天江衣 危険度☆☆☆☆☆
神域の男
赤木しげる 危険度☆☆☆☆☆☆☆☆
台パンもやむなし。
「ロン!純チャン三色ドラ3で24000点でトビだな」
「ああ……」
始まって早々決着がついてしまった純は他の卓の様子を見るために席を立つ。
「赤木の奴はっと……あーこりゃお気の毒」
よりにもよって衣と同卓する2人に内心同情しながら勝負の行方を窺うことにした。
第十七話「てかげん」
東家 赤木 25000点
南家 天江 25000点
西家 新垣 25000点
北家 小松 25000点
(相手は井川プロに勝ったっていううけどあんなのただのバカヅキ……大した腕じゃない)
プロ相手に勝利した赤木だったが勝ち方が勝ち方だっただけに赤木の評価は低い少なくとも他の5人よりも格下というのが渚の見立てだった。
(問題はこの娘……)
打{北}
「ポン」
(天江衣……このハイテイ女が厄介……本来なら勝ち目は薄いかもしれないけど今回は違う……見てなさい……)
17巡目……
残り牌はわずかでありこのままいけば衣のハイテイツモは確実だろうしかし
新垣 手牌
{一二三三四六七③④⑤6679}
打{④}
「チー!」
面子を崩してまでの露骨なハイテイずらし。
衣のハイテイツモを対策するには手っ取り早い常套手段とも言える策だが実際に行うには2通りの方法がある。
1つは赤木やひろゆきが行ったように自身の読みをもって的確に鳴かせること。
鳴かせるもしくは差し込むには相当な分析力が必要であり並の打ち手では到底できる芸当ではなくもちろんこの2人にそんな力があるはずもない。
(部長次は三萬をお願いします)
打{6}
「ポンッ!」
そして最も簡単な方法は鳴きたい牌をそのまま相方に伝える方法……つまりは通しと呼ばれる単純なイカサマであった。
(クジで決めるって言われた時は正直焦ったけど聖と組めた以上問題ない……こういう時のために打ち合わせておいて本当に助かったわ)
元々目の上のたんこぶであった透華を排除するための仕込みがこんな形で発揮されるとは思いもしなかったが打ち合わせ通りに意思疎通できる以上有利に動くことは間違いない。
打{三}
「ロン!」
小松手牌
{四五④⑤⑥34588 横④③⑤ ロン三}
「タンヤオ三色で2000点です」
(よし完璧!これで天江のハイテイは攻略したも同然!)
東2局 ドラ:{2} 親:衣
「リーチ」
流局間際、残り一回のツモしかないというのに衣からリーチの声が挙がる。
普通なら非効率な打牌だがハイテイツモが約束されている衣はその限りではない。
(どれだけ頑張ったって無駄無駄)
打{7}
「チー」
しかしいとも容易くツモ順をずらされる。
全力を出せる状態の衣なら鳴かせることすら困難だっただろうが、さすがに今の時間帯では他者を完璧に縛りつけることはできない。
(私がラスヅモか……安牌は……)
衣 捨て牌
{北九9東5六}
{西3西1③一}
{2一三⑤横5}
(③筒……これでいいか)
打{③}
安牌の③筒しかし
「ロン」
赤木手牌
{三四五七八九①②⑦⑧⑨99 ロン③}
「ホウテイのみ1300だ」
(ありゃツイてない……いやむしろツイてるか)
このまま流局だったら少なくとも1500点の支払いだったことを考えればむしろ1300点の支払いで衣の親を流せることを考えれば安いものだった。
東3局 ドラ:{三} 親:新垣 17巡目
新垣 手牌
{一二二五六⑥⑦⑧11345 ツモ八}
(ここまで3局連続で聴牌できず……なんなのよこれは)
しかもこのままではまたも衣の海底コースであり衣が聴牌しているかは不明だが衣に回すのは危険と判断しまたも鳴かせてツモ順をずらす
打{4}
「チーです」
「むー」
さすがに何回もツモ和了りを阻止されたからか衣は頬を膨らませる。
新垣 手牌
{一二二五六八⑥⑦⑧1135 ツモ②}
(安牌は……)
衣捨て牌
{四中七368}
{二91一2北}
{八⑨①南}
打{八}
「そいつだ」
「え?」
赤木手牌
{三三八八②③③④④⑤中中中 ロン八}
「ホウテイ中ドラ2丁で満貫だな」
(くっ……また?ついてないわね……)
不運な振り込み……天江衣の安牌を切ったらたまたま他家に和了られるというのはよくある話だが2局続けてというのも珍しい。
この時新垣にはある違和感を感じていたがリードされているという事実に飲みこまれ違和感の正体を把握することができなかった。
東4局 ドラ:{1} 親:小松
新垣手牌
{⑤⑥⑦1346東東東白白白 ツモ2}
(来たっ!絶好のツモ打点も充分!)
打{6}
「リーチッ!」
ようやく辿り着いた聴牌。
まずは小松が振り込まないようにサインを送る。
(高めをツモれば跳満……裏次第で倍満にもなる手ここでビシっと決めてやるわ!)
意気揚々と放ったリーチだったが一向に引くことができないまま残りは一回のツモしか残っていなかった。そして……。
「リーチ」
ついに衣に追いかけられる。
(ちっ……こうなったら仕方ない)
このままなら間違いなく衣が引いてしまうだろう。
そうなる前に小松に差し込ませようとするが。
(すいません……1-4索はありません……)
(なんですって……これじゃ……)
「ツモ」
衣手牌
{二三四六七八①①11144 ツモ4}
「立直一発ツモ海底摸月ドラ3……3000-6000」
(私の和了牌が握りつぶされている……)
偶然かはたまた止められたのかは知る由もないがこの勝負手を物できなかった……。
つまり巡ってきた数少ない好機を逃した代償は大きった。
南1局 ドラ:{一} 親:赤木 17順目
新垣 手牌
{三三三③④⑥⑦456678 ツモ7}
(またも聴牌ならずしかも)
衣捨て牌
{一⑨九北⑨六}
{⑤西⑥82白}
{2⑦8横⑤1}
(また天江がリーチして……もう!なんのよこいつは!)
打{三}
「チ、チー!」
衣の勢いは衰えることなく小松との連係プレーによってツモ順をずらすことが精一杯だった。
新垣 手牌
{三三③④⑥⑦4566778 ツモ二萬}
(安牌……)
打{8}
「ああそれだロン」
「えっ……」
赤木手牌
{①②③3457999南南南 ロン8}
「ホウテイ南で3900」
(またか……いい加減にしてよね……え……?)
また最後に振り込んでしまったと思った瞬間、今までの和了が脳裏によぎる。
(最初の三色以外こいつらの和了は河底、河底、海底、河底……こんな偶然あり得るの……?)
このまま気付かなければどれだけ幸せだったろうか。
しかし彼女は不幸にも気付いてしまった……目の前の男こそ本当の怪物であることに……。
(ずらしても河底……ずらさなければ海底……一体どうすりゃいいってのよ……)
南1局1本場 ドラ:{4} 親:赤木
「リーチ」
赤木捨て牌
{北⑧八中二5}
{1横4}
(普通のリーチ……今回はホウテイ狙いじゃない……?)
そうは言っても親のリーチ残りの点棒も少ない新垣は振るわけにもいかず降りる。
そのまま赤木もツモらずこのまま流局かと思われたが。
赤木打 {⑨}
「チー」
流局間際衣が赤木の切った⑨筒を鳴いたことによりラスヅモは新垣へと移った。
新垣 手牌
{四四六六七2333①②④⑦ ツモ2}
(また私がラスヅモ……しかも安牌もない……)
赤木 捨て牌
{北⑧八中二5}
{1横4白二一南}
{1東8一}
(しかも天江のあの鳴きと捨て牌を見ればほぼピンズの混一……ピンズは切れない)
筒子が切れないとなると残るは萬子と索子のどちらかを切るしかないが一体何が通りそうか必死に考えを巡らせる。
(萬子もダメ……場にほとんど切れていない以上そこが待ちになっている可能性大)
萬子も除外され最後に残るは索子……。
(3索は暗刻で私が持っているから壁を信じての2索……これしかないか……)
仮に残り1牌の3索を赤木が持っていて前リーチ宣言牌の4索がある以上2索で当たる確率は相当低い。
なぜなら134と手牌にある場合1索を切っての両面待ちを選択するのが当然である。
(通るはず……いや絶対に通る!)
打{2}
しかも今回4索はドラでありどう考えてもカンチャンで待つ理由などない。
それがセオリーだ
「ロン」
赤木 手牌
{一二三①②③⑦⑧⑨1399 ロン2}
もっともそんなセオリーを絡め取ることこそ赤木の十八番なのだが。
「裏は見るまでもないな、親ッパネでお前さんのトビだ」
「あ……ああ……」
超人的とも言える程の洞察力……どんなに必死にもがいても結局は赤木の手のひらの上で踊らされていただけであり、敗北するその直前まで気付くことができなかったのである。
(なによりも悪魔的なのがこいつ……)
6巡目 赤木手牌
{一二三①②③⑦⑧⑨1134 ツモ5}
(あの時こいつは平和ツモドラ1を和了っていたのに平然と見送った……そして)
7巡目
{一二三①②③⑦⑧⑨1134 ツモ9 打1}
8巡目
{一二三①②③⑦⑧⑨1349 ツモ9 打4}
(そして最後はこの形……常人には到底真似できない……純チャンに決め打つにしろ7巡目の1索切りがまず理解不能だ……)
通常純チャンを狙うなら1索対子はまだ活用可能であり最後まで残るだろう。
しかしそうなった場合の赤木の捨て牌が
仮想赤木捨て牌
{北⑧八中二5}
{4横1}
こうなるとむしろ目につくのはリーチ宣言牌の1索であり、待ちは1索周辺と嗅ぎつけられかねない。
(そしてなにより……ここまでホウテイを狙うためにこいつは衣を丸々利用しやがった……!)
衣の異常なハイテイツモを隠れ蓑に当の赤木は最後まで気配を隠し狙い打つ……理屈や常識では決して計ることのできない赤木の戦術につくづく赤木が敵ではなくて良かったと純は冷や汗を流した。
「こっちは終わったぞ、他の奴らはどうだ?」
「え?あ、ああ……他はまだ終わってないけど、全員優勢だ問題ないだろうよ」
思案しているところにいきなり声をかけられ一瞬戸惑うが改めて赤木をまじまじと見つめる。
その後ろではなぜか衣が憮然とした表情を浮かべていた。
「にしても……気付いてたよな?お前」
純も後ろから見ていたので2人の通しに気付いてはいたが赤木はその裏をかく素振りを見せなかったので念のため確認を取る。
「ん?あぁ……全部衣に任せようとしたらこれだからな。あいつらにゃいい薬だろ」
藪をつついて蛇を出すとはこのことで素直に勝負していれば万に一つの勝機があったかもしれないというのに結局は蛇以上の魔物に丸呑みにされてしまったのであった
「むー……またもアカギを撃催できなかった……」
「だから……相手は俺じゃないだろうが」
そして当の魔物は愚図る衣に絡まれ迷惑そうにしていた。
(そして何よりも不可解なのは最後のリーチ……なんで最後の最後までもつれることが分かったんだ……)
赤木自身が和了牌を引かず。
他家が最後まで振り込まず。
尚且つ対面にまで回ってそれを討ち取る。
(何故そんなことができたのか……オレじゃ予想すらつかない)
そもそも4回連続河底撈魚というだけで奇跡という他ない。
確率や直感では決して説明がつかない領域の話だった。
まあ、こうなりますよね……。
衣を対策すれば赤木に撃たれ。
赤木に気を取られれば衣にツモられ。
やられたらトラウマもんですね。
次は新・番外編の予定です
次に赤木はここへ行ってくれっていう希望があれば
メッセージにてお願いします。
あらすじなんかあるとディ・モールトペネ。