(Ζガンダム異伝)エグザべ・オリベ戦記別伝   作:ガンダム初心者のミリオタ

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Ν-type

―――彼は力と出会った―――

 

 

ふと、レーダーから光点が一つ消えた。

「…?」

いや、おかしい。この光点は前哨地帯の観測基地の一つを示すものだったはずだ。

急に消える、とは?

機器の異常を疑って診断プログラムを走らせてみたが特に何もエラーは返ってこない。

通信を試みてみたものの、応答も返ってこない上にいつの間にかもう一つ光点が消えていたことに気づいてますます不信感が募る。

「…観測長、ファーポイントD1-1、及びD2-4の反応が消えました」

とりあえず報告をしたが、観測長もまた困惑したように聞き返してきた。

「反応が消えた?

 そんな馬鹿な。通信は?」

「はい、先ほどから試みてますがいまだ応答がありません。」

…なるほどおかしい。

「他のファーポイントの観測基地は?」

「正常で…いえ、今C1-3が消えました」

「消えてたまるか。

 本国へ異常事態の発生を…」

観測長が言いかけたところで、観測窓の外が異常に明るくなり、そして

 

 

 

『では次のニュースです。ラグランジュ1基地およびファーポイント小惑星帯観測無人基地のレーダー上の反応が消失したとインターネット上で騒がれていることについて、政府は本日その事実を正式に認めました。小惑星の偶発的な衝突による事故と事件の両面から捜査を…』

 

 

 

「彼がラグランジュ1の唯一の生き残りか?」

マジックミラー越しに、医務室のベッドの上にぼんやり腰掛ける少年と青年の中間くらいの男性を司令長が見ながら医務官に尋ねる。

彼は顔や腕にいくつか小さい傷の保護パットを貼っているものの、ほとんど無傷に近いように見受けられた。

壊滅状態になっていたラグランジュ1基地で、唯一の生命反応があったMSコクピット内で丸くなっているところを救出され、この基地まで移送されてきたのは1週間ほど前のことになるから、その間に小さな傷は既に治っているのだろう。

とはいえ、それにしても怪我の回復が早すぎないだろうか?

「はい、名前はアレクサンダー・カーク。当時ラグランジュ1基地にてMS実習訓練を受けていた士官候補生です。たまたまMSのコクピット内にいたため難を逃れたものとみられておりますが、詳細は事件の衝撃による前向性健忘なのか本人も全く覚えていないようです。あと…」

「何だ」

「彼の体組織から未知の物質が見つかりました」

医務官の言葉に、神経質そうに司令長は片眉をピクリとさせた。

 

 

己の体内から見つかったらしい成分に対してギリシャ文字を割り振られた表を表示させたタブレットと、それを渡してきた研究員の顔を交互に見て困惑する。

アレクサンダーは、先日の事件以降、謎の知覚拡大や身体能力の向上が起きていたことが発覚し、軍の調査機関にて全身精査されているところだった。

研究員が正面のボードに拡大表示させた表を指しながら淡々と説明する。

「君の体組織から見つかった未知の物質類だがね。

 どうも君の身体能力の極端な向上や、特殊な脳波の出現と関連があるらしい。

 動物実験での範囲だが、特にこのΝ(ニュー)と名付けられた元素が鍵のようだ」

Ν(ニュー)タイプ細胞、と説明されたその言葉が、アレクサンダーの耳を滑っていった。

 

 

巨大な赤い未知の生命体、としか言えないようなものが、基地を押しつぶそうと迫ってくる。

その光景に、アレクサンダーの脳裏にフラッシュバックするように映像がひらめいた。

「僕は…あの生命体を知っている…?」

 

 

関係者が集められた大会議室。

司令長が、スライドで資料を映しながら報告が上がってきた情報を居並ぶ面々に説明していく。

「どうもあの巨大生命体は宇宙を漂うように生活しているらしい。

 木星方面からやってきたように見えるが、単純にこれは方角的な問題だろう、おそらく本来の生息域はもっと宇宙の彼方のはずだ。

 地球に向かってきたのは…わからない、データが不足している」

「…繁殖のためです」

アレクサンダーが静かな、しかしよく通る声で言うのに会議室内の全人物が注目をする。

司令長も開けかけた口を思わずつぐんだ。

それに気づいているのかいないのか、ややぼんやりした声でアレクサンダーは語りだした。

「僕はおそらくラグランジュ1壊滅のあの時に、あの生命体の体組織の一部を取りこんだんです。

 そしてたまたま、運よく僕の体と馴染んでしまった…そのおかげでしょうか、あいつの意図がわかります。

 いえ、言葉ではなくて感覚というか…すみません、うまく言えません」

「いや、構わない。わかる範囲でいい、続けて」

口ごもるアレクサンダーを、組んだ指の上に顎を乗せながら司令長が促す。

どこか遠くから聞こえてくる音を拾うような表情で、アレクサンダーが続けた。

「あれは…いわゆる金属生命体です、僕らと違って生身で宇宙空間を行動できる。

 繁殖のために金属をできるだけ取りこみたいんです、その金属を栄養源にして、次世代を産み出します。

 だから金属の塊である基地を襲った…そしておそらくこのあたりの宙域でもっとも大量の”食べやすい”金属を保持している地球圏へたどりついた。

 でも、思わぬ反撃にあって、たぶんちょっとびっくりしたんです、それで今は少し離れたところから様子をうかがっている…また来ます。確実に」

「…卵を産むために番の雄を食い殺すジョロウグモみたいだな。

 雄(オス)喰らいならぬ惑星(ホシ)喰らい、というわけか。

 ヤツの意識がわかるということは、次に来る時期や場所の予測もできるか?」

司令長が問うのに対し、アレクサンダーは首肯した。

「…はい、感じます」

 

 

「これがアレクサンダー君の体組織からとったΝ(ニュー)の元素を解析、人工的に増幅させたものを組み込んだ金属で作成されたMSとその専用兵器です。

 どうもこのΝ(ニュー)元素は、研究員によれば”惑星喰らい”にとって一種の毒素でもあるようです。

 ヤツにはこの専用武器ならば、おそらくてきめんに効く」

いまのところ、Ν(ニュー)元素が融合したΝ(ニュー)タイプ細胞を持つパイロットの乗るΝ(ニュー)タイプ専用MSでしかΝ(ニュー)元素を組み込んだ兵器がうまく使えない、という結果が出ている。

せめて通常のMSにもなんとかΝ(ニュー)タイプ兵器だけでも乗せられないかと研究班や整備班も粘ったようだが、危急の事態ゆえ配備を優先した結果、ワンオフ機体にならざるをえなかったらしい、と開発者が説明するのを忸怩たる思いで司令長は聞いていた。

「つまり、これに乗れるパイロットはアレクサンダーしかいない、ということか…通常の武器では役に立たない、と?」

専用MSをにらみつけるように見つめながら司令長が吐き捨てるようなため息をつく。

開発者は、司令長を横目で見ながら言った。

「アリでも噛まれれば痛い。その程度には通常のビームサーベルやミサイルなんかでも効果はありますよ。

 生命体ですからね、物理的に何かがぶつかれば多少はダメージはあるでしょう。

 とはいえ、確実に倒したいならやはり専用殺虫剤でしょう?」

 

 

決選前日、MS格納庫。

教官とアレクサンダーは並んで、そろって白く光を反射するΝ(ニュー)タイプ専用MSを見上げる。

普段寡黙な教官がまるで懺悔のように訥々と語るのを、アレクサンダーは黙って聞いていた。

「いいか、お前にこのΝ(ニュー)タイプ専用MSに乗ってもらうのは、今までさんざん訓練させていたのは、あの惑星喰らいをお前ひとりで倒してこいといってるわけじゃない。

 お前に生き残ってもらうためだ。お前がいればあいつの居場所がわかる、次が狙える。

 無理だと思ったら迷わず下がれ、逃げろ、体勢を立て直せ。確実に倒すために」

 

 

そして、彼はΝ(ニュー)の力を解き放つ―――

 

 

 

 

「すっごいおもしろかった!

 ラストバトルとかドカーンってバーンって」

「僕、映画館で見るなんて初めてだったんだよ、すごかった。

 音もリアルだし、迫力ヤバイ」

興奮したように語彙力の低下した映画の感想を語る息子たちがエグザベさんにまとわりつく。

エグザベさんもにこにこしながら息子たちの相手をしてくれている。

「あの映画、エグザベさんのとこが協力してるってほんと?」

「ああ、ジオン共和国軍の広報部も、連邦軍の広報部も協力してるよ。

 …こっそりイマニュエルが出てきてるの、気づいたかな?」

「えっ?!」

子供たちと一緒に僕もびっくりしてしまった。何それ気付かなかった!

「あ、基地の司令長が政府の高官と会話してるシーンの、司令長さんの隣にいた秘書官ですよね?

 髪の毛はカツラですか?」

「さすがファさん、気づいたか。

 たまたま部隊の何人かで見学に行ったときに、監督から身のこなしがイメージぴったりだ!って言われたらしくて。

 あれよあれよという間にメイクされて衣装着せられて、隣を歩いて側に控えてるだけでいいからって撮影に放り込まれたらしいよ。

 一応バレにくいようにってことで、カツラで髪の色を変えたそうだ」

悪戯が成功した息子みたいな表情でエグザベさんがネタ晴らしをしてくれる。

一言もしゃべらなかったから気づかなかった…確認のためにもう一回こっそり行ってこようかな…

イマニュエルさんは、いくらなんでも無許可で出るわけにはいかないので、その場で一緒にいた上官がさらに上の人に許可を求めたら、二つ返事でOKされたらしい。

それでいいのかジオン共和国軍。ただし、パンフレットには名前は載せてない、とのこと。それもそうか。

最近封切りされた、宇宙の果てからやってきた謎の巨大生命体を主人公が倒すというストーリーの映画は、一見子供向けにみえて大人もうならせる深い心理描写が評判になって、人気が公開以来ずっと上がっているらしい。

軍の広報が公式に協力しているからか、巨大生命体とMSの戦闘シーンもリアルで迫力ある仕上がりになっており、そういうのにうるさいオタク気質の趣味人諸兄にも好評なのだそうだ。

エグザベさんから、映画の招待券をもらったので先日行ってきたのだが…

「あの、エグザベさん。映画は面白かったんですけど、あの映画の登場人物、どう見てもモデルになってる人、何人かいますよね…僕が知ってる人で…」

「…まぁ、ね。

 あの基地の司令長は、映画の中だと女性だったけど、どうみてもモデルはパプテマス・シロッコだろうねぇ」

いや、それもそうなんだけど。

のんびり笑うエグザベさんに思わずジト目になる。

「…”共和国から主人公のMS訓練の教官として派遣されてきた軍人”とか、どうみてもエグザベさんでしょ…?」

「どうかな、今は共和国と連邦の軍同士で技術交流や兵の派遣交流とかもあるからね。僕以外にもああいう立場の人は多いよ」

「…じゃぁ、それはそういうことにしておきますけど。

 でも木星方面からくる巨大生命体だのΝ(ニュー)タイプだの、どう見ても…」

そう言い募った僕に、ふふ、と黙って意味ありげに笑ったエグザベさんの背中を思わず平手うちしてしまった。

「あーパパがエグザベさんたたいたー!ママー!」

「ひとをたたいちゃダメなんだよぉ、パパめっ!」

「ちょっとカミーユ!子供たちの前でそんなことするのやめて!」

「はい、すみません」




突然どうしたと思った?映画でしたー特撮怪獣映画!
時系列的には、カミーユ君の下の子がなんとか映画館で映画1本分おとなしく座っていられるようになったってくらいの時期です。本編後10年くらいかな。
エグザベくんは昇進してれば中佐くらいになってるかもしれない。
なお、後日ネットで秘書官は男性派と女性派がバトルしてるのをみてカミーユは変な顔になりました。
公式からは一切発表がない(質問してもさりげなくスルーされる)ので、しばらく謎の人物として若干の噂になったとかならないとか。

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映画登場人物簡易設定
主人公 アレクサンダー・カーク
士官候補生、18歳。ラグランジュ1基地にて巨大生命体の襲撃に巻き込まれ、唯一生き残った。そのときに巨大生命体の一部と融合してしまい、Ν(ニュー)の力を得たことで巨大生命体と共鳴する能力を得た。知覚の拡大、身体能力の向上はその余波である。
司令長
連邦軍基地司令長官。怜悧な表情をした女性。厳しい物言いと感情を極力排した合理的判断のせいで冷酷に見られがちだが実は非常に愛情深い人物。
教官
少佐。主人公のMS操縦指導のために共和国軍から派遣されてきた。朴訥で誠実な人物。
若いころは共和国軍エースパイロットだった。大抵の機体を初見で乗りこなせる特技がある。

巨大生命体
木星方面から飛来してきた金属生命体。赤みがかってみえる。思念のようなものはあるようだが意思の疎通は不可能。
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