(Ζガンダム異伝)エグザべ・オリベ戦記別伝 作:ガンダム初心者のミリオタ
時系列的には多分本編後半年後あたり、なんとなく諸々の情勢が落ち着いて、ちょっと世の中や身の回りにもゆとりが出始めてきたかな…ってくらい。
日本式の4月始まり社会なのか欧米式の9月始まり社会なのか不明なのでぼかしてありますが、高校卒業後の進路を本格的に決定するあたり、カミーユくんたちが高校3年生になるかどうかくらいの時期…と思ってください。
「ハマー…アマンダ様の護衛になるために士官学校に入りたいと思っている!」
「うーん、それが目的ならあまり勧めないな」
「私も同じ意見だな」
冷静なエグザベさんとゲーツさんのコメントに、意気揚々と宣言したマシューが撃沈した。
高校卒業後の進路について相談するためにセーラとマシューと一緒に、休息日のエグザベさんのところを訪ねたら、ゲーツさんもいた。
たまたま休息日がかぶったとのことで、昨夜エグザベさんのところにゲーツさんが転がり込んできて、二人で映画を見たりチェスをしたり、たまに仕事のアレコレを言い合ったり…多分コレが主目的なんだろうな、ぼかした言い方してたけどつまりは愚痴大会みたいなものだろう…しながらのんびりしてたのだとか。
…案外仲いいんだよなこの二人…アーガマで忙しそうに走り回ってた同士、近しいものを感じてるのだろうか。そんな親近感はなんだかちょっとイヤかも。
エグザベさんが頼んでくれたデリバリーのピザをかじりつつ、めずらしくキッチンに置かれたままになっている、昨夜食べたのであろう中華系ファーストフードショップの特徴的な形の空き箱とお茶らしい空きボトルをちらりと横目で見る。
そういえばあんまりこの二人がコーラみたいなジャンクなものを飲んでるイメージもないけど、お酒も飲んでるのを見たことないな、飲めないわけじゃないみたいだけど。
お酒ってちょっと大人って感じであこがれるんだけど、僕が成人したときに、一緒にお酒飲みたいっていったら付き合ってくれるかな?
とはいえ、その前にまずは目の前の問題、つまり大学だ。
セーラとマシューは進学先についての相談、僕はすでに進学先は決めているので、進路相談というよりは大学在学中に受けるスカラシップについての相談がメインだ。
学校独自でやっている返済不要だが成績などの条件が厳しいものとか、卒業後軍や公務員などの特定の職業に就職すると返済が不要になるもの、条件はゆるいが返済まで結構な年数がかかるものなど色々あるので、二人がそれぞれメリットやデメリットを教えてくれたり考えたりしてくれるのを参考に決めていった。
とりあえず返済不要のはもらっておきたいな、成績も大丈夫そうだし、軍附属医科大学が第一志望だから卒業後の就職先の条件もクリアできるし。
とはいえ、万が一僕が返済不要のほうの条件に合致しなくなった時に打ち切られても大丈夫なように、念のため貸付タイプのも申請しておこうかな。
悪い事例をなるべく多く想定しておいて、そうならないような手を打っておくのは大事って、エグザベさんから教わったことだ。
ちなみにファはサラとシドレと一緒に女子会なのだと言って、昨日から泊まりで出掛けている。
…たまに暴走しがちなあの2人と一体何話してるんだか、想像するのもちょっと怖いけど、ファが楽しそうにしてたからまぁいいか…
どうでもいいけど、そろそろマシューはいい加減ハマーンさんの新しい名前である「アマンダ」呼びに慣れろよ。せめて高校卒業までには。
彼らも僕が今在籍している高校に編入したという扱いになっている。
以前立場を隠すため偽名を使ってジュピトリスに行って、初めてパプテマス・シロッコ艦長たちと出会ったあの時に使った高校、あれ適当にそれっぽいものを選んだんだと思ってたんだけど、どうやら僕らはその学校の通信制コースに編入した扱いにしてあったらしい。
大学へ進学したいけど、高校の卒業資格ってどうしよう、高卒認定試験うければいいのかな…とエグザベさんに相談したときにそう聞いた。
時々やらされてたテストや、レポート提出で単位取得できるようにしていたのだそうだ。
大学に進学を希望するならその道のプロがいるのはやはり高校だし、在学生なら必要であれば学習サポートもしてもらえるし、推薦も受けられるからね、とのこと。
二人とも優秀だったから結局学習サポートは必要なかったようだけど、とおっとり笑ってたエグザベさんには感謝だけど、それはそれとしてそう言う風にしてくれてあるって先に言ってくれていても良くないか?!
…ファはとっくに知ってたらしい。
カミーユがちゃんと聞いておかないから!そういうとこ、カミーユの良くないところよって逆に怒られた。ぐうの音も出ない。そうだよな…ついわかったつもりになって会話を省きがちになるところ、僕の悪い癖だ、本当に。
「…くっ…こ、後学のために、理由を聞いても…?」
あ、マシューが復活した。
エグザベさんが苦笑しながら教えてくれる。
「要人警護のスキルが欲しいというだけなら、士官学校は『国の有事のために働く軍の士官』を育成する目的だからね、ちょっと違うかな。
自由時間も少ないし、生半可な気分で入るとついていけなくなるよ」
「それに軍隊というのは基本的に多数対多数の戦いだからな。
護衛対象を警護しつつ一対一や一対多数のような状況でも敵を制圧できる技術を磨きたいというのが第一目的ならば、警察学校のほうが良いのではないか?
あそこなら警護技術を専門に学ぶカリキュラムもあったはずだ」
「士官学校卒業後に赴任地がどこになるかわからないし、拒否権は基本的にないと思ったほうがいいよ。
本音ではアマンダたちとあんまり離れたくはないんだろう?
だったらあえて進学せずに、ノンキャリアとして地元で現場でのスキルを磨いていくのもいいんじゃないかな、マシュー君」
「体力を付けたいなら体育大学という手もあるが、君なら高校卒業してなるべくすぐに現場に出て経験を積んでいくほうが伸びる気がする。
士官学校にどうしても入りたいというなら止めはしないし、入学するために必要なことを教えるのはやぶさかではないが、君の本当の目的は『士官学校に入ること』ではないだろう?」
「ああ、とはいえ軍人になって何をしたいか、によってはもちろん僕らも応援するよ。
その前に士官学校、というかそもそも大学に入るなら学科の成績をもうちょっと上げるべきかな…」
「うーん…確かに…もう少し…偏差値をせめてあと3…いや、5は上げておきたいな…
大学に入ってから勉強する手もあるが、今のままの成績では講義の内容によっては進行スピードに理解が間に合わない可能性もある。
基本的にこちらがわかっている前提でどんどん進むからな。
学部の希望はあるのか?それによっては7か8くらいは上げておく必要も出てくるぞ」
ゲーツさんとエグザベさんが交互に説明するのを、マシューは真剣にメモを取りながら聞いてる。
流石現役の軍人のいうことは重みと説得力が違う。
士官…つまり少尉以上にはどちらかというと後方から戦場を把握して、集団の指揮を執るためのスキルが求められる。
事務作業も多いし、本来なら前線に出ることはあまり多くない立場なのだそうだ。
そういえばアーガマでもこの二人ずっと書類作業していたな…
駄目押しのように学科の成績を突っ込まれてるマシューはちょっと背中が煤けてる。
士官学校は、希望する学部にもよるけど総じて典型的な「入るのは簡単だが出るのが難しい」タイプの学校でもある。
試験自体はそこまで難関ではない…僕が希望している軍附属大学の医学部も多分他の医大と比べてもそこまで高いほうじゃない…ものの、入学してから座学と実技と、さらには軍人になるための基礎訓練が詰め込まれてるので、できれば座学、少なくともいわゆる普通の大学で言う一般教養のカリキュラムくらいはなるべく労せずついていける程度の成績は入学までに修めておきたい。
聞くところによると、レポートと小テスト、それから訓練三昧らしいので、座学についていくために夜中まで勉強した挙句実技や訓練の体力がなくなった、なんてことにはなりたくないし。
マシューは最近ようやく数IIBあたりに手を付けたくらいらしいから、まぁがんばれ。
といっても、まともに勉強する機会が今までなかっただけで、筋は悪く無さそうなんだよな。
元々MSパイロットしてたし、定義や定理の理論がわかってないだけで数学的な感覚は身についているんだろう。感覚と理論が一致すれば一気に伸びるタイプなのかもしれない。
まぁ、その辺も含めて、進路に関しては改めてアマンダさんと相談すればいいんじゃないかな。個人的にはマシューは割と軍人に向いているような気もするけど。
「セーラさんは?」
メモ書きを見ながら考えこんでいるマシューとの会話が一旦途切れたところで、ふとそれまで黙って紅茶をすすってたセーラにエグザベさんが水を向けた。
「あ、私は姉さんの役に立ちたいと思って…政治家の役に立つような職業ってなんだろうって思ってて、とりあえず大学で勉強できればと…」
カップを置いたセーラがおずおずと答える。
それを聞いたゲーツさんが首をひねった。
「…政治家の役に…秘書か官僚、ということか?」
「うーん、政治家の、というか正確にはアマンダの、だから秘書を目指すほうがいいのかな。
政治家の秘書だとどんなスキルが欲しいんだっけ。法曹関係の知識?」
エグザベさんはよくアマンダさんが政治家になることに苦言を呈しているけど、セーラさんが政治家になるお姉さんの役に立つための職業を目指したい、ということについては止めようとは思わないらしい。
エグザベさんのそのバランス感覚、ちょっと良くわからない。
「私設秘書なら資格は不要だったと思うが…そうだな、大学の経済学部か法学部へ行って、ロースクールまででられれば上々ってところじゃないか?」
「そうだねぇ…途中で進路変更もできるように、単科大学よりは総合大学へ行って入学してから考えるのでもいいかもしれない。
社会学部系が強い大学へ進学して、人文系の単位も在学中にとっておくとかどうかな」
「なるほど…わかりました、ありがとうございます!
ちょっと考えてみます!」
お礼を言って、自分の端末で何やら検索を始めたセーラをエグザベさん達がほほえましい顔で見ていた。
「なんだかお二人、楽しそうですね」
小さい子を見るのと同じような表情を向けられて、照れ隠しでちょっとぶっきらぼうな声が出てしまった。
「うん…まさに『可能性の獣』だなぁって」
「可能性の…ああ、最近話題のあの作品か」
最近ヒットした、とあるエンタメ作品に登場した一角獣についてを唄った詩の一節だ。
人々の希望を形にしたもの、未来への可能性を見出す存在。そういう意味合いが込められているらしい。
さらにその作品に出てくる、一角獣をモチーフにしたキャラクターの商品が結構な人気で、マイネも欲しがってたが軒並み売り切れでアマンダさんが頭を抱えていた。
「エグザベさんがそういう流行りの作品とか見るなんて思いませんでした」
この部屋にはテレビもないのに…というかテレビどころか、生活に必要な最低限のもの以外ほとんど置いてない。
棚の上に無造作に置かれてる、ジオン共和国土産として最近話題のふわふわしたやたらかわいらしい犬のぬいぐるみがどうにも浮いている。
しかもジオンの軍服風デザインの服を着ている超レアバージョン…共和国軍の関係者か、特殊な事情で共和国軍基地へ入れた人のみが購入できるやつだ。
むしろなぜこれがあるのかと聞いたら、共和国に一時帰還したついでにPXで購入してきたのを、前にエグザベさんが入院していた病院の小児科に寄付するための許可取りの間、ここに保管しているだけなのだそうだ。
家を空けていることが多いし、万が一の時に整理が大変になるから、と言ってたけど整理って…いや、赴任地の異動に伴う引っ越しのことだよな、そうだよな。そうに違いない。もともとエグザベさんはジオン共和国からの出向で来てるから、ここから引っ越しするってなったときに荷物が少ないほうが楽だもんな。できればずっといてほしいけど、そうはいかないことだってあるだろうしな。よし。
「こういうのはヤザンがやたら耳が早いんだよ、色々教えてくれるし」
「あいつは部下からもどんどん情報が入ってくるからな。
流行りのものならとりあえずヤザンに聞いておけば概要は知れる」
しれっと情報源を曝露する二人に思わず納得する。
あの人コワモテだけど面倒見はいいんだよな…前にみんなでバーベキューしたときになんだかやたら構ってくれたし。
というかでっかい肉の塊を前日から仕込んでたらしいのもびっくりした、あれが本物の牛肉かぁ。
しかもわざわざパプテマス艦長経由で特別な許可取って直火使える場所借りてくれて、本物の火を使って焼いてくれたんだから気合が入ってる。
「カミーユも、医学部に進学して終わりじゃないからね。
医師はむしろ卒業後が本番だ、がんばって」
「はい、もちろんです!」
エグザベさんの激励に、僕も背筋を伸ばして答えた。
子供たちが将来の進路についてあーだこーだ言ってるのは平和なればこそ。
作中の”中華系ファーストフードショップの特徴的な形の箱”はオイスターペイルとよばれる形の箱のことです、主にアメリカで展開している中華系ファーストフードチェーンショップのお持ち帰り用BOXで広く使われています。日本でいうと某マックのサイドメニューでサラダの入ってる四角い箱、あれが割と近い形しています。
ゲーツくんは北米にあった基地の出身だそうなので、こういうのも馴染み深そうかな、と。
カミーユくんは愚痴大会してたんじゃと予想してますが、彼ら二人ともいわゆる「愚痴」はあんまり言いそうにないかも。むしろ実際のところは自分たちの軍務での反省大会や意見交換みたいなものだろうとは思ってます。
新人教育がどうとか、作戦の立て方とか部隊の指揮の仕方のあれこれとかそういう感じ。
バーベキューパーティー(エグザベくんの退院祝いにヤザンが計画して開いてくれた)の参加者はそこそこの人数がいると思います。でかい肉を焼ける男はかっこいい。
PXとは基地内にある売店のことです。米軍基地だと特にでかくてコストコとかイオンとか、そういうレベルの規模のこともあります、生活用品だけでなく高額商品(車や宝飾品等)も買えるらしい。
自衛隊基地だとコンビニが入ってることが多いです(全基地で売店がコンビニかどうかまでは不明です)航空祭とか基地の開放日とかの、一般人が基地内に入れるタイミングが買い物チャンス。
一般人でも買える訓練用品とか自衛隊の正規装備品とかの基地独特の商品が置いてあります。
面白いところだと観光地によくあるお土産品自衛隊バージョン(~へ行ってきましたクッキーみたいなの)とか、隊員の暇つぶし用なのかプラモが置いてあったりもする。
お土産品は、地元に里帰りする隊員や演習で外部からやってきた他基地の隊員向けの需要だとか。
ガンダムUCは見てないです…『可能性の獣』の元ネタのほうのリルケの詩は昔読みました。
更に詩の元ネタのクリュニー中世美術館所蔵≪貴婦人と一角獣≫は謎の多い寓意画の美しいタピスリーで好きです。
10年以上前に特別展やってたんですよね…見に行きたかった…!
エグザベくんのバランス感覚?
じぶんもよくわかんない。