キンイロリョテイは気性難   作:白老好太郎

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前回あらすじ
同じレースに出たキンイロリョテイとオースミサンデーは、2人ともいい走りを見せた。
だが、キンイロリョテイはレース後にインフルエンザに感染し病室に幽閉される。
病床でキンイロリョテイが見た夢は、
『来年の皐月賞、オースミサンデーが予後不良になる』という予言めいたものだった。

既存登場人物の簡易解説
◆96年クラシック世代
エアグルーヴ:7戦4勝。今年のオークスを制した女帝。2か月前のレースで骨折し療養中。

◆97年クラシック世代
キンイロリョテイ:2戦0勝。レースにイマイチ本気になれない新人ウマ娘。
オースミサンデー:2戦1勝。リョテイの同室。オーちゃんと呼ばれている。
         2戦ともリョテイと同じレースを走り、2戦目で一勝を挙げている。
         母親の格言の影響で筋肉第一主義。


M2-2「進路」

◆キンイロリョテイ 1996年12月23日(深夜)

体の熱さで目が覚めた。

自分の首筋に手を当てると、ひんやりしていて少し涼しい。

手先が冷たいタイプではないけれど、熱のせいか涼しく感じる。

再度寝ようと試したが、結局寝付けなかった。

保健棟の病室のせいか、布団も枕も気に食わない。

 

小さなベッドライトを付け、枕元を明るくする。

あれから、夢の続きは見れなかった。

あの、自分のドッペルゲンガーが出る夢は。

『来年の皐月賞、オースミサンデーが予後不良になる』

高熱にうなされていたとは言え、どうにも不吉過ぎる。

たかが夢と割り切りたいが、どうしてか、あの言葉が嘘に思えない。

スプリンターズステークスを見た時と同じ、悪い予感がする。

変な夢なんて忘れてとっとと引退したいが、

同室が死ぬかもしれないとなると、見なかったフリもできない。

見ず知らずのウマ娘ならまだしも。

「どうしたものかねぇ」

「悩み事ですか?」

思わぬ返答がきて、声の発生源をみた。

隣のカーテンを一部開けて、オーちゃんが笑顔でこちらを見ている。

深夜にその笑顔は怖いって。

「あれ、驚かないんですね」

「まぁな」

驚きすぎて悲鳴も出なかったとは言えない。

時計を見ると午前3時を指している。

「俺が言うのもなんだが、なんで起きてるんだ」

「私も寮から荷物を持ってきた後、すぐ寝ちゃって。

寝れないなー、スクワットでもしようかなー、

と思ってたら隣のカーテンから光が漏れてたので」

夜中に無言でスクワットされるよりは、話しかけられた方がまだマシか。

「オーちゃんは別室じゃなかったのか。

保健棟に隔離とは聞いてたけど、わざわざ近くに来る必要はないだろ」

「それは志摩先生とも話したんですが、同じ病室にしてもらいました」

志摩先生?あぁ、医者orナースor保険の先生か。

「熱出した時も真横で寝てたんですから、感染するならとっくにしているのと、

レース後なら罹り得だと思ったんです」

「インフルエンザの罹り得ってなんだよ」

「今後のレース直前にインフルエンザに罹っても大変じゃないですか。

レースやトレーニングの計画も狂うし。

で、ワクチンでも感染は防げない、ただ重症化はしない。

なら、レース直後かつ年末の暇な今のうちに、

インフルエンザに罹った方が良いかもと思ったんですよね。

予防も耐性も出来て一石二鳥みたいな」

「ゴリ押しに見えて、一理あるのが嫌だな」

「ですよね。なんなら移してもらった方が得みたいな。

リョテイちゃんが嫌じゃなければ軽くキスでも」

おもむろに近づこうとするオーちゃんにナースコールのボタンを見せつける。

「近づくなよ。それ以上近づいたらコレだからな」

さながら、自爆スイッチに指をかけた爆弾魔みたいだ。

「もー、冗談です。大げさですよ。

キスやハグって、女の子同士なら挨拶みたいなものじゃないですか。

妹とも良くしてました」

「そうゆうのやるなら、せめて友達とだろ」

「まぁ、その件は置いておいて。

何か悩んでいるようでしたが、どうしました?」

オーちゃんの家庭環境も気になるが、頭を切り替える。

「悩んでる?あー、さっきの独り言の件ね」

「どうしよう、みたいなこと言ってませんでした?」

「いや、この先の進路をちょっと悩んでてね」

んーん。聞くだけ聞いてみるか。

「もし、俺がレースを引退してくれって言ったらどうする」

オーちゃんが少し驚いた顔をする。

「えー引退って私がですか。

メイクデビューで勝ち上がってルンルンの私が、このタイミングで引退ですか」

珍しく真っ当なことを言う。

「もしもの話だよ」

「引退はしたくないですが。

もし、私が言われた通りに引退したら、リョテイちゃんはどうするんです?」

「そうしたら、俺も安心して引退するかな」

「じゃあ、私が引退しなかった場合は」

「その場合ねー。残念ながら俺も現役を続けざるをえないかも」

「じゃぁ、なら引退できませんね。

私は目標がありますし。リョテイちゃんの走りをまだ見たいですから」

「そう言うよねー、やっぱり」

気づくとオーちゃんはベッドの近くまで来て、俺の手をとる。

「私、リョテイちゃんがトレセンを去っても、

リョテイちゃんのチャレンジをライバルとして応援するからね。

地方転校なら南関東がおすすめですよ。近いですし」

「まだ転校するとは言ってねーよ」

握られた手を振り払う。危うくナースコールを押すところだった。

「てっきり心折れて、転校か引退か悩んでるのかと思いました。

変な質問もされてましたし」

「心折れるほど、レースに打ち込んでないけどな」

「なら伸びしろ十分じゃないですか。

私リョテイちゃんの走りを見るの楽しみです」

オーちゃんは無邪気に笑う。

言葉が先行した気もするが、あの夢を見てしまった以上、

知らんぷりしてトレセンを去る事もできない。

 

 

出来るだけオーちゃんと同じレースに出つつ、

直接対決で勝ち星を攫い、皐月賞で出場できないようにする。

そもそも、オーちゃんが皐月賞に出れ無さそうであれば、

それはそれで御の字。

そうやって夢の真偽を見極めるしかなさそうだ。

予後不良を避ける為に、もう少し走り続ける必要はありそうだ。

 

 

「そう言えば私からも質問一つ良いですか」

「どうぞ」

「一昨日のレース、どうして競争中止になっちゃったんですか?」

「インカムを投げたんだよね」

「レース中にですか?」

「うん」

「それでカラウマで競争中止ですか。

自分で棄権するようなものじゃないですか。

どうしてそんなことを」

「細かく説明するのは難しいんだけど。

あのレースは、バ場も無線も調子悪くて、

あのまま普通に走ってると、見せ場無く終わりそうだったんだよね」

「フフッ、確かにレース中のウマ娘が、急にインカムを投げたら見せ場かもしれませんが」

「いや、そうじゃなくて。

こればっかりは俺も良くわかってないんだけど、

インカム投げてから急に足が軽くなった気がして、

あのラストスパート出来たんだよね」

「えー、それ本当です?インカムってせいぜい数百グラムですよ。

いくら斤量が減ったって言っても、

インカムの重さで走りに大きな影響がでるとは思えません」

そこは俺も腑に落ちてはいない。

やっぱ気のせいだっただろうか。

「でも、私はリョテイちゃんが競争中止になってくれて良かったと思ってます。

だって、お陰でライバルといい走りが出来たんですから。

あぁ、あと言い忘れてました。

リョテイちゃん。約束守ってくれてありがとう。

ゴール前であなたと競り合えてとても嬉しかったです」

そうやってまた無邪気に笑う、オーちゃんの笑顔がまぶしく見えた。

俺はそんなに、純粋な人間じゃないよ。

心の中では、あんたをどうやって皐月賞に出させないかを考えてる。

そんな人間だ。

 

◆エアグルーヴ 1996年12月23日

「何故、私がヤツのワガママを聞かんといけないのだ」

放課後、寮の階段をのぼりながらつい愚痴をこぼしてしまった。

用があるのは201号室、キンイロリョテイとオースミサンデーの部屋だ。

なんでも、キンイロがインフルエンザに罹ったが、

病室の枕が気に入らないらしく、ヤツの枕を保健棟まで届ける必要があるらしい。

日頃お世話になっている用務員の海本さんの依頼であり、

怪我の療養中で時間に余裕がある私が手伝うのは問題ない。

ないのだが、ヤツの手伝いをさせられるのはいささか不満だ。

部屋の前で、事前に渡されたマスクとビニール手袋をつける。

こういった小さな作業も松葉杖をついていると少し面倒だ。

流石に最近は慣れてきたが。

「エアグルーヴだ、邪魔をするぞ」

念のため一声かけてドアを開ける。やはり部屋には誰もいない。

何故か窓が開いているが、他に大きな異常は見られない。

以前のように部屋のレイアウトを勝手に変えたりはしていなさそうだ。

枕を回収して、ビニール袋に入れていると足元から音が鳴った。

「ンーー」

足元を見ると大きい猫がベッドの下から這い出てきた。

「ンーー」

また、少し低い声で鳴いた後、私の足へ体を摺り寄せてくる。

そう言えば学園内で野良猫の話はよく聞くが、キンイロが餌付けしているのか。

猫は冷蔵庫の近くに立つとこちらを向いて鳴いた。

「ニャッ」

「なんだ、キンイロが何をしていたか知らないが、

私はヤツのように甘くはないぞ」

「……」

猫は変わらずこちらをじっと見ている。

「お前、結構肥えているだろ。エサはやらんからな」

「……」

「甘えるな。お前なら自分でエサを獲れるだろ」

「……」

「用事は済んだ。私は帰らせてもらう」

「ニャーーー」

部屋を出ようとすると引き留めるように鳴き声を出す。

どうせ野生生物。人間の言葉を理解している訳がない。

「鳴いたって無駄だ」

「……」

「エサがほしいのか」

「ニャッ」

「……」

「……」

少しの間、沈黙が流れる。

「はぁ、今回だけだぞ……」

冷蔵庫を開けて、焼き鮭が入ったタッパーを手にする。

猫がすり寄ってきて、クンクンと匂いを嗅いでいる。

タッパーを開けて差し出すと猫が食べはじめた。

「いいか今回だけだからな……」

野生生物にエサをやるのは良くないが……。

エサを食べている猫を間近で見ると、少し心安らぐものはあるな。

でも、なんだ、その、可愛さに免じて許してやるか。

 

猫が食べ終わった後、枕を保健棟まで無事届けた。

 

 

 

◆オースミサンデーのヒミツ

キンイロリョテイと共に保健棟に幽閉される際、

普段は保健棟に出入りしないので、ちょっとしたお泊りみたいでワクワクしていた。

また、着替えの中にトランプなどを隠して病室に持ち込んでいた。

 

◆エアグルーヴのヒミツ

実は「たわけ」と「馬鹿者」を使い分けているらしく、

「たわけ」はトレーナーにしか言わないらしい。

 

◆志摩先生のヒミツ

昔は腕の良い医者だったらしいが、本人は過去の事を忘れたがっている。

 

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