キンイロリョテイは気性難   作:白老好太郎

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前回あらすじ
キンイロリョテイとオースミサンデー、同期で同じ栗東寮の同室となった二人は
次のレースでも戦うことになる。

既存登場人物の簡易解説
◆96年クラシック世代
エアグルーヴ:7戦4勝。今年のオークスを制した女帝。レースの怪我で骨折中。

◆97年クラシック世代
キンイロリョテイ:1戦0勝(新バ戦3位)。レースにイマイチ本気になれない新人ウマ娘。
オースミサンデー:1戦0勝(新バ戦7位)。リョテイの同室で、同じレースでデビューしたウマ娘。
         母親の格言の影響で筋肉第一主義。
◆トレーナー陣
沼川トレーナー:キンイロリョテイの担当トレーナー。
山中トレーナー:オースミサンデーの担当トレーナー。

◆コーチ陣
ピエリコーチ:キンイロリョテイの担当コーチ。
梅コーチ:オースミサンデーの担当コーチ。


R2「ブレイクスルー」

◆エアグルーヴ 1996年12月16日

ベッドから起きて大きく伸びをする。時計を見ると朝の6時。

ギプスをはめた右足を庇いつつ、窓を開ける。

外の冷たい空気が肌を刺す。窓から見える花壇にはパンジーの花が咲いている。

このパンジーは用務員さんと協力して植え付けたものだ。

後で水をやろう。

普段であれば、急いで朝食を摂り外に走りに行くのだが、生憎この足だ。

残った時間は、午後の後輩指導について計画をたてるか。

今の時期は、年内にデビュー出来ず気を落としている新入生も多い。

夢を諦めない為に、何か助言できるといいのだが。

考え事をしていると空から大きな何かが降ってきた。

「ひゃあ」

思わず、らしくもない声を上げてしまった。

落ちてきたものは、人くらい大きく。

黒くて、尻尾の生えた。

「キ~ン~イ~ロ~!お前は一体何をしている!!」

 

◆キンイロリョテイ 同日

早起きなんてするもんじゃないな。

朝っぱらから、寮の談話室でエアグルーヴから説教を受けていた。

他の生徒がいないのが唯一の救いだった。

「馬鹿者、どうして二階の窓から飛び降りるなどするのだ」

「いや、すぐ一階に降りたくて」

「なら階段を使え、飛び降りるな」

「でも、花を踏みつけたりはしてないよ」

「でも、ではない。私は貴様の体を心配しているのだ」

「かなりキレイな三点着地だけどな~」

「飛び降りる瞬間に、私が窓を開けていたらどうするのだ。

接触して大事になっていたかもしれん」

「あーたしかに」

「全く、お前という奴は。そんなに急いで何がしたい」

「あ、そうだ」

右手に持っていた新聞を見る。

 

昨日感じた嫌な予感。当たっていないと良いけど。

一面は【1㎝での決着】の見出しでフラワーパークの記事がトップだった。

だが、気にしているのは勝者じゃない。2面3面とめくる。

「あった」

探していた記事があったのは4面だった。

【スプリンターズSに出走のニホンピロスタディは予後不良

URAは調査委員会を設置】

あー。

大きく息を吐く。ふーーーう。

改めて見ても、記事の記載は変わらなかった。

レースの勝者に比べ、その記事の扱いはさほど大きくは無かった。

昨日のスプリンターズステークスで競走中止した5番。

ニホンピロスタディは予後不良になっていた。

 

レースにさほど興味が無い俺でも多少は知っている。

予後不良、レース中やトレーニング中に足の怪我が酷くて、

安楽死させる時の表現。

 

だから昨日、この談話室で見たレースを走った5番のウマ娘は、

今はもう生きていない。

G1を走ったウマ娘、俺より実績のあるウマ娘が、

こんなにあっさり亡くなった。

心臓の鼓動が早くなるのを感じる。

 

 

「おーい、キンイロどうした。返事をしろ」

「ごめんごめん。ちょっと考え事をしてて」

「何があった。様子がおかしいぞ」

流石にこの話題を、朝っぱらからエアグルーヴにするのは良くないな。

なんとか、言い訳を考えないと。

「ちょっと貸せ」

あ、新聞を取られた。

「どこだ、その気になっている部分は」

 

 

問い詰められ、仕方なく事情を話した。お節介な先輩だ。

「ニホンピロスタディさんか。

栗東所属だが、ここ(B棟)では無いな。私も詳しい経緯は分からない」

「なんかごめん」

「変に気を使うな、お前らしくもないぞ」

「こうゆう事は、よくあるの?」

「私もデビューして二年目だ。

そこまで多くは語れないが、年に一人、二人くらいだろうか。

よくあると感じるか、すくないと感じるかは人次第だな」

「そっか、去年デビューか」

「あぁ、去年は大変だった。

年明けにあの大震災。夏にはライスシャワーの件。

世の中に暗い話題で溢れた時期だ。

先輩、同期、トレーナー、多くの人が、やむにやまれぬ事情で学園を離れた」

「先輩は、それでもレースを続けたんだ」

「いや、だからこそ続けた。

なんせ、私は女帝エアグルーヴだからな。

学園を去った皆の分まで理想を体現し、後進の指針となる必要がある」

「怖くは無いの?骨折してるんだし」

「もちろん怖いさ、骨折したあのレースをいまだに夢に見る」

その怯えた声色は初めて聞いた。

本当にエアグルーヴが喋っているのか疑うほどの。

今までとは違う、等身大の彼女が垣間見えた気がした。

「だが、私には夢がある。

かつて私が母の走りに希望を抱いたように。

私の走りで、誰かがレースの世界に希望をもてるように。

であれば、骨折や予後不良に怯えてはいられない」

さっきの声色とは裏腹に、

今は自信に溢れた[いつものエアグルーヴ]の声に戻っていた。

「偉いね先輩は」

先輩はの頭に手を伸ばす。

「コラ、頭を撫でるな馬鹿者」

 

 

寮の自室に戻ると、新入りがジャージに着替え部屋を出ようとしていた。

「あ、リョテイちゃん。早起きは珍しいですね」

「ちょっと気になる事があってな」

「昨日のレースですか」

「あぁ、競争中止のあの娘、予後不良だってさ」

言ってから、自分の失言に気づく。

あまり人の死を触れ回るものじゃない。

「そう、ですか」

新入りが肩を落とす。軽率だった。

かける言葉に悩んでいると、新入りが口を開いた。

「リョテイちゃんは覚えてますかね。私の走る理由。

私はジャパンカップを獲りたい。お母さんを超えたい。

だから、何があってもこの足を止める気はありません。

でも、いつまで全力で走れるかわかりません。

いつか故障するかもしれない」

正直、意外だった。落ち込む事はあっても。

オースミサンデーは怯む事はないらしい。

「だからリョテイちゃん。一つ約束してください。

次のレースで良い走りをすることを。

私も今あるすべてをぶつけて良い走りをします」

「わ、わかった」

呆気に取られて、そう答えると。

新入りはそのまま朝練に向かった。

部屋に残された俺は独りで呟いた。

「みんな強いねぇ」

 

 

◆沼川 与根 同日

月曜日の昼下がり。

中山トレーナーから貰ったキンイロリョテイの共同練習の動画を見ていた。

スタートダッシュの共同練習と言えば聞こえは良いが、練習風景はギャグに近かった。

リョテイがひたすらスタート前に変な事をして、

オースミサンデーがびっくりして出遅れるの繰り返し。

ゲートの下をくぐったり、逆立ちしたり、

俺は面白く見てられるが、頭が硬いお偉いさんとかに見せたら怒られそうだ。

とは言え、あの娘は悪知恵が働くというか、かなり発想力はありそうだ。

もし、リョテイがサッカー選手ならフェイントなりで敵を欺く事ができるが、

レースでこの発想力を活かすのは難しそうだ。

 

そうやって、動画を見終えると小柄な黒いショートカットのウマ娘が現れた。

キンイロリョテイだ。

…………え、リョテイ!!

「え、リョテイどうしたの?今はトレーニング時間だぞ。

今日はサボりのはずでは」

確かに今日は午後にトレーニングの予定ではあるが、反故にされる前提で動いていた。

「何を言ってる沼川。昨日トレーニングしただろ。

今日はトレーニングしない。聞きたいことがあって来ただけだ」

「安心したー。変なものでも食べたかと思った」

とても他の娘に聞かせられないような会話だが、

一応、現役ウマ娘と担当トレーナーの会話ではある。

ここ最近リョテイが二日連続でトレーニングに顔を出した事はない。

昨日のスタートダッシュの共同練習も、

実はリョテイは殆どゲートから動いていないのだが、やはり彼女にとっては練習した判定だった。

 

 

彼女は相変わらず堂々と、自分の家のように対面のソファーに座った。

「で、聞きたいことって」

「その予後不良ってなんだが」

げ、急に重い話題が出た。

「どうしたの急に」

「昨日のレースで予後不良になったウマ娘がいた」

「あー、ニホンピロスタディね」

トレーナーと言えど毎日全レースを追っている訳じゃない。

だが、こう言った重大事項なら自然と耳に入ってくる。

「足の怪我くらいでなんで、その[そう言う対応]になるんだ」

[そう言う対応]は安楽死の事を言いたいのだろう。

この手の話は高校生には荷が重い。

伝え方も教職員としての責任を伴うから嫌いだ。

「現代医学でウマ娘の身体について分かっていることは多くない。

そして俺はトレーナーであって医者じゃないから、詳しい事は言えない前提で話すぞ。

ウマ娘の足の筋肉は心臓だ。

一般人でもふくらはぎは第二の心臓なんて言われているが、

ウマ娘の場合その重要度は比にならない。

両足を切断しても他が無事なら一般人は生命維持ができる。

だがウマ娘はそうじゃない。

心臓と足の筋肉。どちらが欠けても生きていけない。

過去に足の筋肉を人工心臓で代用する試みもあったが、全て失敗している。

あと、ウマ娘の下半身の感覚神経は一般人の3倍と言われていて、

予後不良レベルの怪我になると想像を絶する苦痛を感じるみたいだ。

延命措置をとっても、痛みに耐えかねて気絶するか、暴れて更に症状を悪化させるらしい」

「だから、いっそ楽にってこと」

「もちろん苦肉の策だけどな。誰もやりたくてやってる訳じゃない」

だから、誰もしゃべりたがらない。話題にしたくない。

リョテイみたいに予後不良の意味自体は何となく知っていても、

それ以上に踏み込んだ事を聞かされることは少ない。

実は今後の学園の授業内では教わるのだが。

「今後の科学と医療の発展に期待だな」

「あぁ」

リョテイの顔色は良く無かった。

「レースが怖くなったか」

「正直、今までは自分とは関係のない事だと思った。

ただ、今は怖いし。レースに命を懸ける気にはなれない。

他の娘がなんで普通にレースを続けられるのか分からない」

「今回の事みたいなケースは最悪中の最悪のケースだ。

俺だって教え子がそうなった経験は無いよ。

だけど、レースを続けていく上で避けては通れない話題なのも事実だ。

本気で対処するなら、

見なかった事にするか、

覚悟を決めて目標の為に走り続けるか、

引退するか。

三択だろうね」

「無視はできない。あの娘のレースを見た後に他人事では済ませない。

でも、ほかの奴らみたいに危険を犯すほど大層な夢もない」

「じゃぁ、引退?マジで厳しければ今週のメイクデビューを出走中止しても良いぞ」

本心だった。

キンイロリョテイには確実に素質があるが、嫌がるレースに出させるつもりもない。

「それも出来ない。約束したんだ、オースミサンデーと。

次のレースを良い走りをしようって」

オースミサンデー。昨日合同練習した同室の娘か。

「リョテイ、案外友達いたんだな」

「今、真面目な話してる」

「ごめん」

担当の娘に怒られちゃった。

「まぁ、選択肢を出しておいてなんだが、結論を急がなくてもいいんじゃない。

とりあえず約束の為に次のレースまでは走る。走り続けるかはレース後に考える。

でも良いけどね」

「そんな動機っていうか目標?でいいのかな、って」

「これは持論だけど、夢や目標に貴賤は無いよ。

誰しもご立派な夢や使命をもって生まれるわけじゃない。

今後2~3年の過ごし方に関わる話だ。直ぐに結論を出さなくてもいい。

不安に押しつぶされる前にまた話そう」

「やっぱなんだか、惰性で走ってる気がするな」

「良いんじゃない、俺だって惰性でトレーナーやってる」

「あんまり、見習いたくはないな」

確かに。トレーナーとしては不適切な発言だったかも。

 

 

「それで、次のレースは勝てそうか?」

リョテイにティーカップを手渡しながら聞く。

さっきから、少し気分は落ち着いたようだ。

「それがなー、勝てる気がしないんだよなぁ」

「また?」

前回のメイクデビューの時もそうだ、

何か勘が働くのか勝てる気がしないと言う。

「前は出遅れたから、それがなければ全然勝ち負けできるでしょ」

「不思議と勝負にならない気がするんだよな」

そう言ったことをレース後に言う娘は多いが、レース前から言い出すのは珍しい。

特に、リョテイみたいな唯我独尊タイプは、まず言わない。

「でも、次走は良い走りをするって約束したんだろ」

「そうなんだけど。良い走りをしたいのは山々なんだけど。

なんでか勝てるビジョンが見えないんだよね」

「自信がないとか」

「なさそうに見える?」

「今日は自信無さげに見える」

「そんなことないけど」

「きっと練習が足りてない」

「昨日した」

「よし、行こう。まずはウッドコースで軽くウォームアップからな」

半ば強引にリョテイを連れ出した。

予定変更だ。彼女の決断次第では、次走がラストレースになるのだから。

 

 

◆キンイロリョテイ 1996年12月21日

二回目のメイクデビュー。

レース場の控室で順番が来るまで、目をつぶり、机に突っ伏していた。

朝から頭が痛い。低気圧のせいだろうか。

なんで、こうゆう日に限って体調が崩れるかね。

きっとあれだ。日曜から六日連続でトレーニングしたせいだ。

 

ドアが開く音がする。

「おーい、キンイロ大丈夫か」

鬼トレーナーの沼川が入ってきた。姿勢は変えず、返事だけする。

「頭痛はするけど、まぁ走れる」

「そうか、走りに影響出そうだったら、レース中断しろよ」

まぁ、俺だって身の危険を感じたら喜んで棄権する。

それをコイツも分かってる。

沼川は机の上に何かを置いたようだ。

音からしてビニール袋?

「なんか、いい匂いするなぁ」

「たこ焼き。さっきレース場で買った。

時間無かったんだよね。朝からここまでノンストップで来たから。

ウマ娘と違ってトレーナーの前日入りは自腹だし」

ふと顔を上げると沼川が少し怪訝そうにこちらを見つめる。

「俺の分は」

「お前……マジかよ。あと1時間ちょっとで本番だぞ。

せめてバナナとかにしない?」

「そんなの関係ない。今、たこ焼き食べたい」

咄嗟に沼川がビニール袋を抱きしめるがもう遅い。

既にたこ焼きが入ったフードパックを、袋から抜きとった後だった。

ウマ娘でよかった。

「あぁ、朝食だったのに。

お前アクションスターにでもなれよ」

しくしくと泣きまねをする沼川を横目で見ながら、たこ焼きを頬張る。

人から奪い取った飯は旨いな。

「まだ、勝てなさそうか?」

沼川が聞いてきた。口調は一転してマジメなものだった。

「残念ながら、変わらずって感じ。どうにも全然勝てる気がしない」

「へぇー。トレーナーとしては、そうは思えないけどね。

今回は一番人気でもあるわけだし」

「もし、俺が最下位だったら、トレーナー目線は引退?

それとも地方転向?」

「両方ないね」

思ったよりも強い断言に、思わず担当トレーナーを見た。

沼川は表情を変えず、食べたそうに手元のたこ焼きを見ていた。

「どうして?知ってると思うけど実績全然無いよ」

「素質がある。見てて面白い。実績とかはどうでもいい。

真面目で実力や実績ある娘育てても、面白くないでしょ。

お前みたいな不良生徒を更生させるのが面白い」

不良生徒は聞き捨てならないが、このたこ焼きに免じて許してやろう。

「今日のレース、本当に実績は気にしないの?」

「まぁ、勝ってほしいけどね」

沼川は少し不安そうにこちらを見つめた。

「別にサボりはしねぇよ」

 

 

「リョテイちゃんリョテイちゃん」

地下バ道を歩いていると声を、オースミサンデーが駆け寄ってきた。

「体調大丈夫ですか?」

こいつのハツラツとした声を聞くと、頭痛が悪化した気分になる。

やせ我慢じゃないが、新入りに話したっていい事はないだろう。

「特に問題ないけど、どうした」

「だって、見ましたよ体重。あんなに減って……」

レース前体重か。

レース開始の1時間前に測定され、各メディアに公開される。

一応、思春期の女の子の体重が堂々と公開されているのだが、

公表される数値は本人の自己申告制で公開、非公開、サバ読み等は自由だ。

とは言え、ゴールドシチーみたいなアイドル人気の高い一部のウマ娘を除けば、

大半は実際の数値を公開している。(か、こっそりサバを読んでいる)

バスケ選手が競技にダイレクトに影響がある身長が公表されているのに比べれば、

ウマ娘の体重なんて誤差だろう。俺も実際の数で公表している。

目の前に体重をプラスの方向でサバ読みしそうな奴がいるが。

「体重だけ見て深刻そうな顔するなよ。昨日まで普通に話してただろうが」

「かなり減ってたので、ちょっと大丈夫かなって」

「レースに支障は無いよ」

「この前、話したこと覚えてますか。

このメイクデビュー、お互いいい走りしましょうね。

手加減とか許さないですから」

「俺はいつも全力だよ。いい走りを出来るかは善処する」

2人は地下バ道を抜けてターフに出た。

 

 

阪神 第4R メイクデビュー(新バ戦)

相変わらず寒いゲートだったが、漂う独特の緊張感には少し慣れてきた。

「大外入りました」

補助官が声を聞こえる。

 

ゲートが開いた。

2回目のメイクデビューの幕が上がった。

スタートダッシュは問題なし。前みたいに出遅れる事はなかった。

だけど、なんだこれ。中団のバ群についていくだけで疲れる。

足が重い?いや、地面を蹴りだす時に力がとられる。

今日、良バ場だよな。水たまりを走ってるみたいだ。

思わず地面を見た。

走りながらだが、流れていく芝の見た目に大きな異変は無かった。

バ場が荒れてたり、間違えてダートコースを走ってた、なんてことも無かった。

見えてないだけで、内ラチ沿いのバ場が荒れてるのか?

最短距離の内ラチ沿いを捨てて、左にずれてみる。

うーん。あんまり変わんねぇなぁ。

その時、インカムから爆音が流れ出す。

「繝ケ繝チ繝¥繧、縺ゥ繧縺励縺溘」

うぇ。耳がおかしくなりそう。

おそらくコーチのピエリが何か喋ったようだが全く聞き取れない。

普段からよくわからない英語を喋ってるけど、今回はそういう次元じゃない。

明らかな電子音。まさか無線の妨害?そんな事、過去にあったっけ?

 

なんだこれ。なんなんだこれ。

ここ数日の違和感の正体を見た気がして、背筋に冷たいものが走る。

流石にこれじゃ、こんなんじゃ、全然レースにならない。

 

 

バ群は最終コーナーに入ろうとしている。

俺の状況は好転せずで最後尾。

「繝ケ繝チ繝¥繧、怪我縺ェ繧峨繧繝ト繧√繧繝ト繧」

インカムからまた、爆音の電子音が聞こえるが相変わらず内容は聞き取れない。

多分、今からペース上げないと間に合わないって事だろう。

とは言え、今でも走ってるだけで精一杯だ。

「繝ケ繝チ繝¥繧、聞縺薙縺医縺ヲ薙繧九縺九」

ったく、うるせぇなぁ!キンキンと!

インカムだから耳塞げないじゃねーんだよこっちは。

 

オースミサンデーとの会話を思い出す。

『一つ約束してください。次のレースで良い走りをすることを。

私も今あるすべてをぶつけて良い走りをします』

いい走りねぇ。出来るならしたいけど。

 

イラつく頭で打開策を考える。

何か少しでも改善できないか。

いや、こっちはまだ対応できるか。

勝ちの目は無くなるが、まだいい走りは見せれるかもしれない。

「ごめんな、ピエリ、沼川」

そう呟いて、インカムを投げ捨てた。

 

 

◆オースミサンデー 同日

このレース、負けたくない、誰にも。

最終コーナーから外を回って、なんとか中団まで来た。

「いけるよ、オーちゃん。

体力次第だけど、直線入ったらスパートかけたい」

梅コーチの指示が飛ぶ。今回は足をためれてる。

前回と同じような失敗はしない。

先頭まであと6人くらいかな。

 

行ける。お母さん見てて。

カーブが終わって最終直線に入った。

 

今だ。

 

力いっぱい地面を蹴る。蹴る。蹴る。

とにかく、歩幅をあげながら、足の回転数が減らないよう気を付ける。

足を肺を腕を、全身を使って少しでも先に進む。

一人二人とウマ娘を抜いていく。

キツイけど、まだ先へ。

 

 

順位を上げて先頭まであと2人。

その時だった。

背中から風を感じた。

振り返らなくとも不思議と誰だか分かる気がした。

 

待ってたよ、リョテイちゃん。

 

一瞬、嬉しい気持ちになってなっている間に、隣に並ばれた。

軽く横目で見ても、小柄な彼女だとすぐ分かった。

フォームは崩れていて、首も上がっている。かなり苦しそう。

けど、なんとか食らいついてくる。

行こう。リョテイちゃん。先頭まであと2人だよ。

もう一度、気合を入れて地面を強く蹴った。

 

【さらに外を通ってオースミサンデー、一気に外から伸びてきた。

オースミサンデー、大外から一気に先頭に躍り出た。

オースミサンデー。2バ身3バ身のリードを保ってゴールイン。

オースミサンデーの差し切り勝ちです】

 

よし、勝った。勝てた。

良かった。夢のジャパンカップまで少し、少しだけ前に進めた。

喜びを噛みしめていると、リョテイちゃんが息を切らしながら寄ってくる。

「おめでとう」

「ありがとう、リョテイちゃんもよく付いてきたね」

返答する体力がないのか、リョテイちゃんは大きく頷いた。

「もし良かったらこの後、ラジオたんぱ杯でも……」

「ごめん、体調悪いから」

そう言って、彼女は地下バ道へ行ってしまった。

その後、落ち着いて掲示板を見ると、

ゴール直前まで先頭を争ったはずの、キンイロリョテイの7番は、

どこにも載っていなかった。

 

 

◆キンイロリョテイのヒミツ

趣味は散歩。

建物から飛び降りたり、壁を駆け上ったり、変な移動が好き。

 

◆オースミサンデーのヒミツ

手加減が苦手で嫌い。

妹とはかけっこでは、手加減が出来ず、常に勝っていた。

が、その度に妹に泣かれていた。

 

◆沼川トレーナーのヒミツ

元陸上選手だったが、膝を壊して引退した。

トレーナーになったのは、教師である父の影響。

 

◆×××のヒミツ

第13回ラジオたんぱ杯3歳S

オースミサンデーが勝った新馬戦と同日、同じ阪神競馬場で行われたのが

第13回ラジオたんぱ杯3歳ステークス(後のホープフルステークス)である。

勝ち馬はウマ娘化されているメジロブライト。

当時はG3だったが、早い時期での重賞勝利を上げている。

注目したいのはマキハタスパート。

新馬戦でステイゴールドやオースミサンデーを破った彼だが、11番人気で結果は15着(最下位)。

新馬戦を早々に勝ち上がった彼だが、シビアな競走成績が続く。

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