わたしが紗月さんの恋人になれるわけないじゃん、ムリムリ!(※ムリじゃなかった⁉︎)   作:藤五月

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バレンタイン

 雪が降る冬の日。

 わたしは手編みのマフラーで首を守って茶色のコートを羽織るも、下半身は肌色のスパッツのみという女子高生コーデで登校する。

 

 入り口付近は寒さに覆われていたけれど、学校の廊下は教室から漏れ出るエアコンの熱によって生物が生きやすい気温になっている。

 

 教室の扉を開けて、自分の席に行くと、他のクラスメイトと話していた紫陽花さんがとことこと近づいてきた。

 

 紫陽花さんが歩くたびに、小動物のようなかわいさが漂ってくる。

 

「れなちゃんっ、ハッピーバレンタイン。これ、私からのプレゼント」

 

 紫陽花さんは学生鞄の中からリボンで飾り付けられたマカロンを取り出し、手渡してきた。

 

「も、もしかして自分で作ったんですか!?」

 

「そうだよ? ちょっと上手にできたか不安なんだけど、お口に合えば嬉しいなあ」

 

 やばいよお。

 紫陽花さんの手作りマカロンだなんて、食べるのが勿体無すぎる!! 

 

「永久に保存します〜」

 

「ええ!? じゃ、じゃあ明後日までにお味の感想聞くから、それまでに食べてよね」

 

「はいっ」

 

「ならよろしい。ふふっ、じゃあ、ね。……その、ねっ」

 

 紫陽花さんに頂いた家宝をカバンに入れると、紫陽花さんがなにかを期待するかのように上目遣いで同意を求めてきた。

 

 きょうがバレンタインだとわかっていたけれど、わたしにとってバレンタインとはなにもない日だったので、お菓子を用意する気遣いができていない。

 

 ていうか、そんな気遣いができていれば今までを陰キャとして生きていません! 

 わたしは等価交換できない自分に罪悪感を覚えながらも、紫陽花さんの本意に気づいていないふりをする。

 

「ごめんなさい。わたし、なにも持ってきていないのです。紫陽花さんが良ければ、お昼ご飯を奢らせていただきます」

 

「だ、大丈夫だよ! 私がれなちゃんに渡したかっただけだから、気にしないで。あっ、かほちゃん来たから、渡しに行ってくるね」

 

 紫陽花さんに嘘を吐くわけにはいかず、本能的に謝罪するも紫陽花さんは笑顔で大丈夫と言ってくれた。

 

 さすが芦高の天使の所以は伊達じゃない。

 紫陽花さんの背中を見送りながら、時計を見る。

 

 授業が始まる十分前。

 

 この時間は、いつもなら紗月さんは自分の席で優雅に読書しているのだが、きょうはいない。

 

 わたしは学生鞄を手に、紫陽花さんと香穂ちゃんがいる逆側の扉から教室を出て、屋上付近の階段へ。

 

 その階段の頂上に腰かけて、足を交互に組み、膝に肘をつけてわたしを見下ろす影がひとつ。

 

「遅かったわね。甘織。あなたがホームルーム前がいいって言ったんじゃない」

 

「ちょっと、紫陽花さんと話してて」

 

「恋人を待たてせおいて……いい度胸ね。死ぬ覚悟はあるのかしら?」

 

「いやいや! 紫陽花さんにマカロンもらったですよ。あとで紗月さんも貰えると思うよ?」

 

「そう……、マカロンね。私はチョコクッキーを貰ったわ。ほんと健気で、時々申し訳なく思うわ」

 

 言葉を零した紗月さんはひどく落ち込んでいるように見えた。

 

 もしかして、わたしが紫陽花さんのマカロンを受け取ったのが気に入らないのだろか? 

 でもでも、それが本当だとしたら、なんか嫌だ。

 

 わたしにとって紫陽花さんは大切な友達だし、紗月さんにとってもそうだと思うから。

 

「違うわよ。まあ、後で調べるといいわ」

 

「な、なにをですか」

 

「バレンタインのことよ。で、こんなことを話すくらいなら教室に帰りたいのだけど、いい加減風邪を引いてしまうわ」

 

 紗月さんは立ち上がって、階段を降りる。

 それに応じてわたしは階段を上がり、学生鞄からひとつの黒い箱を用意する。

 

「あっ、その……これ、作ってきたんです」

 

 紗月さんは箱の梱包を手稲に外し、中からひとつのトリュフを手に取る。

 

 カッと、一口で半分に割る。

 

「意外ね、あなたが作ったにしてはおいしいわね」

 

「おいしかったら素直に褒めていいだから、まったく」

 

「でも、もうちょっと甘味が少ない方が私の好みだわ。今度の休みにあなたの家でチョコ系のお菓子を作らない?」

 

「あっ、い、いいですよ」

 

 お母さんに教わりながら作ったトリュフ。この箱に入れたのは選抜されたものだけだけど、あまり自信はなかった。

 

 でも、紗月さんがおいしいと言ってくれたから、作った甲斐があるというものだ。

 ほっとしていると、あまった半身のトリュフをわたしの口に放り投げられた。

 

「もう授業が始まるわ。お昼休みに食べたいから、誰にも渡さないでよね」

 

「ふふ〜ん、紗月さんってば独占欲が強いんだからっ」

 

「当たり前よ。あなたが恋人なんだから」

 

 紗月さんが口を近づけようとしたので、肩を押して距離を取る。

 キス自体に恥ずかしさはないけど、まだ学校でいちゃいちゃする勇気はない。

 今後もそんな勇気を生まれる気はしないけれども。

 

「学校ですよ……」

 

「いいじゃない。それに、マフラーで隠せば問題ないわ」

 

「マフラー如きで隠せませんよ」

 

 けれど、強引な紗月さんを拒否できるほど、今のわたしは冷静さを持ち得ていない。

 ちゅっと唇が重なり合う。

 

 あっ、リップクリームしてなかった。

 

 なんて思うのが慣れてきた証拠だ。

 

 けれど、紗月さんはわたしを見ていなかった。

 否、見る余裕がなかったのだ。

 

「れなちゃん、紗月ちゃん。なんで? なんで、なの……」

 

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