咲闇の闘牌   作:きりりり

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衣はガンダムDXなイメージ
キャップはストライクフリーダム
咲さん?バンシィ

※本編とは一切関係ありません


【番外編】風闇の闘牌(後編)(下)

             

2人の運命を決める対局の3回戦が始まろうとしていた。

 

(今池田先輩組のポイント差は214……逆転するためにはこれ以上負けられない……)

 

この局で2人の合計獲得ポイントがマイナスとなれば残り1回を消化するまでもなくその時点で事実上の敗北が決定してしまう。

 

(つまりあと2局先輩達が1・2を独占すること……それ以外に勝つ道はない)

 

214ポイントと言うと大差に聞こえるかもしれないが例えば4人の点棒状況が以下の場合

 

池田40000点

赤木30000点

藤田20000点

久保10000点

 

これにウマやオカ(10-20)を加えた場合赤木達が獲得するポイントは+60対して 久保チームは-60となるため差引き120ポイント差を詰めることができる。

もちろん点棒状況によっては増減するが1・2フィニッシュを2回達成すれば逆転は充分に可能である。

 

(でも相手は久保コーチにまくりの女王こと藤田プロ……そう簡単に1位に……ましてやラスにするなんてできっこない……!)

 

無論久保とてプロではないが強豪風越の中心選手だった雀士でありその腕前は折り紙つきである。

 

(おまけに味方はランキングほぼ最下位の赤木先輩……)

 

久保捨て牌

{②2白發⑨一六横4北}

 

打{五}

 

(またリーチに対してあんな危険牌を……)

 

池田手牌

{四五五②③④⑥⑧234567} ツモ{三}

 

(ラスを引けば……いや、それどころか3位を引けば終わりなんだぞ!わかってんのかこいつは!)

 

打{五}

 

内心悪態をつく池田だったが先打してくれたおかげで安全に五萬を切ることができる。

池田手牌

 

{三四五②③④⑥⑧34567 ツモ6}

 

(テンパイ……でも待ちが悪いし)

 

ここでテンパイをとるべきか取らざるべきか普段なら存分に頭を悩ませる場面だろう。だが

 

打{7}

 

「リーチ」

 

危険を顧みることなく立直宣言……しかし

 

「ロン、2600だ」

 

一度もツモることなく放銃してしまう

 

(またこのパターン……勝負しては振り込んでしまう……!)

 

一時休憩を入れたことによって流れが変わったことに期待したが前局の流れを引きずる……むしろ悪化しているようにさえ感じられた。

 

東二局 11巡目

 

池田手牌

{2233445678北北③ ツモ北}

 

(張った……けど)

 

藤田捨て牌

{9北五三白64二五①2}

 

(②筒と中も鳴いてて明らかな混一狙い……高確率でこの③筒は当たり牌)だし

 

安全にいくならば北を落としていき③筒のくっつきに期待していくのがセオリーである。

 

「リーチ」

 

しかし池田の選択は打③筒。半ば身投げとも言える打③筒である

 

「リー棒はいらん、そいつだ」

 

藤田手牌

{④[⑤]⑦⑧⑧⑧⑨} ロン{③} {横②②②}、{中横中中}

 

「中、混一赤1つで8000」

 

またしても裏目しかも今度は手も高く大きく点棒が削られてしまった。

 

(ダメだ……やっぱり今の池田先輩に流れはない……典型的な下り坂)

 

その後も池田は久保、藤田両名へ振り込みを繰り返しなんと開局から5連続で振り込んでいる有様だった。

 

南一局 ドラ:{⑧} 親:赤木

 

東家 赤木25000点

南家 池田 4500点

西家 藤田36200点

北家 久保27300点

 

池田手牌

{一二四七①③④④69東北白}

 

(ここまで振り込めば手も落ちる……か)

 

溜息が出そうになるほどの劣悪な配牌……さらに苦難は続く。

 

「リーチ」

 

藤田 捨て牌

{九西南③中②横三}

 

先手を取ったのは藤田プロそしてその直後。

 

「リーチ」

 

久保捨て牌

{中1北西一2横⑧}

 

久保からもリーチの声が挙がる。 

 

(まずい!先輩がここで振り込んでしまったらほぼ確実に飛んでしまう!)

 

常識で考えればここはオリ一択。ツモられることによってのトビはまず考えにくく、次の親番に望みをかけるのが正しい判断であろう。

 

打 {五}

 

しかし、池田一歩も引かない。

一発目から危険牌の強打。

 

(自棄になったか……終わったな)

 

その様子を藤田は冷静に分析する。

当然ロン牌が出れば躊躇いなく和了つもりあり、ここで飛べばいかに次局で取り返そうとも久保が勝負前にああ宣言した以上は断固とした措置を下さねばなるまい。

 

(まあ、悪く思わないでくれよ)

 

だが……この局も散々な内容の池田だが今までとは大きく事情が異なっている。

この局1度として池田は逃げたりはしなかった。たとえこのまま敗れるにしろ自分の麻雀を貫いた。

 

打{⑥}

打{7}

 

次々に切られる危険牌の数々……そしてついに

 

「リーチ」

 

辿り着く……テンパイへ

 

(まずいな……ここまで押してくるということは満貫……いや、それ以上か)

 

そして直後、池田の執念に呼応したように掴んでしまう。

 

打{③}

 

「ロン!」

 

(一発は避けれたものの……こいつ一体どんな手で……)

 

池田手牌

{二三四①③④④345678}

 

「リーチ……裏はなし1300です」

 

(こんな手でこいつは突っ張ってきたのか……)

 

待ちが悪くおまけに点数も低いまさに無謀としか言えない暴挙である。

しかし、池田はここまで徹底して攻めた……攻め続けた。

(遅くなったが……ようやく導火線に火がついたってところか)

 

例えツモに恵まれなくても我武者羅に和了へと突き進み、安かろうとも不格好でもようやく手にしたこの和了。

 

(ツキはいわば砂時計と同じ……不ヅキという砂がすべて落ちた後に覆せば……)

 

南二局 親:池田 ドラ:{3}

 

池田手牌

{二二三三四四23456778}

 

(落ちてくる……今度は幸運という名の砂がな……)

 

配牌で既にテンパイしかも三面張という絶好の好配牌。

 

「リーチだし!」

 

親のダブリリーチその一発目……この手を引き和了る。

 

池田手牌

{二二三三四四2345677} ツモ{4}

 

「ツモッ!ダブリー、一発ツモ、断么九、平和、一盃口ドラ1……8000オール」

 

(そうよカナ。あなたのいいところは決して諦めないこと……傷つくことを恐れず前に進み続けることのできるその強さ……)

 

「コーチ……」

 

池田は改めて久保と向き合った。思えばあの一件以来久保の目を見て話すのはこれが初めてかもしれない。

 

「私はキャプテンみたいにうまく打てないし、みはるんや文堂みたいに守備はうまくありません……」

 

一言一言絞り出すように言葉を紡ぎだしていくその間久保は神妙な顔で静かに聞いている。

 

「だけどっ……正しくなくても……恰好悪くても……これが私の麻雀なんです」

 

今までとは違い瞳には力強さが宿っている、体の震えもいつしか止まりいつもの池田華菜を取り戻した。

 

「池田……」

 

そんな教え子の成長に久保は目を細め……

 

「対局中に無駄口叩くなって何度言えばわかるんだ池田ァッ!」

「ひいぃっ」

「台無しだな……」

(やれやれ……)

 

……ることはなく久保の怒声が部屋中に響き渡った。

なにはともあれこれを機に池田は復活。次局は久保から満貫を直撃しまさに独走状態であった。

 

南四局 親:久保 ドラ:{6}

 

東家 久保 8700点

南家 赤木 14700点

西家 池田 53300点

北家 藤田 21800点

 

(いよいよオーラス池田先輩のトップはほぼ確定……残りは赤木先輩が2着に浮上できるかどうか……)

 

2位の藤田との差は7100点……3900点以上の直撃もしくは満貫以上を和了が条件となる。

 

久保、打{一}

 

「チー」

 

赤木、早々に両面の{一}を鳴く。

 

(混一か清一か……いずれにしろあんな早くに両面を叩いてるんだまず染め手とみて問題ないだろう)

 

これにより連荘に望みをかけたいところだが萬子を鳴かせるわけにはいかない以上親とはいえ久保の捨て牌は制限されることになる。

 

6巡目

 

久保打{②}

 

「チー」

 

赤木 鳴き:{横一二三}{横②①③}

 

(なに……②筒をチーだと……?)

 

これにより染め手の線はなくなり赤木の手は限定化されてしまう。

 

藤田手牌

{五[五]五⑤[⑤]⑥⑥344666}

 

(こちらも手は入ってるが……さてどうするかな……)

 

まくりの女王の異名は伊達ではなく、池田を撃つ逆転の手が入っていた。

ドラの6索を暗刻で抱え赤ドラも2枚手中に収めたまさに怪物手である。

 

(あの坊やが私をまくるには最低でも3900が必要……赤ドラが絡めばもう少し複雑だったんだが幸いほぼ全て私の手の中)

 

こうなると赤木の手はおのずと絞られる

 

赤木手牌予想図1

{12379⑨⑨} {横一二三}{横②①③}

 

(まずはこの形……純チャン三色そして)

 

赤木手牌予想図2

{13中中中⑨⑨} {横一二三}{横②①③}

 

赤木手牌予想図3

{中中中白白白⑨} {横一二三}{横②①③}

 

(チャンタ三色役牌かチャンタ役牌2つの形のいずれか……後は)

 

赤木手牌予想図4

{789南南南⑨} {横一二三}{横②①③}

 

赤木手牌予想図5

{123[5]6⑤[⑤]} {横一二三}{横②①③}

 

(ダブ南と赤ドラが絡んだこれらの形も一応あるが……)

 

赤木捨て牌

{5西⑦南東南[⑤]八}

 

(ダブ南も赤⑤筒も切っているからそれもない)

 

藤田クラスならばこれくらいは一瞬で看破するそして

 

藤田手牌

{五[五]五⑤[⑤]⑥⑥344666} ツモ{4}

 

(張ったか……ツモれば四暗刻、リーチで出和了でも三倍満だが……)

 

その時溢れる3索は赤木の危険牌、到底切れる牌ではない。

 

(まあ仕方ないか)

 

打{⑥}

 

ここで打⑥筒とし、一但回す。

藤田からすれば赤木からの振り込みさえ気をつければいいのだ。

ここで勝負して振り込もうものならば勢いづく公算が大……そうなればこの局だけではなく次局にも影響が出てしまう。それだけは避けなければならない。

 

「ロン」

 

しかし赤木もまた、そんな藤田の心理を見透かしていた。

この勝負の中赤木は自分の情報を徹底して隠蔽した、息を潜め手の内を隠し続けた。

そのえも知れぬ薄気味悪さが藤田を半歩下がらせた。

半歩下がらせ、撃ち取った。

 

赤木手牌

{123④⑤5[5]} ロン{⑥} :{横一二三}{横②①③}

 

「三色同順赤1つ2000」

「なんだと……?」

 

赤木の手は2000点止まりこれでは逆転は不可能。

 

(何を考えてるんだこいつは……いや、何も考えてないのか……)

「まだ気がつかないのか」

「なに……?」

 

怪訝な表情を浮かべる藤田だったがすぐ視線を横に向けると。

 

池田手牌

{六六七七八八⑦⑧23477}

 

「ろ、ロン……3900点……です」

 

まさかの伏兵……池田のダブロン。

これにより差は合計で7900点詰まり逆転、池田赤木両名の1・2フィニッシュが確定した。

 

「なるほどな……あの鳴きは全て囮……ハナっからこれを狙ってたってわけか……」

「……ただの偶然ですよ」

 

悔しがるわけでもなく、どこか感心したような口調で藤田は続けた。

 

(偶然か……なら7順目の赤⑤筒はどういうことか説明してもらいたいもんだ)

 

言わずもがな狙いは明白である。赤⑤筒を切った理由は藤田から⑥筒を吊りだすための言わば撒き餌……⑤筒が切られていたからこそ藤田は安心して⑥筒を切ることができたのである。

 

「池田って言ったな?お前はこいつが⑥筒で待っていることが分かってたのか?」

 

池田も先ほどは赤木の援護のためにリーチをかけようかと一瞬は頭をよぎった。

リーチをかければ7700……藤田が打てば労せずとも赤木は2着浮上となるからである。

 

「ええと……その……はい」

「やっぱりな……どうしてわかったんだ?」

「それは……なんとなく……です。はい」

 

どこか歯切れの悪い回答に首をかしげるが、はっきりとした返答を聞くことができない。

 

(そりゃ言えるわけないよね……)

 

赤木手牌

{三四五345678④⑤⑧⑧}

 

『そいつだ……タンピン三色で逆転だな』

『ニャーッ!なんでお前赤⑤筒切ってんのにーー③-⑥筒待ちなんだよ!』

 

(私も同じ手に引っ掛かりましたなんて……)

 

ただ一人真相を知る美春はこっそりと笑みを漏らした。

何にせよこれで3回戦は終了。最終的なスコアは池田チームが+64久保チーム-64となり、次局次第で逆転が可能な点差となった。   

 

「さてと」

「あれ?キャプテンどこ行くんですか?」

 

勝負の最中だというのに部室から出ようとする美穂子に美春は尋ねた。

 

「ガムテープが切れてたの思い出したから少し買い出しにね」

「そんな……華菜ちゃん達が心配じゃないんですか?」

 

あまりにも突然な行動に驚きを隠せない美春。

 

「あの2人なら大丈夫よだって……」

 

美穂子は頬笑みを浮かべながら振り返り。

 

「あの2人が本気になれば誰も適いっこないんだから」

 

信頼……否、そう確信し、力強く言いきると部室から姿を消した。

 

 

○●○●○●○●○●○●○●○●

 

 

池田43600点

赤木22200点

久保13200点

藤田21000点

 

全ての勝負が終わった。

美穂子の言う通りこの局も二人が上位を占め、最終的には池田チームが勝利を収める形になった。

 

「約束は約束だ2人はこれまで通り部活に取り組むことを許可する」

「はいっ!」

 

憮然とした表情を浮かべる久保だがそこに悔しさはなく、なんとなくだが嬉しそうにも感じられた。

 

「だが、もしまたあんなヌルい麻雀してみろ……その時は容赦なく退部だからな!わかったな池田ァ!」

「は、はい!」

(どうして私だけ……)

 

理不尽さに苛まれるが今の池田には反論する気力も体力も残されていなかった

 

「今日の部活はこれで終わりだ、一年は掃除して帰れ解散!」

 

かくして激動の一日が終わりを告げた。

緊張した空気は四散し、池田の周りに人だかりができる。その喧噪の隅で藤田と赤木の両名が向かい合う。

 

「おい、お前」

「なんですかね……できれば手短にお願いしますよ」

 

どこまでも不遜な態度をとる赤木だったが意に介した様子もなく藤田は言葉を続けた。

 

「次のプロアマ親善試合、お前出てこい」

「……何言ってるんです。俺みたいなのが出られる訳ないでしょう」

 

突然の言葉だったが慌てる様子は微塵もなく藤田の言葉を受け流す。

 

「とぼけるなよ、さっきの勝負あのネコ娘の活躍で勝ったように見えるがその実場を支配していたのは確実にお前だ」

 

じろりと赤木の顔を睨みつける。

 

「買い被りすぎですよ。忙しいんでここいらで失礼します」

「今度の親善試合出るのは私みたいな格下だけじゃない」

 

話に付き合ってられないとばかりに踵を返す。

 

「三尋木、戒能、安永、我鷹……どいつもこいつも名だたるプロばかりだが……」

 

藤田の言葉に耳を貸すそぶりさえも見せずドアに手をかけた。

 

「小鍛冶健夜」

 

その名前が出た瞬間開きかけた手を止め、藤田に背を向けたまま立ち止まる。

 

「実力は前の参加者の比じゃない、掛け値なしの化け物どもだらけだ、考えておけ」

「…………」

 

その言葉に答えることなく赤木は部室を後にした。

 

「来いよ化け物……お前なら」

 

その先の言葉を口にすることなく藤田は懐の煙管に火をつけた。

苦みを含んだ煙は辺りに漂うばかりであった。

 

 

○●○●○●○●○●○●○●○●

 

 

「お疲れ様しげる。カナを助けてくれて」

「…………あぁ」

 

家へと途中美穂子が労いの言葉をかけてくるが相変わらずの仏頂面を浮かべていた。

 

「でもねしげる、今後はこんなことが無いようにもう少し部に……」

「そんなことより、俺が負けたら麻雀部を辞めるって話本気だったのか?」

 

話の流れを遮るように疑問を口にする。

美穂子の麻雀にかける情熱は知っていたつもりだったが麻雀と自分とを天秤にかけるとは予想外だったからだ。

 

「あら、私は本気で辞めるつもりだったわよ?でもね」

「でも……なんだよ?」

「ああでも言わなきゃしげるは本気を出さなかったでしょ?」

 

悪戯が成功した子供のような屈託のない笑顔を向ける。

内心頭にきたがまんまと美穂子に乗せられただけに赤木は何も言い返せなかった。

 

「なんで俺なんかのためにそこまでするかね……先輩も」

 

呆れたように溜息を吐く赤木だったがその言葉を聞いた美穂子は突如として歩みを止める。

いつもとの大きな違いはいつも閉じている右目は開かれまっすぐ赤木の背中を見つめている。

 

(覚えてる……?しげる昔あなたはいつも喧嘩ばかりしてたわよね)

 

家庭環境の変化からくるストレスからだろうというのが大人達の見解だったが美穂子だけが事実を知っていた。

 

(喧嘩になったのはいつも私の目をからかったりしていた私の同級生ばかり……私のことをいつも守っててくれたのよね)

 

年上の、さらには多人数相手に暴力をふるっていたが当時は理由もなく殴ったと言い続けていた。

もちろんこれは美穂子の推測でしかないし、赤木自身が話したわけでもない。

だが、美穂子には不思議とそうだという確信があった。

 

「しげる……」

「……なんだ」

 

そして赤木へ抱いた家族愛が、男女のそれへと変化するのにそう時間はかからなかった。

 

「私ね、あなたに伝えたいことがるの……」

 

このまま心臓が張り裂けてしまうのではないかというほど胸の鼓動が高まる。

 

「私ね……あなたのことが」

 

もう少し、もう少しで自分の気持ちを口にすることができる。

 

「好k「キャプテーーーーーーーーーン!!!」

 

しかし張りつめた静寂をかき消しながらこちらに走ってくる影がこの空気を全てぶち壊した。

 

「キャプテン!お疲れ様です!」

 

一世一代の告白を台無しにしたとは微塵も気がつかずにいつものように眩しい笑顔を見せた。

 

「まったく……騒がしい奴だな……」

「何を……いや……」

 

いつもならばここから口論が始まるところだがばつの悪そうな表情を浮かべる。

 

「あ、ありがとな……今日は……一応礼は言っておくし……」

 

面と向かって言うのが恥ずかしいのかいつもの池田らしくもなく顔は赤くなっており、消え入りそうなほどの小さな声であった。

 

「へぇ……お前も感謝の言葉くらいは知ってたんだな」

「なにをー!やっぱりさっきのはなし!お前に感謝したのが間違いだったし」

 

そう言うや否や赤木に鉄槌を下すべく赤木に向かって走り出した。

当然赤木も殴られるわけにはいかないので一目散に逃げ出し後には取り残された美穂子だけが残った。

 

「池田ァ……!」

「!?」

 

その時池田には自分を呼ぶ声がした気がした。

それも久保のような怒声ではなく地の底から響き渡るような恐ろしい声だったが振り返ってもそこには敬愛する美穂子しかおらず気のせいかと結論付けて再び赤木を追いかけたのであった。

 




新年明けましておめでとうございます。
今年のお願いは咲の新刊が3カ月に一度発行されることを祈っておきました。
多分叶いません。

長かった風闇もとりあえずはこれで完結です。
ですがアカギには気が向いたらこうして各地を転々とさせたいですね。
とはいえ本編あっての番外編なので息抜き程度にがんばりたいと思います。

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