(Ζガンダム異伝)エグザべ・オリベ戦記別伝 作:ガンダム初心者のミリオタ
どこかで繰り広げられている日常風景。
「君に似てるな」
「は?
記憶が消し飛んだついでに真っ当な感性もぶっ飛ばしたか?」
俺が食事の支度をしている間、TVのニュースを聞き流しながら小難しいなんかのテキストを読んでいたらしいアイツが唐突にぽつり、と言ったことが耳に引っかかった。
「…そんな『なにいってんだコイツ』みたいな顔をしないでもらえるか」
「実際なにいってんだコイツ、って思ってるからな。
何をどうしてそう思ったテメェ」
コイツとの会話にはちょっとばかりコツがある、と気づいたのは出会って割とすぐだった。
具体的に言うなら、言葉を省略しがちで実際に言いたい内容の2割程度しか出力してこねぇから一回は必ずツッコめ、だ。
「このニュース」
言いながら、アイツが先日のテロ事件だったかのニュースを読み上げているアナウンサーを指さしつつ、とつとつと説明しだす。
「首謀者が『キャスバル・レム・ダイクン』を名乗ってるとさっき言っていた。
君の名前に似てる、と思ったんだ」
「ああ…ギャスパール、とキャスバル、か。
お前に一応言っておくな、ちっちぇえころ俺はそれで散々からかわれた経験がある」
「……すまなかった」
素直でよろしい。
俺がサイド3から出ていく前、ジオン・ズム・ダイクンが生きてた頃にはその息子の名前としてキャスバルの名前と、金髪碧眼だという外見はそこそこ知られていた、らしい。
ニュースなんて見るような家庭でもなかったから、キャスバルの外見はまったく記憶にねぇし、そもそも当時の俺は外見を調べる、ということすら思いつかない程度のオツムの出来だったが、周りの奴らからはあっちは超エリートでこっちは名前が似てるだけの貧乏人、王子と乞食みたいだってよくいじられたものだ。
その所為でキャスバルの名前だけは覚えちまった、クソが。
ていうかあの物語は外見が似てるって話じゃなかったかな、確かキャスバルと俺は同年代だってきいたから年齢はともかく浅黒い肌と黒髪の俺じゃコレっぽっちも似てない、むしろ目の前のコイツのほうが見た目は多分似てただろうよ。
最近は容疑者がキャスバルと名乗ってたとか、そう名乗る配信者の変な動画がバスった?とかでたまに聞くが、正直父親と一緒に息子のほうも死んだと勝手に思ってたな。
結局本物の息子は生きてるんだっけ死んだんだっけ…あの頃の俺はそういう世の中のことになんも興味が持てないまま小惑星帯へ家出しちまったし、今もいまいちニュースには疎い、難しい言葉はわかんねぇんだよ。
「くだらねぇこといってねぇでそこ片付けろ。
飯できたぞ」
先日うっかり拾ったこの男、名前も記憶も持ち物もなにもかもをどっかに落としてきた変な奴とは、今何故かルームシェアしている羽目になってるが、なんだかんだでそこそこうまくいってる…気がする。
同じアクシズから救出されてきた、という態で、自分と同じく就職先に困ってる、俺と一緒にここで働かせてやってくれないかとある意味ダメ元で上の奴に頼んでみたところ、なんか割とあっさり了承された。
一応、アイツに関する事情聴取じみた身元調査みたいなものもあったことはあった。
最初は何か適当な設定でっちあげようかとも考えたが、ツッコまれて後から変なボロを出すよりは、って思い直した結果アクシズでの職場は全然違う部署だったようだから名前もあっちがどんな仕事だったかも知らない、たまたまそこの大通りでアイツがポツンと座ってるのを見かけて、同じアクシズで働いてたよしみみたいなもんで拾った、住む場所もないらしいから寮も入りたいって言ってる、と割とそのまま答えることにしたが、どうやらそれがうまくいったらしい。
あんまり細かく突っ込まれることもなくOKになった。いや、俺の知らんとこで実はいろいろあったのかもしれんが。
よくわからんが、アイツは無事ここで働けることになったからいいとしよう。
記憶がないらしいんだが…と一応言ってはおいたけど、機械のスイッチ入れるのができりゃいいだろお前面倒見ろ、で流された。
いいのかよ。いいけどよ。
コイツには過去の記憶がないだけで、新しく覚えることはできるらしいので、なんなら既に俺より複雑なことしてる。すげぇな、やっぱ元エリートだったんかなコイツ。
今だって、俺には全く読めないなんかの呪文みてぇな単語が並ぶテキストやノート、ぐるぐるとした図が書かれたレポート用紙なんかを狭いテーブルいっぱいに広げまくってる。処理物質の非金属触媒による還元作用がどうとか言われても、足し算もやっとの俺にはさっぱりだよ。
コイツこんだけ複雑なことがわかるってのに自分の名前のひとかけらも思いださないんだから、これが人体の不思議ってやつか?違うか。
「ああ、今片付けるよ」
アイツもだいぶ片手での作業にも慣れたのか、それなりに手際よくテキストやノートを片付けて
「あ」
”右手で”抱えようとして落とした。
「…すまない」
「いーよ、利き手側が使えねぇことに慣れるにゃ時間がそれなりにかかるかもって言われただろ。
ほれ、拾え拾え」
床にばらまかれたレポート用紙を適当に拾って差し出してやった。
「順番は飯食った後にでも確認しておけ。
ついでにフォーク出してきてくれ」
「すまない、感謝する」
改めて”左手で”受け取ったアイツがそのまま背後の棚のほうに向かう間に、マッケンチーズに黒コショウを振りかけて仕上げて、鍋敷き替わりの布巾の上に鍋ごと置く。
「よろこべ、今日のはベーコン入りだ」
「おや、豪勢だな。美味しそうだ」
最初は俺がその時住んでた部屋の隣の部屋にでも入れてもらえればいいと思ったのだが、それだったら一階上のファミリータイプの角部屋が空いてる、家賃も折半になるから今より安いし家具も備え付けだからお得だぞ、と総務の奴に言われて。
アイツも断らねぇもんだからあれよあれよという間に引っ越しが決まって、片手動かねぇ野郎同士毎日何かしらバタバタしつつも、特に大きな問題もなくイマココ。って寸法だ。
いや、同じように働かせてやってくれとは言ったが、同じ部署でその上同じ部屋にしてくれとまでは言ってねぇぞ。
とはいえ、子供みてえにわくわくした顔をしながら、左手でぎこちなくフォークを取り上げるコイツとこうやって鍋の中身つつき合う今の生活も、別に悪くはない、と思ってる。
元アクシズの作業員ことギャスパール君と、彼が拾った変な男のその後のお話。
マッケンチーズ(マカロニアンドチーズ)とは、その名前のとおり茹でたマカロニにチーズソースを合わせたお手軽メニューです。
アメリカだと「Comfort food(心安まる食事=家庭料理の意味)」の象徴でもあるらしいです。
”彼”についてはあえて名前を設定しないほうがいいかなと思ったので考えていません。
結果作中では延々「コイツ」もしくは「アイツ」と呼ばれてますが、彼らの間では実際はちゃんと名前は呼び合ってると思います。