咲闇の闘牌   作:きりりり

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ギャグ回です(血を流さないとは言ってない)


第十五話

  

本日は日曜日であり学生は束の間の休みを謳歌できる貴重な休日だが住み込みで龍門渕家のメイドを務めている3人に休む暇などなく漸く広間の掃除が一段落したころには日も暮れ3人は休憩がてら談笑に耽るのであった。

 

「ところでさ、赤木君って休みの日は何して過ごしてるんだろうね?」

「いきなりなんだよって言いたいとこだが……智紀お前何か知ってるか?」

 

純は智紀に尋ねるが彼女は静かに首を横に振るだけであった。

 

「あれだけ強いんだし休みの日も麻雀を打ってるのかな?ネット麻雀とかさ」

「あいつがパソコンの前に座ってるところが想像できねーな」

 

一日中パソコンの前でマウスを操作する姿を想像するが、どうも赤木のイメージとはかけ離れているように感じた。

 

「あいつのことだから……ずっと寝てるんじゃないか」

「あーそれっぽいかも」

 

赤木と触れ合ってわかったことだがああ見えて赤木は結構な面倒くさがりであり止めなければいつまでも寝ていそうだ。

 

「……道行く人を襲ってストレスを発散させてる」

「いやいやいや……いくらなんでも……」

「それはないんじゃないかな」

 

いくら赤木でも突然理由もなしに襲い掛かるほど狂ってもないだろう。

そうこう話しているうちに件の人物が広間に現れる。

 

「おお赤木、お前今日どこで……」

 

どこで何をしていたのかと尋ねる前に純の言葉が途切れてしまう。

何故なら

 

「ああ、これか……?気にすんな」

 

赤木の衣服は返り血で汚れており何か物騒なことがあったことは容易に想像できたからだ。

 

(一体……)

(何を……)

(してたんだ……こいつは……)

 

 

第十五話 「補給」

 

 

神域の男、雀鬼、無敗の不沈艦など様々な異名を持つ男赤木しげる。

彼には知られざるもう一つの顔があった、

 

「煙草が吸えねえとなると……そろそろ我慢の限界だ……」

 

そう赤木は極度のヘビースモーカーだったのだ。

 

いつ頃から吸い始めたのかは覚えてないが少なくとも物心がつくころには常に懐には煙草を忍ばせており。

対局中はもちろん移動中や食後の一服をかかせないほどの煙草好きがここ最近喫煙できないでいたのだ。元々低い我慢の限界に達するのにそう時間はかからなかった。

 

「しかし、実際どうしたもんかね……」

 

だが今の赤木には煙草を手にすることができない障害がいくつもある。

 

1つ目今赤木の所持金は0……つまり煙草を購入する金を所持していない。

何か物が欲しい時は基本的に現物支給……唯一の救いはあの執事がすぐに持ってきてくれることだった。

 

(まるでガキだな……菓子1つ満足に買えない子供そのもの……)

 

ではなぜ赤木に現金を持たせないかというとこれまた単純で下手に纏まった金額を渡した場合この男はあっさりと何倍にも増やしてしまうからだ。

もちろん未成年は雀荘の出入りは禁じられているが万全ではない。

そして金を掴んだ場合龍門渕家から出ていく危険性がある以上極力現金を持たせるべきではないというのが透華の下した判断であった。

 

「仕方ない気が進まねえが行くか……」

 

ようやく重い腰を上げ交渉のために透華の元へ向かうのであった

 

 

○●○●○●○●○●○●○●○●○●

 

 

『平田隆鳳氏殺人容疑者逮捕!犯人は未成年の少年!』

 

「まったく……最近は物騒ですわね……」

 

テレビからもたらされる情報は、いずれも世の中が荒んでいることを嫌でも認識させられる物ばかりだった。

 

「ちょっといいか?」

「あら、一体なんですの?」

 

赤木が透華の前に顔を出すのは珍しく、何事かと身構える。

 

「いや、タバコが欲しいんだが……」

「ダメですわ」

 

煙草という単語が出るや否や開口一番に要求を切って捨てた。

 

「おいおい……いいじゃねえか何も拳銃寄越せって言ってるんじゃねえんだぞ」

「ダメと言ったらダメですわ!」

 

取り付く島がないとはこのことで後ろに控えていた歩はオロオロするばかりだった。

 

「まず1つ貴方はあくまでも龍門渕の高校生万が一にも喫煙しているところをマスコミに知られでもしたら私の立場が危うくなりますわ」

 

未成年が喫煙していたとなれば最悪廃部。良くて公式戦出場停止処分になることは疑いようもない。

 

「2つ目、あなたの健康が損なわれるのはまだしも私や衣の健康に悪影響が出るのは困りますわ」

(お前は衣の母親か……)

 

たいした親バカ……もとい従姉妹バカぶりと思ったが透華の機嫌を損ねないため此処は自重する。

 

「最後に最も重要なことですわ」

「なんだ……その重要なことって」

 

勿体つけた言い方に眉を顰めるが透華はわなわなと肩を震わせ。

 

「私は煙草のあの臭いが大っっっっっっキライですの!」

(そいつが本音か)

 

なぜそこまで嫌っているのかは不明だがとにもかくにもこの後透華が首を縦に振ることはなく無駄な労力を消費しただけであった。

 

 

○●○●○●○●○●○●○●○●○●

 

 

「さて、どうするかな……」

 

透華との交渉を切り上げた赤木は目的もなく街に繰り出したものの土地勘はなくどこに何があるのかすらわからない状態だった。

 

「まあとりあえずこの辺りをブラブラして帰るか……」

 

少なくとも気晴らし程度にはなるだろうと歩みを進めようとした矢先に足もとで何かがきらめいた。

 

「こいつは……」

 

その正体は500円玉、いじましい金額だが今の赤木にとっては天の恵みであった。

赤木はそれを拾い上げると早速コンビニへと足を向けた。

 

「いらっしゃいませー」

「ハイライト1つ……それとライター」

 

ポケットから500玉を取り出しカウンターに置く特に煙草の銘柄についてこだわりはないが今回は一番吸い慣れたハイライトを選択する。

 

「では年齢確認お願いしますね」

 

ここで立ちふさがる第二の問題世間的、肉体的に赤木は未成年であり煙草を購入することができないのである。

 

「ああ、父が買って来いって言うんでねこれは自分が吸うんじゃないんですよ」

 

しかし赤木もこれは予想の範囲内であり前もって考えておいた言い訳を淀みなく言い放つ。

だが。

 

「すいません、未成年の方にお売りすることはできないんですよ~」

 

赤木が知る由もないが、赤木が生きていた頃とは異なり未成年に対する煙草の販売は法律で厳しく禁じられているのだ。

ルーズな店員ならばそのまま売っていたのかもしれないがこの日は運悪くきちんと対応するタイプの店員であった。

 

(仕方ない……ここは退いておくか)

 

ここで店員に食い下がって下手に警察に呼ばれでもしたら厄介なことになるためコンビニを後にする。この後店を変え何度か購入を試みたものの結局は断られ続け煙草を手にすることは叶わなかった。

 

(となると次は……)

 

赤木、次は自動販売機を探す。機械ならば年齢確認されることはないだろうという読みは間違っていない

 

「ようやく見つけた」

 

気づけば薄暗い裏路地にまで来ていたが気にすることなく自販機に硬貨を入れようとした。

 

『御購入にはtaspoカードが必要です』

 

taspo。未成年が煙草を購入できないように対策されたシステムであり、当然未成年には手に入れることができない代物だった。

 

「まったく……窮屈な世の中になったもんだな……」

 

まさかこんな形で時の流れを感じるとは思いもしなかったが兎にも角にもお手上げ。

諦めて帰ろうとしたその時だった。

 

「へっへっへ……ちょっと面貸してくんねぇかなぁ」

「面貸せねえってんなら、財布だけでもいいからさぁ」

「早く金だせってんだよ!痛い目みねーとわかんねえのか!」

 

まさに絵にかいたような不良が3人背後から声をかけられる。

大方 弱者相手に金を巻き上げようという魂胆だろう。

 

「失せろ、目障りだ」

 

当然赤木がそんな脅しに屈するわけもなく要求を跳ねのける。その態度は3人の怒りに火をつけるのに十分だった。

 

「あぁ?テメェ調子乗ってんじゃねーぞ!」

「謝ったってもう遅いからな!」

「3人に勝てるわけないだろ!」

 

数は3対1。

誰もいない路地裏に悲鳴が響き渡るのにそう時間はかからなかった

 

過去には鉄パイプを持った5人相手に傷一つ負うことなく勝利した赤木に素手のましてやたった3人で挑めば。

 

「こ、こいつ強え……」

 

こうなることは火を見るより明らかだった。

ものの3分もしないうちに3人をねじ伏せてみせ他の2人は気絶しているのかピクリとも動かなかった。

 

「群れなきゃ何もできないガキ共が……」

(いや、お前の方が年下じゃ……)

 

心の中でそう呟くが口には出さなかった不良といえど命は惜しいのだ。

線も細く力があるようにも見えないが完膚無きまでに打ちのめされた以上逆らう気力は湧かなかった。

 

「おい、お前」

「な、なんだよ……」

「煙草、持ってんだろそいつで勘弁してやる」

 

不良=煙草というなんとも安直な考えだったが横たわる不良に話しかける。

 

「い、いや持ってねえ俺らは吸わねえ」

「あ?持ってねえってことはないだろ」

「け、健康にも悪いし……ぐべっ」

 

煙草を吸えないストレスも相まって言葉も言い終わらないうちに不良の顔面に拳を放った。

 

「ちっ……まぁいいか」

 

振り向けば3人の仲間だろうか、数は十を超え赤木を取り囲んでいた。

 

(この中の一人くらいは持ってるだろ)

 

こうして赤木による不良狩りが始まったのであった、

 

 

○●○●○●○●○●○●○●○●○●

 

 

「手間かけさせやがって……」

 

最後の一人をぶちのめしたところで漸く目的の物にありつくことができた。

目立った傷はなくついた汚れのほとんどは不良達の返り血というまさに虐殺という言葉がよく似合っていた。

 

「キャスターか……この際贅沢は言えないな」

 

死屍累々といった惨状だったが同時に奪い取ったライターで煙草に火をつける。

たちまち紫煙がたちこめ1日の苦労が報われるほどの一服になるはず……。

 

「ん?」

 

しかし咥えるその直前で手元から煙草が消えてしまう。

 

「申し訳ありません、赤木様……」

「お前は……」

 

そこにいたのは龍門渕家の執事ハギヨシでありその手には煙草の箱が握られていた。

 

「赤木様が煙草を手にしたら取り上げろという透華お嬢様の言いつけでして申し訳ありません、」

 

そう一礼するや否や音もなく目の前から消えていった。

取り返そうとも思ったがどこへ行ったのかすらわからない以上追いかけることすらできない。

 

「アホらしい……帰るか」

 

骨折り損のくたびれ儲けとはこのことで後に残ったのは理不尽に打ちのめされた不良達の死体の山だけであった。

 

 

 

 

 

 

 

 




赤木って煙草そんなに好きか?と疑問に思った人もいるかも知れませんが
本当にこの人隙あらばかなりの頻度で吸ってます。
好みの銘柄がハイライトからマルボロ(マルバロ)に代わってるのは豆知識。


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