キンイロリョテイは気性難   作:白老好太郎

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前回あらすじ
同室で同期のキンイロリョテイとオースミサンデー。
メイクデビューを終えたキンイロリョテイは、
『来年の皐月賞、オースミサンデーが予後不良になる』という予知夢を見る。
同室の死を避けるため、キンイロリョテイは皐月賞への出走を目標に掲げるのだった。

既存登場人物の簡易解説
◆96年クラシック世代
ローゼンカバリー:9戦4勝(G2勝ち)。大きな丸眼鏡を付けた、寂しがりのウマ娘。
         キンイロリョテイとは地元が一緒で幼少期から交流があったそう。

◆97年クラシック世代
キンイロリョテイ:2戦0勝。レースにイマイチ本気になれない新人ウマ娘。
オースミサンデー:2戦1勝。リョテイの同室。オーちゃんと読んでください。
         2戦ともリョテイと同じレースを走り、2戦目で一勝を挙げている。

◆トレーナー陣
沼川トレーナー:キンイロリョテイの担当トレーナーであり、
        ローゼンカバリーの担当トレーナー。
        癖のあるウマ娘の育成を信条としてる変わり者。


M2-6「猪塚コーチ」

◆キンイロリョテイ 1996年12月29日

「リョテイちゃん、おかえりなさい」

「あぁ、ただいま」

一週間ぶりに自室に入ると同室のオースミサンデーが迎えてくれた。

インフルエンザの隔離期間を終え、やっと住処の栗東寮に帰ってこれた。

感染拡大予防の為に隔離されていたオースミサンデーと沼川トレーナーは、

特に異常もなかった為、一足先に保健棟から解放されていた。

「オーちゃんは帰省しないのか」

世間は年の瀬。

ジュニア期の俺らは通常の授業が無い分実感は沸かないが、

クリスマス辺りからトレセン学園はとっくに冬休みに入っている。

冬休み期間中は、申請さえすれば生徒は誰でも帰省が許可されている。

「最初は実家に帰ろうかと思ってたんですが、

トレーナーと話し合って練習することにしました。

1月末にはレースを予定してるので」

「メイクデビューを勝ち上がったんだし、ゆっくりしてれば良いのに」

「うかうかしてられません。

この前のラジオたんぱ杯では、あのマキハタスパートさんは最下位でした。

同期で最前線を走っているウマ娘と私達には、まだ実力差がありそうです」

「あのマキハタスパートが」

「はい、あのマキハタスパートさんがです」

「……」

「……。リョテイちゃん、マキハタスパートさんのこと覚えてます?」

「いえ、全く」

「私達が最初のメイクデビューで負けた娘ですよ」

「確かにそんな名前だったか」

「リョテイちゃんもレース結果にもう少し関心持ったほうがいいですよ」

「過去は振り返らない主義だから」

それを聞くとやれやれと言った風な反応をオーちゃんは見せた。

「逆にリョテイちゃんは帰省しないんですか?

真っ先に帰りたそうでしたけど」

「帰りたいけど、この後のミーティング次第かな。

沼川に呼び出し食らったから」

「私は残ってほしいですけどね。一人は寂しいですし」

「嘘つけ、寮に引っ越す前は一人部屋だったじゃん」

「相部屋になって1カ月と過ぎてないはずですが、意外と寂しいもんですよ。

この部屋で一人で過ごすの」

一人でこの部屋を占領していた俺にはあまり理解でき無さそうだ。

時計を見ると13時を回っていた。

オーちゃんに軽く会話してトレーナー室へ向かった。

 

 

沼川のトレーナー室に行くと、

沼川と見知らぬ中年のマッチョが居た。

マッチョの男は、スポーツ刈りで、眉毛から頬にかけて傷があった。

とても堅気の人間にはみえない。

「あれ、ミーテングって13時からだよな?」

「合っているよ」

沼川が答える。

「この人は?」

マッチョの方に軽く目線を送りながら言う。

「この方は猪塚コーチ、今後リョテイの担当コーチになる」

「君がキンイロリョテイさんね。

これから担当コーチになる猪塚だ。よろしく」

そう言うと、猪塚は俺の前まで来て、手を差し出した。

12月だってのに、上半身はワイシャツのみ。

差し出された手の前腕から、既に筋肉が主張をはじめていた。

オーちゃんと似たタイプの人間かもしれない。

「よろしく……」

少しビビりながらも猪塚と握手をした。

改めて良く見ると、猪塚はガタイが良く横幅も広いがそこまで身長は高くない。

170cmいかないくらいか。熊より猪のイメージだ。

「あれ、俺のコーチってピエリじゃないの?」

ふと、レース中にガミガミと英語と日本語をミックスしながら指示してくる、

フランス人コーチを思い出す。

「リョテイは保健棟に幽閉されてたから知らなかったね。

ピエリコーチは担当から外れた」

「え、どうして」

「ピエリ本人の希望でね。

レースでインカム投げ捨てるウマ娘を担当したくないってキレてたよ」

「そんなに重罪なの」

「コーチはレース中にインカムでウマ娘を指示するのが仕事だからね。

そのインカムを投げ捨てられちゃ、『俺はコーチ要らねぇぜ』って言ってるようなものだからね。

コーチの受け取り方次第だけど」

「へー」

もちろんそんな意図は無かったけど、ピエリには少し悪いことをしたかも。

「さて、一旦ブリーフィングと行こうか」

沼川がキャスター付きのホワイトボードを引きずりながら進行を始めた。

 

「まず、キンイロリョテイの大きな目標は皐月賞出場。

これを何とか達成したい。

そのための小さな目標として当分は【2月末までに2勝】を目指す。

【2月末までに2勝して、3月頭の皐月賞トライアルで結果を出す】

ってのが、現状一番理想だ」

「そんなにうまく行くかな?」

ついそんな弱音が出てしまう。

2勝したいと目標にして勝てるなら、どのウマ娘も苦労しない。

「厳しいだろうね。

リョテイは今のところ未勝利で、かつシンスプリントも抱えてる。

2月からは通常の授業だって始まる。その他、再審査など課題は多い。

悩みの種が多すぎて、俺一人じゃ、とても手が回らない。

って事で猪塚コーチの出番ってこと」

少し状況が読めてきた。

「猪塚コーチはトレーニング指導も積極的に行ってくれるコーチだ。

過去にダイユウサクやエイシンワシントンも担当していて実績十分。

猪塚コーチには早速明日から、キンイロがサボってきた基礎トレーニングを、

ワンツーマンで見てもらう予定だ」

んん?明日?

「え、ちょっと待って。明日って、もう年末だよ。

それにシンスプリントで今は安静にする時期じゃないの?」

「猪塚コーチには悪いですが、年末年始返上でトレーニングに付き合ってもらいます。

シンスプリントの件も対策は考えてある。

少なくとも直近1週間は下半身は鍛えず、

上半身の筋ウェイトトレーニングやレース運びの戦術理解などをする予定だ」

うわ。沼川が張り切っちゃってるな。

流石に休日返上でトレーナーまがいの事をやらされるのは、

コーチも不服だろうと、猪塚の方を見る。

「冬の特訓。燃えるな。

リョテイ。私はお前を見捨てないからな」

えーー。

目に炎が見えるくらい、馬鹿みたいにやる気を出していた。

実際、馬鹿なんだろうな。多分。

「いや、言うほど俺、見捨てられてないから……。

てか、その間沼川はなにしてんの?

まさか、お前だけ冬休みを謳歌するつもりじゃないよな」

皐月賞参加を希望した手前、冬休み返上は許せるが、

提案した沼川が、実家のこたつでぬくぬくしている事だけは許せない。

「いやいや、俺だって暇してないよ。

ただ、ローゼンカバリーのレースが3週間後に控えてる。

だからリョテイに付きっ切りとは行かないの。

トレーニング内容には口を出すけど、

トレーニングの実施自体は猪塚コーチの付き添いが基本になる」

「なら、いつもみたいに一人でいいじゃん。

無理にコーチ巻き込まなくても」

「いや、巻き込むね。だって一人だとサボるじゃん」

「うぅ」

過去の実績があるから反論しづらい。

「単に監視役って訳じゃない。

トレーニング時の正しいフォーム、使う筋肉の意識とか、

個人トレーニングでは気づきづらい部分を助言できるぞ」

猪塚コーチが補足する。この人、結構乗り気のようだ。

まぁ、俺にとって重要なのはそこじゃない。

問題はこれでオーちゃんの皐月賞出走が止められるかだ。

「なぁ、沼川。

順調に行けばオースミサンデーと皐月賞前に直接対戦できるかな?」

「キンイロの同室か、やけに気に掛けるね。

キンイロもオースミサンデーも両者順調に勝ち上がった前提なら、3割って所かな。

あっちも2勝すれば皐月賞トライアルレースのどれかには出てくると思うよ。

オースミサンデーも2月末までに2勝目をあげれるか次第だけどね」

オーちゃんが勝ち上がれなければそれで良い。

もし勝ち上がった時に、3割でもいい。

直接対決で皐月賞出走を止めれるようにしておきたい。

その為なら、休日返上のトレーニングも、マッチョの監視も甘んじて受け入れる。

「わかった、トレーニング内容に異論はないよ」

「はい。と言うわけで年末ですが、あと2ヵ月で2勝をあげないといけません。

みんな張り切って行こー」

沼川のカラ元気でブリーフィングは幕を閉じた。

 

 

 

◆キンイロリョテイのヒミツ

クリスマスプレゼントのたま〇っちを遊んでいるが、

1週間で2回ほど死なせており、軽く凹んでいる。

よっぽど本物の猫の方が世話がしやすいとのこと。

 

◆猪塚コーチのヒミツ

学園ドラマが大好き。

金八〇生がきっかけで教師になろうとしたが、

めぐりあわせで(教員免許が取れず)コーチになった。

 

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