(Ζガンダム異伝)エグザべ・オリベ戦記別伝   作:ガンダム初心者のミリオタ

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時系列的にはギャン改-IIがアーガマに届いた後、アクシズが地球圏に来る前。



Bon appétit

軍において、士官以上と下士官以下は基本的に待遇が全く違うものである、というのは旧世紀以来の伝統、らしい。

「だからカミーユは一応中尉待遇だからな、”こっち側”で食べるんじゃないってのは一応間違いではないんだよ」

くるくると器用にフォークでパスタを巻き取りながらアストナージさんが教えてくれた。

ファと一緒に昼食をとろうと食堂へ行ったら、なんでこっち側にくるんだと最近来たMSパイロットの人…名前はわかんない、階級は多分軍曹かな…に文句を言われて、当然昼食をとるためだからそう答えたら生意気だと「修正」されそうになって。それをファが慌てて止めようとしたら、今度は女のくせに生意気だとファに絡み始めて。

ファを守ろうと思って三人でもみ合ってるうちに、同じく昼食をとりに来たらしい整備部のアストナージさんとイマニュエル上等兵さんに抑えられた。

絡んできた相手は一緒にいた他の整備班の人たちに押さえ込まれてそのままどっかに連行されていった、多分だけどエマさんかアポリーさんのところだろう。

せっかくだしこのまま一緒に、とイマニュエルさんに誘われて今は僕、ファ、アストナージさんと4人で一緒のテーブルについて食堂で昼食をとっている。

おそらく僕らを二人だけにして、食事中にまた誰かに絡まれることがないようにしてくれたんだと思う、けどなんだか微妙に違う意味で目立ってるような気がしなくもない…無駄に絡まれるよりは落ち着いて食事もできるし、遠巻きにされてるほうがまだましだけれど。

今日のメニューはミートボール入りのトマトソースパスタとコーンスープ、コールスローサラダにマッシュポテト、それからオレンジ味と書かれてる栄養補助ゼリーだった。いや、僕はこの味をオレンジとは認めない。絶対に。

それはともかく。

一応慣習として、軍では基本的には少尉以上の階級の人は士官専用の食堂、それ以外の人たちは一般食堂で食事をとることになってるらしい。

僕は一応中尉待遇って扱いになってるので、士官食堂のほうを使え、と絡まれたわけだ。

「でも…士官食堂のほうで食えって言われたら、ほぼ僕一人じゃないですか…」

ミートボールをつつきながらぽそぽそいうと、行儀が悪い、とファに横から軽くつつかれた。

「まぁ、カミーユはいろいろ特例だしそもそも中尉”待遇”ってだけだしな…軍の慣習にあんまりガチガチに従えって言うのもなんか違うだろ」

「階級で待遇差をつけることで、軍における自身の立場を明確に認識してもらうって理由が一応あるそうなんですけどね。

 一歩間違えると立場に胡坐かいたような勘違い野郎もでてくるけど…あと女のくせにとか言うセリフ、ちょっと久々に聞きましたね、どこにでもああいうこというやつはいるんだなぁって逆に感心しちゃった」

アストナージさんの科白に、僕のはす向かい、ファの正面に座ってるイマニュエルさんが軽く肩をすくめながら答える。

最近エグザベさんの専用機であるギャン改-IIと一緒にジオン共和国からやってきた整備兵であるイマニュエルさんは、すらっとした中性的なイケメン…とおもいきや、女性だった。

どちらかというと柔らかい表情なんだけど、どこか雰囲気がきりっとしてるというか、なんだか昔ファと一緒に見たことがある、全員女性で構成された劇団の王子様役をやっていた人を思いだす。最初来た時に艦内の女性たちがなんだかざわめいていた、というのを後でファから聞いた。

「ま、あんまり気にしなくていいぞ、そもそも士官食堂側に下士官以下のやつがいくのはちっとアレだが、一般食堂側に士官がいるのはあんまり気にされないことも多い。人によっちゃ士官食堂のほうだとしゃべる相手がいなくて淋しいからって理由で一般食堂使うやつもいるしな」

「はぁ」

アーガマでは一般食堂と士官食堂は、部屋は同じだけど簡単なパーテーションを使って左右で区切られてる。

士官食堂側は食事だけでなく、簡易的なミーティングスペースとしてもよく使われているので、食事時間がずれてしまった士官の人がぽつんと一般食堂側を使っていることもあるけど、そういう理由じゃなくて向こう側で大勢がわいわいしてるのにこちら側で一人で食事するのは、たしかに淋しい。

「それよりも、来月カミーユ君誕生日なんだって?

 お誕生日会しなきゃね」

「幼稚園ですか?!」

のほほんというイマニュエルさんに思わず立ち上がって突っ込んでしまった。

が、怖い顔をしたファに袖を引かれたのでおとなしく座る。

「おいおい、こういう閉鎖空間でそういうイベント事って言うのは案外重要なんだぞ?

 お誕生日会…はともかく、誕生日のディナーにはなんとケーキがでるぞ、楽しみにしておけ!」

アストナージさんがカラリと笑いながら教えてくれた。

軍では昼食のことを一番ボリュームがある食事、の意味で”ディナー”と呼ぶのだそうだ。

つまり一般的に言うランチタイムで出るってことか。

「えっケーキって…もしかしてそれみんなそうだったりします?」

「そうよ、私もこの前だしてもらったもの」

「…しらなかった…」

「あの時カミーユはちょうどお昼は一緒じゃなかったものね。

 意外と…といったら失礼だけど、本格的な、ちゃんとしたケーキで美味しかったわよ。

 衛生班のみんなもお祝いしてくれたの」

ファの誕生日のときは、ファのいうとおり僕の昼の時間が少しずれてしまったせいで一緒にとれなかったのだけど、かわりに訓練や勉強が終わった後でエグザベさんの部屋で3人でささやかなお茶会をした。

流石のエグザベさんもあの時はちょっとだけだけ長めに休憩時間をとってくれて、どこにしまいこんでいたんだか、とっておきだといって、めずらしく紅茶を出してくれたっけ。

それから、さくさくのバタークッキーを一人2枚づつ、ファのためにチョコチップ入りを追加でもう一枚。

…今更だけど、前もってファのためにあらかじめ準備してくれていたのだろうな。

食堂でのケーキだって、事前にこの日に、って言わないと出てこないだろうし。

「実はな、アーガマの人員が強化されたおかげで最近食事も美味しくなってるしメニューも増えてるんだ。

 ちゃんとしたケーキが出せるようになったのも本当にほんの少し前からだから、ファちゃんはタイミングよかったな。

 厨房員のやつらも張り切って作ったんだろ」

「…ちなみに聞きたいんですけど、ちゃんとしてないケーキって…?」

「なんか…ホットケーキみたいな味の蒸しパンぽいやつに申し訳程度にクリームが塗りつけてあったかな…」

「…わぁ…」

ちょっとした好奇心でアストナージさんに聞いてみたら、なんだかやたら沈痛な声で言われた。

クリームで飾られてるマフィンと思えば…いや、アストナージさんの表情から言ってそういうのでもなさそうだな。

そうじゃなくなってよかった、気がする。なんとなく。

「へぇ、意外とアーガマの食事は美味しいんだなって思ってましたけど、最近のことなんですか」

「おお、イマニュエルも運が良かったな。

 もうちょっと前だったら数種類しかないディナーメニューのローテーションだったぞ」

「そうですね、なんかあんまりメニューのバリエーションないけど、軍艦だしこんなものかなって来た頃は思ってましたけど、いつの間にかいろんなメニューや食材が出てくるようになってました」

「確かに、昨日出た魚フライはちょっと珍しいって思ったなあ」

ファが言うのに僕もうなずく。

何の魚かは誰も知らなかったけど…魚肉味の合成肉だったのかもしれないけどまぁいいか。

あと同じメニューでも美味しくなってる。

パスタだって、最初の頃はなんだか安っぽいケチャップのような味のソースばかりだったけど、今日のはちゃんとトマトソースの味がしたし。

ケチャップとトマトソースってちゃんと味が違うんだなぁ…とちょっとした発見だった。

「腕のいい厨房員が入ってくれたんだろうな、ありがたい。

 だがなぁ、メニューは増えたがこのインスタントコーヒーの味は変わんねぇよなぁ…」

「エグザベさん曰くのインスタント泥水…」

「…私連邦のほうに出向したら、代用コーヒーの味から逃げられると思ってたんですけど、そうでもなかったな…って思っちゃいましたもんね…」

ジオンのほうで良く飲まれている代用コーヒーは一部に植物性の原材料を使っているので、ちょっと草っぽいような、薬ぽいような味がするらしい。

昔小さいころに腹痛起こしたときに飲まされた、びっくりするほど苦い漢方薬みたいな感じなのかな…今度エグザベさんにも聞いてみよう。

どこか遠くを見るイマニュエルさんにアストナージさんが苦笑いする。

「匂いだけはまぁまぁまともなのが逆に腹立つよな、まぁこの味も慣れだ慣れ。

 民間人がまともな味のコーヒーを飲めるように頑張んのが、俺ら軍人の仕事ってこったな」

そう、アストナージさんは言うと一気にコーヒーカップを傾けて中身を飲み干した。




カミーユくんたちの日常をもっと見たい…!という個人的な願望とイマニュエルのちょっとした補足がわりに。
ファちゃんのお誕生日が10月らしいのと、おそらくギャン改-IIが届いた時期、さらにアクシズが地球圏に戻ってきた時期(正史だと10月中旬ごろ)も大体このあたりぽい感じだったので、ギャンが届いた~アクシズ到着の間の時期の、本当にほんのつかの間の平穏な日常、みたいな思いつきです。
130さんのハーメルン版投稿でいうと『ジュピトリス 3』と『八百長』の間くらい。
正史だとカミーユ君の誕生日付近ずっと戦いの連続っぽくてかわいそう…メンタルも病むよそりゃ…まだ高校生相当年齢ぞ?
本編では代わりにエグザベくんが戦いの連続ですけど、まぁ軍人なんでそれが仕事だし大丈夫でしょう。
…あんまり業務量的に大丈夫じゃない気配はあるけど。君抱えてる仕事多すぎんねん。
え?仕事を割り振れる人がいない?ほなしょうがないかぁ…

ジオンの代用コーヒーは欧米で良く飲まれる代用コーヒーの一つであるチコリコーヒーをイメージしてます、植物ならコロニーでもある程度育てやすいはずなので、割と植物性の原料で代用されてる食品はありそうな気がしている。代用肉や合成肉の原材料ももしかして植物性のもので、リアルで言う大豆ミートみたいな感じだったりして…?
あとは鳥肉を加工して他の肉っぽくしてるとかかなぁ、コロニーで育てるなら牛や豚よりは生産コスト低そうだし。
魚肉はマスとかコイとかの真水で育てられる魚のほうが主流かもしれないですね、水自体のランニングコストがちょっと高そうなんだけど、無重力下でも魚は比較的普通に成長するらしいので、人工重力作らなくてもいい分コスト的には意外とリアルとトントンくらいかちょっと高いくらい程度になるのかもしれない。
エグザベくんが出してきたクッキーは、某おばさんのクッキーみたいなアレをイメージしてください。美味しいよね。好き。

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イマニュエル簡易設定
イマニュエル・ジャン Emmanuelle Jiang 
入隊三年目、階級はこの話の時点で上等兵。工業系の高校卒業後ジオン軍入りした。
ギャン改-IIが壊れたら泣いちゃうけど中尉がMIAやKIAになったらもっと泣いちゃう。
エグザベ中尉のギャンが配備された時からずっと整備を担当しているので、中尉のギャン改-II専属整備兵として抜擢されました。
えっ一人で?はい…向こうの整備班の人と協力して頑張ってもろて…
ギャン部隊自体は、整備チームや後方支援チームまで全部入れると多分30人いるかどうかくらいじゃないかなぁと思ってます、少数精鋭にもほどがある。

Emmanuelleは本当は「エマニュエル」発音なのですが、エマさんとややかぶるのでイマニュエル発音を採用しました、ジオン訛りだとでも思ってください。
これ自体は男女ともに使う名前ですがEmmanuelleとつづると女性名になります。
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