(Ζガンダム異伝)エグザべ・オリベ戦記別伝 作:ガンダム初心者のミリオタ
「フィルターの予備がもうないんですが」
「馬鹿正直に交換予定日で取り換えてんじゃねぇよ、モノが足りないのはみてわかんだろ。
一か月かそこらくらい越えたってわかりゃしねぇよ」
「っさ…いえ、わかりました、失礼しました」
…さすがに一か月超えるのはどうかと思います、と言いかけたのはかろうじて飲み込んだ。
上役に飲料水用のろ過フィルターの補給の申請書を出しにきただけで殴られたくはない。
「間違った考えや根性を『修正』するためだ」とかいうけど、自分より弱いやつぶん殴って自分の憂さを晴らしたいだけだろ。
いまいち何の仕事してんだかよくわかんねぇが威張ることはいっちょまえの上役の事務室から出て、とぼとぼと…実際は低重力なのでそんな擬音じゃないけど…処理プラントの担当区に戻りながらため息をつく。
ここ最近、ありとあらゆるモノが足りていない。
モノだけじゃない、食べ物も薬も、だ。
なんかどこぞからわらわら集まってきてる軍人どもが優先されてるらしく、こんな廃棄物処理プラントの作業員には最低限の食い物しか配給されない。
酒は裏取引用の通貨扱いだ。
ここに来てすぐくらいのときにうっかり機械に挟んで怪我した後遺症でしびれが残る左手をそっと揉む。
薬も民間には回ってこない…痛み止めはまだかろうじて隠し持ってるが、見つかったら取り上げられそうでうかつに飲むこともできやしない。
もう一つため息をついて、フィルターの交換期限を確認する。
あと1週間は大丈夫…2週間くらいはなんとかいけるか?
在庫はあと1~2回分くらいは多分まだ残っている。大きな声では言えないが、本当に期限超えを承知で使用することも考える必要があるかもしれない。
しかし、これが尽きる前に新しいフィルターが入ってくることはおそらくないだろう。
世の中のことなんかよくわからん俺でもそれくらいわかる。
が、それをわかってるのかどうなのか、わらわらしてる軍人どもは「強いジオン」だの「スペースノイドの正義を示すために」だの威勢のいいことを言ってやがるが、正直俺としてはジオンだのなんだの、どうだっていい。
人間生きてりゃ必ず廃棄物が出る、お前らが理想に目が眩んでるその後ろで廃棄物を処理してるのは誰だと思ってる?
親と喧嘩して家出して、学校さぼって街中でうろうろしてたら、たまたま資源採掘小惑星行きの作業員募集をみつけて、そのまま勢いで応募したら採用されて。
でもかろうじて中卒…それだってしょっちゅう学校さぼってたせいで中学程度の勉強もできてるかあやしいクソガキにできる仕事なんて現場どころか、このアクシズの最底辺での廃棄物処理機械の監視作業くらいだった。
それでも数年もたてば学がなくとも他の作業も多少はこなせるようにはなるってもんだが、俺は左手が使い物にならないせいで相変わらずスイッチ入れるだけの仕事を続けてる。
「おい、こっちの機械が止まったぞ。
どうすりゃいい」
「ああ…そいつは最近詰まりやすいんだ、いったん詰まってるものを掃除してから再起動させてくれ」
最近モノどころか人も足りてないのか、入れ替わりも激しいせいでもう一緒に働いてるヤツの名前もよく覚えちゃいない。
止まった機械を覗き込んでるこいつに掃除の手順と再起動のさせ方を教えるのも、今回初めてなのか実は何度か教えてるのかもわからないが、そもそもこんな「ここに配属されたら最後」なんて陰口叩かれるような場末の機械の作業手順なんてまともに覚える気もないんだろう。わかったような顔してうなずいてるが、お前がいまいち理解して無いのくらい俺にだってわかんだぞ。
とはいえ
「いいか、掃除するときは必ずこのスイッチを切っておけよ。
でないと俺みたいに手挟まれんぞ」
「お…おう、わかった」
最後に脅すように、傷跡の残る左手を見せながらいうと、たいていの奴は神妙な顔でうなずく。
それでも手を…手だけじゃない部分を挟んだヤツはもちろんいるが、そこまでは俺の知ったこっちゃない。
一応注意はしたからな。
ここじゃ働けなくなった瞬間に人権がなくなるんだ、動けないやつを抱えていられるほどの余裕はない。
いや、数年前までならまだあった、が、今はもうない。
そうやって動けない体を抱えたヤツの身投げ…整備用ハッチから宇宙に飛び出すのも身投げって言うのか?まぁ身を投げ出すから身投げか?が、こないだもあった。すでに今月2回目だ。
そいつの持ち物はあっという間に早い者勝ちで山分けされて無くなったと聞いた。
本国に家族がいるのかどうか、持ち物を誰かに返すべきなのかの確認すらしちゃいねぇだろう。
もはや人がいなくなればその分配給が増えんじゃねぇかって、誰かが死ぬのを待たれてるような雰囲気すらある。
俺がここに来た時…まだ純粋に資源採掘やってた頃の話だ…はもっと雰囲気は明るかった。
しばらく働いて金貯めて、国に帰ったら、なんて話もよくしたもんだ。
といっても、親との折り合いが悪かったうえに友人もあんまりいなかった当時の俺は、別に帰りたいとも思ってなかったので曖昧に相槌打ってただけだった。
今でもあんまり家に帰りたいとは思ってないが、近所にあったドーナッツショップのクソ甘いドーナツだけは最近たまに思いだす。
「おい、そこの」
「はい?俺っすか」
どうやら言われた通りスイッチをちゃんと切って掃除してたあいつに、顔を出した上役が声をかけてきた。
「お前、プチモビかMSは動かしたことあるか?」
「あー、乗って作業をしたことはないっすけど、一応プチモビは教わりました」
ここきたときに大抵の奴は作業用のプチモビ、スジが良ければMSの動かし方を一応教わるからな。
俺はもう忘れたな…乗ったところで左手が動かねぇから役には立たねぇが。
「プチモビでも動かし方がわかるなら大丈夫だ、喜べ、MSに乗れるぞ。
ついてこい」
「マジっすか」
…行っちまった。おい、掃除途中だっただろ、どうすんだ…いや、俺がやるしかねぇよな。今俺しかいねぇもんな。
アイツはもう戻ってこねぇだろうな。
クソ甘いドーナツが無性に食べたくて仕方がなかった。
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現場猫がそこかしこでニャンニャン鳴いてそうなアクシズの最奥で働いてる、名も知れぬ一人の作業員の話。
MSに乗せられたあいつは戦場で散りました。
時系列的にはハマーンさんがアクシズ脱出した後、最終決戦よりは前くらいのどこか。
最下層で起こってる出来事なんて誰も気にも留めてないので正確な時期は不明。
130さんのハーメルン版でいう『牙を研ぐ』あたりの時期よりは前のような気もする。
ろ過用フィルターが足りないので、浄水機械を半分止めることになったため、居住区は水の使用量に制限が出てます、下水処理機能も落ちてるのでトイレも詰まりがち。
清掃員も足りないので時々この作業員の彼も呼び出されて掃除係してる。
アクシズってエッセンシャルワーカー足りてなさそう…
彼がサイド3からアクシズへ行ったのは一年戦争前、アクシズが資源採掘プラントとしておそらく最盛期だっただろう75年あたりの想定です。
そこからずっと帰ってないので、コロニー落としどころか戦争があったこともなんか遠い話という感じ。
ジオンがどうとか言われてもあまり実感わかない。
そういえばなんかエレメンタリーのときにそんな国名に変わってたなぁ、くらい(ジオン公国は69年成立)
ガンダム世界でMSの操縦難易度がどれくらいか良くわかんないんですけど、ガザCは作業用MSからの発展って書いてあったので多分リアルで言うところのバックホーくらいかな?という想定。
動かそうと思えば新人でも操縦覚えればなんとか動かせるけど、細かく自在に動かせるようになるには技術や経験が必要…くらいの難易度。
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スレで投稿したときはプロレタリア文学だ…というあんまり聞かないタイプの褒められをいただきました