(Ζガンダム異伝)エグザべ・オリベ戦記別伝   作:ガンダム初心者のミリオタ

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時系列的には本編終了後のどこか


épiphanie

「中尉、今から格納庫に来ていただくことできます?」

「うん?大丈夫だけど、何か不具合でもあったかい?」

ひょこ、と顔を出したイマニュエル伍長に手早く今まで作業していた書類に保存をかけながら答える。

昨日まで乗ってたMSは、多少デブリがかすめた痕跡があったくらいで帰還時には何も問題なかった気がしていたけど、整備中にパイロットじゃ気付かないところにあったのかな。

「はい、いいえ、中尉のMSには何も不具合は出てないです、大丈夫です」

不具合じゃなければ何か調整かな?

MSはその実巨大な精密機械というほうが近いので、調整をほんの少し、軽くかけようと思っても意外とそれまでの調整とのバランスが取れなくて大ごとになることも案外多い。

特に僕の今乗ってるメッサーラは慣熟訓練を終えて最近ようやく本来の性能を発揮できるようになれたところ(今回の作戦任務に間に合ってよかった!)だし、そのくせ僕の癖に合わせて相変わらずシビアな調整をしてもらってるしで、調整のごとに整備班が頭を抱えてるのは知ってる。

それでもパイロットの要求にこたえてくれるイマニュエル達には本当に感謝をしてもしきれない。

そんなことをつらつら考えながら先行するイマニュエル伍長の後についていって、到着したのは第二格納庫。あれ?

「イマニュエル伍長、僕のメッサーラがあるのは隣じゃなかったっけ?」

昨日帰還したときに入ったのは隣の第三格納庫のほうだったはず。

整備の関係で格納したMSを帰還したときの格納庫から移動させることはたまにあるけど、不具合は何もないなら移動させる理由はない、よな?

「中尉のメッサーラは第三ですよ、でも今はここであってます」

にこ、と笑ったイマニュエルが格納庫の開閉ボタンを操作して

「ハッピーホリデー!!」

開いたとたんにぽーん、という軽快なクラッカーの音と声に出迎えられた。

「…え?」

「驚かせてすみません、せっかく昨日で戦闘が一旦落ち着いたので今のうちにって思いまして、MSチームのみんなで新年会です!」

「今年はクリスマス前からずっと作戦続きでクリスマスも新年もいつの間にか過ぎちゃいましたもの、せめてエピファニーだけでもと思ってパプティマス様に許可をもらったんです、さぁ入ってください、ケーキも用意してもらってますよ!」

クラッカーを持ってにこにこと笑いながら出迎えてくれたシドレ曹長とサラ曹長が説明してくれる。

そうか、よく考えたらクリスマス前から、ってことは彼女らも当然作戦任務続きだったわけだし、当然その任務に使われるMSの整備をしてくれる整備班のみんなも休みなんてほとんどとれていないだろう。

シドレ曹長とサラ曹長はさすがにまだ未成年ということを考慮されて、比較的休息日を多めに与えられているけれど、それでもやはりカミーユ達とも同じくらいの子なら仕事を忘れて遊びたいと思うときだってあるはずだ。

格納庫の中を見回してみれば、流石にMS部隊全員はいないものの、そこそこの人数が集まっていた。

準備や片付けに時間を要しないためだろう、奥に一つ軽い軽食と飲み物が置かれている大きめのテーブルがある以外は椅子もあまり置かれておらず、立食パーティー形式になっているらしい。

パイロットも後方支援チームも、僕らギャン部隊やドゴス・ギアの部隊も、所属も立場も関係なく入り混じってそこかしこで歓談しているようだ。

普段の格納庫内部は重い資材を運搬しやすいように人工重力は作ってないのだが、今日は動いたり食事したりしやすいように1Gの人工重力を発生させているらしく、歩いて奥のテーブルのほうに行くとヤザンがいた。

「よう、エグザベ、きたか!」

「やぁ、ヤザン。

 いきなり連れてこられてびっくりしたよ。

 よく考えたらイマニュエルも来るときに”格納庫”としか言ってなかったな、騙された」

でも気持ちのいい騙され方だ。してやったり、というように笑うヤザンにばしばしと背を叩かれる。

「はっはー、元々ジュピトリスじゃ日付感覚を忘れないためと艦載員の慰労のために、季節モンのイベントをわりとやってきてんだとよ。そういうのができない時でも食堂の食事にとりいれてあったりな。

 クリスマスんときゃ一応鳥メニューもでてただろ、覚えて…ないか、その顔」

「…正直、食堂で食べた記憶があんまりない…」

「お前食堂で食べるときもさっとかっこんですぐ席立つ癖やめとけ」

あきれたように言うヤザンにちょっと肩身の狭い思いになった。

早食いは軍人の職業病だけど、僕は特に早いといわれたことはある。

「あ、そういやエピファニーはわかるか?

 といっても俺も去年シロッコに聞いたんだが」

「大丈夫わかるよ、たしかクリスマス同様宗教的な謂れがあったはずだ」

飲み物を手渡してくれながら聞かれたのに思いだしながら答える。

こういう旧世紀以来の雑学知識は本当にカミーユ…カミュがやたら詳しかった。

今は宗教的意義はすっかり薄れて主に子供にお菓子をプレゼントする日、となっているが、元来は旧世紀、人類の救世主となるべくクリスマスの日に生まれた赤子に、東方からやってきた賢者が贈り物をしたといわれる日が由来だそうだ。

「あと、この日だけの特別なケーキを食べる日…とも聞いたな。

 …正直最初に話を聞いたときはケーキ屋さんやお菓子屋さんの販促イベントかな?と思ったけど」

「由来が何であれ、皆が楽しく過ごせる日が多いのはいいことだ、そうだろうエグザベ」

「そ…う、だね…?」

言いながら近寄ってきたらしいパプテマス・シロッコの声に振り向いて、そのままつい絶句してしまった。

「なんだそりゃ。幼稚園児のお遊戯会か…?」

同じくぽかんとしたヤザンが尋ねる。

パプテマス・シロッコの頭の上に紙の王冠が乗っていた。

「ガレット・デ・ロワの飾りだ、私がこの艦の王様だからとさっきサラに被せられた」

「ああ、このケーキか」

そうそう、たしかエピファニーの特別なケーキ、はそんな名前だった。

そのサラ曹長は、少し離れたところで仲のいいシドレ曹長やアドル曹長と一緒にケーキを頬張っているところだった。

あ、イマニュエルもいるな。楽しんでいるようでよかった。

「ああ、いつも食堂で出す時は切って配膳してしまうから飾りまではわざわざ乗せないがな。

 今回はパーティー形式だから、見た目もちゃんとしたいと作ったらしい」

ほら、とちょうど追加で厨房員が運んできてくれた軽食や飲み物と一緒にテーブルに置かれたケーキ…ガレット・デ・ロワを指す。

丸いケーキの上に金色の紙製の王冠飾りが添えられていた。

「んじゃこのケーキの王冠は、今作戦の功労者に」

ひょい、と王冠を取り上げたヤザンが僕の頭の上に乗せる。

「え、僕でいいのかい…?」

功労者で言うならヤザンだってそうだろうに。

「お前がいいんだよ。

 頼もしいリーダーってのは士気が上がるからな」

「そうヤザンに言ってもらえると嬉しいよ、身が引き締まる思いだな。

 期待に恥じないように頑張らなきゃな」

「んなかしこまるもんでもねぇさ、ほれ、周りも被ってるやつ結構いるだろ。

 無礼講の戯れだ」

ヤザンに肩を抱かれて周囲を見ろと促される。

確かに、周囲で歓談してるグループの中にもちらほらと王冠をかぶっている人がいる。

奥のほうでよく見えないが、ドゴス・ギアの整備班と話してる王冠をかぶっている人はうちのギャン部隊の誰かっぽいな。

「なら、ヤザンにはこれを」

パプテマス・シロッコがことりと一つ、何かをヤザンの持ってたケーキの皿の上に置く。

「なんだこれ。

 ちいせぇフィギュア…?」

ヤザンが摘み上げたそれは、アーモンドやソラマメくらいのサイズの小さい女神様みたいな形をしていた。

「フェーヴという、幸運のお守りみたいなものだ。

 本来はガレット・デ・ロワの中に入れるおみくじみたいなものなのだが」

「おみくじ…あたるとラッキーってこと?」

「あの時にヤザンの攻撃が相手戦艦にあたったことで戦場の流れが変わった、我々の作戦にとっての幸運だ」

首をかしげた僕にパプテマス・シロッコが泰然という。

「ははっ、こりゃいいや。戦女神様のご加護に感謝ってな」

ヤザンが胸ポケットにフェーヴを入れながら、に、と男臭く笑った。




アドベントキャンドルが買えなかった…とへこんでるエグザベくんの新作SS(ほのぼの同時空外伝『繁殖する地球』)が130さんの所に上がってたので、それに寄せて。
本編後なのでイマニュエルの階級は伍長です。
エグザベくんがクリスマスできてなかったってことは他の人たちも作戦任務続きでクリスマスできてないよなぁ、シロッコなら何かしら部下たちのフォローしそうな気がするなぁ、と思ったので。
エピファニー(公現節)は日本だとちょっとマイナーな行事ですけど、ガレット・デ・ロワはこの時期ケーキ屋さんやパン屋さんに置いてあるので、割と見たことがある人は多いんじゃないかな。
アーモンドクリーム入りのパイで、素朴な味で美味しいです。
エピファニーは本来の日付は1/6ですが、最近はそれに近い日曜日(1/2~1/8の間、2026年なら1/4)に合わせてエピファニーのミサを行う教会も多いです。
庶民の労働スケジュール的な問題ですねはい…
宇宙世紀だと宗教はほぼ人々の生活から消滅しているらしいのですが、実際のところキリスト教を弾圧していたもののいつの間にかキリスト教国家へ変貌したローマ帝国、江戸時代通して数百年潜んでいたキリシタンや、ソ連時代に数千人以上聖職者を逮捕・殺害されつつもしぶとく地下で生き残っていたロシア正教の例を見る限り、決してなくなりはしないだろうなぁ…とは思います。
人類の歴史上、もっとも早くに生まれた概念が宗教という説もあるくらいだし。
あとは日本のクリスマスやバレンタインみたいに、商業的なイベントとして形を変えて生き残るとかかなぁ。
なんであれ、皆が楽しい時間を過ごせる日が増えるといいですね!
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