アカギ?外伝 「激励」
今まさに退部がかかった対局が始まろうとする直前、池田、赤木両名は索戦線会議を開いている。
「いいかアカギ、今回こうなったのも元はと言えば私のせいでもある」
どこか負い目を感じているのか、その瞳にどこか元気が無いように見えた。
「だからお前は何もしなくていい。っていうかアカギじゃ力不足だし!」
「……そうかい」
とは言っても正直自分でもあの2人相手に勝つ見込みがあるはずもない。
(せめてキャプテンがいてくれれば……)
こんなに不安にならなかったかもしれない。
しかしいくら願ったところで共に打つのは憎たらしいこいつなのだ。
(私がなんとかするんだ……なんとか……)
○●○●○●○●○●○●○●○●○●
東 久保 25000点
南 藤田 25000点
西 池田 25000点
北 赤木 25000点
「勝負は半荘4回戦で互いのポイントの合計が上だった方の勝ちだ。ただし内容によっては負けたとしても恩赦を与える場合もある」
「それって……」
例え赤木に足を引っ張られて敗れたとしても自身がしっかりしていれば退部は免れるというわけである。
「ただし逆もまたあり得ることも忘れるなよ池田ァ!」
「ひっ……」
「怒鳴ることもないだろ……」
かくして勝負は始まった。
東一局 ドラ:{7} 親:久保
池田 手牌
{二三五3445599③④⑤ ツモ6}
(テンパイだし……ここは……)
打{五}
「リーチ!」
幸先のいい先制リーチに思わず安堵の表情が浮かぶ
(とにかくまずは確実に点棒を稼いでいく……そのあとは守備に徹すれば最悪ラスは回避できるし!)
三巡後
「ツモ!」
池田 手牌
{二三34455699③④⑤ ツモ一}
「メンピンツモ700-1300!……です」
裏こそ乗らなかったが久保の親も蹴ることができたまずますの出だしと言える。
(普段の池田先輩なら三色が確定する二萬切りだったはず。でも今回は和了る確率を上げるための両面待ちにして正解だった!池田先輩は落ち着いている!)
声こそ出さないが部内に安堵の雰囲気が漂う。大多数の部員達の考えは文堂とほぼ同じでありこれなら勝てるかもと思うものまでいた。
しかしその一方でこの和了に不穏な流れを感じたのはただ一人……。
(カナ……いつものあなたの打ち方じゃない……)
無論ここで和了れたことは紛れもなくプラスであることは疑いようもない。ただ……もしここで三色に受けていればこの後に高めの四萬を引いていたかもしれない。
点棒のかわりに別の「何か」を失ってしまった。
美穂子にはそんな気がしてならないのである。
(お願いしげる……カナを助けてあげて!)
しかし美穂子の不安とは裏腹に池田は好調。
破壊力はないものの素早い和了を繰り返していた。
東三局2本場 ドラ:{八} 親:池田
池田 手牌
{二三四4567778⑦⑦⑦}
(よし、テンパイここはダマにして点差を広げるし!)
手も好調であり、このままの勢いなら大量得点も望める展開だが、そこに待ったをかける人物がいた。
「リーチ」
(よりにもよってコーチのリーチだし……)
池田 手牌
{二三四4567778⑦⑦⑦ ツモ一}
(この一萬は危険……でもかまわない!)
そのまま流れに任せてツモ切ろうとしたが直前に池田の手が止まる。
(いやいや、ここで振り込んだらここまでの苦労が水の泡だし……振り込んだらコーチに何言われるかわかったもんじゃにないし!)
打{8}
切られたのはの8索……安全に行くあならば当然の一打といえるがその当然の一打を待つ者がいた。
「ロン」
「えっ……」
藤田 手牌
{二二八八①①④④⑧⑧338 ロン8}
「七対子ドラドラ6400は7000だな」
(やられた!明らかに池田先輩を狙い打った!コーチのリーチは囮だった!)
東四局 ドラ:{九} 親……赤木
池田 手牌
{二二二三四56789北北北 ツモ⑥}
(コーチからリーチがかかってるのにこんな牌引いちゃったし……)
久保 捨て牌
{東二白⑦四六}
{西4⑤}
(かなり危険だけどさっきの失点を取り返す!)
打{⑥}
先程は弱気に出て振り込んだ焦りもあったのだろう。
しかし今の池田ではそれもまた裏目に出てしまう。
「ロン」
久保 手牌
{五六七②③④④⑤45699}
「リーチ平和赤2裏2で12000」
「うぅ……はい……」
この振り込みによって池田のリズムは完全に崩壊してしまった。
その後も強打しては振り込み、引いてはツモられを繰り返しじわじわと点棒を減らしていった。
南四局 親:赤木 ドラ:{二} 八巡目
「リーチ」
なんとか連荘し、逆転へと望みをつなごうとしなければならないこの場面で対面の久保からリーチがかかってしまう。
(池田先輩の調子が悪い今、頼りは赤木先輩だけ……でも……)
赤木手牌
{二三四五六七②③23478 ツモ7}
(…………)
打{三}
(何しているんですか!タンピン三色のこの手を……しかもラス親の先輩がオリてどうするんですか!)
もちろん攻めることが100%正しいとは言わないが、それにしても赤木の打牌は弱気すぎると言わざるを得ない。
(ダメだ……このままじゃ池田先輩までこの部を去ることになってしまう!)
その後は久保がツモ和了り、1回戦終了。
3位池田4位赤木と両名が下位を占めた結果となった
そして続く二回戦も前局に続きツキもリズムもなく池田は完全に調子を崩してしまっていた。
(どうしてこんな時に限って……こんな……)
内心泣きだしたい気持ちで一杯だった。今すぐここから逃げ出したいとそんな考えすら頭にちらついてしまい、もはや麻雀に集中できる精神状態ではなかった。
そんな中で東場も終わりこれから南入といったところで美穂子は卓に近づいた。
「しげる…・・・」
いても立っても居られなかったのだろう、心配そうな表情を浮かべ赤木のそばに立った。
「福路、今は対局中だ。下がっていろ」
「すいませんコーチでも少しだけ許してください」
勝負の最中だというのに中断させる美穂子を久保は睨みつけるが、臆することなく美穂子は赤木に耳打ちで何かを伝えた。
「……本気で言ってるのか」
「ええ本気よ」
ほんの数秒程度の短い会話なのでアドバイスの類ではないだろうが赤木の顔に驚きの表情が浮かぶ。といっても傍から見ればいつも通り仏頂面にしか見えないのだが。
そんな赤木は大きなため息を1つ吐き
「まったく……面倒なことになったな……」
小さく、誰にも聞こえることのないようにそう呟いた。
南1局 親:赤木 ドラ:{中}
東 赤木 19800点
南 久保 30100点
西 池田 11700点
北 藤田 38400点
八巡目
「チー」
{横534}
ここまで動きらしい動きを見せなかった赤木だったが、藤田の切った5索に反応し喰い仕掛ける。
打{1}
池田手牌
{三三六七八九⑥⑦⑧2467 ツモ中}
(生牌のドラ……いくらなんでもこれは切れないし……)
打{2}
いつもの池田ならば構わず切り飛ばしていただろう。中を抱えるにしろ打九萬とし、攻める姿勢を保ったはずだった。
しかし今のは池田は他者の動きに振り回され打牌が弱気一辺倒に傾いてしまっている。
「ロン」
赤木手牌
{24[5]6666東東東 横534 ロン2}
「えっ……どうして……」
「東、混一、赤1。満貫トビだな」
予想もしなかった赤木からの直撃により2回戦は終了。
結果赤木は藤田には及ばないが2着につくが代わりに池田は箱割れのラスを引く形となりチームとしての収支はマイナスとなってしまう。
「さてと……」
凍りつく空気が漂う中赤木はおもむろに立ちあがる。
「どこ行くつもりだ!まだ対局は終わってないんだぞ!」
「トイレですよ。ずっと我慢してて……少しくらい許しちゃくれませんかね」
当然久保は怒りを露わにするが赤木は特に気にする様子もなく言い放った、
「池田、ついてこい」
「は……?いや、私はいいし……」
未だ呆然としている中で急に名前を呼ばれたことに面食らうが、かろうじて言葉を絞り出すことができた。
しかし赤木はおもむろに池田の腕を掴むと無理やり立ち上がらせる。
「いいからついてこいって」
「ちょ……やめろ!引っぱんなし!」
そのまま引きずるようにして2人は部室を後にした。
「ん、まぁ半荘2回でキリもいい少し休憩にしてもいいだろう」
「すいません、せっかくお越しいただいたのに……」
深々と頭を下げる久保だったが藤田はあまり気にした様子もなく、2人もまた部屋を後にし、隣の待機室に引き挙げていった、
○●○●○●○●○●○●○●○●○●
「…………」
「…………」
トイレへ向かう廊下を歩く二人だったが、会話はなく重苦しい空気が流れていた。
「なにか言いたいことがあるんじゃねえのか?なあ池田よ」
「ッ……!お前は!」
そんな空気を払うよう、赤木は茶化すように話しかけた。
「お前はいったい何がしたいんだよ!」
今まで抑えていた感情が一気に噴き出し、その瞳には怒りの色が強く出ていた。
「私が気づいてないと思ったのか!さっきの局のことだよ!」
赤木手牌
{12344[5]6666東東東}
「5索を鳴く前は子の形……藤田プロからの跳満を見逃して私から和了るなんて何を考えてるんだよっ!」
鳴かずとも1-4-7、5索待ちであり高めの5索が出たのだ。打点、待ちの広さからしてもこの鳴きはあり得なかった。
「へぇ気づいてたのか意外に冷静じゃないか」
「人をバカにすんのもいい加減にしろ!お前みたいに遊び半分じゃなくてこっちは本気でやってるんだ!」
今にも掴みかからんとする勢いで赤木に詰め寄る。その目にはわずかだが涙を浮かべていた。
「本気か……なぁ池田、お前の言う本気ってなんだ?」
いつも浮かべているような不敵な笑みではなく真剣な表情で池田と向かい合う。
「ふ、ふざけんな!今はそんなことどうだっていいし!」
「無関係じゃないさ、あんな腑抜けた麻雀を見せられちゃな」
今までと変わらず怒りの表情を浮かべているが明らかに先程とは怒りの「熱」が引いた、赤木は確かにそう感じた。
「お前の麻雀はあんなもんだったのかって聞いてんだよ、少し躓いたくらいで縮こまりやがって……本当に勝つ気があるのか?お前は」
「お、お前にそんなこと言われたくないし!お前だって降りてばかりで……1回戦だって私の方が上だったし!」
必死に反論する池田も今までの勢いはなく明らかに赤木の言葉に気圧されていた。
「ところでさ……さっき部長が俺になんて言ったと思う?」
「そんなこと私にわかるわけないし……」
たしかになんと耳打ちされたのか気にはなったが、あの時はそれどころではなかった。
「俺が退部させられるなら自分も麻雀部を辞めるってよ」
「は……?」
頭を鈍器で殴られたかのような衝撃が池田を襲う。
「ど、どうして……キャプテンは関係ない……」
「俺もそう思ったんだが……あいつ意外に頑固だからな一度決めたことはそうそう翻さんだろうさ」
自分が不甲斐ないせいでキャプテンが部を去る、それは何にも代えがたい苦痛だった。
あまりの事態に池田は言葉を発することができない。
「クク……大変なことになったな?もうこれは俺とお前だけの問題じゃなくった」
もし今の風越から抜けることがあれば全国どころか地方大会を勝ち抜くことすら不可能だろう。
当然コーチや他の部員は美穂子を説得するだろうが一度そう宣言した以上、梃子でも動かないだろう。
「ポイント差にして210P……残り二半荘でこいつを逆転しなくちゃならないんだ」
あまりにも大差、しかも相手はプロ雀士を含めた2人なのだ逆転の目はほとんど皆無に人いかった。
「まあ、いずれにしろ残り2半荘お前の好きなように打てばいいさ」
そう言い残すと踵を返し部室へと戻っていった。
「……どうすればいいんだ……私は……」
一人残された池田をそう呟くが、誰もその問いに答えるものはいなかった。
○●○●○●○●○●○●○●○●○●
ところ変わって休憩室。藤田久保の両名は椅子に腰かけお茶でのどを潤している。
「で、どうするんだ?このままじゃあの娘つぶれてしまうぞ」
思わず煙管に火をつけようとするが禁煙の張り紙を見て渋々懐にしまう。
「……この程度で潰れたらそれまでの存在だった。それだけです」
(素直じゃないなぁこいつも)
毅然とした態度を装ってはいるがその言葉はどこか苦々しさを彫らんでいる。
(そもそも……どうでもいい部員にわざわざ自分で報酬出してまでプロを呼ぶ奴はいないか……)
煙を吸えない口元を少しでも紛らわせようと、緑茶を口に運んだ。
そもそも今回こうなったのは久保が池田の精神的弱さを危惧したために行われた荒療治である。
「そういえば、もう片方名前なんだったかな……」
「赤木ですか?」
右手のペットボトルを机に置き、再び久保と向き合う。
「さっきは面白いことをしてくれたじゃないか、学生相手にあんな真似されたのは初めてだ」
「あいつは半分幽霊部員みたいなものなんで……テンパイしていたことに気付かなかっただけかと……」
元々赤木は数合わせであり。美穂子や未春では池田を過剰にアシストしてしまい池田が追い込まれる状況にならない可能性もあったために入れたのであり、赤木の打牌によって気分を害してしまうなら交代させることも視野に入れなければならない
(気付かなかった?いや、違うなあいつは故意に見逃した)
そんな中藤田は先ほどの対局を思い出す。
(さっきから何度もあいつを狙ってみたが……一度としてあいつは私に振り込まなかった)
1回戦目の南四局
藤田手牌
{一二三七八九⑦⑧⑨79西西}
(あの時あいつの手中の8索を狙ったが……あいつはあっさり回避した……)
偶然ではない、完全に藤田のテンパイを察知した上での打牌だったのだ。
(あいつ……もしかしたら天江衣と同等……もしくは……)
それ以上の化け物かもしれない。
そのことに気づいている人物は久保を含め誰もいなかった。
なんだか咲闇本編よりこちらの続きを望む声が多くて驚きました。
大人気だぞ池田ァ!
風越の中継ぎトリオは基本敬語なので差別化が難しいというか無理です
深掘さんなんて出してすらいません()内の文章は全部文堂さんです。