キンイロリョテイは気性難   作:白老好太郎

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前回あらすじ
メイクデビューを終えた、キンイロリョテイとオースミサンデー。
その後、栗東寮の同室となった二人は、次のレースに向けてそれぞれの準備を進めていた。

既存登場人物の簡易解説
キンイロリョテイ:レースにイマイチ本気になれない新人ウマ娘。1戦0勝(新バ戦3位)。
オースミサンデー:リョテイの同室で、同じレースでデビューしたウマ娘。1戦0勝(新バ戦7位)。


M1-3「第48回朝日杯」

◆キンイロリョテイ 1996年12月7日

「ニャー」

ベッドに座っていると、野良猫のトラさんが太ももに乗ってきた。

尻尾が顔に当たりそうになり、手で払う。

「ん、何?」

「ニャー」

「飯ならさっきあげただろ」

トラさんには、昼飯についてきた小鉢のマグロをあげていた。

「ニャー」

「ダメ、あげない」

きっぱり言うと、トラさんはゴロゴロと喉を鳴らしながら体をこすりつけてくる。

そして、こちらを見つめて一言。

「ニャー」

意図は何となく分かる。

マグロが少なめだったから、おかわりを求めているんだ。

愛想振りまいているのも、全てはマグロの為。

「今日の分はおしまい。と言うか、お前デブすぎ」

「ニャー」

トラさんは悲しそうに見つめてくる。

あまりにも名演技だが、最近大きくなった胴体を見ると、やはりあげるべきじゃない。

この前みたいに寝てる間に胸に乗られたら、今度は圧迫されて死んでしまうかもしれない。

「そんなー、女の子にデブなんて失礼ですよー」

もちろん、トラさんが人語を発し始めたわけじゃない。

声の主は、最近住み着いた超大型デブ猫、オースミサンデーだ。

「新入り、お前も少しは痩せたらどうだ。

因みにトラさんはオスだぞ」

「心外ですね。私の増量は、ほぼ筋肉。いえ、ほぼマッスルです。」

「脳筋翻訳やめな。その言い換えに何の意味もないから。

それに、筋肉が一週間で2キロも増えるかよ」

新入りは尻尾を逆立てて反応する。

「え、ちょっ、な、なぜそれを」

「何故って、昨日自分でブツブツ言ってたじゃん、体重計乗った後に」

「あぁ。あの時の心の声が、無自覚で出ちゃったみたいです。

でも、大丈夫です。お母さんも2カ月で8キロ増量して、重賞を勝った事がありました。

やはり、『体重こそ走力、握力こそパワー』です」

「便利だな、その格言。免罪符かよ」

新入りはキョトンとしている。俺のツッコミは届かなかったようだ。

「それより、朝日杯見ません?談話室で」

「朝日杯ってG1だっけ」

「そうですよ。私たち世代のクラシック路線は初めてのG1ですよ。

来年のクラシック本番で対戦するかもしれない同期の晴れ舞台ですよ。

気になりますよね」

「ならない、行かない」

「ねぇ行きましょうよー。絶対見ておいた方がいいですよー」

「別に見たって足が速くなるわけじゃないじゃん」

「そんなこと言って、リョテイちゃん。

最近トレーニング、サボってばっかりじゃないですか」

「うぅ」

事実ではあるが、新入りに言われると心に来るものがある。

まるで、リストラされた父親が子供に”なんで会社に行かないの”と聞かれたような鋭さを感じた。

最近、オースミサンデーと同室になって分かったことは、

結構図太いというか、適応力があると言うか。

ぽあぽあ系の天然脳筋だと思って舐めていると、時々痛い一撃を食らったりする。

「ほら、早くしないと私がお姫様抱っこして、連れていきますよ」

トラさんを外へ出し、談話室のある一階へ向かった。

高校生にもなって、お姫様抱っこは御免だ。

 

◆ランニングゲイル 同日

第48回朝日杯フューチュリティステーク

 

中山の地下バ道には冷気と緊張感が漂っていた。

いち、にー、さん。

天井にぶつけないよう、軽くジャンプをした。早く体を温めないと。

この日の為に作ってもらった勝負服は、この上なくフィットしている。

多少の準備運動でも気になるところはない。

ただ、防寒性はまったく考慮してなかった。

半袖にジャケット、ホットパンツという、

走りやすさに重点を置いた私の勝負服は、師走の冷気には無力だった。

ウマ娘の代謝からすれば、この程度の寒さはどうにでもなるが、

ゲート中でせっかく温めた体が冷えるのは嬉しくない。

周りを見ると、みんな新しい勝負服に身を包み緊張の色を隠せなかった。

一人、私と同じ赤と緑の勝負服のウマ娘を除いて。

「よう、マックス調子はどう?」

「えっと、うん、良い」

この気が抜けて、淡白な返答をするウマ娘が、マイネルマックス。

4戦3勝で初戦のメイクデビューを落としたものの、

次のメイクデビュー、G3、G2と3連勝でこの朝日杯に駒を進めた。

トレセンでも、この地下バ道でも「そんなに速いの?」って感じの雰囲気だが、

実力は本物……らしい。

マックスとは以前、勝負服のデザインを決める衣裳部屋で一緒になった。

所属柄、勝負服に使える色が決まっているのだが、

私もマックスも同じ、ほぼ原色の赤と緑しか使えなかった。

この色じゃ可愛くもカッコよくも出来ないと、頭を悩ませたものだ。

「結局スーツ系にしたんだ」

マックスの勝負服は上下スーツ風の衣装だ。

私の服装とは、北海道とハワイくらい温度差がある。

「うん、今回が最初で最後の晴れ舞台になりそうだから。

あと……カッコイイ」

「これが最後ねぇ。G2勝った奴がよく言うよ。クリスザブレイヴが1番人気だとよ。

ファン投票ってのは見る目ねぇーよな。」

「多分、大丈夫。今日は勝てる」

「へぇー、クリスザブレイヴも私も超えて、一着を獲る気満々って感じ?」

「2人を超えてるとは思えてない。けど、”今日は勝てる”とは思ってる。

多分"勝たされる"」

「勝たされる?」

マックスはの発言を呑み込めずにいると、彼女はターフに行ってしまった。

彼女は何かと朝日杯に固執している。

勝負服の温度差は、今日の朝日杯だけを見ているマックスと、

半年後のクラシックだけを見ている私。

その目標の違いでもあった。

レースで実力が発揮できないことはよくあることだ。

だが、"勝たされる"って何のことだ。

あー、もう。あれよあれよとG2を勝った不思議ちゃんの考えることはよくわからん。

こちとら、7戦2勝でやっと特別競走勝ったばかりなのに。

……ダメだ、ダメだ。ここ最近レース漬けでネガティブな思考になってる。

ポジティブに切り替えろ。これは勝負だ。

マックスもクリスザブレイヴも、今回が初対決。

なにも相手が格上って決まってる訳じゃない。

前走のタイムだって、あのナリタブライアンより早かったんだ。

気合を入れろ。一発勝負、勝ってやる。

 

【今回の朝日杯はフルゲートになりました。G1のファンファーレが中山に響いています。

16人の優駿が集まりました。

3番人気のアサカホマレ、1番人気のクリスザブレイヴどちらも逃げウマとなっています。

アサカホマレがハナをとれば、序盤かなりハイペースが予想されます。

クリスタルブレイブがそこに待ったをかけるのか、先行策で挑むのか注目です。

大外枠、最後にダストワール、枠入り完了。

体制整いました。

第48回の朝日杯スタートしました。

さぁ注目の先行争いは、やはりアサカホマレがハナをとりました。

いきなり他バを引きはがしていきます。

クリスタルブレイブは5,6番手からの競馬になりました。

その後ろをマイネルマックスとランニングゲイルが並んでいます。

早くも第三コーナーのカーブに差し掛かっています。

先頭はオープニングテーマに変わっています。

マイネルマックスが後ろから上がってきた、

クリスタルブレイブは中団でもがいているが、伸びてくる気配はない。

さぁ、依然先頭オープニングテーマ。

外を通りまして、外を通りまして、マイネルマックスが突っ込んでくる。

オープニングテーマ頑張った。オープニングテーマ頑張った。

内からエアガッツとランニングゲイルも突っ込んでくる。

外からマイネルマックス差し切ってゴールイン。

マイネルマックス重賞3連勝!!】

 

 

ハイペースにあてられて、ラストでのスパートが伸びなかった。

まぁ、初めてのG1 で4着なら大健闘ともみれるが、やはり同期に負けるのは悔しい。

息を切らしながらマックスの元へ寄る。

「マックス、おめでとう」

彼女の顔色は少し青ざめていて、悲壮感さえ感じられた。

「ありがとう。ごめん……ごめんね」

もっと嬉しそうにしろよ、と言いたくなったが、彼女の雰囲気から軽率なことは言えなかった。

「みんな、ごめんね……これで、これで最後だから」

そう言うと彼女は泣き出した。

その涙の理由が何なのか私には分からなかった。

 

 

◆キンイロリョテイ 同日

【外からマイネルマックス差し切ってゴールイン。

マイネルマックス重賞3連勝!!】

寮の1階の談話室でレースの結末を見届けていた。

俺が来た時には、既に栗東寮B館の同期や先輩など、数十人がギャラリーとして居た。

寮部屋にはテレビの設置が禁止の為、この談話室は何かと生徒で賑わう。

だから、あまり好きではないんだけど。

クリスタルブレイブが美穂寮、マイネルマックスが栗東寮と言う理由だけで、

談話室内ではマイネルマックスを応援する声も多かった。

【マイネルマックスは歓喜の涙を流しているようにも見えます】

朝日杯を見事勝ち取った、マイネルマックスの顔が全面に映し出され、

その目には涙が光っていた。

「リョテイちゃん、すごかったですね」

「あ、あぁ」

オースミサンデーも、談話室のメンバーもマイネルマックスの涙に、

一様に心を揺さぶられたようだった。

 

異物感。俺がここに居る違和感。

どうしても俺には感情移入出来なかった。

サッカーや野球で感動しないこともないが、レースはあまりに短すぎる。

1分36秒。たった90秒ちょっとのレースで今後、自分は涙を流すほど感動できるのだろうか。

もし、90秒のレースで感動できるなら、きっとその方が良い。

俺はもっと、同期やレースのことを少しは知る必要があるのかもしれない。

 

◆キンイロリョテイのヒミツ

着飾るのは苦手、特にスカートやフリフリの衣装とかは恥ずかしくて着られない

 

◆オースミサンデーのヒミツ

寮の自室にプロテインドリンクバーを設置するのが小さな夢

 

◆ランニングゲイルのヒミツ

実は機能性と可愛さを両立したいタイプ。

丸刈りにしないとレースで勝てない状況なら、勝利と髪、どちらを獲るかで密かに悩んでいる。

 

◆×××のヒミツ

京都2歳ステークス(ランニングゲイルの前走)

本作開始時(1996年)の呼称は「京都3歳ステークス」。

これは2001年の馬齢の数え方が変わった事による名称変更。

京都3歳ステークスは1959年からあり歴史は古く、何度か距離変更、条件変更されている。

ランニングゲイルが走ったのは、90年から適用された1800mの時代で、

ナリタブライアンの1:47.8より早い、1:47.2の時計でゴールしている。

この1:47.2という記録は破られることのないまま、2002年にレースの距離が2000mへ変更となった。

 

第48回朝日杯3歳ステークス

(※本作では12/7開催ですが、史実では12/8開催です)

結果はほぼ本作通りですが、詳細は実史を調べていただきたい。

少し不可解なのが、クリスザブレイヴがマイネルマックスをおしのけての一番人気。

この時期にG3、G2 を連勝しているマイネルマックスより、

新馬戦、1勝クラスを勝ち上がったクリスタルブレイブが人気している。

どうやら、その新馬戦や1勝クラスの勝ち方が良かったようだがネット上では確認できなかった。

(当時はyoutubeやニコニコ動画どころか、ネット掲示板すらない時代なので仕方ない)

一応、クリスタルブレイブがノーザンテーストの最終世代の産駒というのも少なからず影響したと思われる。

 

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