わたしが紗月さんの恋人になれるわけないじゃん、ムリムリ!(※ムリじゃなかった⁉︎)   作:藤五月

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クリスマス後の早朝

「おはよう、甘織」

 

「あ、え、その……おはようございまふ」

 

「まふって……。ふふ、どうしてそんなに緊張しているのかしら」

 

 カーテンの隙間から漏れる光に照らされる紗月さんの顔は、サキュバスみたいに色っぽい。

 

 昨日の夜に使い果たしてしまったわたしの陰キャゲージを削られないためにも、寝返って紗月さんの顔を見ないようにする。

 

 紗月さんに背を向けてホッとするも、目に飛び込んできたのはわたしが脱ぎ散らかしたサンタコス。

 それもビキニスタイルのやつ。

 

 てか、サンタコスの上にはわたしの下着(前に泊まったときに紗月さんから買ったショーツ)が乗ってんじゃん! 

 

 寝返るのは悪手じゃったよ、甘織れな子。

 わたしが紗月さんとこーいう仲になってから初めてのクリスマスだったってのはあるけど、はしゃぎすぎちゃったのを直視するのはぜったいにムリ! 

 

「別に、お互い初めてではないでしょう」

 

 その言葉に驚き、わたしは起き上がって紗月さんの肩をがっしりと掴む。

 

「お、お互い……!? わ、わたしは初めでですけど、え? お、お互いぃ!?」

 

 紗月さんは目を丸くして、頬を朱色に染めて手の甲を口に当てる。

 

「近いんだから、大声を出さなくても聞こえるわよ」

 

「いやいや、さ、紗月さんはわたし以外にこーいうことをする人がいたってこと、ですか……?」

 

「なにを勘違いしているの!? 私の初めてはあなたが奪ったんじゃない!」

 

「そ、それは一体……いつの話でしょうか?」

 

 あの王塚真唯と並ぶほどの美貌の持ち主である琴紗月としたっていうのは、たとえ地球が滅びたとしても忘れることができないほどの圧倒的な思い出のはず。

 キスはなんかいもしたけど、行為までした記憶はない。

 

「もういいわ。あなたがずぼらで、まぬけで、性根の腐った色魔だってわかってはいたつもりだけど、これほどだなんて知りたくなかったわ」

 

 紗月さんは冷酷に言い放つ。

 わたしの手を叩き、立ち上がる。

 

 一糸纏わぬその姿に見惚れてしまいそうになるも、ここで挽回せねばわたしが捨てられてしまう。

 

「ああ! ちょ、ちょっと待ってください! わたしを、わたしを捨てないでえ! いま思い出しますからあ!」

 

 紗月さんの足首を握って土下座するも、紗月さんは意に返さないどころか、わたしのお腹を蹴ってわたしを跨ぎ、サンタコスの上にあるショーツを履く。

 紗月さんはああ見えてノリはいい方だ。

 

 香穂ちゃんのおふざけにも付き合うときがあったり、真唯のすっとんきょうな提案にも乗るときがある(なにかと理由をつけて断ってはいるが)。

 変なところは意固地だけど……。

 

 でも、さっきの紗月さんの私を見下ろす目は違う。

 

 養豚場の豚を見る目だ。

 

 たぶん、わたしのショーツを履いたのもわざとじゃない。

 紗月さんが部屋を出てしまう前に、普段つかわない脳を活動させて思い出さなければ。

 

「…………そ、そうだ! あのときだったよね、紗月さん!」

 

「どのときよ」

 

 わたしが口を開くと同時に、棘のある声が返ってきた。

 

「そう、あれは確か……」

 

 ここが今年最後の頑張りどきだよ、甘織れな子! 

 思い出していないことを悟られないように、だけど探りを入れて、答えに近づけられるような言葉をひねりだせ。

 

 クリスマスイブはお泊まりして、一緒にK○Cのチキンを食べただけ。……キスはしたけど。

 ハロウィンもしようって雰囲気になってたけど、紗月母が帰ってきたからできなかったし……。

 夏休みはコスプレイベントとかで忙しくって……。

 

「ごめんなさい。ムリです。わたしには紗月様とそのような行為に及んだ記憶がございません」

 

「……」

 

「いくら記憶を掘り返しても、行為の直前に紗月さんのお母さんや真唯。わたしの家では愚妹が邪魔してきた記憶しかございません。甘織れな子……切腹する覚悟でございます」

 

「夏休み前……真唯とゲーム勝負するとき、うちに泊まったことがあるわよね。それを忘れたなんて言わないかしら」

 

「も、もちろん! 覚えています! その日に紗月さんがわたしにくれたショーツがそれなので、きょうみたいな日に履いてこようって……」

 

 昨日、わたしが履いていたショーツだということに気がついた紗月さんは、何食わぬ顔でショーツを脱ぎ、地面に落とした。

 

「……きて」

 

「は、はい……」

 

 わたしは紗月さんが地面に落としたショーツに手をかけようとしたら、

 

「違うわよ! そっちの着てじゃなくて、わたしに付いてきてって言ったの!」

 

「でも、わたしたち二人とも裸のまま、家の中を歩くのはどうかと」

 

「私が許すわ。だから口を閉じてついてきなさい」

 

 わたしは紗月さんに手首を捕まれ、どこかへ連行された。

 

「電気がつくようになったお風呂……」

 

「なんで説明口調なのよ」

 

「い、いや、なんとなく……」

 

「ここにきても思い出さないかしら」

 

「…………あっ!」

 

 床にある桶に使用済みのアロマオイルがあった。

 

 そこで、ようやく気づいた。

 紗月さんのいう初めてが、お風呂場でわたしが転倒して紗月さんのおっぱいを揉んでしまったときの話だということに。

 

「あなたは馬鹿にするかもしれないけど。……私はあのとき、昨日の夜と同じ気持ちだったの」

 

「かわいい……」

 

「嘘ね。クールぶってるくせに胸を一揉みされただけでムラッとする変態だって思ったでしょ」

 

「ひ、被害妄想がすぎる……」

 

 こうして、無事? 誤解が解けたことで緊張が解けて、思わず吹き出してしまった。

 

 浴室の扉の奥からすずめの鳴き声が聞こえてくる。

 こんな朝っぱらから二人で裸のまま浴室にいることが、さらにおかしくって、紗月さんはふふっと微笑んだ。

 

「どーせなら一緒に入っちゃいますか。二人ならお湯が少なくてもだいじょうぶですし、タンスから替えの下着とバスタオルもってきますね」

 

「任せるわ。ところで甘織」

 

「はい!」

 

「あなた、真唯とセックスしていなかったのね」

 

「そ、そりゃあ付き合っていませんしー。……てゆーか、普通にセックスって言わないでよ。さっきまで濁してたわたしの努力が無駄になるじゃん」

 

「私は清楚な女じゃないわ」

 

 そーですね。

 と、言いかけた口が紗月さんの少し乾いた唇に塞がれた。

 

「なんの脈絡もなく、恋人にキスをする淫乱女だもの」

 

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