパンジーか。

「で、なにをもらったの?」

オーちゃんは手に取ったそれを俺に見せてくる。

箱の中には包帯のようにぐるぐる巻きになった厚めの布が6つ。

二つ一組のようで、赤、青、ピンクのカラー分けがされていた。

「自信満々に見せてもらって悪いけど。なにこれ」

「みて分からないですか?ストラップですよ」

「そんなにデカくて分厚い布、バッグにでもつけるのか」

「違います。

おしゃれで女子高生がバッグに着けるストラップじゃなくて、

リストストラップです。ウェイトルームとかでつけてるの見ません?」

「筋トレのアイテムか」

「そうです。元々、リストストラップ自体は使ってたのですが、

消耗品なのでそろそろ買い換えようと思ってたんですよ」

「それは、良かった……のかな?」

「もちろんです。大感激」

そう言うと、使用感を確かめるようにストラップを腕に巻き付け始めた。

俺が貰ったら正直嫌だが、オーちゃんにとっては100点のプレゼントだったようだ。

流石に送り主も、オーちゃんの性格は分かっているだろう。

「リョテイちゃんは何を貰ったんです?」

「開けてみるか、不安はあるけど」

「まぁ、差出人不明だとちょっと気になりますよね」

意外だ。我が家ではサンタさんは実在するんです。

とか言い出すかと思った。

「どうせ志麻先生やトレーナー達が気を遣ってくれたんじゃない」

恐らく、沼川トレーナーからと思われるプレゼントを開けてみる。

アイツ、プレゼントとか用意するタイプなんだな。

「なんだろう、この白いおもちゃ」

「あ!たま〇っちじゃないですか」

「たま〇っち?」

「え、知らないんですか?

テレビのニュースとかで見たことありません?

画面の中の謎の生命体のお世話をするゲームですよ」

「ポケ〇ンみたいなやつね」

「多分そうだと思います。両方やったことないので予想ですけど」

「なにかとUMAを育てるゲームが流行っているな」

「リョテイちゃん、猫にエサをあげてますし、好きそうですけどね」

猫の餌付けとポケ〇ンなら楽しみ方は全く別だが、黙っておこう。

「世間では、テレビとかでよくとりあげられてて人気ですよ。

おもちゃ屋さんでは在庫がなくて、品薄らしいですし。

プレゼントに貰えたのはかなり幸運ですね。

巷では、見えるところにぶら下げていると奪われるとか」

「そんな、スニーカー狩りみたいな事起きてるの」

「スニーカーと同じくらいの勢いはありますね。

落ち着いたらでいいので、私にも遊ばせてください」

「ままオーちゃんってミーハーなところあるよね」

「リョテイちゃんが流行に疎すぎるんです」

 

 

 

「失礼しまーす」

ドアをノックし沼川トレーナーが居る病室に入った。

返答は無かった。

プレゼントの送り主は十中八九、それぞれの担当トレーナーだろう。

答え合わせと、お礼をかねて沼川に会いにきた。

沼川の病室は個室で、ほかの人は居なかった。

当の本人はサイドテーブルに突っ伏したまま動かない。

時間は午前11時を過ぎているが、まだ寝ているようだ。

近付いてよく見てみると、サイドテーブル一面にウマ娘に関する資料が置いてある。

沼川はその資料の上に覆いかぶさって、ペンをもったまま寝ている。

眠気で意識が飛ぶ限界まで何かをメモしようとしていたのか、

ノートに書かれた文字は読み取れるものではなかった。

念のため沼川の手首に触れる。

流石に生きてる。

トレセンでも行き倒れるトレーナーは時々見かけるし、

沼川がトレーナー室で寝ている事は珍しくない。

ただ、病室でペンを片手に寝ている絵面は、

ダイイングメッセージを残す途中で事切れた被害者にしか見えない。

本来、オーバーワークを諭す立場のトレーナーが、

オーバーワークしているのは皮肉だな。

医者の不養生ならぬ、トレーナーのオーバーワークか。

まぁ、俺が皐月賞出たいなんてワガママ言うから、頑張ってくれてるようだ。

マイネルマックス、ゴッドスピード、メジロブライトなどなど。

広げられた資料には、今年デビューした俺の同期のウマ娘に関するものばかりだ。

中には既に重賞勝利をあげたウマ娘もいる。

一方俺はまだ未勝利で目標を急遽、皐月賞に決めた。

我ながら無茶な要望だと思う。

だけど、それに沼川トレーナーは本気で取り組んてくれているらしい。

沼川をベッドに寝かせ布団をかけた。

 

今度、起きてるときにちゃんとお礼を言おう。

沼川がやる気なことの方が、俺には嬉しいプレゼントだった。

ありがとう。心の中でつぶやいた。

 

◆オースミサンデー 1996年12月25日(夕方)

「じゃあ、これから足の触診をするわ。

私が触ったり、押したりした時に痛んだら教えて」

「わかりました」

志麻先生から提案があり診察室で、健康状態のチェックを受けることになりました。

特に異常はないものの、念のためだそうです。

「志麻先生」

「なぁに?」

「リョテイちゃんの怪我って大丈夫なんですか?」

「あー、シンスプリントね。

医者の私がいうのもあれだけど、十分な休息をとれば大した病気じゃないわ。

ちゃんと直してG1を獲った娘だっている。

無理にトレーニングしなければ後の走りに影響は出ないわ」

「そう……なんですね。

身近な人がレース関係の怪我したの初めてで」

「あら、心配?」

「リョテイちゃんには特別と言うか。

なにか才能を感じるんです。

前走はなんとか勝てたけど、本調子では無さそうでしたし。

今思えば、シンスプリントも影響したのかなって」

「随分、あの娘のこと買ってるのね」

「リョテイちゃんはライバルなんです。私の。

リョテイちゃんはまだそう思ってくれていないかも、しれないけど。

私、ジャパンカップを獲るのが子供の頃からの夢で。

でも、リョテイちゃんと走ってると不安になるんです。

リョテイちゃんはきっとジャパンカップに出てくる。その時に私は勝てるのかなって。

元々、ジャパンカップに勝ちたい気持ちはありましたが、

今はリョテイちゃんに負けたくない気持ちも同じくらい強くて」

「あら。アツアツで良いじゃない。青春ね。

だーけーど、無理に自分を追い込み過ぎないでね。

命あってのなんとやらよ。はい、これお姉さんとの約束」

志麻先生は触診を一旦とめて小指を突き出しました。

「分かりました」

そういってゆびきりをしました。

「よろしい。ウマ娘が健康なら私も暇でwinwinだから」

そう言って先生は触診を再開しました。

「やっぱり先生って忙しいんですか、クリスマスもお仕事されてますし」

「程々ね。忙しくないって言ったら嘘になるけど。

交代要員は居るから、休もうと思えば休めるわ」

「じゃあ、今日はどうしてトレセンに?」

「落ち着かないのよ。家に居ても。

急に体調を崩した娘が居るんじゃないか、

私がトレセンに居ないことで誰かが困ってるんじゃないかってね」

「大変なんですね」

「そう?ウマ娘だって似たようなものじゃない。

祝日でもトレーニングしてる娘も、レースが不安で寝れない娘も

少なくは無いわ」

「そうかもしれません。でもでも志麻先生も無理しないでくださいね。

志麻先生が倒れたら私、悲しいです」

「ふふ。気を付けるわ」

 

 

 

志麻先生が拍手をしながら発表します。

「さて、これで検査しゅーりょう。

特に異常は見られなかったわ。

今後も無理せずトレーニングに勤しむように」

「ありがとうございます。安心しました」

「こちらこそ、時間を取らせて悪かったわね」

「大丈夫です。志麻先生はこの後予定とかあるんですか」

「予定はないけど、どうしたの」

「実はクリスマスパーティーするんです。

リョテイちゃんや沼川トレーナーと。

一緒にケーキでも食べませんか?」

先生は少しにっこりした後、悲しげに言います。

「ありがたいお誘いだけど、長時間診察室を開けては居られないわ。

急患が来たら真っ先に対応してあげたいから」

考えてみればその通りでした。

例え予定がなくとも、急に診察をする必要があるのが保健の先生でした。

でも、志麻先生にだってクリスマスくらい何かいい事があって良いはずです。

「じゃあ、ここでクリスマスパーティーしましょう」

「え?」

「パーティーっといっても紅茶を飲みながらケーキを食べるくらいなんです。

それだけならここでもできますよね?

もちろん、具合が悪い方が来たら退散します。

ティーカップとケーキを持って」

「いや、でも、流石に衛生面が」

「やりましょうよ、せっかくのクリスマスですよ」

 

その後、たまたま居合わせた沼川トレーナーにも説得を協力してもらい、

クリスマスパーティーは無事診察室で行われました。

幸い急患が来ることなく、その日の診察室にはしばらく紅茶と甘いケーキの香りが漂っていました。

 

 

 

 

◆沼川トレーナーのヒミツ

病室にプレゼントを置いた張本人。(保健棟に舞い降りたサンタさん)

キンイロリョテイが夜更かしするので、なかなか病室に入れなかった。

結果、明け方まで起きるはめになった。

キンイロリョテイへのプレゼントのたま〇っちは、

トレセン近くの商店街の皆さまのご厚意で入手できた。

 

◆山中トレーナーのヒミツ

オースミサンデーへのプレゼントがトレーニングアイテムで良いのか本気で悩んでいた。

だが、オースミサンデーが誕生日プレゼントで握力計を貰ったことを、

嬉しそうに話しているのを見て、考える事をやめた。

 

◆×××のヒミツ

初代たまごっち

1996年11月に発売。

当初は女子高校生向けに開発されたが、

発売当初から社会現象と言えるレベルの人気で幅広い世代にヒットした。

復刻版が現在(26年3月)も販売しており、96年当時と同じ感覚で楽しむ事ができる。

尚、たまごっちはランダムな時間に操作を強要される部分があり、

現代の遊びたい時間に遊びたいだけ遊ぶスタイルに慣れていると、

煩雑さを感じる場合もある。購入の際には注意して頂きたい。(著者体験談)

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