キンイロリョテイは気性難   作:白老好太郎

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前回あらすじ
メイクデビューを終えた、キンイロリョテイとオースミサンデー。
その後、栗東寮の同室となった二人は、次のレースに向けてそれぞれの準備を進めていた。

登場人物の簡易解説
キンイロリョテイ:レースにイマイチ本気になれない新人ウマ娘。1戦0勝(新バ戦3位)。
オースミサンデー:リョテイの同室で、同じレースでデビューしたウマ娘。1戦0勝(新バ戦7位)。
山中トレーナー:オースミサンデーの担当トレーナー。


M1-2「走る理由」

◆オースミサンデー 1996年12月5日(中1週)

 

「で、そのオースミサンデーって娘、速いの?」

トレーナー室に入るなり、金髪でウルフカットのウマ娘が山中トレーナーに話しかけていた。

多分、聞いちゃいけない話を聞いちゃったかな。

当のウマ娘も私に気が付いたみたいで、急に顔が青ざめた。

「ごめんごめん、今のなし。今の発言なし」

「大丈夫だよ。それより、ランフォザドリームさん、だよね。

初めましてであってるかな」

「うん。坂路とかでちょくちょく顔は知ってたんだけど、ちゃんと話すの初めて」

ランフォザドリームさん。

私と同じ今年デビュー組で、なにより同じ山中トレーナーと契約している娘。

11月にデビューして、2戦1勝。経験値も実績も、私より一歩先を進んでる。

(体重は少し私が勝ってるけど)

「私のことは、オーちゃんって呼んでください。なんて呼べばいいですか?」

「オーちゃんね。了解。

私のことはランなり、ランフォなり、好きに呼んで。

でも、ドリーム呼びはNGね。恥ずかしいから」

「じゃぁ、ランさんかな。私、そんなに速くないし、まだ未勝利から」

「全然気にしてるじゃん。さっきの発言は忘れて。

マジ、トレーナーとの内輪ノリって言うか、勢いで言っただけだから。

あと、一勝とか未勝利とかも気にするのやめよ。

……いや、でも正直、私も格上相手だと戦績とか意識しちゃうわ」

ランさんは頭を下げながらそう言ってくれる。やっぱり怖い人じゃなかった。

「うん。こっちこそごめん。間が悪すぎていじっちゃった」

「よかったー。てか、山中トレも悪いわ。

聞いてオーちゃん、今日一緒にトレーニングするのさっき言ってきたんだよ。

普通前日には連絡しない?」

ランさんは相当、さっきの発言を聞かれたのが響いているらしい。中山トレにも飛び火した。

「え、僕?確かに連絡遅れたのはホントにごめん。

でもオーちゃんの走りはさっき録画で……」

「いや、レース動画とかタイムとか言われてもピンとこないから、

山中トレの実感体感を知りたいじゃん。そりゃ、『速いの?』も出ます」

トレーナーがランさんに押されている。

普段、山中さんと他のウマ娘との会話を聞かないから新鮮だ。

「かなり早いよ、多分実力はランと互角くらい。

二人とも将来有望な、うちの生徒だ」

「うーん」

ランさんはあまり腑に落ちていないみたい。

まぁ、本人が居るところで、どっちの生徒のほうが速いって言っちゃう人の方が珍しいとは思う。

それが担当トレーナーなら尚更。

「じゃ、じゃあランさん、私と模擬レースしませんか。そのほうがわかりやすいですし」

「え、いいの?そうしよ、そうしよ。

ね、トレーナーもいいでしょ?」

「わかった。元々、併せの並走予定ではあったから、模擬レースしようか。

でも、二人とも勝った負けたで一喜一憂しないでね」

 

 

場所を芝の練習場に移して、ランさんとスタート位置に立っていた。

「軽くおさらいね。条件は芝の1800mで2ターン。

ランは距離がおそらく適正ど真ん中。

だけど、逃げが居ないから先行策をとって風を受けるのが懸念点。

逆にオーちゃんは、ランを追う展開だから走り方は新バ戦と同じでいい。

だけど、距離が短いから確実に差せるかが重要。

じゃぁ、二人とも準備して。手を叩いたらスタートね」

スタートの体制をとる。少しワクワクする。

打算的に模擬レースを提案したわけではじゃない。

メイクデビューは不本意な結果に終わったけど、一勝バとの対決で自分の実力を見極める。

そしてなにより、同期で同門のランさんに負けたくない。

「パン」

手を叩いた音が聞こえた。今度は出遅れなかった。

 

 

展開は想定どおり、ランさんが前に出て私が追走する形になった。

前回の反省点を思い出す。

まずはスタートダッシュ。これは問題なし。

あとは、スタミナ管理。今はこれに集中しよう。

ランさんが思ったより飛ばしているけど、無理には追わない。

スパートでちゃんとキレのある末脚がだせるように温存。

最終直線に入った。思ったより離されて2バ身半くらい差がある。

でもこれくらいの差ならいける。

ピッチを上げ、歩幅を広げ、加速を始める。

ランさんの後ろ姿が大きく見える。いけるこれなら。

でもおかしい、あと半バ身に迫ったところで差がほとんど詰められなくなった。

ランさんあれだけ飛ばしてて、まだこんなに加速できるの。

でも、負けない。今度こそ。

つらい足で再度、力強く地面を蹴る。

 

 

気合で抜いた頃には、ランさんは既にスローダウンしていた。

しまった。勝負はどうなったんだろう。

ランさんを抜くことに必死でゴールの位置を完全に忘れていた。

山中トレーナーが寄ってきた。

「はい、二人ともお疲れー。いい勝負だったよ。

宿命!山中同門対決記念の結果はドゥルルルルルル……」

『はぁはぁ、はぁ』

レースの熱量に感化されて、おふざけを始めているが、

お互い口を挟める程の余力は残っていなかった。

「デデン!1位ランフォザドリーム 1分53秒。2位オースミサンデーはクビ差の二着」

負けちゃった。けど、メイクデビューほど絶望感はない。

出遅れない程度のスタートダッシュ、上がりで自慢の末脚を保てれば、一勝バにだって遅れをとらない。

それが分かれば大成果。

自信も取り戻せた気がする。

「いやー、オーちゃんが捲るかと思ったけど、惜しかったね。

ちょっと最終直線からじゃ加速が間に合わなかったね。

ランが序盤にちゃんとリードを作ったのが偉かったね」

『ぜぇぜぇ』

トレーナーの振り返りが始まったけど、まだ息が上がってて話が頭に入らない。

リンさんに関してはトレーナーそっちのけで、芝に寝っ転がっている。

「んー。勝負に全力なのは良い事だけど、二人とも全力出しすぎ。

これじゃ、すぐトレーニングとは行けないね。

休憩あげるから、息整えてね」

 

 

「オーちゃん強いね」

コース横のベンチで休んでると、リンさんが声をかけてきた。

「え、ホントに。ありがとう。

さっき負けちゃったけどね」

「それはそうなんだけど、なんか最終直線で凄い圧を感じた」

「圧?」

「うん、プレッシャーっていうか、殺意みたいな。

振り返ったらやられると思った」

「私そんなに怖かった?」

「怖かったよ。マジで。だからさっきは全力で走った」

「怖いって言われたのは初めてかも」

確かに妹と走った時はよく泣かせてしまったけど。

ランさんはベンチの隣に腰かけると、こちらをじっと見て言った。

「オーちゃんの目標ってなに?」

「目標?」

「あるでしょ、目標。三冠取りたいとか、コイツに負けないとか、

レコード勝ちしたいみたいな、走る理由」

そう言われると確かにある、私がトレセンに入学するときに抱いた夢。

「ジャパンカップを取りたい、お母さんが獲れなかったレースだから」

言ったとたん、私が未勝利なのを思い出して恥ずかしい気持ちになった。

けれど、ランちゃんは真面目に受け止めてくれたみたい。

「いいね、その目標。

私の目標は、G1をとる。確実に、1個でも多く、G1を獲りたい。

だから、ジャパンカップは取り合いになるかもね」

ランちゃんはいたずらっぽく笑った。

「どうして、そう思ったの」

「山中トレってさ、知ってる?

10年以上経つ中堅トレーナーなのに、G1を1度も獲ったこと無いんだって。

いつもあんな感じだから自業自得だけど、ちょっと可哀そうじゃん」

「トレーナー思いなんだね。ちょっと意外」

「酷い。私だって恩を感じることはあるよ。

トレーナーあんまり決まらなくて拾ってもらった側だから」

トレセン学園では例えスカウトされても、中央のトレーナーがつかない限り、

入学することすら叶わない。

「私はティアラ路線だから、いずれはメジロドーベルを超えなきゃいけない。

でなきゃG1は多分取れない」

メジロドーベルさん、先週の阪神ジュベナイルフィリーズを勝ち、私達の世代で最初にG1を獲ったウマ娘。

「でも、今の私じゃ自信がない。スタミナもスピードも足りてない。

だからさ、ライバルになってよ。きっとオーちゃんと競いあってたら超えれる気がする」

「え、未勝利の私がランさんのライバル」

「うん。オーちゃんも絶対速くなる」

「分かった。私もトレーニング頑張るよ」

 

◆キンイロリョテイ 同日

寮の就寝時間、ベッドに寝っ転がりながら携帯ゲーム機で遊んでいた。

新入りが聞いてくる。

「リョテイちゃんって、どうして走ってるんです?」

今の俺はトレーナーのレッドなんだが、まぁいい。

「どうしてって?」

「その走る理由と言うか、トレセン学園に来た目的が気になって」

「走る理由……トレセンに来た目的……ねぇ」

ゲームで言うなら、殿堂入りや図鑑攻略みたいなものか。

「うーーん。無いねぇ」

「そう言うとは思ったんですが、そこをなんとか捻り出せませんか?」

「急にひねり出せって言われても。新入りはそう言うのあんの」

「新入りじゃなくて、オーちゃんね。同室の名前くらい覚えてください」

「ちゃん付けはなんか恥ずかしいし、オーだけで呼ぶと分かりづらいじゃん」

「はぁ。で、私の走る理由だっけ。

お母さんが獲れなかったレース、ジャパンカップを獲ってお母さんを超えたい。

そうしたら、きっとお母さんの実力も見直される。

ただの地方の凄いウマ娘じゃない、きっと中央でもやっていけたウマ娘なんだって」

結構、真剣な話だった。思わずゲーム機から新入りに目を移す。

彼女は運動靴の手入れをしていて、その表情は伺い知れなかった。

「それって、お母さんの受け売り」

「いや、私が考え。お母さんには言ってない。

私がもっと子供の時、お母さんのレースの思い出をよく聞いてたの。

どのレースもいつも楽しそうに教えてくれた。

そして、お母さんは大体いつも1位から3位には入ってた。

でも、ジャパンカップだけ違った。凄い苦しそうに教えてくれた。

最初で最後のG1挑戦で、最下位だったレースなんだから、いい思い出なんてあるはずなかった。

けど、もし私がジャパンカップを獲ったら、きっとお母さんにも良い思い出になると思う」

下手に茶化す事はできない理由だった。

「私はそんな感じの理由なんだけど、リョテイちゃんはなにか見つからない?」

「うちのかーちゃん、未勝利で引退してるしなぁ」

「家族の為じゃなくとも、有名になりたいとか、誰にも負けたくないとかも無いですか」

真剣に考えてみる。だけどホントに心当たりがない。

「無いねー」

「失礼かもだけど、『勝ちを狙わずに中央に居る俺カッケェ』とか考えてる?」

「中二病じゃねーよ!それ結構失礼かも」

「じゃあ、逆にホントは壮大な計画があるけど、恥ずかしくて言えないとか?」

「そんなんでもないよ。ただ計画性がないだけ。

スカウトされて、無理矢理トレセンに入れられて、惰性で走ってる。

走るの自体は嫌いじゃないし、レースに勝てれば良いなとは思うよ。奨励金も増えるし」

新入りが顔を上げてこちらを見た。

「なにその、生まれて初めてゴーヤを食べたみたいな、苦い顔をして」

「だって、お金の為に走ってるみたいじゃないですかそれって」

「まぁ、実際その側面が強いかも」

手にしているゲーム機に目線を戻す。これだって奨励金で手に入れたものだ。

「それってプロ野球選手がギャラの為に選手になりましたって言ってるようなものですよ。

夢がなさすぎます」

「夢ねぇ。夢なら、トレセンでそこそこの成績で卒業してスカウトにでもなろうかな。

スカウトって声かけるだけで楽そうだし」

「私悲しいです。リョテイちゃんが、冷めた感じのライバルになりそうで」

「ごめんねー、って、え。いつから俺と新入りがライバルになったんだよ」

「ついさっきです。聞きました?次走の新バ戦また私とリョテイちゃん同じレースですよ」

「同じレースなのはわかったけど、俺がライバルには力不足じゃない?

もっと適任が居るだろ」

「私を前走で負かしてるんです。実力十分ですよ。

それに、実は同門でライバルが出来たばかりなんですが、ライバルは多いに越したことありませんから」

「はいはい。ライバルね」

謎に説得力のある声色に、反論する気も失せた。

まぁ、面倒事が増えなければ勝手にライバル視させておけば良いか。

「リョテイちゃん、次走頑張ろうね」

心なしかその声は悲しく聞こえた。

新入りが言いたいことは、何となくわかった。

トレセン学園はレースに重きを置いている為、普通の学校とはカリキュラムが大きく異なる。

初年度4月の入学から翌年の1月までは、レースの特訓期間として通常の授業は行われない。

これは、レース成績の不振が原因でトレセン入学生の約半数が、

1月までに学園を去る傾向があるからだ。

メイクデビューが早くても6月頭、

そこから実力を思い知り、転校/退学のピークが過ぎるのが1月。

この期間は通称「八カ月の壁」と呼ばれている。

この「八カ月の壁」を一人でも多く乗り越えてもらえる為に、学園側も授業を行っていない。

そして「八カ月の壁」で脱落するのは、俺や新入りのような未勝利バ。

次のレース。勝てなかった片方、もしくは両方が1月には学園を去っている可能性が高くなる。

 

 

◆キンイロリョテイのヒミツ

→母親にメイクデビューで勝てなかった事を電話で煽られた。

 

◆オースミサンデーのヒミツ

→虫が苦手で、蚊も殺せない。蚊取り線香の匂いは好き。

 

◆ランフォザドリームのヒミツ

→金髪は入学時に染めたもの。理由はオシャレが半分、舐められない為が半分。

 

◆山中トレーナーのヒミツ

→生徒を叱ったり怒ったりするのが苦手で、生徒になめらていないか少し気にしている。

 

◆×××のヒミツ

1996年 第48回阪神3歳牝馬S

本作開始(1996年12月1日)であるキンイロリョテイのデビュー戦と同日に開催されている。

勝利したのは2番人気のメジロドーベル。2着に2馬身つけての快勝だった。

メジロドーベルの調教師、騎手にとってこれが最初のG1制覇だった。

ちなみに、一番人気はシーキングザパール。

前走でメジロブライトに5馬身差でちぎり、時計も早かったのが評価された。

本番では最終直線で伸びずに4着に終わる。

 

ポケットモンスター 赤・緑

1996年2月に発売。かの有名なポケモンシリーズの一作目。

ハードであるゲームボーイは96年には下火となっていたが、本作により人気が再燃した。

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