(Ζガンダム異伝)エグザべ・オリベ戦記別伝   作:ガンダム初心者のミリオタ

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本編後、エグザベくん入院中の一幕。
元投稿:カミーユ?なんだ…14
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明日への会話

僕は命に別状はないものの、2日間昏睡状態…半分くらいは薬で強制的に鎮静かけていたらしいけど…にあったらしい。「命に別状はない」って「死亡」と「無傷」の間にあるありとあらゆる状態を指す便利な言葉だよな。

ようやくベッドに起き上がることを許可されたと同時にどさりと届けられていた書類の確認、報告書作成から始まって、見舞いに来てくれた人の対応、リハビリテーションをこなす日々が息つく間もなく過ぎていって、入院してから早1、2週間程度を超えたころ。

突然思いもよらぬ人が来た。

「具合はどうだ、エグザベ。ついでにヌー・ハーグ」

病室の入り口を軽くノックしながら、いくつかの荷物と大きなぬいぐるみを抱えた私服のパプテマス・シロッコが穏やかな顔で覗き込んできた。

いや、ぬいぐるみ?

「私はついでですかというかそのぬいぐるみは突っ込んでいいヤツですかねシロッコ少佐」

「エグザベ宛にギャン部隊一同名義で届いたのを預かってきた。

 大きすぎて入れられる袋がみつからなかったのだ、仕方なかろう。

 ああ、敬礼はいい、プライベートみたいなものだ」

「あのパプテマス・シロッコにぬいぐるみを抱えさせてその上配達人代わりにするとは…やりますねギャン部隊…これが新生ジオンのやり方…」

なにやら謎の感心を見せるヌーを意に介さず、パプテマス・シロッコは室内に入ってくると、ひょい、と無造作に一抱えくらいある大きな犬のぬいぐるみを僕に渡してきた。

いや本当に大きいな。

検閲済の印がついたお見舞いメッセージ…これ多分マリアの筆跡だな…カードが申し訳程度に首輪にひっかけて添えられてるけど、これって。

「…迷惑かけた分の仕返しされてるのかな…」

「お前がかけたのは迷惑ではなく心配だろう。

 仕返しは…まぁ、そうだろうな。甘んじて受けておけ」

「…はい…」

片眉を神経質そうにあげたパプテマス・シロッコが淡々というのに、おもわずぬいぐるみを抱きかかえたまま、厳しい教師の前に立たされた生徒みたいな気分で返事をしてしまった。

軽く肩をすくめながらややあきれ顔のパプテマス・シロッコが、さらに手荷物から書類袋や封筒を幾つか出してきたので、とりあえずぬいぐるみをベッドの上に座らせて、書類を確認しながら受け取っていく。

「これとこの封筒は一人のときに開けろ、お前以外に閲覧の許可は下りてない。

 これには同じものが二部入っている、一つはヌーの分だ」

「はいはい、一部くださいな」

ヌーが横から手を伸ばしてきたので、分厚い書類袋からクリップで止まっている束を一つ取り出して渡す。

「これ、確認した後の書類はどうすれば?」

紙でわざわざよこしてきたということは、電子では機密が守られにくい、それなりの重要書類ということだ。あまりその辺に気軽においておけるものではないだろうし、不要になった書類も簡単に破棄できない。

床頭台の鍵がかけられる貴重品用の引き出しは小さいので、小型の保存用媒体はともかく書類が入れられるサイズではない。

大きいロッカーには看護助手たちが貸与のタオルなどを補充していれてくれていることがあるので、日中は鍵がかけられないしそもそも個人的な日用品や雑貨類と一緒に重要書類を置いておくのもなんだかはばかられる。

尋ねると、パプテマス・シロッコが心得たようにいくつかの封筒と書類ケースが入った手提げ袋を一つそのまま渡してきた。

「破棄したいものはこの中に一緒に入れてある封筒に入れて封をして返せ。こちらで処分する。

 病棟のスタッフステーションに預けておいてくれればいい、病院経由でヴェルザンディ情報部が回収できるように各部署の調整をしてある。

 所持する場合はこの書類ケースを使え、簡易的な鍵がかけられるようになっている。

 あと、イマニュエル・ジャンの件だが、やはり入院中の面会は無理そうだ。

 私の力不足だ。すまない」

「いや…君が尽力してくれたのはヤザンからも聞いてる。ありがとう」

頭を下げてくるパプテマス・シロッコに首を振って気にするなと返す。

イマニュエルの件は既に聞いていたし、予想通りだったので落胆はさほどない。

「少佐ならもうちょっと粘れば許可取りいけたんじゃないですか?本当にダメでした?」

口をはさむヌーのほうをちらとみて、パプテマス・シロッコが一つ息を吐く。

「…正直に言えば、許可がでるのが早いか、エグザベが退院するほうが早いか、というところだな。

 だったらもう許可をとる手間をかける必要はない、エグザベが元気であることはわかってる、自分は退院するまで待っているから、とイマニュエルが」

「なんでそんなに許可をとるのが難しいんですかね」

「…彼女が…いや、僕らがジオンの所属だから、そうだろう?」

首をひねるヌーに答えると、それにパプテマス・シロッコもうなずいた。

「残念ながらそうだな。

 連邦はジオンに対する信用も信頼もないと常々公言しているのはお前だろう、ヌー・ハーグ。

 まさにそれが理由ということだ」

「…ジオン軍所属だから、個人ではなく所属する組織に信用がないから許可が下りないってことですか…」

ぐうの音も出ない顔でヌーがつぶやく。

イマニュエル個人の事情や性質、気性を知らない人から見れば、彼女は「信用できないジオンの国民でジオン共和国軍所属の一人」でしかない。

同じジオン所属の上官に当たる人物と外部で接触して、何らかの翻意を吹き込まれたりあるいは脱走したりしないか危惧されたのだろう、本人を知っていれば馬鹿馬鹿しい話ではあるが。

そして同じ危惧を僕にもされているということだ。

信用がない、というのはそういうことなのだ。残念ながら。

一度はられた差別的なレッテルをはがすのはなかなか容易なことではない。

どんなに善行を積んで信用を得ようと思ったとしても、あるいは得られたと感じたとしても、少しでも何か簡単なミスでもしてしまった瞬間に「それ見たことか、やっぱり」になってしまうものなのだ。

もっと努力して、ジオンに対する信頼とまではいかなくても、少なくともジオンの出身でも信用に足る人物はいる、くらいまでは思ってもらえるようにしないとな。

「それと、もう一つ。

 『例の」

「ヌー・ハーグさーん!

 リハビリの時間ですよー今日も元気よくいきましょうね!はい、車いす乗りますよー、1,2,3!では、リハビリ室に移動しまーす!」

「あっちょっと今ちょうどなんかいいところでっ待ってチクショウまさかこのタイミング狙ってましたかぁ?!」

パプテマス・シロッコが何か言いかけたところで、病室の入り口から元気な理学療法士が顔を見せる。

そのまま理学療法士はつかつかと入ってくると、あっという間に騒ぎ立てるヌーを意に介さず、あっさり車いすに移動させて後ろから押して部屋を出ていった。

おもわず呆然と見送ってしまったあと、珍しく目を丸くしてるパプテマス・シロッコにそっと尋ねてみる。

「…ええと…タイミング、狙ってた…?」

「偶然だ」

 

「横やりが入ったが、改めて。

 『例の男』について、なのだが」

若干声を潜めて、パプテマス・シロッコが告げてきた言葉に思わず緊張した。

脳裏に、彼の男の金髪が一瞬よぎる。

「ヴェルザンティの情報部がそれらしき男たちを観測しているが、現在の状態について聞きたいか?」

「…念のため確認するけど、聞くのを拒否することは?」

「もちろん可能だが、ここで拒否した場合は今後一切この情報に触れる権限はなくなる。

 本来の権限上お前には情報の閲覧許可はなかったのだが、まぁ…今回のみの特例、だ。

 今、ここで私が直接伝えることを条件に許可された」

「つまり、僕が聞ける機会は今だけ、ってことか…

 待って、男”たち”?」

あの時、確かに命は助ける代わりに記憶は磨り潰しておいたけど、流石に肉体は分裂させてなかったはずだけどな。

これについてはパプテマス・シロッコには伝えたし、彼は理解してくれたのだけど、多分ニュータイプ…というか木星の巨人について理解できないであろう本国や連邦の上層部への報告書では詳細は若干ぼかして伝えてある。

結果、あの時の戦場の混乱下でMIAになったと正式に報告されたキャスバル・レム・ダイクンは、戦後の捜索活動で乗っていたMSも本人の遺体も見当たらなかったため、状況から生きてる可能性は限りなく低いがゼロではない、が一応の公式見解ということになっている。

なんせMIAになったと思われていたら、しれっと名前を変えて連邦軍の大尉をやっていた経歴の持ち主だし。

とはいえ、今回ばかりは流石に数年後には、認定死亡扱いとしてダイクン家の墓所、父親の墓地の隣へ、遺体のないまま名前だけ刻まれることになるだろう。

…多分…いや、そうであってほしい…そうなるよな…?

よっぽどのことがなければそうなるとは思うんだけど…少なくとも『キャスバル・レム・ダイクン』という名前の人物は正式に死亡扱いになるはず…うん。

頼むから記憶復活させて表舞台に出てこないでくれよ、おそらく大丈夫だとは思うんだけど。

「直接男に接触するのは、万一にも何かしらの影響があって記憶が戻るようなことがあったり、あるいは再度同じような思想を持つにいたるようなきっかけになる可能性があったりするようなことになっては危険だと判断されたのでな。

 すべて映像からの分析や、遠方からの目視観測のみだ。

 よって確実に彼であると確認できているわけではない。

 お前に該当者がどこにいるか、現在の外見がどうなってるかまでは伝えられないが、今どういう状況下にいるかの概要は伝えることができる」

「…なるほど…」

パプテマス・シロッコの言葉にしばし考えこむ。

このまま何も聞かずに、もう一切合切知らぬ存ぜぬ、自分とは関係ない、で通しても良いのかもしれないけど。

「…彼がまだ正気だったであろう頃、カミーユにみせていた優しさは多分本物だし、カミーユが親しみを感じていたのも確かにあったことだよ。

 彼の行きついた先は誤りの多い選択肢で、結局こういうことになったけど、彼と交流していたときのカミーユの感情まで誤りだったことにさせたくはないな。

 もし、この先カミーユが彼のことを何か知りたいと望んだ時に、少しでも伝えられるようにしておいてあげたいと思う。

 カミーユが大人になって、自分自身で考えて結論を出そうと思った時にきっと必要な情報の一つになるだろうから」

どんなに人間的に駄目であっても子供にとって親は親、とはよく言うけど、カミーユにとって”クワトロ大尉”との交流もそういう側面がおそらくあったのだろう。

カミーユ本人が結論を出さない限りは、彼と交流をもったことは悪いことだったのだからその後など知らなくても良い、などと他人が勝手にジャッジするべきではない。

将来カミーユが彼のことを知ることを望むのか、それとも知らないままにしておきたいと望むのかはわからないが、今ここで僕が知っておくことは保護者としての僕の責任の一つでもあると思う。

すこし考えてから出した僕の結論に、軽くうなずくとパプテマス・シロッコは口を開いた。

「わかった、伝えよう。

 状況と外見から『彼の可能性が高いのではないか』という人物をピックアップしたことろ、該当者が最終的に5名いた」

「ごにん」

思ってたより多かった。

「ただしそのうちの1名はつい先日暴漢に襲われて死亡した。

 死体の一部を入手して調査したところ、この人物は違うことが確定したとのことだったので現時点で4名。

 とりあえずA・B・C・Dとする。

 まず、AからCは生存している。場所もそれぞれバラバラだ。

 Dは最終確認日から3日ほど存在が観測されていない。今日時点でいまだ行方不明だ」

「…正直、そのDが本物でそのまま行方不明でもいいかなって思うよ…」

僕のつぶやきに、パプテマス・シロッコが苦笑する。

「流石にそれは希望的観測が過ぎるだろうな。

 とはいえ、あくまで本人の可能性がある人物、だからな。

 誰かがそうかもしれないし、全員違う可能性もあることは念頭に置いてくれ。

 まずAだが、物乞いをしたり、近くの福祉団体や近所の住民から頼まれるごく簡単な仕事と引き換えにその日の食べ物や寝床を得るような暮らしをしている。

 先住の浮浪者たちに受け入れられたおかげか、住環境は悪いが今のところ健康状態はそこまでは悪くはないようだ。

 Bはとあるプラントで労働者としてまっとうに働いている。

 同僚との関係も良いようだし、その同僚にも特に何か特殊な思想や信条があるという気配は感じない。

 Cについては、どうもあまり質の良くない集団に拾われている。

 俗な言い方をするなら、いわゆる…ヒモのような生活をしている。

 生活環境は一番良いのだが…今後その集団の思想に影響されてくると、危険性が高くなってくるかもしれない」

「…そのAかBが彼だったらまだいいんだけどもな…」

言葉を隠さず言うなら、おそらくCはマフィア組織のようなところで男娼に近いことをしているのだろう。

それだけならまだ許容範囲ではあるものの、反社会的な思想に染まったり、あるいは場合によってはアンダーグラウンドでのつながりから、ジオン残党や反連邦組織などとの接触の可能性もでてくる。

Aもある意味そういうアンダーグラウンドと近いところにいるものの、浮浪者集団と一緒にいるということは、その地域の福祉団体経由で軍の監視下におかれているのだろうから、まぁ大丈夫だろう。

Cが本人じゃないことを祈ろう、本当に。

「お前に伝えた今の情報をどのように取り扱うかはお前に一任する。

 カミーユ・ビダンにいつ、どういう風に伝えるかも」

「わかった、ありがとう、パプテマス・シロッコ。知れてよかったよ」

礼を言うと、パプテマス・シロッコはいつもの泰然とした微笑を浮かべた。

「私とお前の仲だ、エグザベ・オリベ。気にすることはない」

 

「えー少佐帰っちゃったんですか」

「あの後少し話して、すぐにね。

 パプテマス・シロッコも忙しいから」

パプテマス・シロッコが帰ってからしばらくして。

先ほど受け取った書類の確認作業をしていたら、リハビリを終えたヌーが戻ってきた。

ちなみにぬいぐるみは大きくて置き場所に困ったので、看護師に頼んで椅子を一つ借りてその上に置いてある。なんだか圧がすごい。

本当にこのぬいぐるみどうしようかな…退院のときにメッセージカードだけ外してここの病院の小児科病棟に寄付しようかな…

多分そうしても部隊のみんなは怒らないと思う。うん。

「はぁ…まぁ…いいですけど」

「おや、どんな話したのか粘るかと思ったな」

ちょっとだけ意地悪な気持ちでそう突っ込んでみたら、ヌーは口を尖らせて憮然とした。

「なんとなく予想はつきますんでいいですよー退院したらこっそり探りますから」

「…非合法な手段は取らないように」

明らかにあまりよろしくなさそうなことを考えている顏のヌーに、一応釘を刺しておく。

不貞腐れたような顔のヌーが書類を取り出して読み始めたので、自分も仕事に戻ることにした。

渡された書類の山を見る。

この分だと、退院までまだまだ暇ができることはなさそうだ。

 

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床頭台…病院のベッドサイドに置かれてる、簡易的なテーブル代わりに使ったり入院患者の私物や日用品類をしまうための棚のこと




時系列的には130さんの『狐落とし』より前かな?
拙作『宙の果てへの挽歌』→この話→『狐落とし』→退院…かな、各ストーリーの合間にヤザンやカミーユくん他ほかの人たちもちょこちょこ面会に来てる。
えっ忙しい合間縫って複数回面会に来てくれるシロッコ超優しいじゃん…
シロッコが私服で来てるのは、軍附属病院とはいえ一般の人もいる病院で威圧感を出さないためです。病室内には入ってきてませんが、同じく私服の護衛も数名います。
なお、ぬいぐるみはエグザベくんが退院のときにそのまま病院に寄付されて、小児科病棟のプレイルームにおかれることになりました。
「ジオンくん」という名前がいつの間にかついてて子供たちに人気のようです。

名前の無くなった例の彼について、スレで色々ネタがでてきてたので、いっそ全員本人かもしれないし違うかもしれない扱いで、要注意人物としてこっそり監視されてるとかどうだろうって思ってみて書き上げました。
彼に必要だったのは盲目的に付き従う部下でも優しく甘やかしてくれるママでもなくて、きちんと駄目なものはダメと指導する父親役あるいは完全に同じ立場で遠慮なくどついてくれる友人だったんだろうと思います、どっちも正史だと自ら手放しちゃってますけど!

シロウズ君はそういう意味では予後が良さそうなので…君はコロニーや小惑星を落とすことなく、穏やかに達者に暮らせ…たまにヒゲマンにちょっかい掛けるくらいなら許容範囲だから…
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