(Ζガンダム異伝)エグザべ・オリベ戦記別伝 作:ガンダム初心者のミリオタ
アクシズの最奥の作業員、再び。
元投稿:元投稿:カミーユ?なんだ…13 146-149
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「おい」
声をかけてやると、ベンチに座ってた若い男がぼんやりとこちらを見上げてきた。
今日び最下層地域の住民にもなかなかいないようなぼろぼろの格好。
年齢は俺と同じくらいか。
「お前、これ食うか?」
「…これ…?」
言いながらさっき買ったばかりのドーナツを包み紙ごと差し出してやるが、そいつは受け取りもせずそれを眺めてるだけだった。
「腹減ってるんだろ、さっきからずっとなってる」
「腹減って…そうなのか…そうかもしれない…?」
なんだ、ふわふわしたやつだな。
どういうこった。
見えてない…わけじゃなさそうだな、視線が合うし。
食いもんと認識できてねぇんか?
「あー、ドーナツだよ、ほら、そこの屋台の」
「ドーナツ…食べ物…」
おいおい、公用語もいまいち使えねぇレベルの田舎出身か?
どこからここまで流れてきたんだよ。
ため息をついて男が腰かけてるベンチの隣に座った。
「毒なんか入ってねぇよ、ほら」
言いながらドーナツを軽く咥えて半分にもぎる。
咥えたまま、もぎったほうを差し出してやった。
少々行儀が悪いのは承知の上だが、左手が使えねぇんだから勘弁してくれよ。
押し付けるように渡してやると、そいつはようやく左手で受け取ったが、手に持ったまま困惑してる。
まぁ、食うにも金にも困ってメシかっぱらうのが日常になってるような難民やスラムのやつには、いきなり与えられる食べ物に反応できないってのは意外とあるもんだ。
半分のドーナツをいつまでも咥えてるわけにもいかないので、とりあえず男のことは気にせずそのままもごもごと平らげた。
やたらパサつくドーナツを一緒に買ったレモネードで流し込んでから口を開く。
「お前、右手動かねえのか?」
食ってる時に話すなってのは、俺がクソ親から唯一といっていい程度にされたしつけだ。
親からしちゃガキの声がうるせぇからしゃべんなってそれくらいの気分だったんだろうが。
別にわざわざ食事のときにしゃべりまくる趣味もねぇししゃべる相手もいねえし、しつけ通りにしてても不都合はないし、昔からの習慣をわざわざ変える必要性も感じねぇからいいんだけど。
俺が聞くと、ちょっと動きを止めてから、そいつはうなずいた。
…さては右手が動くかどうか確認したな、一瞬そういう感じの力の入れ方をしてた。
「…そのようだ。
よくわかったな」
「まぁな、俺も左手が動かねぇし、前の職場でも時々似たようなことになったやつがいたからわかる。
お前、元は右利きだっただろ。
さっきドーナツ受け取るとき右手を出そうとして一瞬動きが止まってから左手を出してきた」
俺の場合はたまたま怪我をしたのが利き手と反対側だったから、片手が動かないことにすぐ慣れたが、利き手が動かなくなった奴は、慣れるまで相当苦労してたのが多かった。
便所と着替えが大変なんだよな。まぁ、ちょっとしたコツをつかめれば案外なんとかなるんだが。
しかし自分で自分の手が動かないことに気づかないことあるか?…いや
「さてはおまえ、ついでに記憶も飛んでるのか」
「…そのようだ」
よくわかったな、と言いたげな顔で目をまんまるくしてこっちを見てくる。
意外とイケメンじゃねえのコイツ。
こんなところでボロボロになってなきゃ、まぁまぁ女にモテそうな見た目をしてやがる。
「…これも前の職場の話だがな、頭を打って記憶が飛んじまう奴が稀にいたんだよ。
大抵の奴はすぐ思いだすんだが、中には完全に記憶の一部が宇宙の彼方にすっ飛んでいっちまった奴もいた」
とはいえ、ここまで完全に吹っ飛んでるやつはみたことねぇな。
利き手が動かねぇ、逆の手を使うのにも慣れてねぇ、記憶もねぇ、おそらく金もねぇとなるとそりゃ苦労はしただろうな。
こんなところでしょぼくれてたのもそりゃそうか。
「なぜ…私を助ける…?」
私ときたか。元々どこぞのエリート様だったりしたんかね。
仕事で失敗して飛び降りでもしたか?
見る限り大きな怪我はないようには見えるが、右側から転落して頭をぶつけたついでに右手のスジでも痛めたんかな。
まぁそこらへんはどうでもいいか。
何か理由があったのか、と聞かれても「たまたま腹の音が聞こえたから」くらいしかない。
「…ここは俺の通勤路なんだよ、今日見かけた奴が明日同じ場所で冷たくなってたらなんだか目覚めが悪いだろ。
腹減ってるのわかってたのによ。
んで、お前これからどうするんだ」
「…わからない…何をしたらいいのか、そもそも何ができるのか…」
「あー…そりゃそうだな、いや、聞いた俺が悪かった。
記憶ぶっ飛んでるんじゃそんなん聞いたところで無意味だったわ」
ぼんやりした顔で相変わらず半分のドーナツを眺めてるだけの男を横目でちらとみる。
…うっかり手を出しちまった俺の責任か。
くそ。
「お前、俺と一緒に来るか?」
「…君と?」
「俺は今この先にある下水処理プラントで働いてるんだがな、確かまだ作業員募集してたはずだ」
前のトコでも似たような作業をしていたが、結局片手が利かないとなかなか就職先に苦労する。
コイツも俺と同様アクシズで働いてて先日一緒に戦場から救出されてきた民間人ってことにして、ついでに寮の部屋も近くに…できれば隣くらいにしてもらえないか頼み込んでみるか、たしか空いてたはずだし。
「うっかり手を出しちまった最低限の責任ってやつだ、片手でもテメェでテメェの面倒がみれるようになるまで、当面俺が手伝ってやんよ。
仕事もどうしても自分にはあわねぇって言うなら、俺に義理なんざ感じず別にとっととやめてもいい。
どうする」
「…わかった、君に従おう」
「その言い方はやめてくれ、別にお前を手下扱いしたくて連れてこうってわけじゃねぇ。
俺と一緒に働く気があるなら来い、その気がないなら座ってろ」
いいながらレモネードのカップを持ちつつ立ち上がる。
俺をぼんやり見てくる男をそのまま置いて歩き出そうとしたところで、声がかけられた。
「まってくれ!
いや、すまない…私も君と一緒に行ってもいいか。
その、感謝する」
一世一代みたいな勢いで頭を下げられたけど、片手に持ったドーナツが何か間抜けだな。
「わかった、わかった、いいから頭上げろ。
くるなら一緒に来い。
いや、その前にまずそのドーナツ食っちまえ」
こくり、と妙に幼げな顔でうなずくと思いきりかぶりついて
「あっま?!なんなのだこれは!」
「貧乏人御用達、甘くて安いが取り柄の栄養ゼロでカロリー爆弾っつー悪魔みてぇなドーナツだよ」
目を白黒させてる男に笑って飲みかけのレモネードを差し出してやった。
いつかのどこかにて、名も知れぬ男と、名のわからぬ男の邂逅。
アクシズから救出された人なんているの…?と思われそうですが、おそらく「軍事作戦であって虐殺行為ではない」建前のために、ごく少数の民間人のみ救出されてると思います。主には低年齢の児童かな?
いくら軍事作戦とはいえ無抵抗な相手の殺傷行為という経験はベテランの特殊部隊隊員でもメンタルに異常が出ることが多いので、そういう兵のメンタルを保つためにもこういう建前は重要です。
作業員の彼は、左手が不自由なことを考慮されて運よく救出対象になりました。
というか掃討作戦終了して生きてる人員ほぼいないだろうと思って確認してたら、最奥の廃棄物処理施設から出てきてびっくりされた。
戦闘行為完了したことになってるし民間人ぽいし今更どうしよういいやもう上官に丸投げしたろ…でとりあえず保護された、という感じです。
特に思想もおかしなところはないし、むしろ仕事以外なんも知らんし、何か知ってる情報を隠したり誰かをかばったりすることもなく言動も一貫してる、目立った違法行為もない、捜査にも協力的、ということで保護観察扱いではあるもののほぼ放免されてます。
もしこれで一つでも疑惑があったら軍事施設内部の仕事につけさせられて一生官舎暮らしの飼い殺しだったわけですが、彼本人は別にそれでも文句言わずに仕事してたんだろうな…とは思います。
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どこに入れようか迷ったのですが、この次の時間軸に当たる話の都合上本編間話にいれることにしました