キンイロリョテイは気性難   作:白老好太郎

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前回あらすじ
同室で同期のキンイロリョテイとオースミサンデー。
インフルエンザに罹ったキンイロリョテイが見た夢は、
『来年の皐月賞、オースミサンデーが予後不良になる』という予言めいたものだった。
同室の死を避けるため、キンイロリョテイは皐月賞への出走を目標に掲げた。

既存登場人物の簡易解説
◆97年クラシック世代
キンイロリョテイ:2戦0勝。レースにイマイチ本気になれない新人ウマ娘。
オースミサンデー:2戦1勝。リョテイの同室。オーちゃんと読んでください。
         2戦ともリョテイと同じレースを走り、2戦目で一勝を挙げている。

◆トレーナー陣
沼川トレーナー:キンイロリョテイの担当トレーナー。
        キンイロのような癖のあるウマ娘の育成を信条としてる変わり者。
◆コーチ陣
ピエリコーチ:キンイロリョテイの担当コーチ。
       ヨーロッパでも有名なトップコーチ。

◆トレセン関係者
志麻先生:トレセンの保健室の先生兼、医者。
     一見近寄りがたいが、気さくなお姉さん。


M2-3「気性難」

◆沼川 与根 1996年12月23日

多忙というほどではないが、月曜日の朝っぱらから考える事が多すぎる。

どれもこれも、キンイロリョテイのせいなんだが。

 

キンイロはこれからも、レースを続けるつもりなのだろうか。

前回のレースで何故、競争中止になってから好走したのか。

そもそも、なんでインカムを投げ捨てたのか。

アイツが辞めると言い出したら、俺は引き留めるべきだろうか。

 

そんなことばかり頭をよぎる。

無理に現役を続行させるのは信条に反するが、

このまま学園を去るにはもったいない素質がある。

ただ、今の時点では、その素質を十分に発揮できないだけだ。

 

気性難。

 

そんな言葉が頭をよぎる。

業界ではレースで競争能力を十分に発揮できないウマ娘の性格や性質を差す。

レースを見ている人からは、キンイロは気性難のウマ娘と思われるかもしれない。

だが、レースで実力が発揮できないのであれば、それはトレーナーやコーチの責任でもある。

少なくとも一人のトレーナーとして、誤魔化さないで問題を直視しないといけない。

それを、気性難なんて簡単な言葉でウマ娘だけに押し付けるわけにはいかない。

ウマ娘はレース向きの娘が多いが、レースの為だけに産まれた訳じゃない。

それぞれの人生がある。

 

「はぁ」

心からのため息が出た。

「悩み事ですか」

紅茶を渡しながら声をかけてくれたのは、もう一人の担当のローゼンカバリーだ。

大きな丸眼鏡に姫カットの黒髪、発育もいい彼女は、

カリカリのキンイロと比べると正反対のウマ娘だ。

彼女は今日のトレーニングメニューを確認し終えたところだった。

「ありがとう。相変わらず、キンイロが何を考えてるか分からなくてね」

「あー、あの娘は嵐みたいなものですから」

「そう言えば、キンイロと仲良かったんだっけ」

確か、ローゼンカバリーとキンイロリョテイは地元が一緒で、

小中学校と交流があったと聞いている。

「まぁ、仲は悪くないんですが、一緒にいるといつも何か問題が起こるというか、

毎回巻き込まれたと言うか……」

ローゼンの顔色が少し暗くなる。キンイロは子供の頃から自由奔放だったみたいだ。

「なら、キンイロの先輩として、アイツの考えを知るにはどうしたらいいと思う?」

ローゼンは少しうつむいて考えた。

「あの娘の考えを間接的に汲み取るのは大変だと思います。

だから直接的に聞き出すしかないかと」

「やっぱり、直接会って巻き込まれるしかないか」

「ですね。大変だけど、それが一番近道だと思います。

って、あの娘と会えないんですか?」

「キンイロは昨日から、インフルに罹ったみたいで保険棟から出れないんだよね。

感染防止でトレーナーも安易に会えない」

そう肝心のキンイロは隔離されている。

トレセン内を歩き周り、こうやってウマ娘と会話するトレーナーは安易に会えない。

「そうですか、なら治るまで待つしかないですね」

少し考える。彼女の言う通り、あれこれ予測するより会ったほうが早そうだ。

「いや、やっぱり会いに行くよ」

そう言ってデスクからレジュメを一つ取り出し、目の前の困惑しているウマ娘に渡す。

「なんですか。この書類」

「年明けまでのローゼンのトレーニングメニュー。

俺、直接キンイロに会いに行くよ。

保険棟の一緒に幽閉されるからしばらく、外出できないと思う。

それまではこのトレーニング内容で耐えて」

「えっ、本気ですか。来月AJCCですよ」

「中山の2200じゃん。セントライト記念と同じだから、いけるって」

「今回は私以外全員先輩なんですよ。セントライトみたいにいきません」

ローゼンは何かと一人を嫌がる。レースでもトレーニングでも。

そこも、単独行動しがちなキンイロとは正反対だ。

一緒にいれば問題は少ないが、その分、手間はかかる。

「各トレーニング毎に、合同でトレーニングしてくれるウマ娘をピックアップしてある。

声をかければ了承してくれるはずだ」

「分かりました」

彼女はむすっとしながらも了承してくれた。

「ただし、解放されたらで良いので、

ちゃんとしたクリスマスプレゼント用意してくださいね。

私、去年購買に売ってるティーパック渡されたの、まだ忘れてませんから」

「分かった。今年は気合をいれるよ」

そう言いながら、ティーカップに口をつけた。

 

 

◆キンイロリョテイ 1996年12月23日

沼川が病室に現れたのは昼過ぎだった。

「よう、元気そうだな」

口調は軽いが、表情は苦虫を嚙み潰したようだった。まぁ、いつも通りか。

体調はかなり改善して、多少の熱と膝に残る違和感以外は体調は回復していた。

これを好機と、オースミが衣類と一緒に持ち込んでくれた携帯ゲーム機で遊んでいたのだが、

バツの悪い所を見られた。

学園のルール的にゲーム機の持ち込みはグレーゾーンだ。

さっさと話題を変えないと。

「体調は結構良くなったけど。トレーナーってここ来て大丈夫なの?

俺、インフルエンザらしいぞ」

「大丈夫じゃない。お陰で俺もここ(保険棟)にお泊りだ」

そう言うとベッド横の丸椅子に腰かける。

よく見ると着替えなのか、リュックに紙袋と、宿泊用らしき荷物を持ち込んでいた。

「えっ、この病室に?」

この病室は今のところオースミと俺しか居ないが、担当トレーナーと同じ空間で居るのは居心地が悪い。

きっと、今度は俺が苦い顔をしていることだろう。

「安心しろ。上の階の個室を借りてる。担当と同じ部屋で寝る趣味は無い」

良かった。沼川に変な趣味が無くて。

ぱっと見は変な趣味がありそうだけど。

「ところで、レースはどうするんだ」

「え、レースって」

「ほら、前のレースを走ったら引退うんぬんって話あっただろ」

「あぁ、続けるよ現役。俺を皐月賞に出して」

「お前さぁ」

沼川が頭を抱えた。頭痛だろうか。

「現役続行はこの際いいとして、この前のレース内容はなんだ」

「なにって」

「カラウマになってから、急に好走しやがって。

あの後、ピエリコーチにめっちゃ怒られたんだぞ」

あぁ、そっか。沼川に色々と話せずじまいだったのを思い出した。

 

 

沼川に前走の事情を話した。

「インカムの故障とバ場の悪化が、キンイロだけに起きてた。

そして、競争中止になったとたん他バと同じ環境で走れたってこと?」

沼川の頭には?マークが3つくらい浮かんでいた。

「そんな感じ。信じられないとは思うけど」

「まぁ、にわかには信じられないけど、

キンイロがレースに出て実際に感じとったことなら、嘘じゃないとは思ってるよ」

沼川は困惑しているものの、ある程度理解してくれているようだ。

流石に今、沼川に共有できるのはここまでだろう。

 

『明晰夢でドッペルゲンガーが4体出てきて、

オースミサンデーが皐月賞で予後不良になる予言をした。

夢の中でドッペルゲンガーのうち1体は黒いヘラジカみたいなUMAだった。』

なんて言ったら、頭がおかしくなったと思われかねない。

 

「レース直後に言われた通り、インカムを関係者に調べてもらったけど、

キンイロが言ってるようなインカムの故障や通信障害の痕跡はなかったよ」

「あれ、そんなこと言ったっけ」

「言ってたよレース直後の地下バ道で。

あの時、私が『調子悪そうだから医務室寄ったら』

って言ったのも無視して直帰していたけど」

「ごめん、気分悪くて聞いてなかったわ」

確かに、レース後にそのままレース場の医療チームに見てもらえば、

体調が悪いまま自分で電車に乗る必要はなかったかもしれない。

当時は気分が悪くて頭が回らなかった。

「はぁ。まぁ現役続行してくれるならいいけど。

で、何だっけ目標は皐月賞だっけ」

「あぁ、皐月賞に出させろ。結果は気にしない」

一番の目的はオースミサンデーを皐月賞に出させないだが、今は言えない。

何より当人が隣で寝ている。

「うーん、皐月賞ねぇ。皐月賞かぁ。

他のクラシックレースじゃダメか?ダービーとか、菊花賞とか」

「無理だね」

また、沼川は頭を抱えた。持病だろうか。

いい機会だし、検査を受けたほうがいいかもしれない。

「あのな、キンイロ。皐月賞は正直、出走すら厳しい。

ただでさえ、メイクデビューを2戦とも負けた上に前走は競走中止だ。

それに、前走の意図的な競争中止のお陰で再審査を受ける必要がある。

ほかにもいくつか障害が……」

「なぁ、沼川。トレーナーでしょ。なんとかしてよ」

「いや、スケジュール的にマジできつい」

「そこをなんとか」

珍しく真剣に沼川に頼み込む。

多分トレーナー契約をして以降初めての事だが、

俺の真剣さが伝わっているかは怪しい。

トレーナーは明らかに嫌そうな顔をしているが、これはやってもらわないと困る。

「どうしても皐月賞じゃないとダメか」

「絶対に皐月賞出たい」

オーちゃんの命がかかってるかもしれない。口にしたいのを抑えた。

「……わかった。いったんプラン考えてみるが、

皐月賞出たいなら絶対練習さぼるなよ」

「善処する」

「そこはサボりませんって言ってよ」

 

 

そうやって沼川と会話していると、志摩先生が病室に入ってきた。

「あら、沼川トレーナーも来てたのね。

担当のために幽閉されるなんて、ずいぶん情熱的じゃない」

「志麻先生、お久しぶりです。お忙しい時にお邪魔してしまってすいません」

「いえいえ。どうせ二人には直接話す必要があったから来てくれて助かるわ」

「と言うと」

「リョテイちゃん、インフルにかかってるのも可哀そうなんだけど、

シンスプリントも発症してるね」

「シンスプリント?」

つい口を挟んでしまった。骨折やら脱臼くらいなら知ってるがシンスプリントは初耳だ。

志摩先生が教えてくれる。

「シンスプリント。足の骨膜の病気ね。

体が育ちきってないデビュー直後のウマ娘に多い病気で、珍しい病気じゃないわ。

悪化すると歩くだけで足が痛くなって、最悪、疲労骨折までいっちゃうけど、

安静にしてれば治る病気だから安心して」

志麻先生は急に俺の布団をめくり、右足をあらわにする。

おい、こっちは病人だぞ。

「こんな風に右足の脛あたりの骨を押すと」

脛の内側に鈍い痛みが走る。

「痛いです。志麻先生。これ実演する意味あります?」

志麻先生はツッコミを無視して解説を続ける。

「幸いリョテイちゃんは初期の段階で右足のみ。

骨折してないのも確認済みよ。

だから全力で走るか、こんな風に直接押さないと、痛みは実感しないかも。

インフルついでにいろいろと診ておいて正解だったわ。

怪我の功名ってやつかしら」

「休養はどれくらい必要ですかね」

沼川が聞いた。

「最低でも2週間は安静に。

安心したいなら4週間は足に負荷のかかる練習はしないことね」

「そうですか……」

トレーナーとしては4週間休ませたいところだろう。

だが、そうすると休み明けから皐月賞まで3ヶ月ちょっとしか猶予がない。

かと言って2週間で復帰して、再発でもしたら更に遠回りだ。

ふと隣を見ると、沼川は考える人のポーズで固まっていた。

頭を抱え込み過ぎたのかもしれない。

「あら、沼川トレーナーにはショックかしら、案外ナイーブなのね」

現役のウマ娘で1、2カ月レースに出ないのは珍しくない。

足の病気をしていたら尚更だ。

だが、皐月賞出走が目標の俺には2~4週間の遅れは大きな障害になる。

レースやトレーニングの間隔を詰めればケガのリスクだってある。

ともあれ、目の前で固まっているこのトレーナーを信じるしか無さそうだ。

 

 

 

 

◆キンイロリョテイのヒミツ

子供の頃は色々と運動系の習い事をしていた。

特に武道や格闘技の系列の習い事に関してはかなり積極的だった。

(子供の中でも体が小さかったキンイロリョテイは

誘拐やストーカーまがいの被害が多く、その対策だった)

 

◆ローゼンカバリーのヒミツ

密かに「ベルサイユのばら」を愛読している。

いつかフランスに行くためにフランス語を勉強しているが、

恥ずかしくて秘密にしている。

フランスと言えば凱旋門賞だが、そちらにはあまり興味がないらしい。

 

◆沼川トレーナーのヒミツ

クリスマス中もトレセン保険棟に幽閉されることになった沼川トレーナーだが、

元々予定も無く、心配するような身近な女性も居ないらしい。

(仕事に集中出来て良かったね!)

 

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